今週は、この3冊。
■もう過去はいらない/ダニエル・フリードマン 2015.11.7
主人公、メンフィス署の元刑事バックは、警棒で抵抗する者の頭をかち割り、半身不随にしてしまうし、「二度は警告しない」と銃をぶっ放して相手をイチコロにするしで、悪徳警官の権化みたいな野郎なのだが、固い信念は持っている..........
「たとえ規則に従っていても、われわれは投獄され、処刑される。だから、法をおかしたところでかまわないじゃないか?」というイライジャの歪んだ論理は、病んだ組織に属しながらも自分が社会の崩壊をくいとめる最後の砦だと本気で信じているバックの価値観を侮辱し、彼の人生と、拠って立つものを蔑むものであり、受け入れることはおろか、共感することさえ恥ずべきものであった。」(あとがき/川出正樹)
「おれのプランは、悲劇に耐えずにすむようにすることだった。一人一人の面倒を見ること、
みんなの安全を守ることだった」
米国社会におけるユダヤ人のおかれている、1960年代、おかれていた状況が肌で理解できれば、もっと、この物語に密着してリアルに感じ取ることができたと想われます。
年になると哲学的になるのです。
「おれたちは老人だ」イライジャは言った。「あんたは生涯強くあろうとしてきた、いまやぼろぼろになりつつある。おれは生涯煙であろうとしてきて、いまやあとかたもなく消えつつある。あんたは生涯、混乱した世界に秩序をもたらそうとしてきた。おれは生涯、残酷な世界に復讐をしようとしてきた。世界はまだ混乱しているし、まだ残酷だ。それでもおれたちは同じことをしつづけている、なぜならしていることがおれたちのすべてだからだ。
時がたつにつれて人は年老い、やがて湖面に落ちた石のように消えていく。たとえ、しぶきの大きさを誇らしく思っても、湖面は静まってなにもかももとのままに戻る。まるで、その人など最初から存在しなかったかのように。
『 もう過去はいらない/ダニエル・フリードマン/野口百合子訳/創元推理文庫 』
■一時帰還/フィル・クレイ 2015.11.7
フィル・クレイの『一時帰還』を読みました。
「訳者あとがき」によれば、「二〇一四年に出版されると、この作品は新聞や雑誌等で絶賛され、秋には全米図書賞を受賞した。クレイは実際にイラク戦争に派遣された海兵隊員で、このとき三十一歳。この短編集がデビュー作である。」とありました。
イラク帰還兵の現実が様々な物語で語られています。
この短編集では、軍隊用語が多用され、それらが英文字の頭文字で表記されるので、読み始めて、読むのを止めようかとも思ったのですが、そのうちに慣れました。
例えば、OFI(イラク自由作戦)のように、p19だけで以下の通りです。
LT(中尉)
HUMIN(人間情報係)
IED(仕掛け爆弾)
BOLO(警戒)リスト
SALUTE(敵情報)レポート
SAW(分隊支援火器)射撃手
PFC(一等兵)
「今朝、俺たちの大砲が約二百七十ポンドのICM(改良型通常弾)をここから十クリック(軍隊用語でキロメートル)南の密輸検問所に落とした。」
1ポンド=約0.45キログラムですから、270ポンド=約120キロgの重さの砲弾を10km先の標的にぶっ放した。
そして、「俺たちの砲弾がどこに着弾したにせよ、フットボールグラウンドの長さを半径とする円の内側は、すべてが死滅したはずだ」と言わしめた。
現代戦の恐ろしさを垣間見た気がしました。
少し長くなりますが、目をとおして下さい。
日本の近未来な気がします。
俺たちは帰還兵のための授業を受けなければならなかったのだ。教わったのは、自殺するな、女房を殴るな、といったこと。
六週間前に友人の二人が死んで以来、気持ちの揺れや怒りの激発に苦しんでいる。壁を叩くようになり、睡眠薬を処方された最大量の四倍呑まないと眠れなくなった。眠ったら眠ったで、友人の死や自分自身の死、暴力といった悪夢を見てしまう。これは完璧なPTSDの症状の一覧表だった----激しい不安、悲しさ、息切れ、心拍数の増加、そして最も激しいのは、どうしようもなく無力だという感覚に圧倒されること。
「軍隊ではよくこんなことを言いました。認識が現実だって。戦争で重要なことって、ときどき実際に起きたことでなく、人々が起きたと思うことになるんです。」
インターネットがあると、見たければ一日じゅう戦争を見ていられる。銃撃戦、迫撃砲の攻撃、IDEの映像など、すべてあるのだ。砂漠の暑さがどれだけのものか、寒さがどれだけのものかを海兵隊員が説明している。人を撃つとはどう感じられるか、仲間の海兵隊員を失うのはどう感じられるか、民間人を殺すのはどう感じられるか、うたれるのはどう感じられるか。
『 一時帰還/フィル・クレイ/上岡伸雄訳/岩波書店 』
■砂の街路図/佐々木譲 2015.11.7
五輪真弓のふるい歌『問わず煙草』の歌詞を思い出してしまった。
どこにでもある話だねと
あなたはつぶやき.................
