かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

【メモ―フクシマ以後】 原発をめぐるいくぶん私的なこと(17)

2025年02月15日 | 読書

2017年7月7日

 このごろ、変な言葉に憑りつかれて、いつかどこかで自分でも言いだしそうで心配である。「拍手をもってオマヌケください」というフレーズである。事の起こりは、東京都議選の選挙運動の最終日(7月1日)、秋葉原の街頭演説に安倍首相が現れたことを紹介するために石原某という国会議員が発した言葉である。
 ネットでいろいろ流布されているが、石原さんの名誉のために正確に書き出すと次のように話している。「ただいま安倍総理が到着でございます。どうぞみなさん、拍手をもってオマヌケ……、オマグメ……、ください。」
 ご本人は言いよどんで、間違ったという自覚はあったらしいが、なぜか修正できなかったようだ。言い間違いのはまり方があまりにも見事だったので、ネットでは「拍手をもってオマヌケください」という発言として流布されて、そのフレーズが私の中を駆け巡っているのである。
 このフレーズは、「まぬける」という動詞が日本語にあれば、すんなりと受けとることができる。この新しい語彙のオリジナリティは、もちろん石原さんにある。石原さんのオリジナリティを尊重しながら、その日本で最初の用例の意味を考えるとどうしてもこういうことになってしまう。「安倍総理が演説のために到着されましたので、みなさんで拍手をしながら安倍総理のオマヌケぶりをご覧ください。」
 自動詞的用法の「まぬける」の意味は、「間抜けなことをする」ということで単なる間抜けな状態を指すのではなく、主語となる主体がパフォーマティブに間抜けなことを行うという意味になる。つまり、従来の「間抜け」という言葉が持つある人間の属性を罵るような意味合いは薄れる。
 用例としては「安倍総理はまぬける」のような使い方になる。活用は「食べる」という動詞と同じである。まぬける(食べる)、まぬけない(食べない)、まぬけましょう(食べましょう)、おまぬけください(お食べください)、など。
 いっぽう、石原さんのように他動詞的に使う場合は、「誰それ(目的格)のまぬけぶりを見る、まぬけぶりを笑う、まぬけぶりを嘲笑する」という意味になる。「安倍さんはまぬける」も「安倍さんをまぬける」も安倍さんがマヌケなことをするという意味では同じ事象を表現することになる。
 このように「まぬける」という動詞が定着すれば、日本で最初の用例のように「ただいま安倍総理が到着でございます。どうかみなさん、拍手をもってオマヌケください。」というようにとても使い勝手のいい日本語になるのである。金デモでの使い方としては、「再稼働だって! みなさん、コールをもってオマヌケください!」など。故郷喪失につながるような原発の再稼働などという想像力なきマヌケな政治はごめんだという意思表示ができる。
 
 一国の宰相を引き合い出して「まぬけ」だの「あほ」(とは言ってないが)だのとはあまりにも無礼ではないか、と良識ある国民や安倍首相のネトウヨサポーターのみなさんはお怒りになるかもしれないが、これは「オマヌケください」という表現を発明された石原さんのオリジナリティを尊重し、その日本最初の用例を重んじる立場としては止むを得ない仕儀なのである。オリジナリティを徹底的に尊重する学術論文の引用の仕方に準じて記述しようとした私なりの努力の結果なのである。



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