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精南大学のキャンパスに、夏が遣って来る。「日本文化が大好きで、洞察力に優れた留学生ケビン・マクリーガル。」と、「学業はからっきし乍ら、人望は厚く、寮生代表の長瀬秀次(ながせ ひでつぐ)。」は、獅子辰寮のルームメイト。6月の末、秀次の幼馴染み・川奈理沙(かわな りさ)の課題に付き合って、2人は銀座の刀剣専門店を訪れた。其の後、店に居合わせた男の遺体が発見される。遺体のポケットには、ケビンの名前の書かれたハンカチが入っていた。
何かと事件に巻き込まれてしまうケビンと秀次の前には、警視庁捜査1課の田中撫子(たなか なでしこ)が部下の浦辺(うらべ)と共に現れる。「ロサンゼルス帰りの切れ者美人刑事」を自称しているが、アメリカ仕込みのウイットに富んだ(と本人が思い込んでいる)トークは常に空回り。推理に付いてもケビンの方が一枚上手で、現場では恰も自分が考えたかの様に、ケビンの推理を披露する。海パン一丁で阿波踊りを踊ったり、妖怪のコスプレをしたり、獅子辰寮の個性的なメンバーも大活躍!?
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「日本の昔話を基にしたミステリー。」や「西洋の童話を基にしたミステリー。」等、変わった切り口のミステリーを著して来た青柳碧人氏。そんな彼が2年前に上梓したのは、「日本文化に異常に詳しい留学生ケビン・マクリーガル。」と「学業はからっきしだけれど、人望は厚い長瀬秀次。」という大学生コンビが、“日本文化に纏わる事件”を解き明かすというミステリー「ナゾトキ・ジパング」(総合評価:星3つ)。今回読んだ「ナゾトキ・ジパング HANABI」は其の第2弾で、5つの短編小説&エピローグで構成されている。
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「ぼく、打ち上げタイデス。筒の下にしゃがんで、火薬入れる。玉入れる、打ち上がる。Fantastic!」。「いやあ、残念だが、今はそんな危ないやり方、しねえんだ。」。鷹山(たかやま)社長が苦笑いをした。「全部コンピューター制御だ。花火師も安全を確保したうえで、筒からかなり離れたところから操作する。操作って言ってもな、もう初めからどのタイミングでどの花火が打ち上がるか、プログラムってやつで組み込まれてるんだ。」。「What?花火師、コンピュータ、操作する?」。「そうだ。そういうソフトは、アメリカで開発されたはずだぞ、なあ、岡本(おかもと)。」。「ええ。」。落ち着き払って花火弁護士は眼鏡の位置を直す。「ソウデスカ。」。ケビンは当てが外れたようにうつむいた。「そんな顔をしないでください。たとえコンピューター操作だとしても、実際に花火が打ち上がるのを間近で見れば、自分たちが打ち上げたんだという高揚感があるものです。」。岡本は言った。「それに、コンピューター制御の場合はかつてのように手で打ち上げるのと違って、いちいち花火玉を筒に放り込むわけにはいかないんですから、玉の分だけ筒を用意するんです。」。「七千発分かよ!」。秀次は思わず叫んでしまう。「まあ、花火の『発』の数え方はいろいろだが・・・今回も五千本は用意している。現代の花火大会で花火師の仕事といったら、打ち上げよりも筒の設置と後片付けだ。それでよければ、手伝いはいくらいてもいいくらいだ。」。(「HANABI」より)
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「現代の花火大会が、昔と違って“コンピューター制御”で行われている。」事は知っていたが、「事前に花火の“発数分”の筒が全て設置され、其の中に花火玉が込められている。」というのを、今回初めて知った。昔の様に「打ち上げる直前、花火師は逐一、数本の筒に花火玉を放り込み、其れから着火する手順。」と許り思っていたので。でも、良く良く考えれば、其れでは事前にコンピューター制御しているのは無意味になってしまうし、「確かに、そういう事に成るんだろうな。」と納得。
個人的には、第4話の「KWAIDAN」が面白かった。御化け屋敷を舞台にした殺人事件で、“思い込み(勘違い)”が鍵となっており、小泉八雲の「怪談」の内容が大きな意味を持っている。「そうなんだ。」と勉強に成った。
唯、前作「ナゾトキ・ジパング」でも指摘した様に、「自分が子供の頃(街中で外人を見掛ける事が珍しかった時代。)、TV番組に登場していた所謂“変な外人”を思わせるケビンの設定は、非常に古臭く感じてしまう。」のは、今回も同じだ。
「KWAIDAN」以外の4作品は、謎解きも含めてパッとせず、全体としては高い評価を与えられない。総合評価は、星3つとする。