BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

About:注意事項(必読)

2056年06月07日 | About:注意事項
当ブログでは、主に管理人が書くつたない自作BL小説、二次創作小説を載せているブログサイトです。

ここには本サイトで必ず守って欲しいことを書いております。初めて来られた方はまずこのページを必ずお読みください

このサイトに載せている小説の著作権は管理人・千菊丸(せんぎくまる)にあります。小説の加工・無断転載・盗用は厳禁です。また日記の一部には少し妄想系の文章が含まれております。そういった文章が苦手な方は閲覧をご遠慮くださいますよう、お願いいたします。

誹謗中傷、出会い系スパム、商業的CM等のコメントは一切受け付けません。それに該当するコメントは、管理人の独断で見つけ次第即刻削除いたしますので、ご了承ください。また、荒らし・晒し・管理人への誹謗中傷目的の入室はこのブログにいらっしゃらないでください。

ここは性描写ありの一部R18指定の二次創作小説サイトです。一部残酷描写等含みますので、実年齢・精神年齢ともに18歳未満の方や、BL、二次創作が嫌いな方は入室をご遠慮ください。

このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。

このブログサイトは管理人・千菊丸の個人的趣味で運営しているもので、二次創作小説につきましては、出版社様・作者様とは一切関係ありません。また、パラレルなど、必ずしも原作に沿った設定のものではない小説がほとんどですので、そういった類の小説がお嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。また、作品の中には一部残酷描写などが含んでおりますので、そういった描写が苦手な方も閲覧をご遠慮ください。



※追記(2009.5.30)

このブログには映画やドラマのネタバレ感想を載せております。ネタバレが嫌いな方、抵抗感がある方はこのブログをご覧にならないことをお勧めいたします。閲覧は自己責任でお願いいたします。


小説目次について

2010.5.5 追記

小説目次は、「Map:小説のご案内」から閲覧することができます。

しつこく言いますが、このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。


また、時折愚痴などを日記で書いたりしていますので、そういうものを見たくないという方は、閲覧なさらないでください。
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Map:小説のご案内

2056年06月06日 | Map:小説のご案内
ここでは、小説のご案内と注意事項を書いておりますので、「About:注意事項」と併せて初めて来られる方はお読みいただきますよう、お願い申し上げます。

◇小説を閲覧するにあたっての注意事項◇

「About」にも書きましたが、当サイトに掲載してある小説には一部同性愛的な表現や描写、または残酷描写等が含まれます。そういった表現などが苦手な方はすぐさまプラウザをお閉じになってください。


上記にあてはまらない方のみ、カテゴリー内にある各小説のタイトルをクリックしてください。

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夢の揺り籠 第1話

2024年11月22日 | 腐滅の刃 現代転生昼ドラ風ハーレクインパラレル二次創作小説「夢の揺り籠」
「鬼滅の刃」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

