かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

【メモ―フクシマ以後】 放射能汚染と放射線障害(16)

2024年12月23日 | 脱原発

2016年7月8日


「私らのような年寄りは良い。子どもだけでも、この値(年20mSv)から外して欲しい。子どもには選択権が無いんです。大人に従うしかない。自分で決めることが出来ないんですよ。人権侵害ですよ」
 会場から拍手が起こる。原田さんの怒りは、国に反論できない町教委にも向けられた。
 「なぜ教育者から反対意見が出なかったのか。情けない」
 壇上には町役場の職員がずらりと並んだが、誰も反論することは出来なかった。馬場有町長は腕を組み、じっと聞き入っていた。
       「民の声新聞(7月3日)」から抜粋

 明後日に投票日を控えた参議院選挙のための激しい選挙運動のニュースが流れる中、7月1日に開かれた福島県浪江町の住民懇談会の様子が「民の声新聞」に掲載された。政府が2017年3月に避難指示を解除する方針であることを受けて、開かれたものだ。
 政府側は、ICRP(国際放射線防護委員会)の指針を盾に全く住民の意見に耳を貸さない頑なな姿勢を崩さない。そんな「懇談」の様子が詳細に報じられている。ICRPは、もともと原子力を利用したい国々によって設立された国際機関であって、その指針には原子力を推進したいという国家意思のバイアスがかかっている。
 このように明らかに政治的バイアスがかかった機関の見解を全面的に施策の根拠とするのは、政府が再稼働をするとき原子力規制委員会の判断を根拠にすることとその構図はまったく同じである。規制委員会の委員は、政府の都合に合わせてくれる専門家を選んでいることは誰の目にも明らかで、政府の都合のいい結論を出すに決まっているのだ。
 政治家も役人も自らの知見、見識によって政治的判断をする、行政的判断をするという形はけっして取らないのである。それは、それらの結果が大きな不始末となって終わっても全く責任を取らないことに繋がっていて、いつでもどこでも見られる日本社会の無責任な政治的構図にほかならない。

 浪江町で住民の血を吐くような訴えが冷たい拒絶にあっているとき、世間で激しく争われている参議院選挙では、原発問題はほとんど争点になっていない。
 河北新報(7月7日付) によれば、参院選宮城選挙区では「公示後の街頭演説や個人演説会では、両候補とも原発政策や女川原発再稼働についてほとんど触れず、選挙公報にも記述はない」のだ。記事には、上智大の中野晃一教授の「原発問題は国民の関心事なのに、接戦の1人区では立地地域や電力会社関係者などの反発を恐れて候補者は言及しなくなる。一種のカルテルのような状態だ。有権者の問題意識を候補者に直接伝えることが大切だ」という意見も紹介されている。

 福島事故から5年、10万人もの人が避難先で苦しみ、避難できなかった人も汚染の地で苦しんでいるとき、国の政策を争う選挙で事故原因の原発が争点にならない国とはどんな「美しい」国なのだろう。数十万人の人びとの暮らしや命を政治から除外する国とは……。
 たしかに人々の苦しみを見ないことにすれば、「日本の風景」は美しいにちがいない。人の住めない土地の風景の美しさを日本人は誇っているのか?
 日本の現実が見えないのか、見ようとしないのか、いずれにせよ見ることを欲しない日本人に「美しい日本」など見えるはずがないのである。

いくら除染をしても
放射能が高くては帰れない。
ふるさとへ
戻る。
ふるさとへ
戻らない。
ふるさとへ帰る
ふるさとへ帰れない

心は揺れる。
ふるさとを捨てる。
ふるさとに未練はある。
ここで生まれ
ここで育ったのだから。
だが現実は甘くはない。

〔中略〕

望郷の唄が
遠くから聴こえてくる
あの唄は幻聴か?
それとも涙唄か?
幼い昔に聴いた唄だ。

誰もいない野原に
名もない花が咲いて。

誰もいない野原に
羽虫が飛んでいる。

かつて町だった。
かつて村だった。
そこに
その場所に。
    根本昌幸「帰還断念」 [1]

 放射能をばらまいておいて「美しい日本」などとほざくのは、冗談どころかあまりにもたちの悪い言説である。誰がどの口で言っているのか?
  すべての日本人が選挙前にそのことを理解することができれば、少なくとも福島事故をめぐる政治的問題は一挙に解決するのだが、ずっと目を閉じ、声を聴かないままでいたいと思っている人間も多いのだろう。状況の閉塞感(というよりも激しい後退感)に気づいていない人々が……。

 [1] 根本昌幸『詩集 荒野に立ちて ――わが浪江町』(コールサック社、2014年)pp. 78-81。


 

 
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