故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー13

2014-12-20 06:38:33 | 短編小説

第十三話 だいだい

さなは、小さい頃より、姉と遊ぶことはありませんでした。
いつも遊ぶのは、近所の悪童達か、少し離れた場所に住んでる
同級生の竹子でした。さなは、悪童達と裏にあった橙の木に登って
よく遊んでいました。悪童達が踏み固めた地面から力強く伸びた幹は
大きく枝を広げていました。さなの家より一段高い畑に植えられていた
橙の木は、さなの家の屋根より高かったのです。

さなは、その日、橙の実を採ろうとして悪童達と幹から枝へと恐る恐る昇っていました。
さなは、同級生の男の子達より、頭ひとつ分大きかったのです。
男の子達は、そんなさなに高い枝にある橙は任せていました。
「さな。そっちの橙はまかせたけえの。」
「うちでも、とどかんわいね。」

 だいだい

さなは、木の股を両足で挟んで高い枝にある橙を取ろうと上がり下がりしていました。
なぜかわからないけど股間に妙な気持ちよさを感じました。
わからないまま、さなは股間を幹にこすり付けていました。
それきり、そのことを忘れてしまいました。

冬には、隠れ家を山の中に、大きな子達と一緒に作りました。
正月前に親戚と一緒に搗いたたくさんの餅は、やがて水餅になるのでした。
保存方法のなかった島では、餅にカビが生える前に水につけました。
たくさんの餅の中から、少しずつ隠れ家に運びました。
家族総出で、蒸して砕いた大豆と麦を筵にしいて、発酵させた米糀と合わせ、
さらに筵の下で幾晩か寝かせて出来た若いみそは、ビニールを敷いた
一斗樽に、一年分を仕込むのでした。保存のため、表面には大量の塩を
まぶしました。
そうして造った自家製みそも一緒に持ってくるのでした。
子供達は、木と草でできた隠れ家の中の土間においた火鉢で火をおこし、
網をかけ水餅をあぶりました。水餅は良く膨らみました。

「いうたろうがい。みそを先に乗せたら、落ちるんじゃけえ。」
「ほうじゃのお。膨らんできたらぬるんじゃった。」

さなの真っ黒な顔の中の大きな瞳が唯一女の子らしさを
顕していました。男の子達が、自由に飛ばすおしっこがいつまでも
うらやましかったのです。
光男がかごの間にはしごを渡し、筵をかけた家で、竹子ちゃんと
ままごとをしばらくはするのですが、すぐに飽きてしまい、
自然に男の子達に混じって遊ぶのでした。
「うちがいつもあかちゃんじゃけえ、つまらんわいね。」
竹子ちゃんもつられて男の子達とばかり遊んでいました。

さなは、すばしっこくて鬼になった男の子達につかまることは
ありませんでした。

「なして、あんなんじゃろうか。」
お母さんはお転婆なさなをずいぶん心配したのでした。
時には、「男の子と遊んじゃいけんよ。」と注意をすることもありました。
光男は男の子がいない分、さなの活発さを好ましく思っていたようでした。
光男は、いつかは、女の子らしくなると信じていました。

冬になると、苗床用に親達が集めたおびただしい量の落ち葉の
クッションの山で遊びました。高志が指名した二人が相撲を取ります。
いつしか取っ組み合いになり、そのうちむしりあいになった頃、
高志が引き離します。

「はあ、やめえや。あんたら二人とも強いことがわかったけえ。」
大人びた口調で、高志は小さい子達をなだめます。

さなはここでも泣かす役でした。
「あんたが、先に手え出したんじゃけえね。あやまりんさい。」
背が高くてすらりとしたさなは、筋肉の塊でした。

(つづく)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« さなさんー12 | トップ | さなさんー14 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

短編小説」カテゴリの最新記事