炭治郎が女性として転生している設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

「お姉ちゃん、本当に行くの?」
「うん。炭彦の事を頼むな、禰豆子。」
すぐ帰るからと、竈門炭子は泣き喚く息子を妹に預けようとしたが、炭彦は激しい癇癪を起こし、炭子は彼と共にある場所へと向かった。
そこは、寺だった。
読経が本堂内に響く中、炭子は炭彦の手をひきながら、弔問客の列に並んだ。
「ねぇ、まだ?」
「まだだよ、もうすぐ終わるからね。」
愚図る炭彦を宥めながら、炭子は遺族に向かって一礼した。
その席には、炭彦と同じ年位の男児に何かを話し掛けている因縁の相手が居た。
炭子は焼香を済ませると、遺影に向かって一礼した。
そこには、一人の女性が写っていた。
「炭彦、おうち帰ろうか。」
「やだ、遊ぶ。」
炭彦は、そう言いながら木登りを楽しんでいた。
「おうち却って、ばあばと一緒に遊ぼう、ね?」
「やぁだ、やぁだ!」
炭彦は、甲高い声で泣きながら自分に向かって手を伸ばそうとする炭子の手を払い除けた。
「炭彦、お願いだから・・」
「炭治郎。」
背後から、低いバリトンの声がして、炭子が恐る恐る振り向くと、そこには、自分に恐ろしい記憶を刻みつけた男―鬼舞辻無惨が立っていた。
ひゅっと、炭子は喉を鳴らし、無惨から一歩後ずさった。
かつて自分の家族を、仲間を殺した男から、怒りの匂いがした。
「く、来るな!」
「相変わらず、つれないな。あんなに熱い夜を過ごしたというのに。」
無惨は、そう言うと炭子を己の方へと抱き寄せようとしたが、それを一人の男児に邪魔された。
「母ちゃんをいじめるな!」
無惨は、その男児の顔を見て驚いた。
 赤茶色がかった髪、そして赫灼の瞳―かつて己の夢を託そうとして拒んだ“彼”と瓜二つの顔をしていた。
「炭彦、大丈夫だから、帰ろう。」
炭子はそう言って炭彦の手をひくと、そのまま寺をあとにした。
「黒死牟。」
「ここに。」
無惨の傍に影のように控えている彼の秘書は、そう言うと主の傍に立った。
「あの子の事を探れ。」
「はい・・」
(炭治郎、今度こそわたしのものにしてみせる・・わたしの太陽!)
「ただいま。」
「お帰りなさい、お姉ちゃん。炭彦は?」
「二階の部屋で寝てる。」
「お姉ちゃん、何があったの?」
「無惨に会った。」
「何もされなかったの?」
「うん。」
禰豆子と炭子は、前世の記憶を持っている。
前世で仲間だった者達も、全員前世の記憶がある。
そして、無惨をはじめ、鬼だった者達も記憶がある。
「今日は夜勤だったよね、お姉ちゃん。炭彦はわたしが見ておくよ。」
「ありがとう。」
炭子は妹にそう言った後、勤務先の産屋敷病院へと向かった。
転生した炭子、もとい炭治郎は、看護師として働いていた。
前世で多くの者達を看取って来たので、今世では一人でも多くの命を救いたいという一心で、この仕事を選んだのだった。
「炭子ちゃん、おはよう!」
「甘露寺先生、おはようございます!って、もう夜ですよね!」
「相変わらず元気ね!あ、炭彦ちゃんは元気?」
「ええ、元気です。でも元気過ぎて心配です。」
「来年、小学校でしょう?炭彦ちゃんを取り上げた時の事が、昨日の事のようだわ~」
 かつては“恋柱”―そして今世では産屋敷病院で産婦人科医として働いている甘露寺蜜璃は、そんな事を言いながら六年前の事を思い出していた。
「もしかして、あなた炭治郎君!?」
「え、甘露寺さん・・?」
炭子が甘露寺と再会したのは、彼女が看護学校を卒業し、産屋敷病院で働き始めた頃だった。
「へぇ~、禰豆子ちゃんもわたし達も同じなのね?」
「はい。あの、もしかしてですが・・この病院って・・」
「そう、“お館様”が経営なさっている病院なの!伊黒さんと富岡さんは外科で働いているわよ!」
「へぇ~、そうなんですか。早く皆さんにお会いしたいなぁ~」
そんな事を炭子と甘露寺が話していると、ナースコールがけたたましく鳴った。
「すいません、行って来ます!」
炭子が、ナースコールが鳴った病室に入ると、ベッドの上で女性が苦しそうに呻いていた。
「どうされましたか?」
「助けて・・」
女性はそう言うと、意識を失った。
 その後緊急帝王切開手術を行ったが、女性も胎児も助からなかった。
「落ち込まないで。人の命を救う事には限界があるのよ。」
「はい・・」
甘露寺からそう励まされたものの、炭子は病院から出て、溜息を吐きながら駐輪場へと向かう途中、何者かに黒塗りの高級車の中に引き摺り込まれた。
「久しいな、竈門炭治郎。こうして会うのは約百年振りだな。」
そう言いながら炭子を見下ろしていたのは、前世では自分の家族を殺した鬼―鬼舞辻無惨だった。
「無惨、俺に一体何の用だ?」
「わからんのか、鈍い奴め。このような密室で男と女がする事といえば、ひとつしかあるまい。」
無惨はそう言うと、炭子の唇を塞いだ。
「やめ・・」
「わたしのものになれ。」
そのまま、炭子は無惨に抱かれた。
「色好い返事を待っているぞ。」
 悪夢のような時間が終わった後、無惨に解放された炭子は、帰宅後すぐにシャワーを浴びた。
「炭子ちゃん、どうしたの?顔色が悪いわよ?」
「最近、色々と忙しくて・・」
「そうなの。ちゃんとご飯を食べなきゃ駄目よ。」
「はい・・」
炭子は自宅から持参した弁当を食べようとしたが、弁当箱の蓋を開け、香ばしい鶏の唐揚げの匂いを嗅いだ瞬間、激しい吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。
(まさか、そんな・・)
炭子は仕事が終わった後、近所のドラックストアで妊娠検査薬を購入し、帰宅後すぐにトイレで試した。
結果は、陽性だった。
「炭子ちゃん、どうするの?中絶するにしても、身体的に大きな負担が・・」
「産んで、一人で育てます。」
炭子の言葉を聞いた甘露寺は、何も言わなかった。
そして、炭子は炭彦を出産し、実家で母と妹達と共に彼を育て、慎ましく暮らしていた。
「・・そうか、やはりな。」

