ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「月の満ち欠け」

2017年08月20日 | 書籍関連

母が若かりし頃の話だ。友人Aさん(女性)の弟が1人で雪山に登り、連絡を絶った。遭難した彼を捜索隊は必死で捜したが、発見する事無く、捜索は打ち切られた。

 

其れから1年以上が過ぎた或る日、Aさんの家の庭に1匹の黒が迷い込んだ。初めて見た顔なのに、其の猫はAさんの顔をじっと凝視し続け、そして呼び掛けもしないのに、Aさんのの上に乗り、再び彼女の顔を凝視し続けた。余りにも懐いた様子を見せるので、Aさんも彼女の両親も「不思議ねえ。」と口にしたそうだ。

 

其の夜、Aさんの家の電話が鳴った。警察からの電話で、「行方不明となっていた山で、弟の遺体が見付かった。」という連絡だった。「弟(又は息子)の遺体が見付かった日に迷い込んで来た此の猫は、弟(又は息子)の生まれ変わりに違い無い。」と、Aさん家族は其の猫を飼う事に決めたと言う。

 

不思議な話では在る。弟が亡くなった日に、其の猫が生まれたのかどうか不明なので、厳密な意味で“生まれ変わり”と言えるのかは判らないけれど、こういった類いの話は何度か見聞した事が在る。人によっては「そんな馬鹿な。」と一笑に付されてしまうだろうけれど、過去に不思議な経験をしている自分なので、生まれ変わりというのを100%否定出来なかったりする。

 

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「あたしは、の様に死んで、生まれ変わる。」。目の前にいる此の7歳の娘が、今は亡き我が子だというのか?3人の男と1人の少女の、30余年に及ぶ人生、其の過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれて行く。

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第157回(2017年上半期直木賞を受賞した小説月の満ち欠け」(著者佐藤正午氏)は、「生まれ変わり」をテーマにした作品。自分の幼い娘が或る日突然、其の年齢では知るも無い言動をし始める。別人格憑依したかの様な娘に、親は戸惑ってしまう。そして、其の娘は若くして亡くなり・・・。

 

「るり」という同じを持つ3人の女性。最初の正木瑠璃(まさき るり)から3人目の緑坂るり(みどりさか るり)が登場するには30余年の月日が経っており、尚且つ其れ其れの「るり」は、同じ時期を生きていない。最初の「るり」が亡くなった後に2番目の「るり」は誕生し、2番目の「るり」が亡くなった後、同じ様に3番目の「るり」が誕生。そして2番目以降の「るり」は2人共、“過去の記憶”を受け継いでいる。

 

簡単に言ってしまえば時空を超えたラヴ・ストーリー”で在り、手塚治虫氏の漫画火の鳥」を思い起こさせる世界観「幼い女の子が、生まれ変わる前に恋心を寄せていた相手とはいえ、年が相当離れた男性に恋人として話し掛ける。」という設定は、正直グロさを感じなくも無かった。生まれ変わりというのを全く信じていない人達ならば、此の作品に共感出来ないかもしれない。そんな微妙な作品だと思う。

 

生まれ変わりの現実を知らされた当事者達は、今後どういう立ち位置で生きて行く事になるのか?収束している様で収束していない結末が、何とも居心地を悪くさせる。

 

総合評価は、星3.5個とする。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (悠々遊)
2017-08-20 18:29:51
時空を超えたラブストーリーは、自分たちの感情だけでは乗り越えようのない制約が立ちはだかる、切なくもはかない物語でもありますね。
若い頃はこうした題材のSFも好きでした(笑)。

ただ、一つ間違うとロリータ嗜好の男性にとって都合の良い話になってしまう危険性もありそう。
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>悠々遊様 (giants-55)
2017-08-20 21:39:04
書き込み有難う御座いました。今回は、此方にレスを付けさせて貰います。

一部ネタバレになってしまった申し訳無いのですが、実は此の小説の中で「生まれ変わる前の女性に思いを寄せていた男性が、長い時間を経て生まれ変わった女児と出逢い、軈て小児愛者と周りから勘違いされてしまう。」という悲劇が描かれているんです。そういう意味でも、“微妙な作品”でした。
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