「有川浩」なる作家の名前を書店等で良く見掛けはしていたが、其の作品を読んだ事は無かった。今回読了した「空飛ぶ広報室」が自分にとって“ファースト・コンタクト”となった訳だが、此の作品を手に取ったのは、其のタイトルに興味が惹かれたからだ。
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不慮の事故で「P免」(パイロット罷免)になった戦闘機パイロット空井大祐(そらい・だいすけ)29歳が転勤した先は、防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのは、「ミーハーで、別名“詐欺師”とも呼ばれている、室長の鷺坂正司(さぎさか・まさし)。」を初め、「人前でも平気で尻を掻く、紅一点のべらんめえ美人、柚木典子(ゆずき・のりこ)。」、「鷺坂ファン・クラブ1号で、“風紀委員”と呼ばれる槙博己(まき・ひろみ)」、「鷺坂ファン・クラブ2号の、気儘な俺様キャラの片山和宣(かたやま・かずのり)。」、「ヴェテラン広報官で、空井の指導役を担っている比嘉哲広(ひが・てつひろ)。」等々、一癖も二癖も在る先輩達だった。
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読んでいて軽い違和感を覚えていたのだが、空井が泣いている様を「ひんひんと泣く」と形容している部分で、其の違和感は決定的となった。「『ひんひんと泣く』って形容、男性作家では浮かばない様な感じが・・・。」と思い、調べてみた所、「『ありかわ・ひろし』なる名前の男性作家。」と許り思い込んでいたけれど、実は「『ありかわ・ひろ』と読ませる女性作家。」で在る事が判明。「女性で、自衛隊を扱った作品を書くというのは珍しいかも。」と思って更に調べると、彼女のデビュー作「塩の街」は「自衛隊三部作」と称される第一弾に当たり、「空飛ぶ広報室」を含めると、此れ迄に自衛隊に関する作品を6作も生み出しているとか。石破茂氏も真っ青の、「自衛隊愛」と言えるのかも。
自衛隊と言えば「『陸』『海』『空』に所属し、防衛に当たる隊員達のイメージ。」が一般的には強いと思うが、自衛隊の事を広く知って貰う為に「広報室」が存在しているというのは、此の作品で「知らなかった。」と驚く人も居るかもしれない。存在を知ってはいても、改めて其の存在意義を痛感させられた人も、少なく無い様にも思う。
災害が発生する度、現場で必死に救出活動等に従事している自衛隊員達の姿を目にして来たので、「彼等の頑張りには、本当に頭が下がる。」というのが自分の気持ち。でも、世の中には「自衛隊=戦争屋」といった、悪いイメージを持っている人も居る。人の考えは十人十色で在り、だからこそ「そういうイメージを持つのは駄目!」とは言わないけれど、「国民の安全を守る為、“純粋”に頑張っている自衛隊員達。」がそういう目で見られてしまうのは、常々「気の毒だなあ。」と感じていた。
「空飛ぶ広報室」に登場する自衛隊員達の“日常”は、極めて「普通」で在る。“良い意味で言えば”、我々と同じで俗っぽい部分も有している。しかし“業務”となれば、哀しい程に“真面目”。「此処で描かれている人達が、自衛隊員の全てを象徴している。」なんて言わないけれど、「自衛隊に対して“根拠の無い偏見”を持っておられる方達には、此の作品を読んで欲しいな。」と思ってしまう。
東日本大震災が起こった際、宮城県の松島基地に置かれていた戦闘機が、津波で次々に流されて行く光景をニュース番組で目にした。「津波が来る迄、1時間近くの時間が在ったのだから、どうして戦闘機を避難させなかったのだろう?戦闘機購入には、莫大な費用が掛かっているのに・・・。」と不思議でならなかったのだが、「避難させたくても、避難させられなかった“具体的な”理由。」が記されている等、作者が此の作品を書き上げる上で、綿密に取材を行っていた事が判る。
室長の鷺坂が「戦闘機等の航空装備、レーダー、地対空誘導弾等の地上装備品、そして自衛隊員達等。」を「此れが、我が航空自衛隊の取り扱う“商品”です。」と紹介するシーンには思わず笑ってしまったけれど、広報室という部署からすれば、「商品」という表現は「成る程。」と感じた。
登場人物達が皆、キャラ立ちしている。だから、個々に感情移入してしまう。特に「自分には全く責任の無い不慮の事故で、幼い頃からの憧れだった“ブルーインパルス”のパイロットを断念しなければならなかった空井。」には、強く感情移入してしまった。其の無念さが痛い程判るからで、だからこそ彼が広報室で人として成長して行く過程には、嬉しさを感じてしまったし。
「読者を感動させよう。」というあざとさが露骨に見えてしまう作品には、げんなりさせられてしまう。「此の作品に、作者のそういった意図が全く無いのか?」と問われれば、「無い。」とは言わないけれど、其れ以上に「自衛隊にこういった一面が在る事を、多くの人に知って貰いたい。」という作者の熱い思いが感じられ、読後には清涼感が残った。
