ゆめ未来     

遊びをせんとや生れけむ....
好きなことを、心から楽しもうよ。
しなやかに、のびやかに毎日を過ごそう。

「その犬の歩むところ」 犬の物語なのだが、アメリカが語られている

2017年08月21日 | もう一冊読んでみた
その犬の歩むところ/ボストン・テラン  2017.8.21

ボストン・テランの 『その犬の歩むところ』 を読みました。
犬の物語なのだが、アメリカの社会、文化、文学、音楽、自然、そして帰還兵の話でもあります。
訳者あとがきは、その内容を的確に説明しています。

 本書で描かれているのはモノではなくアメリカの名もなき人々の心の豊かさだ。その豊かな心を犬とも人とも共有し、与え合うことの尊さ、美しさ。作者が訴えたかったのはそれだろう。そのことはなにより ”ギブ” という命名に明白に示されている。

その他に、訳者あとがきは、ボストン・テラン本人についても興味深い話を紹介しています。

物語は、哲学的、瞑想的に語られる部分も随所にみられ、最後は、こんな文章で閉じられます。

 犬にまつわる伝説は数かぎりなくある。神話に登場する彼らについて書かれた本も無数にある。彼らなしに完結する文化など地上にはない。
 そんな中、ひとつこんな言い伝えがある。天地創造に際して神は地上をふたつに分けた。そのために底知れぬ深淵が掘られ、その一方の地上には人間、もう一方の地上にはそれ以外のすべての生きものが住まわせられた。ところが、深い溝が広がるのを見て、犬はその溝を跳んだ。
人間と同じ地上に住むために。
 その瞬間、その行為において、犬は神が人間として考えた創造物のすべてになった。なぜなら犬がその溝を越えたのは、人間を愛し、人間が求める近親者になりたかったからだ。人間の善良さとともに歩む善良さを自らにも求めたからだ。
 しかし、それは反逆の行為であり、その犬の跳躍が自ずと示しているのは、神が人に求めたすべての一部に反逆があったということだ。反逆には反逆の場所があり、知恵や、思慮分別や、慈愛と同様、反逆もまた天賦のものだ。そしてそれこそ----自分は何者になり、何者にならないか、自由に選ぶ力こそ----神が創造したエッセンス中のエッセンスだ。さて、人は底知れぬ深淵を跳んだ生きものに値いする生きものたれるや否や。


心ときめく愛の行為についても述べている。

 若さというものを一度でも手に入れたことがある者なら、誰でもそういう最初のキスを知っている。自分の人生の歴史と心が否応なく結びつけられることが感じられる相手とのキスだ。
それは若さの恵みのひとつであり、重力の力で体のあらゆる部分を盗む。体の中身をすべて外に抜き出して、それをどこかに消し去ってしまう。

 「要するにお互い一目惚れだったわけ。だから、すぐにふたりだけの計画を立てた。わたしは学校の先生になって、彼はレストランかコーヒーショップを経営して、子供をたくさんつくって……彼は自分がやると言ったことを全部やった。でも、それをわたしの従妹とやったのよ。
その従妹と駆け落ちをして結婚をしたの」
「初めて聞いたわ」
「だから今話してるのよ。わたしは打ちひしがれた。母には”憂鬱の女王”って名づけられた。」


これには、クスリとしてしまうでしょ。

でも、これから先は少し難解です。ぼくには理解できないところもあります。

 闘犬場で闘わせられ、粗暴な獣に変えられてしまったことでもない。眼がくらむような憎しみに心ならずも圧倒されたことが辛かったのでもない。愛のなかったことがなにより辛かった。誰にとっても何者でもないということは、自分が無だということだ。生きものは何者でもなくなると、骨肉が剥き出しになる。生きることが耐えられなくなる。

 ルーシーのほうはバックミラー越しにイアンを見つづけた。愛するイアン、やさしさのわたしのポートレート。愛は謎も真実も超え、自らを十全的に所有することだ。肉体の接触でさえ愛を完全には取り囲めない。愛とは渇きを圧倒し、すべてを決するものだ。

