*********************************
2020年、人工知能と恋愛が出来る人気アプリに携わる有能な研究者の工藤賢(くどう けん)は、優秀さ故に予想出来てしまう自らの限界に虚しさを覚えていた。そんな折、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲーム・クリエイターの水科晴(みずしな はる)。彼女は6年前、自作した“ゾンビを撃ち殺す”オンライン・ゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして、自殺を遂げていた。
晴に付いて調べる内、彼女の人格に共鳴し、次第に惹かれて行く工藤。軈て彼女に“雨”と呼ばれる恋人が居た事を突き止めるが、何者からか「調査を止めなければ殺す。」という脅迫を受ける。晴の遺した未発表のゲームの中に、彼女へと迫るヒントを見付け、人工知能は完成に近付いて行くが・・・。
*********************************
第36回(2016年)横溝正史ミステリ大賞を受賞した小説「虹を待つ彼女」。著者の逸木裕氏は今年38歳という事で、自分(giants-55)なんぞとは異なり、子供の頃から“普通に”家庭用ゲーム機や携帯電話、パソコン等といったツールに触れて来た世代。だから、人工知能だとかスマートウォッチだとかいう物を、さらっと文章に取り上げられるのは、自分からすると羨ましく感じる。技術系の人間は別にして、自分達の世代だとそういう物を取り上げるのは、どうも“勇気”が要る物だから。
唯、“ファミコン”に熱くなった世代では在るので、ゲームに関する記述、特に“裏技を利用した設定”には、思わずニヤッとしてしまった。
面白い作品で在る事は否定しないけれど、引っ掛かりを覚える点も目立つ。「“雨”が誰なのか?」というのが此の小説の重要なポイントの1つな訳だが、其れを解き明かす手掛かりが“晴の或る癖”。此の癖の設定が非常に無理無理だし、又、此の癖から“雨”を導き出す設定も非常に無理無理に感じる。
「全てに於て計算尽くで、自分の利益の為ならば、平然と人を騙せる人生を歩んで来た。」という工藤の人物設定も感情移入する事が出来ず、そんな人間が最後に“ああいう状況”になるというのも、「安直な変化だなあ。」という気が。
総合評価は、星3つとする。