朝日新聞への投稿短歌・俳句で「原発」、「原爆」に関連して詠まれたものを抜き書きした。
痛みなき被ばく線量の積算に「大丈夫」と若い作業員笑う
(いわき市)池田実 (4/13 佐佐木幸綱選)
汚染水はさておき自民党内の声は確かにアンダーコントロール
(西海市)前田一揆 (4/13 佐佐木幸綱選)
防護服全面マスクで身を固め向かう建屋は墓場か戦場か
(いわき市)池田実 (4/13 高野公彦選)
コントロールされていますとボスが言ひされてゐないと元ボスわめく
(熊谷市)内野修 (4/13 高野公彦選)
福島の博物館員が「ガレキではない我歴だ」と言う展示物
(近江八幡市)寺下吉則 (4/20 佐佐木幸綱選)
わっと散るフナムシたちのその先に煌々と照る原発がある
(吹田市)谷村修三 (4/27 永田和宏選)
帰れない原発被災のふる里は見渡す限り除染土の山
(いわき市)金成榮策 (4/27 佐佐木幸綱選)
生かされて生きてしまったこの四年(よとせ)桜の花は今年又咲く
(春日部市)川崎康弘 (5/4 佐佐木幸綱選)
広島の原爆で死んだアメリカ人十二人という戦争のむごさ
(福山市)武暁 (5/4 高野公彦選)
除染から廃炉作業に身を投じやがて福島がふるさとになる
(いわき市)池田実 (5/11 高野公彦選)
防護服六千日々に使ひ棄て廃炉の道の真闇続けり
(福島県)斉藤あきら (5/11 永田和宏選)
好きなだけ掘れとスコップわたさるる出荷停止の解けぬ竹の子
(日立市)加藤宙 (5/11 永田和宏選)
穴を出て蛇フクシマを這ふばかり
(いわき市)馬目空 (4/13 金子兜太選)
列島の危ふさ思ふ海市かな
(白井市)酒井康正 (4/20 大串章選)
朝日俳壇・花壇欄コラム『うたをよむ』(5/11付け)
本多一弘「福島発のうたは問う」から抜粋
「私が暮らす福島は震災以降、様々な困難と複雑な状況を抱えている。福島在住の歌人は、何を、どう歌っているのか。
ふるさとの地形に線量記されゐて天気予報のごとく見てをり
吉田信雄
福島の夜のニュース番組では、県内各地の放射線量の情報が天気予報のように告げられる。作者は、原発のある大熊町から会津若松市に避難している。線量の数値は見えても、故郷の風景は目にすることができない苦しさが伝わってくる。
………
福島は「入る」べき域となりゆきぬ辛夷の花のぽうぽうと白
高木佳子
静かな眼差しが問題を鋭く抉りとる。………「行く」でもなく、「帰る」でもなく、「入る」べき区域となってしまった福島。人間の営みをよそに自然界では辛夷の花が咲いている。「ぽうぽうと白」という語の響きが悲しい。
目に見えぬものに諍い目に見ゆるものに戦く まずは雪を搔け
齋藤芳生
海外や東京で働いた後、故郷に戻ってきた作者。福島で暮らす人々は、目に見えぬ放射性物質に喘いでいた。「雪」は、春が訪れてもいまだ溶けぬ雪と解決しない問題を象徴する。「まずは雪を搔け」というこの痛烈な呼びかけにわれわれはどう応えていくのか。今、一人ひとりの生き方が問われている。」