現在、日本のヒメスズメバチは下記の3亜種に整理されています。
ヒメスズメバチVespa ducalis Smith
基亜種は中国浙江省の個体
日本本土亜種 ヒメスズメバチ
ssp. pulchra Buysson
茨城県産(女王?)
分布:本州・四国・九州など
大きな特徴:お尻の先(端・ツマ)が黒い・3種の中でもっとも大型
対馬亜種 ツシマヒメスズメバチ
ssp. esakii Sonan
長崎県豊玉町唐洲産(働きバチ)
分布:対馬
大きな特徴:お尻の先(端・ツマ)が黄色い
琉球亜種 リュウキュウヒメスズメバチ
ssp. loochooensis Bequaert
沖縄県石垣市産(左上女王、他働きバチ)
分布:石垣島・西表島
大きな特徴:他の亜種と全く異なる色合い
ヒメスズメバチ類は、沖縄本島では未確認だそうですが
奄美大島や徳之島などその周辺の南西諸島では分布が確認されているそうです。
私は、ヒメスズメバチといえばお尻の先が黒で
黄色いものは、それ以外のスズメバチだと長らく思い込んでいました。
ところが対馬ではそれが通用しないということ、
日本のヒメスズメバチは3つの亜種に整理されているということを
去年の夏に知りました。
↓お尻の先が黒いのがヒメスズメバチ日本本土亜種(左)
↑上中央オオスズメバチ、右モンスズメバチ
下左コガタスズメバチ、下右キイロスズメバチ
前回の「ツマアカ~存在するか?」で少し書きましたが
先日、対馬在住のE様から貴重なツシマヒメスズメバチを頂き
念願のヒメスズメバチ3種が揃いました。
スズメバチの色柄や形態は同種であっても地域変異や、個体差もあるので
以下の比較はかなり狭域ということになりますが、この機会に少しだけ踏み込んでみました。
体の表裏
↓上から日本本土亜種・対馬亜種・琉球亜種
↓上から日本本土亜種・対馬亜種・琉球亜種
日本本土亜種と対馬亜種は大筋で似たような色柄の組み合わせですが
お尻の先の色が全く異なります。
そして、地理的にも離れた状態になりますので判りやすいです。
また、琉球亜種は他の2種とはかなり違う色柄です。
↓琉球亜種・日本本土亜種・対馬亜種
胸部周辺
↓上から 日本本土亜種・対馬亜種・琉球亜種
角度により見え方は変化しますがサンプル実見(横見)で琉球亜種は
胸部から腹部接合部にかけての角度が浅いように感じました。
頭部
↓上から 日本本土亜種・対馬亜種・琉球亜種
顔の中央部(複眼と複眼の間)にある頭循の形態も
それぞれの形をしているように見えます。
こうして見ていると琉球亜種として整理されている個体群は
あまりにも他の2種と異なって見えるため何とも複雑な思いになります。
それは、色だけのせいでしょうか?
平嶋義宏・森本桂・多田内修 著「昆虫分類学(p17)」によると
「亜種とは、同一種のなかで、ある地域に分布する固有の分類形質を持つ集団で
他の地域の集団からは明確に区別できるもの、と定義される」とあり、
「それを分けるの?」
と言いたくなるようなクワガタの世界からするとこちらは、判りやすいです。
アシナガバチ類を襲う
ヒメスズメバチの生態の特徴の一つとして
アシナガバチ類の巣を好んで襲うということが上げられます。
↓アシナガバチの巣
私もその様子を一度だけ観たことがあります。
↓キアシナガバチ
その時の観察ではヒメスズメバチに襲来されたアシナガバチは
応戦することなく、侵入者を遠巻きに殆どフリーズ状態でした。
その間、ヒメスズメバチは数頭の幼虫や蛹に接触していましたが
それらを取り出すようなことはしませんでした。
(幼虫や蛹の体液を吸っていたものと思われます)
そして、ヒメスズメバチは数分間滞在した後、何処かに飛んでいきました。
この時の観察で飛来してきたヒメスズメバチはその1頭のみです。
初めて見たその光景はショッキングで、なぜアシナガバチは応戦しないのか?
最初は理解出来なかったのですがよくよく考えてみると
いくつかの幼虫・蛹は犠牲になったものの
女王を初めとする働き蜂達はダメージを受けていないため
営巣を続けることができるのです。
つまり、抵抗しないことで家族の存続が保たれたのです。
そして、ヒメスズメバチによってアシナガバチの個体密度は調整されました。
左:キアシナガバチ 右:ヒメスズメバチ
アシナガバチの発生消長と、ヒメスズメバチのそれとは同調しており
10月ごろには両種の活動は終わりを迎えます。
また、アシナガバチが多くない北海道にはヒメスズメバチはいないようです。
よくできた摂理です。
自宅に営巣
私の家の物置(洗濯物干場)には使用しなくなった食器棚(ガラクタ置き)があります。
そこにはほぼ毎年初夏になるとヒメスズメバチが営巣にやってきます。
(場所が場所だけに大きくならないうちに駆除するときもある)
また、巣を駆除しても9月終わりごろになるとまたやってきます(オス?)
↓この棚の隙間に入り込み営巣する
↓食器棚下部に作られていた巣(一昨年)
↓大きさはソフトボール位で、育房(巣房)は2段
物置へは毎日人が出入りしていますが家族が刺されたことは一度もありません。
私にとってヒメスズメバチとは、そういうハチです。
ヒメスズメバチは、オオスズメバチに次ぐ大きな種です。
その容姿とは逆に攻撃性がさほど強く無いとされるのは
その特殊な食性や外敵から巣が守れやすそうな閉鎖的な空間に好んで
営巣することなどが関係しているものと考えています。
以上、ヒメスズメバチ3種でした。
追記:2016年4月23日
2016年3月30日発刊の「日本産有剣ハチ類図鑑(東海大学出版部)」では
ヒメスズメバチは1種となっています。
*画像の標本は以下の産地になります
ヒメスズメバチ
日本本土亜種=茨城県筑波市産
対 馬 亜種=長崎県豊玉町産
琉 球 亜種=沖縄県石垣市石垣島産
参考文献:
松浦 誠,1992.都市で多発するスズメバチ{2}.
THE INSECTARRIUM-vol.29.
寺山守・須田博久 編著,2016.日本産有剣ハチ類図鑑.
東海大学出版部.
参考・引用文献:
平嶋義宏・森本桂・多田内修,1989.昆虫分類学.p17. 川島書店.
参考URL:
上野高敏-Takatoshi Ueno-.
http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/ine/ueno/
都市のスズメバチ.
http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/infomation.htm
オオスズメバチ亜種とされていたvespa sororはvespa mandariniaとの混棲が確認され独立種と認められましたが、vespa sororのアシナガバチの巣を集団で襲うという特性を考えると、南方産ヒメスズメバチとvespa sororの遺伝上の関係を疑ってしまいます。
おまけに家族差みたいなものもあるように思えています。
世界のスズメバチともなると、習性等も絡んできて更に複雑ですね。
アシナガバチの巣を襲う
vespa sororと南方産ヒメスズメバチとの関係について興味深いです。