1月27日付け東京新聞(夕刊)に、「ソ連破れてマックあり」という記事が載っていた。“資本主義の象徴”たるマクドナルドが、共産主義の旧ソ連の首都・モスクワに“ソ連1号店”をオープンさせたのは1990年1月31日の事。“(資本主義という)未知との遭遇”から、3日後で30年が経つ。
「若者が、レジ係で立っている事に驚いた。」と話すのは、航空会社社員のヴィクトル氏(70歳)。国民が皆働いていたソ連時代、レジは主に中年が担当していたのに対し、マックは若者許りを採用したからだ。
今から27年前の1993年、年末から新年に掛けて中国を旅した。元日の昼、上海のマクドナルドに行った際、新年を迎えたという事で、パンダ型のチョコレートが配られていた。「国によって、マクドナルドも違うんだなあ。」と思ったが、一番意外だったのは、店内で働いているスタッフに高齢者が多い事。最近でこそ日本のマクドナルドでも、“人手不足”の影響で高齢者のスタッフの姿を見掛ける様になったけれど、当時の日本では皆無に等しかったと思う。社会主義の中国では、共産主義のソ連同様、マクドナルドで働く高齢者は珍しく無かったのだ。
「昔は入店迄、1時間待ちの行列。注文したら直ぐに料理が出て来て、味の良さにも驚いた。」と証言するのは、元ホテル従業員のゾーヤさん(74歳)。彼はオープンから1ヶ月後、初めてモスクワ店を訪れたと言う。ロシア・メディアによると、オープン当日の訪問客は3万5千人を超え、此れは其れ迄記録を持っていたハンガリー・ブダペスト店の9,100人の約4倍。モスクワでの平均月給が150ルーブルの当時、ハンバーガー1個が1.5ルーブルだったというのだから、相当に高価な食事だ。
求人広告を見て応募したのは約2万2千人で、採用枠は約600人。最高学府・モスクワ大卒業生や元パイロット等、エリート許りが採用されたが、彼等が返事に窮したのが「4時間続けて、笑顔で居られますか?」という質問だったとか。ロシア人は、初対面の相手に微笑み掛ける習慣が無いので。彼の地では、「意味無く笑うのは、馬鹿の証拠。」という諺も在るそうだ。
接客時の笑顔に加え、「いらっしゃいませ。」や「有難う御座いました。」の挨拶には、ソ連式の不愛想な接客に慣れていた客は驚き、そして気味悪がったと言う。客のショックを和らげる為、開店から少し経つと、「笑みを少し抑える様に。」とマニュアルが変更されたというのだから、もう笑い話だ。