「ナニワ・モンスター」

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関西最大の都市・浪速で新型インフルエンザ「キャメル」が発生した。経済封鎖による壊滅的打撃、軈て仄見える巨大な 陰謀。ナニワの風雲児・村雨府知事は、危機を打開出来るのか？ 村雨が目論む、此の国を破滅から救う為の秘策とは。

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外科医、病理医を経て、独立行政法人「放射線医学総合研究所　Ａｉ情報研究推進室長」を務める作家・海堂尊氏。冒頭の梗概は、４月に刊行された彼の作品「ナニワ・モンスター」で在る。

 

「２年前、新型インフルエンザに襲われて日本中が大騒ぎになった。」のは記憶に新しい所だが、其の際に「世界的な感染の大流行」、即ち「パンデミック」という用語を知った方も多かったのではなかろうか。水際での封じ込めを図ろうとする政府を嘲笑うかの様に新型インフルエンザは我が国に入り込んだけれど、「大騒ぎした割には“普通のインフルエンザ”と比較した場合、死者数が１２７人というのは少なかったなあ。」と感じたもの。「政府の取り組みが功を奏した。」のか、其れとも「抑が過剰反応だった。」のかは、素人の自分には判らないのだけれど・・・。

 

「ラクダを変異の場とした事で、パンデミックを引き起こす可能性が高いインフルエンザ。」と称される「キャメル」が、此の小説には登場する。弱毒性で多くの死者を生み出し得ない筈のキャメルが、凶暴なウイルスで在るかの様に報じられ続けているのは何故なのか？其の裏には、どんな陰謀が隠されているのか？様々な疑問が、読者をストーリーの中にどんどん引き込んで行く。

 

橋下徹府知事を思わせる人物が登場したり、「大阪地検特捜部主任検事証拠改竄事件」を思い出させる話が在ったりと、妙にリアルさを感じてしまう作品。特に「２年前の大騒ぎ」を揶揄するかの様な記述には、ついつい苦笑してしまった。

 

抜本的に医療現場を変える事で、日本という国の形を変える。“１つの考え方としては”、非常に興味深い。小平氏が嘗て「白猫で在れ黒猫で在れ、鼠を捕るのが良い猫で在る。」と言ったのは有名な話だけれど、「どういう形で在れ、多くの国民に利益を与えてくれる国の形になるので在れば、其れは其れで悪くない。」というのが自分の考え。（未だに「自民党でなければ駄目。」とか「民主党でなければ駄目。」と異常な迄に形式“のみ”に固執する人が居るけれど、非常に不毛な事としか思えない。大事なのは形式では無く、中身だから。「真に国民に最大の利益を与えてくれるなら、宗教政党には強い抵抗が在るけれど、其れ以外なら何処の政党が与党で在っても構わない。」と自分は思うし。）

 

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「今回、国交省の不祥事に対する世間の注目度を低下させたい。メディアや国民の注意が集中することは望ましくない。その場合、あえて他の不祥事を出し注意を逸らすのですが、そうした不祥事はどこから出てくると思います？」「わかりません。」八神が答えると、雲井は一瞬、蔑みの視線を投げた。だがすぐその色を吹き消し、続ける。「そういう時のため、各省庁はセコい不祥事を警察庁にストックしているんです。他のセコい不祥事をオープンにして注目を逸らすのですが、どの省庁も自分たちの不祥事を世に晒したいとは思いませんよね。」

 

（中略）

 

「今のはささやかな一例です。政策などへの注目を外すためには、もっとアトラクティヴな事件を持ってきたりもします。覚えてませんか、一緒に薬物をやった女性が亡くなったのに放置して逃げたロックスターがいたでしょう？あの事件の顛末がどうなったか。」記憶に新しい事件。だがその報道の最後がどうなったか、八神ははっきり覚えていなかった。「あの事件では死亡女性だけでなく一緒に政治家の大物がいたことを警察は隠したかった。それで持ってきたのが清純派歌手の薬物疑惑。この逮捕劇を同時にリリースしたら、メディアは一斉にそちら一色になり、結果、女性が死亡した件は音沙汰なしになった。これが事件による事件の火消し、つまり不祥事尻拭い会議の一応用だったんです。」

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 権力を握る者（乃至は組織）による情報コントロールの恐ろしさ。自分もそうだが、人はマスメディアの報道を鵜呑みにしてしまい勝ちだが、あらゆる方向からの情報に積極的に当たり、自分自身の頭で“咀嚼”する事が大事なのだ。

 

総合評価は星４つ。