プロ野球選手に対して、自分は別に品行方正さなんか求めていない。明らかに違法行為をしたとか、私利私欲が余りに過ぎて球界をおかしな方向に進ませてしまう様な輩は論外だけれど、そうで無ければファンをどれだけ魅了出来るかが大事。失礼な言い方になってしまうけれど、学生時代を含めて「可成りやんちゃな人間」がプロ野球選手には少なくない気がするし、そういった癖の強さがプロ野球の魅力の一助になっている気がする。
「可成りやんちゃな人間」が少なくないプロ野球界に在って、学生時代のやんちゃ度の高さが半端じゃなかった選手となると、張本勲氏や牛島和彦氏、そして愛甲猛氏辺りの名前が自分の場合パッと頭に浮かぶ。今回読破した「球界の野良犬」は、愛甲氏が己の半生を記した自叙伝だ。
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思えば、野球のためなら頭も下げたが、尻尾を振ったことはなかった。野良犬は所詮、飼い犬にはなれない。俺は死ぬまで野良犬だ。
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この本の後書きでも記している様に、愛甲氏は自身を「野良犬」に喩えている。「他者と群れるのが嫌い。」というのが彼の根底に在るからだが、自分も必要以上に他者と群れるのが苦手なタイプなので、彼の“立ち位置”というのは良く理解出来る。一般社会以上に縦社会な球界に在って、派閥に属す事を良しとしなかった彼には、想像以上に風当たりが強かった様だ。
「波乱万丈」という言葉が、本当に似合う人物で在る。複雑な家庭環境、宗教関連の話、半端じゃ無い不良時代、ゴタゴタした人間関係、ドーピングの後遺症等々、普通の人が一生掛かっても経験しないで在ろう“大波”を、今年で48歳になる愛甲氏は幾つも経験。特に学生時代以降の「喧嘩」、「ドラッグ」、「ギャンブル」、「多数の女性や暴力団関係者との関係」といった暗部が生々しく語られている。得てしてこういった本は読んでいて暗い気持ちになってしまうものだけれど、適度にユーモアを感じさせる記述が盛り込まれており、何度も笑ってしまった。
半端じゃ無い不良で在ったけれど、弱い者苛めや理不尽な行動は出来なかったという彼。半端じゃ無い不良時代を送り、「大酒飲み」のイメージも在るけれど、実は「下戸」というのは意外な事実だった。又、学生時代に暴力団関係者の酒席に呼ばれた事が在るという話なんぞは、インターネットが普及した現在ならば確実にスクープされて大問題になっている事だろう。それだけ「緩やかな時代」と言えたのかも。
思わず吹き出してしまった記述の中でも特筆されるのは、“我等がカネやん”こと金田正一氏と、そして“「喝!」のおっちゃん”こと張本勲氏の話だろう。その部分を抜粋してみる。
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【我等がカネやん】
・ とにかく自分が一番。存在そのものが国宝級。大先輩に失礼かもしれないが、「人間・金田正一」がとにかくおもしろいのだ。失礼を承知で“カネヤン”と呼ばせていただく。あれは確か(平成2年の)8月の試合前だった。バッティング練習をするべく打撃ケージに入ると、コーチに代わり(この年からオリオンズの監督に返り咲いた)カネヤン自らグローブをはめてマウンドに立った。「ワシが投げてやる!」。現役を退いて20年以上経っているとはいえ、400勝投手のコントロールは見事だった。打ちやすいコースにポンポン放られ、打球は気持ちいいほどスタンドに吸い込まれる。7、8球が過ぎたとき。突如頭の近くにブラッシュボールが飛んできた。夏の日の打撃練習である。ヘルメットなどつけてはいない。驚きながらマウンドを見るとカネヤンが叫んだ。「避ける練習せい!」。ポンポン打たれるうちに400勝投手の魂に火がついたのだ。
