大好きな作家の一人、山崎豊子女史のエッセーに「庶民の味」というのが在る。彼女の処女作「暖簾」が東宝芸術座で舞台上演された際の出来事に触れているのだから、今から50年近く前の事と思われる。主演の森繁久彌氏を妻役の浪花千栄子さん*1が後ろからひっしと抱き締め、泣きながら揺さぶるというラストシーンで、浪花さんの腰の辺りがガクガクして今にも後ろに倒れそうな頼りなさを山崎女史は感じたという。
気になった彼女は、幕が下りると同時に浪花さんの側に駆け寄って、「どないしはったんですか?ふらついてはるみたいやけど、風邪でもひきはったのですか?」と尋ねた所、浪花さんは冴えない顔に笑いを作りながら、「いいや、実はわては皆さんと御一緒に第一ホテルへ泊まってまっしゃろ。ところが、わてはあの床几みたいなベッドの上へ寝て、ナイフやフォークを難しゅう動かして食べる食堂の御飯がたまりまへんねん。ほんで、この所あんまり御飯が喉を通らず、体に力がおまへんねん。」と答えたそうだ。
驚いた山崎女史は、「皆一緒に黙って第一ホテルへ泊まってはるやおまへんか。わてだけが勝手出来まへん。」とする浪花さんを説得し、翌日から日本式の宿屋に移らせた所、浪花さんは宿屋に着くなり畳の上にべったりと御尻を付け、畳の目を撫でる様に何度も摩り、「何か御馳走を。」と計らう宿の人に対して、「何も御馳走は要りまへん。おこうこ(御漬物)で御茶漬けさせておくなはれ。」と言ったそうだ。そして、おこうこが出て来ると待ち構えていた様に箸を取り、「わては畳の上に寝て、おこうこを食べんとええ芸が出来まへんねん。ああ、美味しい。身に付くわ。」と瞬く間に平らげたのだとか。
浪花さんの場合はベッドと肩肘張った食事がどうにも受け付けなかったという事なのだろうが、自分の場合で言えばユニット・バスがそれに類する。初めて海外を旅した際のホテルで、一つの空間にバスタブと剥き出しのトイレが存在するスタイルに、そういった物が一般化しているのは事前情報として知ってはいたものの、非常に居心地の悪さを感じた。「排泄物を出す場所と、身体を清める場所が一緒の空間に置かれているなんて・・・。」用を足した後に、洗い流せるという意味では合理的なのだろうし、「仮に別々の空間に存在していたとしても、風呂場では汚い身体を洗い流すのだから同じ事ではないか?」と言われてしまえばそれはごもっともなのだが、これは生理的に受け付けないと言わざるを得ない。今や日本のホテルでも、このスタイルが主流になってはいるが、未だに駄目なのだ。部屋の中で靴(スリッパも含め。)を履き続けるというスタイルも、未だに苦手。どうにも、裸足で居れない空間には安らぎを覚える事が出来ない様だ。
幼少時は名古屋の片田舎に住んでいた。当時の便所(汲み取り式で、トイレなんて洒落た呼び方はしてないなかった。)には和風便器が使われており、それを長らく使用してはいたのだが、洋風便器が登場した際にはスンナリ新しいスタイルに溶け込めてしまった。従って必ずしも「昔から慣れ親しんだスタイルじゃないと駄目。」という訳では無いのだ。
幼い頃より、ユニット・バスが決して異端では無かったで在ろう今の若い子達には、自分の様な感覚は奇妙に思えるのかもしれないが。
*1 当ブログを良く覗いて下さっているまなぶ様の様に、昔の邦画が御好きな方ならば御存知だろうが、一定年齢以下の方だと「誰それ?」という事になってしまうかもしれない。地方に行くと今でも掛かっている所がたまに在るが、オロナインH軟膏の琺瑯看板の方(こちら)と書けば御判りになる方も居らっしゃるのではなかろうか。
気になった彼女は、幕が下りると同時に浪花さんの側に駆け寄って、「どないしはったんですか?ふらついてはるみたいやけど、風邪でもひきはったのですか?」と尋ねた所、浪花さんは冴えない顔に笑いを作りながら、「いいや、実はわては皆さんと御一緒に第一ホテルへ泊まってまっしゃろ。ところが、わてはあの床几みたいなベッドの上へ寝て、ナイフやフォークを難しゅう動かして食べる食堂の御飯がたまりまへんねん。ほんで、この所あんまり御飯が喉を通らず、体に力がおまへんねん。」と答えたそうだ。
