昨年5月に IPPNW(核戦争防止国際医師の会議)のアレックス・ローゼン医師(ドイツ)が、我らが知っておかなければなら
ない大変重要で有意義な講演を行っています。動画で発信していますが、周知されていないようですので、文字起しをしてみ
ました。『福島原発事故による健康被害ー小児科医の報告 Part1 』 『福島原発事故による健康被害ー小児科医の報告 Part
2』(ドイツ・デュッセルドルフにて)がありますが、Part1の方は、概要だけを記録しました。
☆アレックス・ローゼン氏に付いて
【アレックス・ローゼン博士は、小児科医として病院に勤務すると同時に、2000年からIPPNWで積極的に活動し、2006年以
降、その役員も務めている。福島第一原発の事故に関心を持ち、「福島原発災害による健康への影響」「WHOの福島災害レ
ポートの分析」といったレポートを発表している。】
*講演内容概略
(4つのポイントについて)
1、放射能とその健康に及ぼす影響に付いての基礎知識
2、福島原発事故による幾つかの重要な事実について
3、どのような健康被害がこれから予想されるか。
4、このような事故が起こらない為に 被災者の方々を助ける為に「一人一人に出来る事は何だろうか」
以上が4つのポイントです。
私は、医師であり、従って科学者です。「事実を紹介する」という事が、大変重要です。
ここでは、東電、あるいは、日本政府が公式に発表したデータのみを用います。これらのデータが、より現実性があるからで
はなく、それは、実際私達の手元にある数字であり、そこまでは、東電・政府や原子力官庁でさえも最低限度、認めているデー
タだから、このデータを基にしており攻撃(批判)され易いデータ、例えば、グリーンピースや市民グループ等、独自に放射線
量の測定を行っている団体の数字は使用していません。
意図的に私が後者のデータを用いないのは、疑っているからではなく、今回のような講演で、原発事故による健康への影響が
実際どれだけ大きいものであるかを知るのは、公的機関の発表するデータだけで十分だと思うからです。
放射能についての最低限の知識~中略~日本の自然背景放射線量は、2.4msv/年程度で、世界の平均的な値です。~中略
チェルノブイリ事故後、10.5M㏃/㎡以上の地域の住民全て避難しました。この数値は、東北の水色(画面の地図を参照して
ください)地域に相当します。サンプルを採った、学校・幼稚園・保育園すべての土壌に高い放射能が検知され、郡山市・相馬
市・福島市・伊達市の学校・幼稚園・保育園で1000単位のセシウムの数値が検知、これは、普通の数値の200倍以上のもので
す。(データーは、文科省が公開したものを使用)~略~(放射線の基礎を説明しています。)~
*福島原発事故による健康被害ー小児科医の報告 Part1
http://www.youtube.com/watch?v=CKh7A70raZQ
以下は、Part2の文字起しです。
☆食品の放射能汚染についての検査が大変重要です。それによって、国民の健康に関する放射能汚染リスクの大きさを把握
できるからです。正しく、且つ、出来るだけ広範囲にサンプリングを行う事が必要です。その際、線量の低い食物だけ、又は高
い物だけを検査するのではなく平均的に選び、食物中、どれくらいの放射能が含まれているのかを平均的に出すように努める
べきです。例えば、WHOは、福島事故後、食物中の放射能汚染を計算する為に、1年間に47個の卵を調べました。鶏卵の放
射能汚染を調べる為に、たった47個のサンプルです。米や鶏肉についても同じような量のチェックを行いました。即ち。サンプ
ルの選択によって、全く違った計測結果が得られます。
(スクリーン参照)
これは、WHO調査で福島事故が健康に及ぼす影響を推測する数値です。WHO調査では、「水道水には重大な汚染はな
い。」と発表されています。しかし、ご承知のように水道水からは、965㏃/L 見つかりました。通常の10,000倍もの量が検出さ
れています。本来1リットル当たり200㏃を超える水は、放射性廃棄物であって、飲むことは許されないのです。それにも拘わら
ずWHOの報告では、「該当なし」となっているのです。
魚については、文科省とWHOの数値との関係は、それほど大きな差はありません。
しかし、野菜については、ヨウ素最高汚線量250万㏃/Kgの数値が見つかり、セシウムに於いても260万㏃/Kgの最高汚線
量を書かれた資料を見つけました。
しかし、WHOの報告では、それぞれ最高5万㏃、4万㏃しか検出されておらず、これは、大変大きな違いです。
このように、サンプルの選び方によって、少ない線量を検出する、即ち健康被害のリスクを小さく見積もる事が可能なのです。
次に第3のテーマ、今後、どのような健康被害が予測されるかの付いて。
写真は、昨年5月(2012年)と今年2月に出版された2つのWHOレポートです。「Health Risk Assessment」
つまり、健康リスク計算についてのものです。ここで知っておくべき重要な事は、WHOには、放射線に関する専門部署がない
という事です。放射線の研究者もおらず、放射線の問題に関しては、IAEAと共同で働いています。IAEAの目的は、世界中
の原子力エネルギー利用を推進する事です。つまり、IAEAの科学者が集めたデータをWHOに提供し、WHOがそれを用い
てレポートを作成したという訳です。これは、例えば、タバコの健康リスクについて、WHOがPhilip Morisにレポートを書か
せるようなものです。この報告の問題点は、第一に、大気中に放出された放射能の量を過小に評価している事です。東電が発
表している数値を更に下回っているのです。東電の数値を用いれば、WHOレポートの結果(健康リスク)を何倍も上回ります。