・ また別の試合でのこと。園川がピンチを迎えたため、キャッチャーを呼び寄せゲキを入れたカネヤン、次のボールを見て「ダメじゃ!」とベンチを飛び出した。それを見た主審、カネヤンに「監督、ラインを跨いだら交代ですよ。」と告げた。捕手を呼ぶのはマウンドに行ったのと同じとみなされる。2度目となるのだ。当然のルールだったが、ここでもカネヤン節が炸裂した。「なにぃ、いつ決めた!わしゃ知らん!」。呆れた主審の「前から決まっていますよ。」の言葉に、カネヤンは「もうええ!」と捨てゼリフを吐いてラインを跨いだ。
・ いつの試合だったか忘れたが、相手チームのビーンボールに怒ったカネヤンが、キャッチャーの福澤洋一に大声で指示を出した。「福澤、顔に行かんか顔に!」。ぶつけろ、と言われてぶつけられるわけがない。そんなことをしたら大乱闘になるのは目に見えている。主審が呆れた顔で福澤に「カントクを何とかしろよ。」と呟いた。後先を考えないカネヤンの指令に困った福澤は、投手の方向を向いたまま、背後の主審にこう言った。「退場でしょ、お願いですから退場にしてください!」野球が日本に生まれて70年。自軍の選手に「退場して。」と言わせた監督はカネヤンぐらいだろう。
【「喝!」のおっちゃん】
・ あれは西武戦でのこと。デッドボールをきっかけに両軍選手がマウンドに駆け寄ってきた。一触即発、まさに乱闘が始まろうかというその瞬間、ベンチから張本さんが飛び出てきた。「おまえら!全員野球できへん身体にさすぞ!」。その一言で乱闘は回避された。大げさではなく、その場にいた選手全員を震えさせるドスの利いた声だった。後にも先にも感じたことのない迫力である。
・ ロッテナインの乗ったバスが、ヤクザとおぼしき連中の車に塞がれたことがある。事情はわからないが、怒り心頭のヤクザに対し、張本さんはたった一人でバスを降りていった。時間にして5、6分。何事もなかったかのような顔で張本さんはバスに戻ってきた。
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稲尾和久氏や落合博満氏等との一寸良い話や、選手達の意外な素顔、「10.19」の知られざる裏側等、野球ファンならば読み耽ってしまう内容だろう。
「可成りやんちゃな人間」が少なくないプロ野球界に在って、学生時代のやんちゃ度の高さが半端じゃなかった選手となると、張本勲氏や牛島和彦氏、そして愛甲猛氏辺りの名前が自分の場合パッと頭に浮かぶ。今回読破した「球界の野良犬」は、愛甲氏が己の半生を記した自叙伝だ。
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思えば、野球のためなら頭も下げたが、尻尾を振ったことはなかった。野良犬は所詮、飼い犬にはなれない。俺は死ぬまで野良犬だ。
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この本の後書きでも記している様に、愛甲氏は自身を「野良犬」に喩えている。「他者と群れるのが嫌い。」というのが彼の根底に在るからだが、自分も必要以上に他者と群れるのが苦手なタイプなので、彼の“立ち位置”というのは良く理解出来る。一般社会以上に縦社会な球界に在って、派閥に属す事を良しとしなかった彼には、想像以上に風当たりが強かった様だ。
「波乱万丈」という言葉が、本当に似合う人物で在る。複雑な家庭環境、宗教関連の話、半端じゃ無い不良時代、ゴタゴタした人間関係、ドーピングの後遺症等々、普通の人が一生掛かっても経験しないで在ろう“大波”を、今年で48歳になる愛甲氏は幾つも経験。特に学生時代以降の「喧嘩」、「ドラッグ」、「ギャンブル」、「多数の女性や暴力団関係者との関係」といった暗部が生々しく語られている。得てしてこういった本は読んでいて暗い気持ちになってしまうものだけれど、適度にユーモアを感じさせる記述が盛り込まれており、何度も笑ってしまった。
半端じゃ無い不良で在ったけれど、弱い者苛めや理不尽な行動は出来なかったという彼。半端じゃ無い不良時代を送り、「大酒飲み」のイメージも在るけれど、実は「下戸」というのは意外な事実だった。又、学生時代に暴力団関係者の酒席に呼ばれた事が在るという話なんぞは、インターネットが普及した現在ならば確実にスクープされて大問題になっている事だろう。それだけ「緩やかな時代」と言えたのかも。
