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映画製作への出資金を持ち逃げされたヤクザの桑原(くわばら)と建設コンサルタントの二宮(にのみや)。失踪した詐欺師・小清水(こしみず)を追い、邪魔な破落戸2人を病院送りにした桑原だったが、何と相手は本家筋の構成員だった。組同士の対立に発展した修羅場で、遂に桑原も進退窮まり、生き残りを賭けた大勝負に出るが・・・。
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第151回(2014年上半期)直木賞を受賞した小説「破門」は、黒川博行氏の「疫病神シリーズ」の第5弾に当たる。黒川作品を読むのは今回が初めてなのだが、「武闘派で狡猾だが、憎めない所も在るヤクザ。」という桑原と、「亡き父親がヤクザの大物だけれど、当人は堅気。建設コンサルタントを務めるも、真面な仕事は殆ど無く、毎日が貧乏暮らし。気弱で極楽蜻蛉、女性にだらしなく、ギャンブル好き。」という二宮との“珍道中”が、「疫病神シリーズ」の肝の様だ。
登場人物達、特に桑原と二宮との間で交わされる会話のテンポが実に良い。下手な書き手だと滅茶苦茶詰まらなくなってしまう「ノリツッコミ」も、黒川氏は良い塩梅に仕上げている。ストーリー自体のテンポも、非常に良いし。
又、何のキャラクターも、見事にキャラ立ちしている。詐欺師の小清水なんぞも、小市民的で気弱な爺さん風だが、危機的な状況に陥った際、然も真実を言っている様な顔をして、平然と何度も嘘を吐くのが笑える。桑原の“子分達”のキャラクター設定も、良くも悪くも魅力的。
ネット上のレヴューを見ると、評価が二分している様に感じる。高い評価をしている人は「純粋に面白い。」としている一方で、低い評価をしている人には「こんな小説が直木賞を受賞するとは・・・直木賞も地に落ちた物だ。」といった酷評が目立つ。具体的なポイントを挙げた上での酷評ならば未だしも、「ヤクザを扱った小説が直木賞受賞なんて・・・。」というのには、「直木賞が、大衆小説に対して与えられる文学賞っていうのを知っているのかなあ?ヤクザを扱った小説だから、高尚な文学賞には値しないと考えているのだとしたら、変な話だ。」と思ってしまう。
「黒川氏は無頼派の作家と思っていたので、ホイホイと直木賞を貰ったのはがっかり。だから、『破門』も読むに値しない。」なんていう酷評も在ったが、気持ちは判らないでも無いけれど、作品自体を低く評価する理由としては御門違いだろう。
純粋に面白い作品だったし、直木賞受賞も納得出来る。総合評価は、星4つとする。