個人的な思いなのですが、なんだか主人公の性格が、ぼくには合わなかった。
砂の街路図...........小学館
『 砂の街路図/佐々木譲/小学館 』
■もう過去はいらない/ダニエル・フリードマン 2015.11.7
主人公、メンフィス署の元刑事バックは、警棒で抵抗する者の頭をかち割り、半身不随にしてしまうし、「二度は警告しない」と銃をぶっ放して相手をイチコロにするしで、悪徳警官の権化みたいな野郎なのだが、固い信念は持っている..........
「たとえ規則に従っていても、われわれは投獄され、処刑される。だから、法をおかしたところでかまわないじゃないか?」というイライジャの歪んだ論理は、病んだ組織に属しながらも自分が社会の崩壊をくいとめる最後の砦だと本気で信じているバックの価値観を侮辱し、彼の人生と、拠って立つものを蔑むものであり、受け入れることはおろか、共感することさえ恥ずべきものであった。」(あとがき/川出正樹)
「おれのプランは、悲劇に耐えずにすむようにすることだった。一人一人の面倒を見ること、
みんなの安全を守ることだった」
米国社会におけるユダヤ人のおかれている、1960年代、おかれていた状況が肌で理解できれば、もっと、この物語に密着してリアルに感じ取ることができたと想われます。
年になると哲学的になるのです。
「おれたちは老人だ」イライジャは言った。「あんたは生涯強くあろうとしてきた、いまやぼろぼろになりつつある。おれは生涯煙であろうとしてきて、いまやあとかたもなく消えつつある。あんたは生涯、混乱した世界に秩序をもたらそうとしてきた。おれは生涯、残酷な世界に復讐をしようとしてきた。世界はまだ混乱しているし、まだ残酷だ。それでもおれたちは同じことをしつづけている、なぜならしていることがおれたちのすべてだからだ。
時がたつにつれて人は年老い、やがて湖面に落ちた石のように消えていく。たとえ、しぶきの大きさを誇らしく思っても、湖面は静まってなにもかももとのままに戻る。まるで、その人など最初から存在しなかったかのように。
『 もう過去はいらない/ダニエル・フリードマン/野口百合子訳/創元推理文庫 』
■一時帰還/フィル・クレイ 2015.11.7
フィル・クレイの『一時帰還』を読みました。
「訳者あとがき」によれば、「二〇一四年に出版されると、この作品は新聞や雑誌等で絶賛され、秋には全米図書賞を受賞した。クレイは実際にイラク戦争に派遣された海兵隊員で、このとき三十一歳。この短編集がデビュー作である。」とありました。
イラク帰還兵の現実が様々な物語で語られています。
この短編集では、軍隊用語が多用され、それらが英文字の頭文字で表記されるので、読み始めて、読むのを止めようかとも思ったのですが、そのうちに慣れました。
例えば、OFI(イラク自由作戦)のように、p19だけで以下の通りです。
LT(中尉)
HUMIN(人間情報係)
IED(仕掛け爆弾)
BOLO(警戒)リスト
SALUTE(敵情報)レポート
SAW(分隊支援火器)射撃手
PFC(一等兵)
「今朝、俺たちの大砲が約二百七十ポンドのICM(改良型通常弾)をここから十クリック(軍隊用語でキロメートル)南の密輸検問所に落とした。」
1ポンド=約0.45キログラムですから、270ポンド=約120キロgの重さの砲弾を10km先の標的にぶっ放した。
そして、「俺たちの砲弾がどこに着弾したにせよ、フットボールグラウンドの長さを半径とする円の内側は、すべてが死滅したはずだ」と言わしめた。
現代戦の恐ろしさを垣間見た気がしました。
少し長くなりますが、目をとおして下さい。
日本の近未来な気がします。
俺たちは帰還兵のための授業を受けなければならなかったのだ。教わったのは、自殺するな、女房を殴るな、といったこと。
六週間前に友人の二人が死んで以来、気持ちの揺れや怒りの激発に苦しんでいる。壁を叩くようになり、睡眠薬を処方された最大量の四倍呑まないと眠れなくなった。眠ったら眠ったで、友人の死や自分自身の死、暴力といった悪夢を見てしまう。これは完璧なPTSDの症状の一覧表だった----激しい不安、悲しさ、息切れ、心拍数の増加、そして最も激しいのは、どうしようもなく無力だという感覚に圧倒されること。
「軍隊ではよくこんなことを言いました。認識が現実だって。戦争で重要なことって、ときどき実際に起きたことでなく、人々が起きたと思うことになるんです。」
インターネットがあると、見たければ一日じゅう戦争を見ていられる。銃撃戦、迫撃砲の攻撃、IDEの映像など、すべてあるのだ。砂漠の暑さがどれだけのものか、寒さがどれだけのものかを海兵隊員が説明している。人を撃つとはどう感じられるか、仲間の海兵隊員を失うのはどう感じられるか、民間人を殺すのはどう感じられるか、うたれるのはどう感じられるか。
『 一時帰還/フィル・クレイ/上岡伸雄訳/岩波書店 』
■砂の街路図/佐々木譲 2015.11.7
五輪真弓のふるい歌『問わず煙草』の歌詞を思い出してしまった。
どこにでもある話だねと
あなたはつぶやき.................
個人的な思いなのですが、なんだか主人公の性格が、ぼくには合わなかった。
砂の街路図...........小学館
『 砂の街路図/佐々木譲/小学館 』