総合評価は、星4つとする。
災害現場での活動には頭が下がる思いで見ていますが、自衛隊はもともと上意下達が徹底された組織。いったん命令が下されれば、個人の意見を封印してでも従わねば機能しない組織ですよね。そして彼らが本来扱うものは間違いなく人殺しの道具。
命令系統が文民統制で、国民の生命安全を守る為に正常に機能していれば問題ないとしても、それがどこかで狂って、特定の思想や特定の組織を守る為に機能するとしたら、これほど恐ろしい組織はないわけですね。
日本でも過去にはそういうことがあったわけだし、現在の世界でも、たとえばシリアなどに見られるように。
日常業務として敵を殺す訓練をしている組織を、消防活動などのレスキューと同じ目線で見るのには抵抗があります。
以前、雫石さんが自衛隊に、陸、海、空の他にもうひとつ、災害救助隊を創ればよいという趣旨のことを書いておられましたが、なるほどそれなら自衛隊に対するイメージも変わるかな、と思ったことがありました。
「専守防衛」という建前は在りますが、“実質的に”自衛隊が「軍隊」で在る事を否定出来ない。其の規模や内容から言えば、世界有数の軍隊の1つなのは間違い無いと思っています。
五・一五事件や二・二六事件に代表される様に、我が国でも軍部が暴走し、其の結果として戦争への道を突き進ませた事実は在る。当ブログでも何度か書いている様に、特定の組織や人に強大過ぎる権力を与えてしまうのは、非常に怖い事でも在り、そういう意味では「偏見」というのでは無く、自衛隊に対して「きちんと見守る意識」を無くしてはいけないとも思っています。
唯、災害時等に自衛隊が我々国民の為に身体を張ってくれている現実も認識しなければいけないし、そういう点には敬意を払いたいとも。
要は“どんな対象で在れ”、深く考える事無しに、盲目的に服従したり忌避したりするのはどうかという事でしょうね。
「災害救助隊」というのは良いアイデアですね。必死で頑張っている隊員達の為にも、不条理な偏見は無くなって欲しいと思っております。
貴記事を拝読させて貰いました。「安倍晋三総裁が、高価なカツカレーを食した。」という報道、其の人物の一面を浮かび上がらせるという意味に於いては、そういった事柄を取り上げるのは悪くないと思うのですが、「高価な食事だから駄目。」というのは大きな御世話でしょうね。私的に食したのに、“経費”で落としたというのなら話は別ですが。
安倍氏が首相職を途中で放り出した件、某ワイドショーで茶化した言い方をしたという事が問題になった様ですが、彼が罹患している難病を小馬鹿にする様な言い方は駄目だと思います。唯、気になる点は「途中で放り出した事自体」を批判してはいけない様な風潮になっているのは、好ましくないでしょうね。政治家は「国民の生殺与奪権を握っている。」という意味で、強大な権力を有しています。況や首相職は、其れ以上の存在。“病気で在ろうが無かろうが”、首相という重職を途中で放り出したという事実は、時間が経とうとも批判されて然るべきではないかと。「彼の事を一切批判してはならない!」といった雰囲気が出来てしまうのは、其れは其れで怖い事。
「首相の座を降りなければいけなかった無念さを、何としても晴らしたい。」というのが安倍氏及び彼の側近達の思いという話が報じられていました。もし事実とすれば、此れもおかしな話。政治は個人の無念さを晴らす場なんぞでは、絶対に無い。
格差社会の広がりで生活苦に喘ぐ人が増え、自民党政権下で推し進められた原発は大きな問題となっている。大震災による被災者達は、未来に夢を持てない状況に置かれている。そんな重要問題が山積の中、「最優先課題は、憲法改正です。」と言ってしまう頓珍漢さ、そして自民党の過去の問題点を“正式に”謝さない点等々、安倍氏が未だに批判されている理由に、放り出し以外の部分も結構在るのではないかと感じています。
今後とも、何卒宜しく御願い致します。
「自衛隊」が「軍隊」で在るのは確かだと思うし、だからこそ「自衛官=軍人=戦争をするのが本来の仕事」という考え方(個人的には「戦争をするのが本来の仕事」というよりも、「国を守るのが本来の仕事」という方が適切な気はしますが。)も在るのは理解出来ます。
唯、他国の軍隊とは異なり、自衛隊には「災害時に救援活動を行ってくれる。」という“現実”が在り、其れが本来の業務では無いにせよ、少なくとも日本国民の間に自衛隊を“信頼出来る組織”と感じさせている面は多分に在ると思います。他国の軍隊とは異なる・・・でも、其れは其れで悪く無い。日本独自のスタイルかもしれませんが、海外のスタイルが必ずしも正しいという訳では無いし、こういうのは個人的に嫌いじゃ在りません。
今後とも何卒宜しく御願い致します。