母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

ほたる

2013年07月20日 | 季節
夏の宵の

麻の蚊帳はホタルの家

ほたるは庭から運ばれて

青いひろい蚊帳のなか

ゆっくり飛び交いほのかな光を灯します

闇に光る 青い光はながれる糸

糸は幾つもの 物語を織るのでした


ちいさな星のように光りながら

やがて疲れて少女の髪に羽を留め 青い光はひと休み

いきものの呼吸 青い点滅に

楽しい夜は更けてゆく

家族も少女も眠りにつきやがて

朝の光の中

ほたるの光は消え 儚いいのちは蚊帳の隅で尽きていました


何十年ののち

大人になった少女は遠い町で

蚊帳のなか川の水を探して舞い続けた

あの日のほたるのため祈りを捧げるのでした

賑やかだった家 父も母ももうこの世になく

懐かしいあの日のほたる 花の香り溢れた夏の庭に沢山舞っていた

青みどり色の光はもう見えない

時はいつも静かに流れていく

回り灯篭のように人と虫の

はつ夏の思い出の宵が浮かんでは消え

ほたるは夢の中でいまも

幻想のように光り 舞い続けているのでした
















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