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公開処刑人「森のくまさん」。犯行声明をネットに公表する連続殺人鬼だ。捜査本部は血眼で犯人を追うが、其れを嘲笑うかの様に惨殺は繰り返され、世間は騒然となる。殺されたのはレイプ常習犯や虐めを助長する鬼畜教師等、指弾されても仕方無い悪党許りで、ネットには犯人を支持する者迄出始めていた。
一方、虐めに苦しみ、自殺を図ろうとした女子高生の前に、謎の男が現れ・・・。
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2002年から始まった「『このミステリーがすごい!』大賞」は、大賞受賞作品以外でも上梓される事が在る。「隠し玉」と称される作品も其の1つだが、近年は此の形で上梓される作品が増加。今回読了した「公開処刑人 森のくまさん」(著者:堀内公太郎氏)は第9回(2010年)の最終候補作だったが、「面白い。」という事で、第10回の隠し玉作品として上梓された物だ。
残酷な連続殺人犯が「森のくまさん」という可愛らしい名前を名乗っているというのは非常にギャップが在り、其れが故にタイトルの「公開処刑人 森のくまさん」は強いインパクトを与える。
中国では「愛国無罪」なる愚かな概念が跋扈していると聞くが、「『愛国』を掲げさえすれば、何でも許される。」なんていうのは、どう考えても真面とは思えない。こういう愚かな概念が跋扈している事を我々は他山の石とすべきなのだが、我が国でも“極端に偏った思考の人達”の中には「愛国無罪」と何等変わらない主張をしているのだから、情けなくなってしまう。
此の小説の中では指弾されて仕方無い連中が次々に惨殺され、彼等を手に掛けた“森のくまさん”に対して、熱狂的に支持する人達がネット上に登場する。「指弾されて仕方無い連中なのだから、殺されるのは当然の事。」という考えなのだろうが、「『正義』を掲げ、実際には快楽殺人を行っているだけの事でも支持してしまうというのは、『愛国無罪』の概念と同根。」ではないか?ネット上には此の手の危うさを感じてしまう書き込みが溢れ返っており、「公開処刑人 森のくまさん」の世界は、必ずしも非現実的な事とは思えない。
ストーリー自体は面白いのだけれど、決定的なマイナス要素が、此の小説には在る。其れは、真犯人が可成り早い段階で判ってしまったという点。或るアナグラムも直ぐに気付いたし、ミステリーを読み込んでいる人ならば、そういった点が非常に物足りなく感じる事だろう。
「正義」や「愛国」という概念の危うさを再認識するも、総合評価は星2.5個とする。