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「R帝国」 この国では、抵抗という言葉が消されていた

2017年10月09日 | もう一冊読んでみた
R帝国/中村文則  2017.10.9

中村文則氏は、「あとがき」で書いている。

 現実の何を風刺してるかすぐわかるもの、何を風刺しているか、一見わからないもの、風刺でなく、根源を見ることで、文学として表現したものなど、濃淡を帯びながらグラデーションのように、様々に物語の中に入っている。

さて、「何を風刺しているのか、文学として表現したものは何か」を、考えながら読み解いていったのだが、よく分かる部分もあれば、当然のことながら、何を言っているのか、全然分からないときもあった。

朝日新聞 書評欄(2017.9.17)で、本社編集委員の市田隆氏は『R帝国/現実と不気味につながる暗黒郷』の冒頭で、「暗黒の未来を描き出すディストピア小説には、時代を映す鏡のような意味がある。」と書いている。

では、中村氏はその鏡に何を映そうとしたのか。
彼は、朝日新聞の「オピニオン&フォーラム」(2017.10.6)に、タイミングよく寄稿文を寄せた。
読めば、彼の問題意識、焦燥感、R帝国を読み解くヒントを数多く発見できそうである。

      総選挙 日本の岐路
      選挙はあなたに興味持っている
      説明する気のない首相
      共生より排他の政治
      感情で支持する人達


 国会を見ていると、事実より隠蔽の、説明より突破の、共生より排他の強引な政治のように感じる。そしてそれらを、論というより感情によって支える人達が様々に擁護していく。
 一連の感覚は世相にも現れているようにように思う。「中村(僕)は安倍政権を批判したから売国奴」とある人物から言われたことがある。

 政治批判=売国奴(非国民)の幼稚な構図が出来上がったのは、小泉政権でその萌芽はあったが、安倍政権で本格化したと僕は感じる(他の首相では滅多にそうならない)。事実が重要視されないフェイクニュースの問題も顕在化している。理性的とは言えないヘイト・スピーチや揶揄や罵倒がネット上に溢れるようになったのはもっと前からだが、年々酷くなっている印象を受ける。安倍政権を熱烈に支持する「論客」などには、彼らなりの愛国のせいか、どうも排他的な人達が散見され、そういった言説を広げようとする傾向がある。

 現憲法を擁護していると、面倒そうに説明を遮られ、「でもまあ色々あるんだろうけど、(憲法を変えないと戦争できないから)舐められるじゃん」と言われたのはつい先月のことだった。「舐められるじゃん」。説明より、シンプルな感情が先に出てしまう空気。卵が先か鶏が先かじゃないけど、これらの不穏な世相と今の政治はどこかリンクしているように思えてならない。

 論が感情にかき消されていく。

 改憲には対外的な危機感が必要だから、外交はより敵対的なものになり、緊張は否応なく増してしまうかもしれない。改憲のための様々な政治工作が溢れ、政府からの使者のようなコメンテーター達が今よりも乱立しテレビを席巻し、危機を煽る印象操作の中に私達の日常がおかれるように思えてならない。現状がさらに加速するのだとしたら、ネットの一部はより過激になり、さらにメディアは情けない者達から順番に委縮していき、多数の人々がそんな空気にうんざりし半径5メートルの幸福だけを見るようになって政治から距離を置けば、この国を動かすうねりは一部の熱狂的な者達に委ねられ、日本の社会の空気は未曽有の事態を迎える可能性がある。

 北朝鮮との対立を煽られるだけ煽られた結果の、憎しみに目の色を変えた人々の沸騰は見たくない。人間は「善」の殻に覆われる時、躊躇なく内面の攻撃性を解放することは覚えておいた方がいい。結果改憲のために戦争となれば本末顛末だ。


 この選挙は、日本の決定的な岐路になる。歴史には後戻りの効かなくなるポイントがあると言われるが、恐らく、それは今だと僕は思っている。

 「R帝国」からの抜き書き

 動機はどうあれ、正しさの実行と思われる行動を、それをしない自分への批判と捉える人間達がいる。そう捉える人間達が、なぜか近頃増えている。

 他の言葉は、言えるのです。でも、その言葉を、どうしても言うことができなくなっていた。言おうとすると、親達のあの目が目の前にちらついた

 周囲に精神的に頼る者のない子供は、架空の存在を創り出すことがあると後から本で知った。

 この時点で本来、日本は降伏すべきだった。なぜなら、サイパンがアメリカの手に落ちたということは、後の硫黄島と同様地理的に、アメリカはそこから日本全土に空軍機で往復爆撃が可能となるからだ。

