ゆめ未来     

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悪い夢さえ見なければ

2017年05月22日 | もう一冊読んでみた
悪い夢さえ見なければ/タイラー・ディルツ  2017.5.22

 「胴体を執拗に刺されている。みぞおち付近にはおびただしい数の傷が認められ、ずたずたになった肉片と布の繊維が血にまみれて見分けがつかないほどだった。陰部も切り刻まれていた。何よりも厄介なのは、左手が手首から切断され、現場から消えていたことだ。」

この凄惨な事件現場以外は、いたって地味なミステリーだった。

 「たとえ胡桃の中に閉じ込められていようと、自分は無限の宇宙の王と思えるのだ、悪い夢さえ見なければ

物語の展開に大きく係わる何かがあるのかと気にしていたのだが、ぼくが読んだ限りでは余り関連はないような気がした。

 どうしてみんな、人生で最高に幸せな瞬間を必死になってフィルムに残そうとするのだろうか。そう願う人の大半が、至福の瞬間をふたたび味わえるからだと答える---そのときの感動を思い出して追体験し、あのほんわかとした幸せな思いに満たされたい。そう願うのはぜんぜん悪いことじゃない。ケチなんかつけてはいない。
 ただし、その幸せが持続していれば、の話だ。

 今日の幸せが明日不幸へと転じる。いつ変わっても、少しもおかしくはない。

このミステリーの要約のような気がしました。予言的です。

仕事について。

 無線機に目をやり、グラスの中身をシンクに捨てた。悲しみと後悔の念を癒やしてくれるのは、ウオッカでなくて仕事であることは、自分が一番よくわかっている。

 勢いに乗り続けていかなければならない、そうじゃなければ落ちるだけ。飛行機と同じです。


人生の流れゆく時について。

 ハイスクール時代に知り合いました。ベスは作家に、わたしは女優になるのが夢でした。若いころって、分不相応な夢を抱くものですから

 「年を取るもんじゃないぞ、若造。人はどちらかひとつしか選べない---冷酷非情のひねくれ者か、涙もろい阿呆か。何よりも厄介なのは、どちらかひとつしか選べないことさ」


このミステリーは、タイラー・ディルツ氏の長篇デビュー作です。

  『 悪い夢さえ見なければ/タイラー・ディルツ/安達眞弓訳/創元推理文庫 』



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