第2の問題点は、福島県以外の地域の健康影響を完全に無視している事です。つまり、放射線量の極端に高い福島県での健
康状態のみを問題にし、同様にかなり汚染された食品を食べている福島周辺の地域や、やはり汚染されている日本中の人々
は、考慮されていないのです。そして、すでに述べた通り、サンプリングされた食品の量も選択も不十分である事が問題です。
少ない物を選択していると思われるからです。また、著者の間に利害相反があります。このWHOレポートに引用されている小
児白血病専門家は、英国核燃料会社(British Nuclear Fuels)で30年間働いている原子力研究者が、WHOに放射能
が子供の健康にどのような影響を及ぼすかについて説明しているのです。この事もWHO報告に対して、私達が批判している
重要な事の一つです。
健康への影響に関して、私達の調査結果を幾つか説明します。先ずは、乳児死亡率です。勿論、これは、私達医師にとって
非常に興味深い点です。福島事故の9カ月後に、乳児死亡率が上昇しました。図に示されている通り、原発事故の2か月後に
2011年5月と12月の2度、死亡率が上昇しています。今、この図の上で、2つの点が見えますね。これは、2011年5月と12月に
乳児死亡率が平常時より増えている個所です。この時点で、乳児75人が多く死亡しています。重病や著しい早産の為に亡くな
るような平常の場合に加え、更に75人という事です。このグラフの動きは、チェルノブイリの場合と似ていて、事故後2か月後・9
か月後に乳児死亡率の上昇が現れた訳です。これは、潜伏期です。
次に放射線にさらされた時、先ず考えるのは、放射性ヨウ素による甲状腺ガンの可能性です。これは甲状腺ガンの図です。
2013年2月までの福島県で18歳以下の子供達の内、およそ15万人が超音波検査を受けました。その結果、約5万人37%の子
供達の甲状腺に、のう胞が見つかりました。のう胞は、甲状腺内の空洞を示します。そして、これは比較的多い人数です。のう
胞は、直ちにガンをいう訳ではありません。検診で目立ちますが、まだ危険な状態ではありません。そして、約1%1000人以上
の子供達に結節がありました。結節は、持続的に数年間、ガンに進まないかどうかを観察する必要があります。チェルノブイリ
の経験から、ガン発生は2年から3年位から始まり、28年後の現在に至ってもガン発生率の上昇が続いています。ですから、福
島の被災地の方々にも残念ながら、甲状腺ガンの危険性が上昇していくと思われます。今まで述べましたように、ガンは3件見
つかりました。しかし、それについての細かい報告はありません。元々、遺伝子に危険因子があったのか、又は健康に問題があ
ったのか、あるいは全く健康な子供に放射線の影響によって甲状腺ガンが発生したのかを知る必要があります。
非常に保守的なWHO調査では、健康についての影響をとても甘く見ていて、甲状腺ガンになる危険性の上昇は、男子で
20%、女子で77%と報告しています。私達は、その危険性はもっと高いと推測しています。というのも、WHOは放射線量・食
料からの内部被ばくを明らかに低く見積もっている為、実際の影響は、もっと大きくなると思われるからです。
チェルノブイリの場合、10万人の甲状腺ガンが発症した内、約5万人が子供でした。そして、チェルノブイリの被災者は、ヨウ
素不足の地域に住んでいました。甲状腺ガンに対する大きな危険性があったといえます。福島のように、海産物を多く摂取して
いる子供達は、ヨウ素不足ではありませんから、すでに多くの自然ヨウ素が甲状腺内にあった筈で、放射性ヨウ素を取り込む隙
間は少なかったといえます。ですから、チェルノブイリと同じようになるとはいえず、おそらく全く違った結果になるでしょう。チェ
ルノブイリ事故の後、大変多くの小児甲状腺ガンが発症しました。子供の甲状腺ガンは、平常時大変稀で、決してと言っていい
程、発症しません。でも、チェルノブイリでは、今現在でも33%増加という高い小児甲状腺ガンのリスクがあるのです。
他のガンについてはどうでしょう。もう一度、私達が批判しているのWHO報告に戻ってみると、骨や腸のガンのリスクが4%高
まり、乳ガンでは6%増え、白血病では7%上昇すると伝えてます。
これは、福島県内の18歳以下の子供における数値です。しかし、私達は、危険性はもっと格段に高いと推測しています。そし
て、福島県以外の大変多くの人々にも、この危険は及ぶでしょう。原発から離れる程、放射能を受ける量は減り、危険性は減る
のですが、地域は広くなり全体の住民数は大変多くなってくるのです。という事は、国民全体の危険率は低かったとしても全人
口で見ると、ガンの発生件数は増える訳です。例えば、100万人の人口であればガン発生件数は多いのですが、小さな村の中
で起きた場合だったり、福島だけに絞ると発生件数は減り、危険性は少なく見えるのです。
放射線は、ガンだけでなく他の病気の原因にもなります。心臓を巡る循環器障害、動脈障害、視力障害、目も放射線によって
損なわれます。生殖機能も損なわれ、子供ができなくなる場合もあります。更に、遺伝子変異により、子供や孫にまで影響を与
える可能性があります。そして、忘れてはならないのは、社会的心理影響です。例えば、4歳の子供が、これから毎年必ず甲状
腺超音波測定を受けねばならず、甲状腺の穿刺を受けたりガン発症の危険性を告げられたりします。そのような不安を一生抱
えて生きる事は、常に剣を突き付けられているという事ではないでしょうか。この社会的心理影響は、無視されてはなりません。
(文字数が多過ぎるようで、書きづらくなってきました。文字起しの続きは次回に持ち越します。)
*福島原発事故による健康被害ー小児科医の報告 Part2