ケイタイの着信音が鳴った。見慣れない番号だった。
「私、〇△のM子です」
「―――?」
一瞬、戸惑った。が、すぐに、声の主に気づいた。
「やァ、しばらく!!」
私が元気で酒を飲み歩いていたころ、月に幾度かは通っていた酒場のママだった。
「こんど店を止めることにしました」 M子ママが言った。
「―――?」
「結婚するんです。だから、もう店は閉めます」
「それはおめでとう!よかったねぇ~」
M子さんは60才をとうに越しているはず。
数年ほど前、夫に先立たれと聞いていた。
「相手の人は、私より二つ年下で、3年前に奥さんを亡くした人」
………………
そんなことで、私の「止まり木」だった酒場が、また一つ消えることになった。
もっとも、この頃の私は、健康を害していて意気地なし。すでに止まり木の必要はなくなっていた。