■此の世の果ての殺人 2023.2.20
このミステリーがすごい! 2023年版
国内編11位 此の世の果ての殺人/荒木あかね/KODANSHA
2023年3月7日に小惑星2021NQ2:通称「テロス」が熊本県阿蘇郡に落下する。
地球最後の日を間近にした特殊な状況下でのミステリ。
どのような物語になるのか、興味津々。
面白かったが、切なかった。
「うん。彼女をこんな目に遭わせた悪い奴を探さないとね」
「殺人犯を探して、どうするんです?」
「そりゃ相応の報いを受けてもらわなきゃならない」
「捕まえる? まあね、うん。捕まえる、捕まえる」
「どうして先生が捕まえるんですか?」
「誰かがやらなきゃいけないでしょ。危険は百も承知さ。犯人は私みたいな人間を恐れている。だから私がやらないといけないんだ」
「小学生の頃さ、学校行きたくねえって毎朝喚いてたんだよ」
「誰の話?」
「俺に決まってんだろ。俺さ、すぐ手が出るし集団行動苦手だし、クラスで浮きに浮きまくってたんだよ。でさ、俺が学校行きたくねえって駄々こねると兄貴がいっつも変なこと言い出すんだ」
今からお兄ちゃんが魔法をかけるから。さん、に、いちでタイムスリップできるおまじないだよ。ほらもう大丈夫。あっという間に放課後になってるから。
暁人の口調を真似たのだろう、光は優しい声で言った。
「要するに、根性出して学校行けって言ってたんだよな、兄貴は。時が過ぎるのは一瞬だから、朝の自分が一気に放課後までタイムスリップした体で、嫌な時間はなかったことにすればいいって。辛いとき自分はそういう風に気を紛らわしてるからって兄貴は言ってた」
「それが?」
「なんか悲しいよな。兄貴はそういう励まし方しかできなかったんだろうな」
「で、誰にかけるの?」
「取り敢えず110番してみる」
そんなの無駄に決まっていると、イサガワは取り合おうとしなかった。ただでさえ警察署が次々と閉鎖されているのに、本部の通信指令室が機能するはずもない。
ところが光の指は既に三桁の数字を入力していた。
「やってみないとわかんないぜ」
「無駄だよ」
「イサガワさんは世界がこうなってから110番したことあんのか? ないだろ? どうせ無駄だと思い込んでるだけで、案外繋がるかもしれない。無駄ならそれから考えればいいだろ」
コール音は長く続いた。駄目だ。警察なんかに頼ろうとしたってどうせ助けてくれない。駄目だ。自分たちで何とかしなければ。
そのとき、突然呼び出し音が消えた。電話の向こうで聞き覚えのない声が言った。
『はい110番警察です。事件ですか? 事故ですか?』
『 此の世の果ての殺人/荒木あかね/KODANSHA 』
このミステリーがすごい! 2023年版
国内編11位 此の世の果ての殺人/荒木あかね/KODANSHA
2023年3月7日に小惑星2021NQ2:通称「テロス」が熊本県阿蘇郡に落下する。
地球最後の日を間近にした特殊な状況下でのミステリ。
どのような物語になるのか、興味津々。
面白かったが、切なかった。
「うん。彼女をこんな目に遭わせた悪い奴を探さないとね」
「殺人犯を探して、どうするんです?」
「そりゃ相応の報いを受けてもらわなきゃならない」
「捕まえる? まあね、うん。捕まえる、捕まえる」
「どうして先生が捕まえるんですか?」
「誰かがやらなきゃいけないでしょ。危険は百も承知さ。犯人は私みたいな人間を恐れている。だから私がやらないといけないんだ」
「小学生の頃さ、学校行きたくねえって毎朝喚いてたんだよ」
「誰の話?」
「俺に決まってんだろ。俺さ、すぐ手が出るし集団行動苦手だし、クラスで浮きに浮きまくってたんだよ。でさ、俺が学校行きたくねえって駄々こねると兄貴がいっつも変なこと言い出すんだ」
今からお兄ちゃんが魔法をかけるから。さん、に、いちでタイムスリップできるおまじないだよ。ほらもう大丈夫。あっという間に放課後になってるから。
暁人の口調を真似たのだろう、光は優しい声で言った。
「要するに、根性出して学校行けって言ってたんだよな、兄貴は。時が過ぎるのは一瞬だから、朝の自分が一気に放課後までタイムスリップした体で、嫌な時間はなかったことにすればいいって。辛いとき自分はそういう風に気を紛らわしてるからって兄貴は言ってた」
「それが?」
「なんか悲しいよな。兄貴はそういう励まし方しかできなかったんだろうな」
「で、誰にかけるの?」
「取り敢えず110番してみる」
そんなの無駄に決まっていると、イサガワは取り合おうとしなかった。ただでさえ警察署が次々と閉鎖されているのに、本部の通信指令室が機能するはずもない。
ところが光の指は既に三桁の数字を入力していた。
「やってみないとわかんないぜ」
「無駄だよ」
「イサガワさんは世界がこうなってから110番したことあんのか? ないだろ? どうせ無駄だと思い込んでるだけで、案外繋がるかもしれない。無駄ならそれから考えればいいだろ」
コール音は長く続いた。駄目だ。警察なんかに頼ろうとしたってどうせ助けてくれない。駄目だ。自分たちで何とかしなければ。
そのとき、突然呼び出し音が消えた。電話の向こうで聞き覚えのない声が言った。
『はい110番警察です。事件ですか? 事故ですか?』
『 此の世の果ての殺人/荒木あかね/KODANSHA 』
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