BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

光と影の輪廻 Ⅰ

2024年03月09日 | PEACEMAKER鐵 転生不倫パラレル二次創作小説「光と影の輪廻」
「PEACEMEKER鐵」二次創作です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

沖田さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

―ねぇ土方さん、もし本当に“生まれ変わり”というものがあるのなら、どうします?
―何だ、急に?
それは、まだ戦が始まる前、屯所で歳三達と過ごす穏やかな日常の、他愛のない恋人同士の会話だった。
―わたしは、何度生まれ変わってもあなたと一緒に居たいなぁ。
―俺もだよ。
情事の後、歳三はそっと総司の髪を優しく撫でた。
―俺も、もし生まれ変わる事があったら、絶対にお前を見つけてやる。
―約束ですよ!
―あぁ、約束だ。
そう言って自分と交わした“約束”を、歳三が“忘れて”しまうなんて、この時は思いもしなかった。
「沖田さん、沖田さんったら!」
突然、肩を強く叩かれ、総司は我に返って現実の世界へと戻った。
「もう、何ぼーっとしているのよ!レジ、お願いね!」
「すいません・・」
総司は慌てて客が置いたトレーに載せられたパンをレジのバーコードリーダーに通していった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ~」
バイト先のパン屋から出た総司は、自転車で自宅近くの道路を走っていた。
するとその途中の公園で、数人の中学生達が何やら揉めているのを見かけて、気になって総司がその様子を見ていると、どうやら二人組の中学生が一人の中学生に暴力を振っているようだった。
「あなた達、何をしているの!」
「うっせぇよ、ババアはすっこんでろ!」
「そうだ!」
中学生の一人がそう叫び総司に向かって金属バッドを振りかざしたが、それを総司は軽くかわすと彼女に足払いを喰らわせた。
「警察呼ぶわよ!」
「クソッ!」
「おぼえてろよ!」
総司に悪態をついた女子中学生達は、そのまま公園から去っていった。
「大丈夫?」
「はい・・」
「これ、わたしのスマホの番号。またあいつらに何かされそうになったら、連絡して。」
「ありがとうございます!」
「家何処なの?良かったら家の近くまで送ってあげようか?」
「はい・・」
総司が助けた中学生を家まで送ると、彼女は純和風の武家屋敷のような家に住んでいた。
「ここで大丈夫です。」
「おう、帰っていたのか。」
「お父さん!」
ガラガラと、玄関の引き戸が開かれ、家の中から長身の男性が出て来た。
あまりにも懐かしい、その男性の顔を見た途端、思わず泣きそうになってしまった。
(土方さん・・)
顔も姿も、声も、歳三はあの頃と全く変わっていなかった。
「その人は?」
「公園で絡まれていた所をこのお姉さんに助けて貰ったの!」
「そうか・・」
そう言った歳三の態度は、そっけなかった。
「すいません、もう帰りますね。」
「娘をここまで送って下さって、ありがとうございました。」
「いいえ。」

(土方さん、わたしの事を“憶えて”いなかった・・)

150年という、長い時を経て再会した総司と歳三のそれは、随分と呆気ないものだった。

(そりゃそうだよね・・)

頭でそう割り切ろうとしながらも、総司は一晩中“昔”の事を思い出しては枕を濡らしていた。

「土方先生、おはようございます。」
「おはようございます。」
歳三が職員室に入ると、同僚の女性教師が彼に声を掛けて来た。
「“沖田総司”・・」
「あぁ、この子、うちの学校がアルバイト禁止なのに、ベーカリーでバイトして・・」
(うちのクラスか・・)
「土方先生、どうされました?」
「いいえ。」
「そろそろ授業が始まりますから、急ぎませんと。」
女性教師はそう言うと、バタバタと慌ただしい様子で教室から出て行った。
「ねぇ、今日から新しい先生来るんだって!」
「男?女?」
「男の先生だって!」
「え~、どんな人なんだろ?」
教室で女子生徒達がそんな事を話していると、そこへ歳三が入って来た。
「今日からお前ぇらの担任を一年務める事になった土方歳三だ、よろしく頼む。」
「キャ~」
「イケメン!」
周りが騒ぐ中、総司はじっと、歳三の顔を見ていた。
(まさか、土方さんとこんな形でまた会えるなんて・・)
総司がそんな事を思っていると、歳三と目が合った。

“総司”

夢の中で、己の名を呼びながら自分を見つめる歳三の瞳が好きだった。
だが、今は―

(あぁ神様、何故わたし達は・・)

こんなに、残酷な形で再会してしまったのでしょうか。
土方さんは、わたしの事を・・

(こいつ、“何処か”であった事がある・・)

歳三はそんな事を思いながら、総司を見つめていた。

“土方さん”