驚いた山崎女史は、「皆一緒に黙って第一ホテルへ泊まってはるやおまへんか。わてだけが勝手出来まへん。」とする浪花さんを説得し、翌日から日本式の宿屋に移らせた所、浪花さんは宿屋に着くなり畳の上にべったりと御尻を付け、畳の目を撫でる様に何度も摩り、「何か御馳走を。」と計らう宿の人に対して、「何も御馳走は要りまへん。おこうこ(御漬物)で御茶漬けさせておくなはれ。」と言ったそうだ。そして、おこうこが出て来ると待ち構えていた様に箸を取り、「わては畳の上に寝て、おこうこを食べんとええ芸が出来まへんねん。ああ、美味しい。身に付くわ。」と瞬く間に平らげたのだとか。
浪花さんの場合はベッドと肩肘張った食事がどうにも受け付けなかったという事なのだろうが、自分の場合で言えばユニット・バスがそれに類する。初めて海外を旅した際のホテルで、一つの空間にバスタブと剥き出しのトイレが存在するスタイルに、そういった物が一般化しているのは事前情報として知ってはいたものの、非常に居心地の悪さを感じた。「排泄物を出す場所と、身体を清める場所が一緒の空間に置かれているなんて・・・。」用を足した後に、洗い流せるという意味では合理的なのだろうし、「仮に別々の空間に存在していたとしても、風呂場では汚い身体を洗い流すのだから同じ事ではないか?」と言われてしまえばそれはごもっともなのだが、これは生理的に受け付けないと言わざるを得ない。今や日本のホテルでも、このスタイルが主流になってはいるが、未だに駄目なのだ。部屋の中で靴(スリッパも含め。)を履き続けるというスタイルも、未だに苦手。どうにも、裸足で居れない空間には安らぎを覚える事が出来ない様だ。
幼少時は名古屋の片田舎に住んでいた。当時の便所(汲み取り式で、トイレなんて洒落た呼び方はしてないなかった。)には和風便器が使われており、それを長らく使用してはいたのだが、洋風便器が登場した際にはスンナリ新しいスタイルに溶け込めてしまった。従って必ずしも「昔から慣れ親しんだスタイルじゃないと駄目。」という訳では無いのだ。
幼い頃より、ユニット・バスが決して異端では無かったで在ろう今の若い子達には、自分の様な感覚は奇妙に思えるのかもしれないが。
*1 当ブログを良く覗いて下さっているまなぶ様の様に、昔の邦画が御好きな方ならば御存知だろうが、一定年齢以下の方だと「誰それ?」という事になってしまうかもしれない。地方に行くと今でも掛かっている所がたまに在るが、オロナインH軟膏の琺瑯看板の方(こちら)と書けば御判りになる方も居らっしゃるのではなかろうか。
おこうこ、って言ってたね。
呑み屋で今度「おこうこくれ。」って言ってみようかな?何が出てくるんだろ?(笑)
しかし、ホーローなんて漢字よく知ってるねぇ。
我が家も実家は昔汲み取りでした。でもなぜかそのトイレが好きで(笑)不思議なのですが、今でも何か精神的に参ってくると夢の中に昔の家の汲み取りトイレが出てくるんですよ。
そう言えば、知人のお母さんは、やっぱりベッドが苦手で、ホテルに泊まっても、人に手伝ってもらってあのふかふかマットレスを取ってもらうそうです。
今は結構賃貸住宅もフローリングが多いですよね。でも畳の部屋、やっぱりないと落ち着かないです。
京都人にとっては尚更身近に感じられる方です。たしか、晩年、嵐山で旅館を経営なさってましたもんね。
帆印さま、「おこうこ」は今も日常的に使っています。おっしゃるとおり、一定年齢以上です(笑)。
ユニットバス、できるだけ使いたくないですね。トイレは昔、ご不浄ともいいましたよね。汲取りでしたから、やはり、その頃のイメージを引きずっている者としては、トイレとお風呂は別々にお願いしたいです。
それにしても、「浪花千栄子さん」のお話、いいですねえ。その時の浪花千栄子さんの仕草が目に見えるようです。いつか小津安二郎の映画で、鴈次郎の酒造屋だったかの大旦那が久しぶりに浪花千栄子さんの演じる昔のおめかけさんのところへやってきて、そこでで脳溢血かなんかで亡くなってしまうシーンを遣っていましたが、その時の淡々とした中にもうちにある昔の旦那へのそこはかとない情愛がなんともいえず、よかったのをおもいだしました。
また、時々、お邪魔させていただきます。
蛇足ですが、ホテルのユニットバスのお話、全く同感です。どうにかなりませんかねえ。
ご無沙汰しております。
あっしの実家も、20年前迄汲み取り式便所でした。
洋式トイレにはスグ馴染んだものの、一人暮らしするようになってのユニットバスは使い勝手が悪い!
