知ってる人は知ってると思うけれど、私は女子テニスの大坂なおみ選手の大ファンである。黒豹のように躍動する強靭な肉体とインタビューで見せる少女のような可愛らしさ、最初はそのアンバランスさに魅了されたのだが、最近は自分の社会的地位と責任を意識した言動にみる人間的成長が著しい。
先月23日、アメリカのケノーシャという町で、ジェイコブ・ブレイクさん という黒人男性が警官に背後から7発も拳銃で撃たれるという事件があった。ビデオ動画を見る限り、丸腰の人間に対して発砲するという、警官としての任務を著しく逸脱する行為というより、単なる殺人未遂という犯罪行為にしか見えない。公民権運動から半世紀以上も経つのに、未だにアメリカにはあからさまな人種差別が絶えないのだ。この事件に衝撃を受けた大阪選手は、8月27日(現地時間)に出場する予定だったウエスタン・アンド・サザン・オープン準決勝を棄権するとTwitterで表明した。
「私はアスリートである前に黒人女性です。私のテニスを見てもらうよりも、
早急に対応しなければならない重要な問題が目前にあるように感じています。
私がプレーをしないことで何か劇的なことが起きるとは思いませんが、白人が
多数派のスポーツで話し合いを始められれば、それが正しい方向への一歩に
なると私は考えています」
彼女のこの意見表明に対し賛否両論はあった。SNS上では、プロのアスリートが政治問題を理由に試合を放棄すべきではないという意見も少なくなかった。しかし、彼女にとっては、この問題は政治問題などではなく、もっと切実な人権問題である。人間が人間として扱われないということに対して憤りを感じているということなのだ。幸い、大会の主催者側も彼女の意志に理解を示し、賛同する旨の声明を出し、準決勝の日程を延期することで彼女も再び準決勝に臨むことに落ち着いた。彼女の投じた一石はそれなりの成果を見たのである。
全米オープンでは、試合ごとに警察の手による虐殺の犠牲となった黒人の名前がプリントされたマスクを着けて試合に臨んでいる。明らかに彼女は使命感を持って試合に臨んでいるのだろう。そして、その使命感はプレーにも好影響をもたらしているように私には思える。これまでの彼女は、フィジカルの強さに対して、メンタルの弱さを指摘されることが多かった。しかし、今大会は今までの所そういう面が全く見られない。堂々たる試合ぶりで、相手をまさに圧倒しているという感がある。BLM問題を通じて、彼女は人間としてもアスリートとしても一回り大きくなったのではないか、と私は思っている。