かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

原発を詠む(22)――朝日歌壇・俳壇から(2015年4月13日~5月11日)

2015年05月11日 | 鑑賞

朝日新聞への投稿短歌・俳句で「原発」、「原爆」に関連して詠まれたものを抜き書きした。

 

 痛みなき被ばく線量の積算に「大丈夫」と若い作業員笑う
             (いわき市)池田実  (4/13 佐佐木幸綱選)

 汚染水はさておき自民党内の声は確かにアンダーコントロール
             (西海市)前田一揆  (4/13 佐佐木幸綱選)

 防護服全面マスクで身を固め向かう建屋は墓場か戦場か
             (いわき市)池田実  (4/13 高野公彦選)

 コントロールされていますとボスが言ひされてゐないと元ボスわめく
             (熊谷市)内野修  (4/13 高野公彦選)

 福島の博物館員が「ガレキではない我歴だ」と言う展示物
             (近江八幡市)寺下吉則  (4/20 佐佐木幸綱選)

 わっと散るフナムシたちのその先に煌々と照る原発がある
             (吹田市)谷村修三  (4/27 永田和宏選)

 帰れない原発被災のふる里は見渡す限り除染土の山
             (いわき市)金成榮策  (4/27 佐佐木幸綱選)

 生かされて生きてしまったこの四年(よとせ)桜の花は今年又咲く
             (春日部市)川崎康弘  (5/4 佐佐木幸綱選)

 広島の原爆で死んだアメリカ人十二人という戦争のむごさ
             (福山市)武暁  (5/4 高野公彦選)

 除染から廃炉作業に身を投じやがて福島がふるさとになる
             (いわき市)池田実  (5/11 高野公彦選)

 防護服六千日々に使ひ棄て廃炉の道の真闇続けり
             (福島県)斉藤あきら  (5/11 永田和宏選)

 好きなだけ掘れとスコップわたさるる出荷停止の解けぬ竹の子
             (日立市)加藤宙  (5/11 永田和宏選)

 

 穴を出て蛇フクシマを這ふばかり
             (いわき市)馬目空  (4/13 金子兜太選)

 列島の危ふさ思ふ海市かな
             (白井市)酒井康正  (4/20 大串章選)

 

 

朝日俳壇・花壇欄コラム『うたをよむ』(5/11付け)
  本多一弘福島発のうたは問うから抜粋

「私が暮らす福島は震災以降、様々な困難と複雑な状況を抱えている。福島在住の歌人は、何を、どう歌っているのか。

ふるさとの地形に線量記されゐて天気予報のごとく見てをり
                 吉田信雄

 福島の夜のニュース番組では、県内各地の放射線量の情報が天気予報のように告げられる。作者は、原発のある大熊町から会津若松市に避難している。線量の数値は見えても、故郷の風景は目にすることができない苦しさが伝わってくる。
………

福島は「入る」べき域となりゆきぬ辛夷の花のぽうぽうと白
                 高木佳子

 静かな眼差しが問題を鋭く抉りとる。………「行く」でもなく、「帰る」でもなく、「入る」べき区域となってしまった福島。人間の営みをよそに自然界では辛夷の花が咲いている。「ぽうぽうと白」という語の響きが悲しい。

目に見えぬものに諍い目に見ゆるものに戦く まずは雪を搔け
                 齋藤芳生

 海外や東京で働いた後、故郷に戻ってきた作者。福島で暮らす人々は、目に見えぬ放射性物質に喘いでいた。「雪」は、春が訪れてもいまだ溶けぬ雪と解決しない問題を象徴する。「まずは雪を搔け」というこの痛烈な呼びかけにわれわれはどう応えていくのか。今、一人ひとりの生き方が問われている。」



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