先日、対馬でハチに関わるお仕事をされている方のご厚意により
ツマアカスズメバチの標本が届きました。
これらのサンプルは、対馬のほぼ中央部にあたる豊玉町で10月下旬に駆除された個体です。
↓左:2頭女王 右:2頭オス
ツマアカスズメバチ Vespa velutina Lepeletier, 1836
このツマアカスズメバチ(以下ツマアカ)については
外来種として最近マスコミ等で取り上げられることが
多いのでその存在は広く知られていると思います。
また、生態や分布状況は動画も含め
検索でよくヒットするのでその大筋を知ることは容易です。
しかしながら、仮に野山でハチを見つけそれがツマアカであったとき
果たしてどれだけの人がそのことに気づくのでしょうか?
また、ツマアカの今後の分布拡大に関し
他のスズメバチとの競合関係も気になるところです。
↓左 ツマアカ女王・右 オオスズメバチ女王(茨城県産)
区別は簡単か?
私がツマアカの存在を知った時最初に思ったことは
他のスズメバチ(ハチ類)との区別は簡単か?ということです。
基本的には種類が異なるため区別はできるのですが
特別大きいとか、変わった色形の場合を除いては
それらをひとくくりにスズメバチ(ハチ)として見るのが一般的ではないでしょうか。
↑右端上段がツマアカ
そこで、どこが違うのか簡単な比較をしてみました。
↓ 在来する8種のスズメバチとツマアカ
↑中央の黒っぽく見えるのがツマアカ(女王)
こうして比較すると確かに区別出来ますが
慣れていなければ似たようにも見え、間違えることもありそうです。
そして、スズメバチとしては小さな部類であるこもわかります。
↓ツマグロスズメバチ・ツカアカ・チャイロスズメバチ
↑似たような大きさですが間違うことはありません
ツマアカの見た目の特徴
①体長が30mm前後
②全体的に黒っぽく見える
一般的なスズメバチのような黄色と黒の縞模様ではなく
全体的に黒いイメージで、更に真上から見ると顔も黒い
③足(符節)がレモン色(黄色)
④お尻の方(ツマ)は和名から連想するような赤ではない(生体時未見)
⑤腹面にレモン色文様
だいたいこな感じの特徴があります。
ツマアカはこれから分布をどこまで広げていくのかは判りませんが
樹上高所に目立つハチの巣を見つけたり
2~3㎝ほどの黒っぽい黄色脚のハチを見つけたときは
それを疑うことで早期対策に繋がるかもしれません。
(上記は標本での私見です。生体時には腹部が収縮しているため
体長や太さ等も変化しています。
また、色彩・模様等についても生死・個体差などにより多少異なる場合があります)
↓左と中央上下4頭は女王 右上下2頭はオス
↑文様や色合いには個体差が認められます
スズメバチと紫外線
多くの昆虫は紫外領域の中の光で情報のやり取りをしています。
この光は、人が感じることのできる光(可視光)の
スペクトル(赤~紫)の紫最端の外側になるため人には見えません。
初めて実際のツマアカを見たとき脚部が印象的なレモン色であったため
その色に何か秘密めいたことがあるのでは?と思い
*LONG WAVE3650Åの紫外線を照射してみました。
*見え方の1例)参考:何種類かの紙に紫外線を照射
紙には蛍光物質を含むものとそうでないものがあり
蛍光物質は紫外線を反射する性質を持っています。
↓紫外線を照射する前の各種紙(可視光)
紫外線照射時(紫外線領域)
↓紫外線をよく反射している紙は、はっきり見えます。
↑最下部の光らない紙はティッシュです。
ティッシュには、蛍光物質が含まれてないことが判ります。
ツマアカへの照射結果は,
予想に反して複眼部がある程度紫外線を反射したものの
レモン色の脚部は殆ど反射しませんでした。
他のスズメバチにも照射してみました。
結果は下画像のようになりました↓
スズメバチの黄色と黒模様は刺激的で私たちには毒々しく伝わりますが
紫外線領域で情報交換する同種異種には、そんな風に伝えていないようです。
*参考:クワガタムシの複眼もまた紫外線を反射しています
(マキシムスマルバネクワガタ生体)
~対馬にオオスズメバチは存在するか?
結論からすれば「存在する」。
オオスズメバチは秋~晩秋にかけて他のスズメバチの巣を襲うことのある
攻撃的で強いハチです。
↓茨城県産オオスズメバチ女王
キイロスズメバチやコガタスズメバチなどをはじめとする多くの昆虫は
このオオスズメバチの力に影響を受けながら暮らしており
対馬でのツマアカとオオスズメバチとの関係を知りたく検索してみたところ
「対馬にはオオスズメバチがいない」とする記事が意外と多いことに驚きました。
そういう記事を見てしまうと自分の認識が揺らぎます。
「・・・ん? 対馬にオオスズメバチはいない?」
念のため、標本を送っていただいた現地の方に電話で確認してみると
「対馬はオオスズメバチが多産します」と結論された上で
「ツマアカとオオスズメバチとの関係が
今後どのようになっていくのか注視しています」
とのお考えを頂きました。
ツマアカは、島内北部から南(一部九州本土)へと分布を広げる過程で
オオスズメバチの影響をそれなりに受けてきたものと私は考えますが
今のところそれを裏付けるような情報は得られていません。
つまり、ツマアカとオオスズメバチとの競合に関する現状と今後について
推測はするものの、本当のことはまだ判らないというのが正直なところだと思います。
最後に
対馬から届いた標本の中にはツマアカの他にも
ツシマヒメスズメバチが同封されていました。
このハチは、ヒメスズメバチの対馬亜種ですが
それらしからぬ特徴を持った大変興味深い種です。
次回はそのヒメスズメバチを載せてみたいと思います。
最後になりましたが
貴重なサンプルと対馬での現状をご教授いただいたE様にお礼申し上げます。
ありがとうございました。
*紫外線照射機器:MANASLUーLIGHT
参考URL:
上野高敏-Takatoshi Ueno-.
http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/ine/ueno/
都市のスズメバチ.
http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/infomation.htm
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