■熊と踊れ(上・下) 2017.1.21
マーブルケーキ。マフィン。凶悪犯とされて長期刑に服している服役囚が、面会のたびに菓子を焼く。ブロンクスはかすかに頬を緩ませた。警備の厳しい刑務所の面会室 ---- 一発抜くためのベットのそば、ぐらぐ揺れるテーブルの上に、甘い菓子が載る。
どうもこの部分は、日本の刑務所では考えられないことが書かれているようだ。
スエーデンの刑務所は、このようになっているの! と驚かされる。
ひげ面で筋骨隆々の凶悪犯が、自らの面会人のために、甘いケーキを焼いて待っている。
そして、そのケーキのそばには、「一発抜くための」なにまで用意されているというのだから。
人間に対する考え方が根本的に違うのかも知れない。
それでも、やはりムショ暮らしは、苛酷だ。
服役のための手続きを終えたサムが、まずハル刑務所へ収容され、やがてティーダホルム刑務所に移送されたころのこと。時間をベースにしてものを考えられないということはつまり、希望がないということ、前向きになれないということなのだと、あのころのヨンにはまだわかっていなかった。
レオ、フェリックス、ヴィンセント3兄弟とヤスペルは鉄壁な規律と集団行動のもと、銀行強盗を繰り返していく。
人はみな、だれかの真似をし、その特徴を受け継いだり借りたりして育つ。
境界線を越えてしまうこと。これまでの人生を捨てる決心。これまでと同じ人生はもう生きられないのだ、と悟ること。
上巻の終わりでは、この鉄壁な規律にもなにやらほころびが見え始める。
さて、『熊と踊れ』とは、どんなことなのか。
「できそうか? できるよな、親父。踊って、殴る。熊のまわりで踊る。敵のほうが大きくても、勝てる。叩きのめせる。ちゃんとステップを踏んで、絶妙なパンチを繰り出せば。そうだろう?」
「あいつらのまわりで踊ってやれば、勝てる。あいつらが、自分は優勢だと思い込んでいるあいだに、こっちが攻撃してやれば」
このミステリー、親と子の関係や兄弟同志の関係、元妻とのことなど考えさせられる内容が一杯つまっていた。
「兄さん……突き進むんだ……まっすぐ突き進もう」
「もし、まずいことになったら……そうなったら、自分の身は自分で守るしかない。わかるか? おまえはおまえのやり方で終わらせろ。おまえなりのやり方でいいんだ。なにをしようと、ヴィンセント、間違いということはない。いいな? どんなことになろうと……おまえがどんな道を選ぼうと、それは正しいんだ」
「わたしたちはまだ、ちゃんと終わってなかった。
ちゃんと終わりが来るまで踏みとどまっていたら……
いつかはあきらめることもできたでしょうに!
「終わらせることよ、ヨン。 …… 」
『熊と踊れ』は、『2017年版 このミステリがすごい!』 海外編/第1位 に輝きました。
『 熊と踊れ(上・下)/アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ
/ヘレンハルメ美穂 羽根由訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』
マーブルケーキ。マフィン。凶悪犯とされて長期刑に服している服役囚が、面会のたびに菓子を焼く。ブロンクスはかすかに頬を緩ませた。警備の厳しい刑務所の面会室 ---- 一発抜くためのベットのそば、ぐらぐ揺れるテーブルの上に、甘い菓子が載る。
どうもこの部分は、日本の刑務所では考えられないことが書かれているようだ。
スエーデンの刑務所は、このようになっているの! と驚かされる。
ひげ面で筋骨隆々の凶悪犯が、自らの面会人のために、甘いケーキを焼いて待っている。
そして、そのケーキのそばには、「一発抜くための」なにまで用意されているというのだから。
人間に対する考え方が根本的に違うのかも知れない。
それでも、やはりムショ暮らしは、苛酷だ。
服役のための手続きを終えたサムが、まずハル刑務所へ収容され、やがてティーダホルム刑務所に移送されたころのこと。時間をベースにしてものを考えられないということはつまり、希望がないということ、前向きになれないということなのだと、あのころのヨンにはまだわかっていなかった。
レオ、フェリックス、ヴィンセント3兄弟とヤスペルは鉄壁な規律と集団行動のもと、銀行強盗を繰り返していく。
人はみな、だれかの真似をし、その特徴を受け継いだり借りたりして育つ。
境界線を越えてしまうこと。これまでの人生を捨てる決心。これまでと同じ人生はもう生きられないのだ、と悟ること。
上巻の終わりでは、この鉄壁な規律にもなにやらほころびが見え始める。
さて、『熊と踊れ』とは、どんなことなのか。
「できそうか? できるよな、親父。踊って、殴る。熊のまわりで踊る。敵のほうが大きくても、勝てる。叩きのめせる。ちゃんとステップを踏んで、絶妙なパンチを繰り出せば。そうだろう?」
「あいつらのまわりで踊ってやれば、勝てる。あいつらが、自分は優勢だと思い込んでいるあいだに、こっちが攻撃してやれば」
このミステリー、親と子の関係や兄弟同志の関係、元妻とのことなど考えさせられる内容が一杯つまっていた。
「兄さん……突き進むんだ……まっすぐ突き進もう」
「もし、まずいことになったら……そうなったら、自分の身は自分で守るしかない。わかるか? おまえはおまえのやり方で終わらせろ。おまえなりのやり方でいいんだ。なにをしようと、ヴィンセント、間違いということはない。いいな? どんなことになろうと……おまえがどんな道を選ぼうと、それは正しいんだ」
「わたしたちはまだ、ちゃんと終わってなかった。
ちゃんと終わりが来るまで踏みとどまっていたら……
いつかはあきらめることもできたでしょうに!
「終わらせることよ、ヨン。 …… 」
『熊と踊れ』は、『2017年版 このミステリがすごい!』 海外編/第1位 に輝きました。
『 熊と踊れ(上・下)/アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ
/ヘレンハルメ美穂 羽根由訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 』
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