 ヒューズを救えなかったという思いはずっと彼につきまとっていた。真偽の定かではない心の過ちに対処する方法はただひとつしかなく、それは人間の限界、人間の真の広がりを明示する限界線を超えている。自分はすべてではなく、すべての一部であることを理解すること。それは結果を求める人間の限界と折り合いをつけ、しかも結果と一体になれることを意味する。
人の人生すべてに射す影がある。人は愛する者を抱きしめるようにその影も抱きしめなければならない。
 そうした影、そうした過ち、そうした限界こそ人間の能力の指針であり、それらを受け入れれば、それらは人を常に広がりつづける存在へと導く。このことを理解すべきだ。
 このことこそ最も大切な地上に生きとし生けるものの福音だからだ。

 おまえは決して孤独ではない。太陽の最も黒く最も深いところにいてさえ孤独ではない。生ける心はすべて順番を待つ血族だ。孤独なものすべてに友がいる。絶望として知られる荒涼とした空間を渡って、おまえのところにやってくる友がいる。苦悩するあらゆる心に答がある。生きている空と天国を備えた完全無欠な答がある。

 「わたしたちは人として奇蹟を祈ります。自分たちの慕らしがよくなるように奇蹟が起こることを願います。今の暮らしを変えてくださいって。今の暮らしに変化をもたらしてくださいって。わたしたちの苦しみを和らげて下さいって。でも……自分たち自身が奇跡にならなければ、なによりすばらしい暮らしなどとうてい望めません」


そして、夢について。

 途方もない約束と永劫不滅の夢がその短いことばの中に含まれていた。彼の心がなくしたものは夢だった。夢とは常になくてはならないものだ。そして、どんなドラマにおいてもその核となるものだ。なぜなら、夢こそこの物質的な世界を人生の正しい場所に返してくれるものだからだ。

 「お巡りとして、これは経験から言えることだ。人生というのは運命に彩られたものだよ。おふくろはこんなことをよく言ってた、”運命というのはあれこれ選択をするのに忙しくしてるときに起こるものだ”って。それと」とレイファーは言った。「あんたには夢がある」
 そのことばは……
 「夢って誰にもなきやいけないものですよ」とディーンは言った。

 夢はしばしば生きて傷つき、そのためにこそ理解も同情もできる人間を必要とする。忘れ去られた希望の箱の中をのぞいて、そこに世界を見いだせる人間を。
 元アメリカ海兵隊三等軍曹ディーン・ヒコックは、自分が探していた夢のほうがすでに彼を見つけていることには、まだ充分気づいていなかった。


犬のことを言っているのだが、ぼくはアメリカ南部の黒人奴隷のことかと連想してしまった。

 おまえをおれの力でひざまずかせてやる。なぜならおれは人間で、聖なるものの顕現だからだ。だからおれにはおまえを買うことができ、売ることができ、叩くことができ、食いものにすることができ、おまえを破壊することもできる。おまえには雨のひとしずくほどの値打ちもない。この世にごまんとある雨のひとしずくほどの値打ちもな。

犬の物語だが、アメリカが語られている。
この小説の雰囲気をあなたに伝えたくて、ながいながい引用になってしまいました。
もし気に入ったところがあれば、手にとってご一読下さい。

もう一度、訳者あとがきより一言。

  一風変わった小説である。
  いい小説だ。すがすがしい小説だ。


 『 その犬の歩むところ/ボストン・テラン/田口俊樹訳訳/文春文庫 』

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もう一段の下げを覚悟すべきか?

