母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

一ぱいの水 ー献水ー

2013年08月10日 | 
夾竹桃の花が咲き 赤いカンナの花開く
いつもの夏の風景があって
その青い空の下にはいつもの暮らしと多くの職場
それぞれの家族が戦下を懸命に生きていた
つましくささやかな暮らしに 学校に 職場に
一瞬の炸裂の光線がすべてを奪った 狂おしい夏―

コップに注がれた氷浮く水のありがたさ
いっぱいの水
その水を誰もがほしいと願い
誰もがもっと生きていたいと願い
しかしその願いかなわず
あらかたが 渇き傷ついた体の痛みに苦しみながら
命を落とし世を去ったその熱い暑い哀しい夏の幻が
平和にそだち豊かさに慣れた私の胸を刺し
いっぱいの水を飲むことをためらわせた

二度と起こさせない
二度と繰り返させない
何十年誓いながらも時の経過と想像する力の喪失
哀しい記憶を遠ざけさせてはならぬ

一ぱいの水 渇きの夏の咽喉に沁み渡る
ただ一ぱいの水
いまこの水のあることの有り難さを
沢山の戦争の犠牲の市民の魂が今年も知らせにやって来る
日本の夏 日本の空 

あの日望んだ涼しいただ一ぱいの水を 
灼熱に消えていったあなたに 胸に刻むあの日のあなたがたすべての
咽喉に捧げます


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