giants-55さんがおっしゃられているように、「排泄物を出す場所と、身体を清める場所が一緒の空間に置かれているなんて・・・。」の感じがありました。
まぁ流石に今は馴染みましたが・・・(^^ゞ
あっしの今住んでいるマンションは、1Rユニットバス仕様ですが幸いな事に和室♪
収納は押入れや天袋があるから困らないし、ないより冬は暖かい☆
フローリングも嫌いではありませんが、冬は寒そう・・・{{{{(+ω+)}}}}寒ううぅ~
いつもありがとうございます♪
過分なるお言葉を賜りまして、恐縮しております(汗)
今回の記事、本当に胸が一杯になってしまいました。
“社長さんの御好意でコマーシャルやらせてもろてます”
CMでの親しみ易い人柄、笑顔も大好きでした(笑)
浪花千栄子さんという女優さんが大好きで、実際の彼女が辿った人生にも、涙してしまったほどでした。
昨年、機会があって彼女の代表作でもある、
『宮本武蔵』
全5作を改めて観たのですが、浪花さんの演じる本位田(ほんいでん)のおばば役は素晴らしかったです!
それまでずっと、仇のように武蔵を付け狙っていたおばば、最終作で、死地に赴く武蔵の背中に、
“武蔵~、武蔵~、死ぬではないぞ~!”
と呼びかけるシーンではねもう涙ダダ漏れでした!
中には彼女のアクの強さを嫌う方もいらっしゃいますが、「小早川家の秋」での中村雁次郎さんとの芝居には、“色気”が漂っていました。
あの作品の浪花さんから、色気を感じてはいけないのかもしれませんが(苦笑)幾つになっても、色気を失わない方は凄いと思いますし、尊敬してしまいます。
最早、あんな色気と演技力の女優さんも少なくなってしまったと思うと、淋しき限りです・・・。
山豊子さんがお好きなのですネ。
私も有吉佐和子さんや吉屋信子さんと並んで好きです。
「ぼんち」「女系家族」大好きです!
私もこちらの浪花さんの記事への反響に喜んでおります(笑)
映画化された「女系家族」にも浪花さんも出演されてますネ!
国営放送で昔、故ミヤコ蝶々さんの公開番組の録画を観ていたのですが、夫の浮気話をにこやかに語る蝶々さんにカットバックして、会場の大学生らしき男性が涙を拭いながら聴き入っている姿が映し出された時、得もいわれぬ親近感を抱いてしまいました(笑)
以前もお話したのですが、私は女性に対して、妙な理想像を抱いているのです(恥)
特にふくよかな女性、ある程度の年を重ねた女性。
タフで生命力を感じさせる女性が好きなので、
先日亡くなられた今村昌平監督の作品に登場する。
左幸子さんや吉村実子さん、
左さんの出演作には、駄作、凡作は1本もありません。
松尾嘉代さん、春川ますみさんには魅力を感じます♪
あぁ、松尾嘉代さん、
文句のつけようもない方です。
美しくて、強くて、私の聖女です!
今のところは風呂トイレは別ですが所謂風呂はユニット式なので、浴槽が狭いのです。
ということもあり折角外で泊まるのなら、部屋つきでなくていいので大きい風呂があるところがいいです。
東京なら、大井町の某巨大ビジネスホテルがそれを満たすのですが、部屋に冷蔵庫が無いのが残念・・・
新婚旅行で北海道行った時、オシャレなホテル頼んで、行ってみたら、全室ユ二ットバス。
タクシー使って、スーパー銭湯に行ってきました。
ついでに、家に畳の部屋が最低一室は欲しいですね。
最近は、洋風の家や、輸入住宅とかで、畳の部屋がない家も多いですけれどね。
ついでに、家は木造和風住宅で、瓦屋根で・・・と言いだしたら、切りがない。