2017年08月20日 | 捕らぬ狸の経済


 8月18日
 日経平均 1万9470.41円(-232.22円)
 TOPIX 1597.36(-17.46)
 出来高 16億7173万株
 長期金利(新発10年国債) 0.030%(-0.015)
 1ドル=109.05円(0.87円高)


 8月14日  1万9537円  19億5911万株 2兆5731億円
 8月15日  1万9753円  16億5080万株 2兆2363億円
 8月16日  1万9729円  14億3539万株 1兆8757億円
 8月17日  1万9702円  14億3619万株 1兆8060億円
 8月18日  1万9470円  16億7173万株 2兆1223億円

朝日新聞 2018.8.19
米政権に不安感
東証急落232円安


18日の東京株式市場は、米トランプ政権の混乱から日経平均株価が一時270円近くも急落し、5月上旬以来およそ3カ月半ぶりの安値水準を付けた。
東京外国為替市場の円相場は、低リスクとされる円が買われる動きが強まり、対ドルでは一時1ドル=108円台まで円高が進んだ。

米国で白人至上主義団体と反対派が衝突した事件に関連したトランプ大統領の発言などが波紋を呼び、前日の米国市場で株価が急落。
東京市場でも全面安の展開となった。

日経平均は、前日の終値より232円22銭(1.18%)安い1万9470円41銭で取引を終えた。
対ドルの円相場は、午後5時時点で前日同時点より87銭円高ドル安の1ドル=109円05~06銭。


朝日新聞 2017.8.19
■来週の市場は/米政権や地政学リスク焦点


来週の東京株式市場は、トランプ米大統領の政権運営や北朝鮮情勢を巡る地政学リスクが焦点となりそうだ。
24~26日に米ジャクソンホールで開かれる経済シンポジウムでの各国中央銀行幹部の発言内容も材料となる。
日経平均株価は1万9千円台を軸に推移しそうだ。


「日経平均株価が3カ月半ぶりに1万9500円を下回ると、これまで底堅かったTOPIX(東証株価指数)も75日移動平均線を割り込んだ。」
先週、日経平均株価は、大きく下げた。

  14日 1万9537円 -192円
  15日 1万9753円 +216円
  18日 1万9470円 -232円

テクニカル的には売られすぎのシグナルは、まだ、見られないようだ。となると、もう一段の下げを覚悟すべきだろう。

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     朝日新聞 2017.8.15
     健康寿命って何?
     生活の質 維持するために

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日本人の平均寿命が延び続けています。1世紀を生きるセンテナリアン(百寿者)は、昨年9月時点で約6万5700人で46年連続で過去最多を更新しています。
長生きすることに加えて、その生活の質も問われています。


    支障なく日常を過ごせる期間

人には必ず寿命がある。
厚生労働省の7月の発表では2016年、日本人の平均寿命は女性が87.14歳、男性が80.98歳となり、過去最高を更新した。

そんななか「健康寿命」という、寿命とは違った新たな指標に関心が集まっている。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活に支障がなく暮らせる「健康な期間」をいう。
3年に1回実施される国民生活基礎調査の大規模調査での質問、「現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」への回答「ある」「ない」をもとに、年齢や人口などを考慮し、算出される。




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     朝日新聞 2017.8.16
     日本酒消費、どう増やす?
     菊正宗酒造社長 嘉納 治郎右衛門

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    「大人の酒」を手頃な価格で

日本酒はこれまで何度かブームがあったものの、消費が減り続けてきました。
ただ、最近は若者や女性からも注目されています。
日本酒の消費をどう増やすのか。
清酒大手、菊正宗酒造の嘉納治郎右衛門社長(42)に聞きました。

----日本酒の消費量はこの40年で、3分の1にまで減りました。

「食の欧米化に加え、ワインや焼酎、ハイボールなどアルコールの種類が増えた。
昔は上司や親から手ほどきを受け、酒の飲み方を覚えたもの。
今は消費者自らが情報を得て、好きな酒を選ぶようになった。
どうアプローチするか、難しいと感じる」

----厳しい状況が続くのでしょうか。

「従来の顧客が減っていく過渡期にある。
そのなかで、大吟醸や純米酒といった肩書のある高価な酒は若い方や女性、海外客に興味を持っていただいている。
『オヤジの酒』というイメージから、『大人の酒』へとちょっと変わってきた。
これはチャンスだ」

----高級路線で挑むということですか。

「ワインを日常的に飲む人は必ずしも産地にこだわるわけでなく、手頃な価格で良質なものを楽しんでいる。
『デイリーワイン』という言葉があるが、日本酒でも製法などではなく、価格が手頃な『デイリー酒』という分野を作りたい」