その声は、何処か懐かしく聞こえた。

土方さん・・

目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
自分の前には、自分のクラスの生徒、沖田総司の姿があった。
―どうしたんですか、そんな気難しい顔をして?
また俳句の事でも考えていたんですか、と、総司はクスクスとそう言って笑った。
ふと周囲を見渡すと、文机の上には一冊の本が置かれていた。
そこには、“豊玉発句集”と表紙に書かれていた。
『返せ!』
―何ですか、そんなに恥ずかしがることないでしょう?
私と土方さんの関係で、隠し事なんて柄じゃないですよ。
『てめぇ・・』
―あはは、そんなに眉間に皺を寄せてちゃ、色男が台無しですよ!
そう言って、屈託の無い笑顔を浮かべる総司が、好きだった。
なのに―
―あはは・・みっともないところ、見せちゃいましたね・・
そう力無く笑った総司の口元は、血に濡れていた。
『総司・・』
何故、彼なのだろう。
何故、自分ではなく、彼が・・
歳三は、そこで夢から目を覚ました。
(何だ、これ・・)
洗顔を終えた後、歳三が鏡を見ると、そこには、見知らぬ男の姿が映っていた。
黒の着流しに、艶やかな黒髪を赤い髪紐で結い上げたその男は、自分と瓜二つの顔をしていた。
“てめぇはまだ、思い出さねぇのか?”
鏡の中の男はそう言うと、歳三を睨んだ。
「あなた、どうしたの?」
はっと彼が我に返って鏡の方を見ると、そこには自分の顔しか映っていなかった。
(一体、何だったんだ?)
「お父さん、お父さんったら!」
「済まねぇ・・」
「もう、今日はどうしちゃったの?」
娘がそう言って心配そうに自分の顔を覗き込んで来た。
その顔が、“誰か”と重なった。
「今日はお仕事、休んだ方がいいんじゃないの?」
「あぁ、そうする・・」
「じゃぁ、わたし達はもう行くから。」
「気を付けてな。」
「ええ。」
この日、妻は娘と共に妻の実家へと帰省する事になっていた。
「数日したら帰って来るから、そんなに心配しないで。」
「あぁ・・」
歳三は二人を玄関先で送り出した後、いつものように車で出勤した。
「土方先生、おはようございます。」
「おはよう。」
「なんか先生、顔色悪いよ、どうしたの?」
「いや、ちょっとな・・」
「ちゃんと病院、行った方がいいよ。」
「わかったよ。」
教師の仕事は、多忙を極める。
生活指導や教材研究、そして部活動の指導・・それだけでも、二十四時間などあっという間に過ぎてしまう。
「はぁ・・」
「土方先生、お疲れ様ですね。」
「大会が近いので、色々と。」
「そうですか。」
歳三はクラス担任と、剣道部の顧問を務めているので、時間が足りない。
「無理は禁物ですよ。」
「わかっていますけれど、中々自分の時間が取れなくて・・」
「そうですか。じゃぁ、わたしはこれで。」
「お疲れ様でした。」
パソコンから顔を上げた歳三が時計を見ると、それは午後八時を指していた。
「あ、土方さ・・先生、こんな時間までどうしたんですか?」
「仕事だ。そういうお前ぇは、どうしてこんな遅くまで残っていたんだ?」
「部活の片付け・・というか、色々と先輩から押し付けられちゃって・・」
そう言って苦笑した総司の周りには、誰の物なのかもわからない胴や面が転がっていた。
「ったく、仕方ねぇな、俺も片付け、手伝ってやるよ。」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、お前ぇを一人で帰らせる訳にはいかねぇよ。」
「ありがとうございます。」
そう言った総司の横顔が、少しやつれているように見えた。
「大丈夫か?」
「最近、バイトをかけもちしていて休む暇がなくて・・」
「休める時は休め。そうしねぇと、身体がもたねぇぞ。」
「はい。先生、今日は家まで送っていただき、ありがとうございました。」
総司はそう言って歳三に向かって弱々しく微笑んだ。
“もう、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。”
京を離れる前、右肩を撃たれ負傷した近藤と共に大坂へと移送させる時、総司は歳三を心配させまいとそう言って無理に笑った。
「これ、俺のスマホの番号とLINEのIDだ。何か困った事があったら連絡しろ、いいな?」
「え・・」
「何でも、一人で抱え込むな。お前ぇは、一人じゃねぇ。」
歳三はそう言うと、そのまま車で去っていった。
(先生、どうしちゃったんだろう?)
アパートの階段を上がりながら、総司が部屋の前まで行こうとした時、そこに一人の青年が立っている事に気づいた。
「あの、うちに何かご用ですか?」
「沖田さん、ですよね?」
「え・・」
「俺、市村鉄之助です!」
「鉄・・君・・」

“沖田さん!”

総司の脳裏に、いつも自分に屈託の無い笑みを浮かべていた少年の顔が浮かんだ。

「あぁ、やっぱり沖田さんだ!」

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