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三分間の空隙  だから、自分自身を選ぶ

2021年12月20日 | もう一冊読んでみた
三分間の空隙(上・下)/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム 2021.12.20

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム作、ヘレンハルメ美穂訳の 『 三分間の空隙(上・下) 』 を読む。

このミステリは、『 三秒間の死角 』 の続編。
ぼくが、「三秒間の死角」を読んだのは2017年。詳しい内容は忘れてしまったが、「三分間の空隙」を読むのに支障はなかった。独立した小説として読めた。

コロンビアの貧しさとそこでの生きがたさは、まだ、幼さが残る十二、三歳のシカリオ(殺し屋)の存在に生き生きと描かれている。
彼らの大半が二十歳を迎えるまで生き残れない。


物語で語られる少年シカリオの話だけでも、ひとつの忘れられない短編となる。
詩情豊かな挿話だ。
上に立つものが、有能でないと下の者は迷惑する。迷惑するくらいなら天国。
もたらされる結果は、悲惨で悲劇的であることもある。地獄。

 「……あなたがまやかしの安心感を得るための飾りでしかない。ティム。まだわからないのなら、それはもう脱いでくださってかまいません! あなたのその決意は……ご自分のためでしかない! あなたの望みどおりに現地に行ったら、あなたの命が危険にさらされるだけでは済まない。ほかの人たちの命も危うくなるんです!」

 “きみの言うとおりだった。これは、私のせいだ”

 “サイバーズ・ギルト”
 そう呼ばれている。だれかを死ぬのを救えず、自分だけ生き残ったときの罪悪感。


 「ティム! きみは、私は、そういう世界に生きている! そういう仕組みだ! ここにいるわれわれが満場一致で決めたことだ。ひとりの命を犠牲にすることで、もっとたくさんの命を救うべきだ、と」



 “おまえか、俺か。
 俺は、おまえよりも自分自身のほうが好きだ。だから、自分自身を選ぶ”


 嘘が通用するのは、じゅうぶんな真実を含んでいるときだけだ。

 犯罪者を演じられるのは、ほんとうの犯罪者だけだ。

 失うものがありすぎる男。だれよりも危険なのは、そういう男だ。

 犯罪者は、犯した罪が重ければ重いほど、なにかと抱擁を交わしたがるもののようだ。

 いつまでもまとわりついてくる、この胸中のざわつき、死はかならず死を呼び覚ますのだと、また感じる。

 外の世界のシステムを、自分のシステムとして受け入れてしまうと、やがて逆にこちらからシステムを抱きこむようになる。そうなると、自分が息をしつづけるには、自分が生き延びるだけにとどまらず、他人を死なせるしかなくなる。

 “俺がここにいるのは、そもそもピート・ホフマンが逃げなきゃならなくなったのが、いまいましいことに俺の責任だからだ。あんたがここにいるのは、やつがまたもや逃げなきゃならなくなったのが、いまいましいことにあんたの責任だからだ。罪悪感は、強く、鮮烈な、圧倒的な力で人を駆り立てる。だから、俺たちふたりともここにいる”

 とはいえ、ほんとうのところはただ単に、怖いからだ。恐怖があったからこそ、防御を築いた。このいまいましい、死の恐怖こそが、自分を駆り立て、行動させている。やるべきことをこなし、生き延びように仕向けている。

 もう中年なのだし、中年に達した男というのは人生に手を引かれ、徐々に取り壊される体で生きていくものだ。


  『 三分間の空隙(上・下)/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
                      /ヘレンハルメ美穂訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
 』



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