----日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)で合意しました。
輸出には追い風となりますか。

「欧州産ワインの関税も撤廃され、国内でさらに手頃に楽しめるようになる。
日本酒の愛飲者とも層が近く、販売競争が激しくなりそうだ。
欧州では、日本食レストランでの需要がほとんどで、酒屋に日本酒はあまりない。
欧州での浸透はこれからだ」

----どういった戦略を。

「海外では安いワインも多く、日本酒の関税が撤廃されても劇的な増加は見込めない。
まず付加価値の高いものを出して興味を持ってもらい、徐々に家庭で楽しんでもらえるようにしたい。
海外の売上高は現在は3%ほどだが、10年後には10%に引き上げたい」

----6月に社長に就任し、菊正宗当主に受け継がれてきた「治郎右衛門」を襲名されました。
襲名は3代ぶりですね。

「看板を背負う責任を自らに課したかった。
おかげで、初めて会う人ともコミュニケーションが進む。
名乗るだけで『長い歴史があるんですね』と言ってもらえる。
歴史を引き継ぎ、新しい価値を進化させたい」
  (聞き手・新宅あゆみ)



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「蓬莱泉 純米大吟醸」 今だけのお酒

2017年08月19日 | さらに酔うもう一杯の日本酒に
蓬莱泉 愛知県設楽町 2017.8.19

親戚が、この時期だけの貴重なお酒を送ってくれました。
蓬莱泉 純米大吟醸

          蓬莱泉


  純米大吟醸/生酒
  原材料名/米(国産)・米こうじ(国産米)
  使用米/山田錦(100%使用)
  アルコール分/16度
  精米歩合/45%
  関谷醸造(愛知県北設楽郡設楽町)



吟醸香は、あまりありません。
お米の甘さのなかに、微かに苦みもあります。
これがすっきりとした、さわやかな旨みをもたらしているのでしょうか。
なかなか複雑な味です。
水のようにぐいぐいいけます。

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平野 匠味御膳

2017年08月18日 | お弁当/岐阜/
匠味 平野 岐阜市 2017.8.18

匠味 平野』 さんのお弁当 「匠味御膳」 をいただきました。

前回、お弁当ののしはチューリップでしたが、はや、向日葵なりました。





                御献立
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       銀ダラ西京焼      南京旨煮
       えびチリ         ごぼうかりんとう
       だし巻玉子       車麩の味噌かつ
       いなり寿し        粟麩含め煮
       若鶏八幡巻       茄子オランダ煮
       飛龍頭          俵ご飯
       丸十密煮        漬け物
       太刀魚南蛮漬

 ===============================================

上品な味付けで、美味しいお弁当でした。
お弁当をいただくたびに、お店に直接伺いたい。
カウンターで美味しい料理を堪能したいと思います。
何とか機会を作りたいのですが、なかなか実現しません。残念です。