思わず吹き出してしまった記述の中でも特筆されるのは、“我等がカネやん”こと金田正一氏と、そして“「喝!」のおっちゃん”こと張本勲氏の話だろう。その部分を抜粋してみる。
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【我等がカネやん】
・ とにかく自分が一番。存在そのものが国宝級。大先輩に失礼かもしれないが、「人間・金田正一」がとにかくおもしろいのだ。失礼を承知で“カネヤン”と呼ばせていただく。あれは確か(平成2年の)8月の試合前だった。バッティング練習をするべく打撃ケージに入ると、コーチに代わり(この年からオリオンズの監督に返り咲いた)カネヤン自らグローブをはめてマウンドに立った。「ワシが投げてやる!」。現役を退いて20年以上経っているとはいえ、400勝投手のコントロールは見事だった。打ちやすいコースにポンポン放られ、打球は気持ちいいほどスタンドに吸い込まれる。7、8球が過ぎたとき。突如頭の近くにブラッシュボールが飛んできた。夏の日の打撃練習である。ヘルメットなどつけてはいない。驚きながらマウンドを見るとカネヤンが叫んだ。「避ける練習せい!」。ポンポン打たれるうちに400勝投手の魂に火がついたのだ。
・ また別の試合でのこと。園川がピンチを迎えたため、キャッチャーを呼び寄せゲキを入れたカネヤン、次のボールを見て「ダメじゃ!」とベンチを飛び出した。それを見た主審、カネヤンに「監督、ラインを跨いだら交代ですよ。」と告げた。捕手を呼ぶのはマウンドに行ったのと同じとみなされる。2度目となるのだ。当然のルールだったが、ここでもカネヤン節が炸裂した。「なにぃ、いつ決めた!わしゃ知らん!」。呆れた主審の「前から決まっていますよ。」の言葉に、カネヤンは「もうええ!」と捨てゼリフを吐いてラインを跨いだ。
・ いつの試合だったか忘れたが、相手チームのビーンボールに怒ったカネヤンが、キャッチャーの福澤洋一に大声で指示を出した。「福澤、顔に行かんか顔に!」。ぶつけろ、と言われてぶつけられるわけがない。そんなことをしたら大乱闘になるのは目に見えている。主審が呆れた顔で福澤に「カントクを何とかしろよ。」と呟いた。後先を考えないカネヤンの指令に困った福澤は、投手の方向を向いたまま、背後の主審にこう言った。「退場でしょ、お願いですから退場にしてください!」野球が日本に生まれて70年。自軍の選手に「退場して。」と言わせた監督はカネヤンぐらいだろう。
【「喝!」のおっちゃん】
・ あれは西武戦でのこと。デッドボールをきっかけに両軍選手がマウンドに駆け寄ってきた。一触即発、まさに乱闘が始まろうかというその瞬間、ベンチから張本さんが飛び出てきた。「おまえら!全員野球できへん身体にさすぞ!」。その一言で乱闘は回避された。大げさではなく、その場にいた選手全員を震えさせるドスの利いた声だった。後にも先にも感じたことのない迫力である。
・ ロッテナインの乗ったバスが、ヤクザとおぼしき連中の車に塞がれたことがある。事情はわからないが、怒り心頭のヤクザに対し、張本さんはたった一人でバスを降りていった。時間にして5、6分。何事もなかったかのような顔で張本さんはバスに戻ってきた。
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稲尾和久氏や落合博満氏等との一寸良い話や、選手達の意外な素顔、「10.19」の知られざる裏側等、野球ファンならば読み耽ってしまう内容だろう。
全てに於いて規格外な我等がカネやん。それも養殖物では無く、天然物というのだから凄い。海千山千の猛者が居並ぶプロの世界ですから、仰る様に半端な存在では“部下”を御し切れないでしょうね。それにしてもウン十年野球の世界に身を置き乍ら、(基本的なルールを)「わしゃ知らん!」とは。
言動は相変わらず人間国宝級、
やはり身近に接する選手でも
通常の感情を通り越して
ただただ驚くのみの語録。
これくらいのスケールでないと
愛甲のようなやんちゃな選手は
使いこなせないんでしょうねえ・・・