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婚約者・坂庭真実(さかにわ まみ)が姿を消した。其の居場所を捜す為、西澤架(にしざわ かける)は、彼女の「過去」と向き合う事になる。
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辻村深月さんの小説「傲慢と善良」を読了。イケメンで性格も良く、自営業者としても順調な日々を送っている西澤架は、未だ独身。女性との交際は途絶える事が無い感じで生きて来た彼だが、「ぴんと来る相手が居なかった。」という理由から、周りが次々と家庭を持つ中、結婚するには到らなかった。然し、とても気が合うと感じていた三井亜優子(みつい あやこ)から別れを切り出された事で、彼女が自分にとってどんなに大事な存在だったかを思い知る。そして、彼女が別の男性と結婚した事が彼にとって大きなトラウマとなり、誰かと家庭を持ちたいと真剣に願う様に。“婚活”に励み続けるが、矢張りぴんと来る相手に出会えなかった架は、39歳になって婚活アプリで坂庭真実と巡り合う。35歳の彼女も、ぴんと来る相手に巡り合えず、独身を続けていた。2人は付き合い、そして結婚する事を決めるのだが、結婚式の約7ヶ月前になって彼女は失踪。彼女が恐れていたストーカーによって、トラブルに巻き込まれたのだろうか?そういうストーリー。
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・「対して、現代の結婚がうまくいかない理由は、『傲慢さと善良さ』にあるような気がするんです。」。小野里(おのざと)が言った。さらりとした口調だったが、架の耳に、妙に残るフレーズだった。「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、“自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。」。小野里がゆっくりと架を見た。そして、ひとり言のように、どうだっていいように、付け加えた。「その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれないですね。」。
・架は絶対に自分のことは自分で決めたいし、自由でいたい。しかし、世の中には、人の言うことに従い、誰かの基準に沿って生きることの方が合っている―そういう生き方しか知らず、その方が得意な人たちも確かにいるのだ。特に、真面目で優しい子がそうなるのはよくわかる。
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「自分なんて、大した人間では無い。」とか、「自分にって相手は、勿体無い程の人。」とかと卑下しつつ、結婚相手に“高過ぎる理想”を持つ人は少なく無い。自身を卑下している様で、実は“高過ぎるプライド”を持ち、結婚相手が上手く見付からない事を、「ぴんと来る相手が居なかった。」という“言い訳”で済ましてしまう。“傲慢さと善良さの共存”が垣間見れる。
又、「依存が強過ぎたり、過干渉だったりして、激しくぶつかり合う母子が増えている。」という話を、近年、良く見聞する。特に「母と娘」でそういう傾向は強い様で、母の側からすれば「矢鱈と自身の価値観を押し付け、そして矢鱈と子の面倒を見たがり、子が反発すると「私は、こんなにも貴方の事を考えて“上げている”のに、どうして判らないのか!」と打ち切れ、逆に子の側は「“良いとこ取り”だけをして、面倒臭い事には猛反発する。」という面が在ったりする等、双方に問題が在る様に感じたりするのだが、厄介なのは「何方も、“悪意”を持っての言動では無い。」という点。共に“善からの思いでしている事”と疑っていないだけに、問題は拗れる一方なのだ。そういう母子が、此の作品には登場する。
“人が持つ邪悪な面”、此れは自分も含めて大なり小なり有しているのだが、そんな“人が持つ邪悪な面”が、「此れでもか!」と言わん許りに描かれ、又、上記の“うんざり点”も加わり、読み進めていて気分がどんよりしてしまう。真美失踪の真実に付いては、早い段階で察しが付いたし、「総合評価は、星3つが良い所かなあ。」という思いで物語の終盤に。
だが、“イヤミス”なのかと思いきや、意外な結末が。「“彼の神社”は、“其の為”に登場したのか!」、「坂庭真実の真実(まみ)という名前、文章内で『真実』という単語が登場すると、ついつい『真実(しんじつ)』と読んでしまい、其の意味合いで理解してしまう。でも、文脈から『変だな。』と思って読み返すと、名前の『真実(まみ)』だったという事が何度も在り、『ややこしいなあ。』と何度も感じたが、最後の最後になって辻村さんが『真実(しんじつ)』と同じ漢字の『真実(まみ)』を“敢えて”名前として使った事の意味合いを痛感させられた。」等、一気に評価が上がった。こういう結末、自分は好きだ。
総合評価は、星3.5個とする。