            『 匠味 平野  』
        住所 岐阜市御浪町10 御浪ビル1F
        TEL ( 058 ) 263 - 8644


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「京漬物」 をいただきました

2017年08月17日 | ゆめ未来
 ■ 川勝総本家 京都市 2017.8.17

京漬物』 をいただきました。



    かぼちゃの浅漬
    割大根しそ漬
    半割浅瓜
    胡瓜の浅漬

「かぼちゃ」の漬物は、生まれて初めていただきました。
お漬け物はどっさりいただくと、美味しく賞味期限内に食すのがかなり大変です。




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「雅味 近どう」 お盆の特別料理です

2017年08月16日 | 食は文化だ
雅味 近どう 岐阜市 2017.8.16

親戚を 『雅味 近どう』 さんのお食事(お昼)に、ご招待しました。



料理もさることながら、出された器も趣のある味わい深いものばかりでした。
拙い写真ですが、器の数々もお楽しみ下さい。



            【前菜
    枝豆どうふ
    煮ダコの梅酢あえ
    十六ささげ、鰯煮つけミョウガ添え



           【鯛真丈椀

ここから、冷酒に変えて。


           【写 楽


           【お造り

    アオリイカ、平目、鮪



           【蒸饅頭

本日の蒸饅頭は、南瓜でした。
開けた蓋の内側にも目が移ります。




    甘鯛の焼きもの
    とうもろこしのかき揚げ
    味付けもずく


           【のりごはん


           【デザート

美しい器の数々、お楽しみいただけましたか。

今回は、「お盆の特別料理」ということで、平常いただいているランチとは少し内容が異なっていました。
鯛の真丈椀 両手でお椀を持ち、出汁を味わいます。旨い。しみじみ来て良かったと思います。
新鮮なお造り、お饅頭、甘鯛の焼きものは、それぞれに趣向をこらした美味しさです。
のりごはんも、お薦めの逸品。
親戚も大変美味しかったと大喜びでした。

           『 雅味 近どう  』

        住所 岐阜市東鶉3丁目106-1
        TEL ( 058 ) 272 - 5563

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「戻り川心中」 流麗な日本語を堪能してミステリを楽しむ

2017年08月15日 | もう一冊読んでみた
戻り川心中/連城三紀彦  2017.8.15

ミステリ国の人々』(有栖川有栖)紹介の古典、その3は、連城三紀彦氏の 『戻り川心中』 です。

『ミステリ国の人々』の紹介文。

 世の中は行きつ戻りつ戻り川水の流れに抗ふあたわず

 先に引用した歌を読んで「これが天才歌人の傑作か。ピンとこない」と思われた方がいるかもしれないが、素晴らしいのはやはり散文だ。効果を吟味した文章の力によって、読者は幻想の川を流されて行く。真相を超えた真実へと。
 絢爛たる作り物が授けてくれる感動がここにある。読むほどに、ドキドキするようなミステリ国の風景が広がっていく。
 ちなみに、戻り川というのも作者の造語で、辞書には載っていませんからね。


戻り川心中』(光文社文庫)には、花に絡めて五つの短編が収められています。
まず、「戻り川心中」を読みました。

美しい文章である。内容もおもしろい。

 苑田は短い生涯の晩年とも呼べる時期に「情歌」と「蘇生」という連作歌集の二代傑作を生み出しているが、これは苑田が二度に亙(わた)ってひき起こした心中事件を題材にしている。

この文だけで読みたくなります。

登場する女性の描写も巧みです。

 文緒と朱子は色の白さが似ていた。ただ文緒の方は、どんな男の穢(けが)れた手もはねのけてしまう潔癖な白さだったが、朱子の方は、男の手で染めかわるのを待っているような、男の生々しい雫(しずく)が滲(にじ)むためにあるような、濡れた白さだった。文緒の方は穢したくない白さだが、朱子の方は穢してみたい白さだった。

美しい文章である。流れるようさっと読んでしまう。しかし、よく考えてみると下線部など、具体的にはどんな情景なのか、ぼくには思い描くことが出来ないぞ。

 月が雲に隠れ、闇が深まると、水の流れが意外に早いことがわかる。それまでさほど感じなかった水音が、周(まわ)りでいっせいに湧(わ)きあがった。.......

 天空にも流れがある。
 隠した月を逆光に浴び、雲の影はさまざまな濃淡に染めわけられ、墨色の切り紙細工を捨てたように、空の流れに漂っていた。
 風に吹きはらわれ、星は地平線近くに落ち、人家の燈と区別がつかない。その淡い光の屑(くず)は蛍火を追うようである。そんな蛍火の儚(はかな)さで、自分と朱子の二つの命もまだ、燃えつきることなく、天と地が一つになり、果てしなく広がった闇の世界に、引っ懸っているのだ。


5編とも時代は、大正時代です。
その時代と探偵小説の雰囲気が多いに楽しめます。

 色街には、通夜の燈(ひ)がございます。
 今ではもう跡形もなく消え果ててしまいましたが、大正の末のころ、瀬戸内の狭い海に突き出した小さな湊(みなと)町に、まあ当時でさえ、どことなく寂(さび)れた色里がございまして名を常夜坂と申しました。
 その色街に一晩中、灯されておりました白い色冷(さ)めた燈が、この齢になりましてしきりに懐しく思い出されるのですが、思い出すその燈には、不思議に生命(いのち)がないんでございます。


