西村朗と吉村隆の『クラシック大作曲家診断』(学研)の中で一番衝撃的なのは吉松氏による「十二音以後の無調音楽の最大の革命は何かというと、音楽の才能がまったくないひとでも、1から12まで数えられる程度の算数さえできれば、作曲ができるようになった」という発言。(いろんな人が同じことを言ってるんだとは思いますけど。)
それが本当なら、自分もその程度の算数はできるんで、8管編成のシンフォニーでも作曲してみようかな?4分33秒ぐらいの、って気にもなります。
確かに12音で書かれた音楽って何を聴いても同じっぽいし、感情に訴えてこないので泣けない(怖くて泣きそうになることはある)。
でも数少ない例外の一つがベルクのヴァイオリン協奏曲なのでは。
この曲って、最初聴いたときはひたすらモノクロームでつまんない~っていう印象しかなかったんですが、100回以上実演含めて聴いた今、決して見栄を張っているわけでなく、正直今まで聴いたヴァイオリン協奏曲の中で一番好きな曲になってしまいました。
12音技法に忠実ながら、もはやこの協奏曲は無調でなく、普通の調性音楽のようにカラフルに聞こえてしまうから不思議です。ある音楽の先生も「12音技法の側から見た調性音楽」っておっしゃっていました。
それもそのはず、この曲の12音はこうなっています。
最初の3つの音は短三和音(Gm)、3つ目の音から5番目までは長三和音(Dmaj)、5番目から7番目までは短三和音(Am)、7番目から9番目までは長三和音(Emaj)というふうに短三和音と長三和音が交互に出て、最後の4つの音は全音音階(それぞれ長2度)になってるんで、ほぼ調性音楽の響きがするのは当然なんですね。
思い返してみるに100回以上聴く気にされたのは最初の一回目で無意識に良さを感じさせられてたわけだし、それだけ聴いても飽きないというのはやはりベルクの、調性音楽と12音音楽の甘みと苦みの絶妙なブレンド比率だと勝手に思っちょります。
12音だからって数が数えられれば誰でも作曲できるどころか、ほかの誰にも作れない音楽。。天才!
↓ベルクからシェーンベルクに宛てた手紙の一部(ヴァイオリン協奏曲のセリーの説明。1935年8月28日付)。何て書いてあるのか知りたい。(第2楽章で引用されるバッハのコラール "Es ist genug"【BWV 60の5曲目】とその真上の旋律だけ解読)