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標高500m、長閑で風光明媚な高原の町・紫野で、1人の経営者が遺体となって発見された。自殺か?それとも他殺か?難航する捜査を嘲笑う様に、第2、第3の事件が続け様に起きる。其の遺体は皆、鋭く喉を掻き切られ、殺人犯の存在を雄弁に物語っていた。
“霧”の様に掴めぬ犯人に、紫野で唯1人の警察官・上松五郎が挑む。東京の事件との奇妙な符合に気付く五郎。そして、見えて来た驚くべき真相とは?
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昨年、自分が読破した小説で言えば、「ジェノサイド」(著者:高野和明氏)と「下町ロケット」(著者:池井戸潤氏)が群を抜いて面白かった。池井戸氏の作品を読むのは此れが2作目で、最初に読んだのは「鉄の骨」。此の作品も非常に読み応えが在り、「遅蒔き乍ら(池井戸氏が文壇デビューしたのは、14年前の1998年。)、池井戸作品を全部読んでみようかな。」と思い立ち、3作目として手に取ったのが「MIST-ミスト」。同氏の作品で言えば、恐らく5作目に刊行された物で、“初期の作品”と言って良いだろう。「MIST」は「霧」の意味で、「霧の様に正体が掴めない犯人」を指すタイトルなのだろう。
真犯人は早い段階で察しが付いたけれど、其の犯行動機が余りに脆弱。「幼少期のトラウマ」というのが動機になるのだろうが、「其れ“だけ”で、あそこ迄残忍な犯行に及ぶだろうか?」となると、「絶対に在り得ない。」とは言わないけれど、どうしても同期としては“弱さ”を感じてしまう。
又、“崩壊寸前”の或る家族が登場するのだが、其の“結末”は御都合主義以外の何物でも無い。同じ結末にするにしても、もう一捻りも二捻りも欲しい所。其れだけの力量が在る作家と信じるからこそ、一層に残念。
「鉄の骨」では「星4つ」、「下町ロケット」では「星4.5個」と、池井戸作品には高い評価を与えて来た自分だが、今回の「MIST-ミスト」にはハッキリ言って肩透かしを食らった思いが。厳しいかもしれないけれど、総合評価は星2つとする。
銀行員を経て、作家となった池井戸潤氏。小説家としてのデビュー作(其れ以前に、ビジネス書等は刊行されていたとか。)の「果つる底なき」では「第44回江戸川乱歩賞」を受賞しましたが、此の作品はミステリー仕立てで在るものの、中身は都市銀行の裏側を描いた物で、其れを考えるとマヌケ様が指摘されている様に、「池井戸作品の魅力は、社会派の企業小説の分野で映える。」という感じが自分もしました。
「空飛ぶタイヤ」は以前より気になっている作品なので、近い内に読んでみたいと思っています。