千街晶之氏は、「解説」で次のように述べているが、肯けます。みなさんもご一読下さい。どっぷりつかります。

 本書『戻り川心中』は、わが国ミステリの歴史において、最も美しくたおやかな名花である。流麗な文章、纏綿(てんめん)たる情緒、鮮やかなトリックが、恋愛小説と探偵小説を両立させ、読者を底深い酔いへと導く。

   『 戻り川心中/連城三紀彦/光文社文庫 』

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「ささやかな手記」 こんなことが、この時代に起こるわけがない!

2017年08月14日 | もう一冊読んでみた
ささやかな手記/サンドリーヌ・コレット  2017.8.14

 こんなことが、この時代に起こるわけがない。この二十一世紀に起こるわけがない。このフランスで起こるわけがない。この俺に起こるわけがない。

しかし、何とも不幸なことに俺の身に起こってしまったのだ。

 「こ、ここで、奴隷になってるって言うのか?」
 「信じられないんだな?」
 俺は黙り込んだ。
 鎖の音がして、相手が身体の向きを変えたのがわかった。小さなうめき声も響いてきた。やがてしわがれた声が消え入るように言った。
 「すぐにわかるさ。気の毒だが、すぐにわかるはずだ」


 そもそもバジルはもう、俺を犬と呼ぶことすらない。ヒュッと口笛を吹くだけだ。
 すると俺はバジルのもとに駆けつける。
 俺はいまや、犬のような存在になりはてていた。


犬としての生活が淡淡として、続く。
派手なアクションシーンがあるわけでもなく、山奥での労働の日々が続き、俺は絶望と呪詛を吐き続ける。

 ゆっくり話ができるのは、労働から解放された夕方や夜になってからだ。交わされる会話はそれほど多くない----疲労のせいで、数語だけということもしばしばだ。息がつけるようになったときだけ、ぽっり、ぽっりと話をする。それでも俺たちのあいだには不思議な絆が結ばれた。それは命を維持するまで不可欠とも言えるほどの大切なものだ。それはただ、ふたりのほうがひとりより弱くはないからなのだろう。

「俺は、どうなってしまうのか。もう、そろそろ何かが起きてもいいはずだ」と本を置くことが出来ない。ページは進む。結局、最後のページまで読んでしまった。

さて、俺の運命は、......。

 だから子どものころ、俺はずいぶん泣いた。
 たぶん大人の人生は子どもの人生ほど残酷ではないからだろう、この何年か、運の悪さがやわらいだような気になっていた。ただちょっとついていない人、ぐらいになっていた。だが、ふたたび不運につきまとわれるようになることを覚悟しておくべきだったか?よくわからない。というのも、運の悪さとはきっぱり縁か切れた可能性もあったのだから。それに運が悪いとはいえ、自分がまさか、呪われた運命にあるとは思わなかった。たぶん、そのことをちゃんと自覚するべきだったのだ。たぶん。


ぼくが、『ささやかな手記』で一番印象に残り、かつ笑ったのは、次の部分です。
俺の性格もよく表現されています。

 教会の教理問答の授業で読んだ、一九六〇年代に書かれた一篇の詩。ある男が死後、自分の歩んだ人生を空から眺めている。広大な砂浜に点々と足跡がついている。足跡は彼の人生をあらわしている。自分の足跡のとなりにもうひとつ、別の足跡がついている。神の足跡だ。神が寄り添って歩いていたのだ。だが人生でもっともつらい時期には、なぜか自分の足跡しか見あたらない。だから男は神にたずねる。わたしがあなたを一番必要としていたとき、なぜあなたはわたしを見捨てたのですか。すると神はこう答える。おまえを見捨ててはいない。あの時期、わたしはおまえを抱え持って歩いていたのだ。
 だいたいこんな内容の詩だったと思う。


