■たんぽぽ球場の決戦 2022.10.10
越谷オサム 『 たんぽぽ球場の決戦 』 を読みました。
「野球で挫折した人大歓迎!」
広報誌に掲載された草野球のメンバー募集に応募してきたのは、下は、中学一年生からおじさんまで老若男女7人。
経歴は、全日本代表のスター選手から、ボールが顔面に激突したことがトラウマになっている女子大生など様々。思いは、野球を楽しみたい。
そんな素人チームを指導するのは、高校野球県の強豪校のエースだった大瀧鉄舟。
高校卒業後、二十代半ばの今は「倉庫でアルバイト」をしているが、思いは、「今の姿は、本当の俺じゃない。仮の姿だ」。
天狗だった鉄舟には、友達がいない。
ただ、一人を除いて。
寄せ集めチームの指導に自信のない鉄舟は、唯一の親友、航太朗に助けを求める。
月に何回かの練習をこなすたびに、出来ることがひとつふたつと増えていく。
それとともに、仲間を信じ、頼りにし成長していくメンバーたちと鉄舟。
そして、迎えたヤナギーズとの対外試合.......。
「『広報北あだち』読んだけど、そもそもなんで『野球で挫折した人限定』ってコンセプトにしたの?」
「いや、別に限定したわけじゃないんだけけど、そう読めた?」
「ほかのダンスとかテニスとかのサークルが『楽しい』とか『明るい』とかアピールしている中で、一個だけ『野球で挫折した人集まれ』だし」
文言は不正確だが、指摘は的確だった。「挫折」という言葉は過剰に強い。
俺を誰だと思ってんだよ。ただの倉庫作業員じゃないぞ。智修館高校のあの大瀧鉄舟だぞ。倉庫で働いている俺は俺じゃない。目を逸らして人と挨拶したり、外階段で飯食ったりしてる俺は、たぶん本当の俺じゃない。
「で、なんかあります? 目標」
「えー、目標…………。うーん、目標というか、夢はあるんですけど、自分なんかが口にするのはおこがましくて」
「いいからいいから。声に出してみると、目標のほうが『呼んだ?』って近づいてくるもんよ?」
空になった親子丼の丼をトレーに置いたしのぶが、きっと航太朗を見据える。
投げ方も捕り方もヘッポコだよ。だけどみんな野球が好きで、目標があって、せっかくの週末を半日潰して、カネまで払って参加してくれてんだよ。それを、ぶっきらぼうな物言いで空気を悪くして、ミスが出るたびに顔しかめて舌打ちして、ビビらせてんのがお前だよ。バッカじゃねえの? コーチングに舌打ちはいらねえってことぐらい、言われなくったってわかんだろ!?」
「いや……」
反論の言葉が出てこない。
「その人が乗りたい風が吹いてきたら、たんぽぽの綿毛みたいにフワッと飛んでってくれたらいいなって。な、カズ」
「ん? おれ?」
「一般人に成りすまして人のこと『汚職議員』呼ばわりしてきた奴なんか、議会でやり口暴いて議員生命絶ってやればいいじゃん」
「いいのいいの。とどめを刺さないくらいでちょうどいいの。弱みを握れた貴重な人材なのに、とどめを刺しちゃったらそんなのただの死体じゃない」
「……おっかねえ」
『 たんぽぽ球場の決戦/越谷オサム/幻冬舎 』
越谷オサム 『 たんぽぽ球場の決戦 』 を読みました。
「野球で挫折した人大歓迎!」
広報誌に掲載された草野球のメンバー募集に応募してきたのは、下は、中学一年生からおじさんまで老若男女7人。
経歴は、全日本代表のスター選手から、ボールが顔面に激突したことがトラウマになっている女子大生など様々。思いは、野球を楽しみたい。
そんな素人チームを指導するのは、高校野球県の強豪校のエースだった大瀧鉄舟。
高校卒業後、二十代半ばの今は「倉庫でアルバイト」をしているが、思いは、「今の姿は、本当の俺じゃない。仮の姿だ」。
天狗だった鉄舟には、友達がいない。
ただ、一人を除いて。
寄せ集めチームの指導に自信のない鉄舟は、唯一の親友、航太朗に助けを求める。
月に何回かの練習をこなすたびに、出来ることがひとつふたつと増えていく。
それとともに、仲間を信じ、頼りにし成長していくメンバーたちと鉄舟。
そして、迎えたヤナギーズとの対外試合.......。
「『広報北あだち』読んだけど、そもそもなんで『野球で挫折した人限定』ってコンセプトにしたの?」
「いや、別に限定したわけじゃないんだけけど、そう読めた?」
「ほかのダンスとかテニスとかのサークルが『楽しい』とか『明るい』とかアピールしている中で、一個だけ『野球で挫折した人集まれ』だし」
文言は不正確だが、指摘は的確だった。「挫折」という言葉は過剰に強い。
俺を誰だと思ってんだよ。ただの倉庫作業員じゃないぞ。智修館高校のあの大瀧鉄舟だぞ。倉庫で働いている俺は俺じゃない。目を逸らして人と挨拶したり、外階段で飯食ったりしてる俺は、たぶん本当の俺じゃない。
「で、なんかあります? 目標」
「えー、目標…………。うーん、目標というか、夢はあるんですけど、自分なんかが口にするのはおこがましくて」
「いいからいいから。声に出してみると、目標のほうが『呼んだ?』って近づいてくるもんよ?」
空になった親子丼の丼をトレーに置いたしのぶが、きっと航太朗を見据える。
投げ方も捕り方もヘッポコだよ。だけどみんな野球が好きで、目標があって、せっかくの週末を半日潰して、カネまで払って参加してくれてんだよ。それを、ぶっきらぼうな物言いで空気を悪くして、ミスが出るたびに顔しかめて舌打ちして、ビビらせてんのがお前だよ。バッカじゃねえの? コーチングに舌打ちはいらねえってことぐらい、言われなくったってわかんだろ!?」
「いや……」
反論の言葉が出てこない。
「その人が乗りたい風が吹いてきたら、たんぽぽの綿毛みたいにフワッと飛んでってくれたらいいなって。な、カズ」
「ん? おれ?」
「一般人に成りすまして人のこと『汚職議員』呼ばわりしてきた奴なんか、議会でやり口暴いて議員生命絶ってやればいいじゃん」
「いいのいいの。とどめを刺さないくらいでちょうどいいの。弱みを握れた貴重な人材なのに、とどめを刺しちゃったらそんなのただの死体じゃない」
「……おっかねえ」
『 たんぽぽ球場の決戦/越谷オサム/幻冬舎 』