 普通の国ならそこで降伏する。だが日本は降伏しなかった。日本全体が空爆され、膨大な数の自国民が空襲で次々に死んでいるのに日本は降伏しなかった。

 ネット上の膨大な”幸せアピール合戦”を眺めていると、Cは自分も含め皆がなぜか気の毒に思え、何だかこれは逆に絶望なのではないかと感じることもある。芸能人でさえ自分の幸福をやたらにアピールする。
 わざわざ他人にアピールしなければ、自分を幸福とは思えない人達。自分も含め、人の目ばかり気にしてしまう人達。
 でも仕方ないのだ。私達の幸福はどれも脆くてあやふやで、いつ壊れるかわからない。だから他の人に承認してもらうことで、羨ましがってもらうことで、自分たちの幸福を補強したくなる。
 さらにいえば、羨ましがられると幸福は増大する。自信になる。私達は貪欲だ。

 「覚えておくといい」父が言う。

 「萎縮は伝播する。だからお父さんは、萎縮するわけにはいかないんだ。……誰か他の人の小さな勇気を、くじかないためにもね」

R帝国でも、 「半径5メートルの幸福だけを見る」 ことが語られている。
近未来のこの国では、物語中の小説には存在する 「抵抗」 という言葉が、その歴史の中で何時しか消されていた。
その行為を表す言葉がなかったら、人々はどのようにして、その行為をお互いに支え合えるのか。
他人から選択的に記憶を消去されたら、果たして、人は生き続けていくことができるのか。

      『 R帝国/中村文則/中央公論新社 』



朝日新聞 2017.10.18
混ざり合い あぶり出される現実


「朝、目が覚めると戦争が始まっていた」----書き出しは最初から決めていた。
「いつ起きてもおかしくないことだから」。
作家、中村文則さんの『R帝国』(中央公論新社)は、日本社会への痛烈な風刺と挑発に満ちたディストピア小説だ。


    中村文則さん「R帝国」

舞台は近未来の架空の国。
しかし、読み進めれば現実と小説が混ざり合う。
これはつくりものだから、と笑うことは誰にもできないはずだ。

民主主義とは名ばかり、「大R帝国」を動かすのは名前を省略してただ「党」と呼ばれる圧倒的な与党だ。
野党の政治家秘書・栗原、地方都市に暮らす青年・矢崎、2人の視点を軸に、この国で起きている真実に迫ってゆく。

「安倍政権と現在の日本への危機感から書き始めた」。
インターネットを覆うヘイトスピーチや人種差別問題、フェイクニュース。
「右傾化の流れのなか、作家として何ができるだろう」と考えていたという。
「世の中はどうしてこうなってしまったのか」。
小説という表現方法を使い、自分なりに分析した。

「ノンフィクションを取り入れて物語を強化した」という、その取り入れ方が痛烈だ。
物語の世界で 『アウシュヴィッツ』 『沖縄戦』 は作者不明の「小説」として伝わっている。

「現実がフィクション化していると思う。
森友・加計問題を小説にしたら、こんなばかな政府はないと編集者に言われるでしょう」

作家デビューから15年。
海外でも評価の高い『掏摸(すり)』(09年)から小説の書き方が変わった、という。
「意識して書くものには限界がある。
無意識で書きながら、アイデアが浮かんだり、予期せぬところで伏線がうまくいったりする」。
世界で読まれることも視野に入れるようになった。

恋人のように会話を交わす携帯端末や謎の組織からの接触など、SFやミステリーの要素を純文学に注ぎ、エンターテインメント性を高めた。
「小説の持つ、ありとあらゆる可能性を投入しました。
読みやすいドストエフスキーがあったら最高じゃないですか」


「萎縮は伝播(でんぱ)する」。
小説のなかで使った言葉を、自分自身にも強く意識させて書いた。
「この小説は萎縮のいの字もない。
書きすぎているかもしれません。
けれど、息苦しく、ものの言いにくい時代だからこそ、あえてここまで書く必要があった。作家が表現の自由のために戦わなければ、存在している意昧はない」 (中村真理子)



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