 だが俺は、俺の人生の最後の時期に俺を抱え持っていたなどとうそぶく神を、はたして信じることかできるのか。俺は猜疑心が強く、すっかりひねくれた性格になってしまったものだから、砂地に一対だけつけられた足跡が、神と並んで歩いていたときのものよりも砂中に深く刻まれているかどうか確かめようとするだろう。俺を抱えているのなら、神は当然、重みを増しているはずだから。
 ずっと昔、神父は言っていた。疑うのは、悪魔が勝利したからだと。
 だが俺はもう、悪魔も信じちゃいない。
 悪魔ですら、俺を見捨てたのだ。


おもしろいミステリでした。

  『 ささやかな手記/サンドリーヌ・コレット
             /加藤かおり訳/ハヤカワ・ミステリ
 』

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地政学リスクで予測が立たず

2017年08月13日 | 捕らぬ狸の経済


 8月10日
 日経平均 1万9729.74円(-8.97円)
 TOPIX 1617.25(-0.65)
 出来高 19億6413万株
 長期金利(新発10年国債) 0.055%(-0.005)
 1ドル=110.00円(0.18円安)


 8月7日  2万0055円  15億0590万株 2兆0353億円
 8月8日  1万9996円  16億5236万株 2兆1292億円
 8月9日  1万9738円  20億6631万株 2兆6976億円
 8月10日  1万9729円  19億6413万株 2兆5327億円

地政学リスクで予測が立たず。
今週も日経平均株価は、引き続き狭いレンジでの値動きが続き、お盆を挟んで夏枯れ相場がさらに激しくなるか。

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     朝日新聞 2017.8.11
     ポテチ販売、9月に大半再開

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カルビーと湖池屋は、昨夏の天侯不順によるジャガイモ不足で休止するなどしたポテトチップスの販売を、9月に大部分で再開する。
北海道産ジャガイモの生育が順調で、「生産能力が昨年並みに回復している」(カルビーの伊藤秀二社長)という。

カルビーは、休止していた「ピザポテト」(25グラム)、「ポテトチップス フレンチサラダ」、「ポテトチップス しようゆマヨ」の販売を9月4日に再開する。
4月から休止していた商品の販売がすべて再開される。
安定的なジャガイモ調達のため産地を分散させ、九州では水田をジャガイモ畑にする方針だ。
湖池屋は4商品の販売を9月に再開する。
九州産ジャガイモの収穫が順調で、北海道産も作付面積を広げた。


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COEDO 「瑠璃」と「漆黒」のビール

2017年08月12日 | ゆめ未来
コエドブルワリー 川越市 2017.8.12

うちの愛娘が、「あげるよ!」 と何やら袋をくれました。



ガチャガチャと瓶の音がします。

中からは、ビールが出てきました。
おお! ありがとう。



コエドブルワリー』 の 「漆黒-Shikkoku-」 と 「瑠璃-Ruri-」 でした。
初めていただくビールです。



写真では、裏ラベルの文字が読めないので書き写します。

               漆黒-Shikkoku-
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 艶やかな黒色と茶白色の細やかな泡立ちのコントラストが冴える長期熟成
 ビール。アロマホップは心地よい香りをあたえ繊細な麦芽の配合が重たす
 ぎないまろやかさと軽やかさのバランスを生み出しました。艶のある黒色
 としっとりとした香味にちなんで、日本が世界に誇る最高の黒の呼称
 「漆黒-Shikkoku-」を名称にいただきました。
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                瑠璃-Ruri-
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 クリアな黄金色と白く柔らかな泡のコントラスト、さわやかな飲み口が
 特徴のプレミアムピルスナービール。軽やかな口当たりながらも、深み
 ある味わいとホップの香味苦味のバランスをとった上質の大人の楽しみ。
 飽きがこず、どんなお食事にも合うビールです。その透明感溢れる特徴に
 ちなんで「瑠璃-Ruri-」と名付けられました。

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             『 コエドブルワリー  』

           住所 埼玉県川越市中台南2-20-1
           TEL  ( 0570 ) 018 - 777

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