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其の木に祈れば、願いが叶うと言われている楠。其の番人を任された青年と、楠の下へ祈念に訪れる人々の織り成す物語。
不当な理由で職場を解雇され、其の腹癒せに罪を犯し、逮捕されてしまった直井玲斗(なおい れいと)。同情を買おうと取調官に訴えるが、其の甲斐も無く送検、起訴を待つ身となってしまった。其処へ突然、弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら、釈放してくれると言うのだ。依頼人に心当たりは無いが、此の儘では間違いなく刑務所だ。其処で、賭けに出た玲斗は従う事に。
依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性・柳澤千舟(やなぎさわ ちふね)が待っていた。彼女は驚く事に、玲斗の伯母でも在ると言うのだ。余り褒められた生き方をせず、将来の展望も無いと言う玲斗に、彼女が命令をする。「貴方にして貰いたい事、其れは楠の番人です。」と。
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東野圭吾氏の新刊「クスノキの番人」は、“不思議な楠”の番人を任される事になった玲斗が主人公。ネタバレになってしまうので「どういう風に不思議な楠なのか?」は書かないけれど、スピリチュアルなストーリーで在る。
妻子持ちの男性との間に儲けた玲斗を、女手で一つで育てる事にした母・美千恵(みちえ)。自身の母・富美(ふみ)と一緒に暮らし、彼女に玲斗の面倒を見て貰い乍ら、水商売で働き詰めた美千恵だったが、無理が祟り、玲斗が小学校低学年の時に病死してしまう。父が誰なのかも知らず、幼くして母を亡くした玲斗は、腹癒せで犯した罪により逮捕された事で、自暴自棄な思いになっていたのだが、そんな彼の前に母の腹違いの姉・柳澤千舟が現れる。彼女から任される事になった“楠の番人”をする中で、彼は色々な事を知り・・・というストーリー。
“家族”という物を考えさせられる話。もっと言ってしまえば、「家族って何なのだろう?」、「家族の形とは?」といった事だ。自身の生きて来た環境に卑屈さを感じていた玲斗が、千舟との出会いによって変わって行く様子に心を動かされる。特に“彼女の秘密”を知った後(物語の最終盤)、玲斗と千舟の“本当の思い”が明らかとなる場面が実に良い。
スピリチュアルな内容でも在るので、そういう部分に感情移入出来ないという読者も存在する事だろう。自分もそういうのは苦手な方だが、此の作品に関しては抵抗無く読めたし、面白かった。
総合評価は、星4つとする。