■死刑にいたる病 2022.7.18
櫛木理宇の 『 死刑にいたる病 』 を読みました。
いたいけない少年、少女8人を凄惨な拷問によって命を奪った連続殺人鬼、榛村大和と普通の人は接触を持つだろうかとの思いが、このミステリを読んでいる間いつも頭をかすめた。
榛村大和は、悪魔なのだが好人物に映る。少年、少女、拷問が頭をよぎる。
しかし、面白い。
最近読んだ中では、最高に面白かった。
悪魔は、天使の笑顔で忍び寄る。
あの日のこの場所から、やり直せたらいいのに。そう何度も願った。だが詮ない祈りだった。
だって時間を巻きもどすことはできない。いったん口に出した言葉は、誰にも打ち消せはしないのだ。
榛村はまめに常連からアンケートをつのり、要望どおりにフルーツを使った甘いデニッシュを増やし、かと思えば糖尿病に悩む客のため低糖質のパンを開発し、商品札のアレルギー表示をわかりやすく改訂した。誰の目にも、彼は真摯に商売に励んでいると見えた。
だから、誰一人あやしまなかった。
彼の家から時おり、鶏と鳩とも違うけものの臭がただよってきても。燻製小屋の煙突がやけに長時間、真っ黒な煙を吐いている日があっても。彼がしょっちゅう庭を掘り、庭木を植え替えてばかりいたとしても。
周囲の人間はみな、彼に好意的だった。
榛村がたまにステレオを大音量で鳴らしても、「若い人は口ックやら、やかましい音楽が好きだからしょうかない」と思い、若者を家に連れこむところを目撃しても「さすが、イケメンはもてるわ」と笑い話で済ませてしまった。
彼の燻製小屋でなにが燃やされているのか。大きな冷凍貯蔵庫になにが切り分けられて突っこまれているのか。なにが鶏の餌に混ぜられているのか。
疑う者はいなかった。榛村が逮捕されてはじめて、住民たちは天地がひっくり返ったかのごとく仰天した。
彼の家の庭から大量の人骨か掘り起こされたあとでさえ。
「まさか、あの人に限って」
「なにかの間違いです」
と、彼らはマスコミのマイクに向かって答えた。
あまつさえ冤罪を訴える署名運動まで起こり、村民だけでなく店のまわりの町民、市民の三百人余が喜んで署名した。
そんな世俗の動きをよそに、取調室で榛村は淡々と供述した。
「逮捕されたのは、ぼくの思いあがりのせいです」
担当の捜査官に、そう彼は言ったそうだ。
『油断しました。犯行が長い間うまくいきすぎたので、くだらない万能感が生まれてしまった。もしかしたらこのまま一生捕まらないのではかと、ありえないことまで考えました。調子にのりすぎたんです。欲望のまま犯行を進めた結果、行動がルーティンになり警戒心が薄れた。すべてはぼくの、よけいな自惚れがゆえです」
さらに彼はこうも言ったという。
「もう一度やりなおせるなら、今度こそ慢心しないでしょう」
列挙していったらきりかないほど、シリアルキラーたちの生育環境は一様にひどいものだ。
----不幸な生まれなら、人殺しになってもいいんでか。違うでしょ。
----孤児だろうと施設育ちだろうと、犯罪とは無縁に立派に生きている子たちか世の中にはたくさんいるんですよ。生まれ育ちがよくないから犯罪に走ったなんていいわけは、そういった子たちに対する冒とくですよ。そうじゃありませんか。
『 死刑にいたる病/櫛木理宇/ハヤカワ文庫JA 』
櫛木理宇の 『 死刑にいたる病 』 を読みました。
いたいけない少年、少女8人を凄惨な拷問によって命を奪った連続殺人鬼、榛村大和と普通の人は接触を持つだろうかとの思いが、このミステリを読んでいる間いつも頭をかすめた。
榛村大和は、悪魔なのだが好人物に映る。少年、少女、拷問が頭をよぎる。
しかし、面白い。
最近読んだ中では、最高に面白かった。

悪魔は、天使の笑顔で忍び寄る。
あの日のこの場所から、やり直せたらいいのに。そう何度も願った。だが詮ない祈りだった。
だって時間を巻きもどすことはできない。いったん口に出した言葉は、誰にも打ち消せはしないのだ。
榛村はまめに常連からアンケートをつのり、要望どおりにフルーツを使った甘いデニッシュを増やし、かと思えば糖尿病に悩む客のため低糖質のパンを開発し、商品札のアレルギー表示をわかりやすく改訂した。誰の目にも、彼は真摯に商売に励んでいると見えた。
だから、誰一人あやしまなかった。
彼の家から時おり、鶏と鳩とも違うけものの臭がただよってきても。燻製小屋の煙突がやけに長時間、真っ黒な煙を吐いている日があっても。彼がしょっちゅう庭を掘り、庭木を植え替えてばかりいたとしても。
周囲の人間はみな、彼に好意的だった。
榛村がたまにステレオを大音量で鳴らしても、「若い人は口ックやら、やかましい音楽が好きだからしょうかない」と思い、若者を家に連れこむところを目撃しても「さすが、イケメンはもてるわ」と笑い話で済ませてしまった。
彼の燻製小屋でなにが燃やされているのか。大きな冷凍貯蔵庫になにが切り分けられて突っこまれているのか。なにが鶏の餌に混ぜられているのか。
疑う者はいなかった。榛村が逮捕されてはじめて、住民たちは天地がひっくり返ったかのごとく仰天した。
彼の家の庭から大量の人骨か掘り起こされたあとでさえ。
「まさか、あの人に限って」
「なにかの間違いです」
と、彼らはマスコミのマイクに向かって答えた。
あまつさえ冤罪を訴える署名運動まで起こり、村民だけでなく店のまわりの町民、市民の三百人余が喜んで署名した。
そんな世俗の動きをよそに、取調室で榛村は淡々と供述した。
「逮捕されたのは、ぼくの思いあがりのせいです」
担当の捜査官に、そう彼は言ったそうだ。
『油断しました。犯行が長い間うまくいきすぎたので、くだらない万能感が生まれてしまった。もしかしたらこのまま一生捕まらないのではかと、ありえないことまで考えました。調子にのりすぎたんです。欲望のまま犯行を進めた結果、行動がルーティンになり警戒心が薄れた。すべてはぼくの、よけいな自惚れがゆえです」
さらに彼はこうも言ったという。
「もう一度やりなおせるなら、今度こそ慢心しないでしょう」
列挙していったらきりかないほど、シリアルキラーたちの生育環境は一様にひどいものだ。
----不幸な生まれなら、人殺しになってもいいんでか。違うでしょ。
----孤児だろうと施設育ちだろうと、犯罪とは無縁に立派に生きている子たちか世の中にはたくさんいるんですよ。生まれ育ちがよくないから犯罪に走ったなんていいわけは、そういった子たちに対する冒とくですよ。そうじゃありませんか。
『 死刑にいたる病/櫛木理宇/ハヤカワ文庫JA 』
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