秘書からの調査報告を受け、無惨は口端を上げて笑った。
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白薔薇の騎士 第1話

2024年11月22日 | 黒執事 現代転生昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説「白薔薇の騎士」
「黒執事」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

一部性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。

“おおきくなったら、けっこんしてくれる?”
それは、他愛のない約束。
“はい。”
互いの小指を絡め、微笑み合ったあの日。

(また、あの夢ですか・・)

目覚まし時計のアラームに起こされ、セバスチャン=ミカエリスは鬱陶しげに髪を掻き上げた。
ドライヤーで手早く髪を乾かしながら、セバスチャンはスマートフォンの待ち受け画面を見て微笑んだ。
そこには、笑顔を浮かべた“恋人”の写真があった。
(何で、こんな事に・・)
シエル=ファントムハイヴは、目の前に立っている男が苛立っている事に気づいた。
いや、正確に言うと、“閉じ込められた”と言った方が正しいのだろうか。
事の発端は、文化祭でシエルのクラスの出し物がメイド喫茶になった事だった。
メイド喫茶といっても、メイド役は数人の生徒達が担当し、それ以外の生徒達は調理と接客をするというシステムだった筈だったのだが―
「え、僕が?」
「頼む!」
シエルが通う学校は男子校で、メイド役をする生徒達は決まっていたのだが、残り一人が決まらない。
困った同級生達は、シエルに白羽の矢を立てた。
結局公平さでじゃんけんをする事になり、負けたシエルがメイド役になったのだが―
(これを、着ろと?)
メイド服は、ミニスカートタイプで、シエルはそれを見た時、絶句した。
負けたのだから仕方ない―そう思いながら、シエルは文化祭を乗り切ろうと決めた。
結果、シエル達のクラスのメイド喫茶は初日から大盛況だった。
「休憩入ります。」
シエルは更衣室に入り、ロッカーで着替えようとした時、コツコツと苛立ったような靴音が聞こえたかと思うと、あっという間にシエルはロッカーの中へと引き摺り込まれた。
「シエル、あなた何でその役を引き受けたんです?」
グレーのスーツに、蒼いネクタイ、そして伊達眼鏡越しに自分を紅茶色の瞳で睨みつけているのは、シエルの恋人で担任教師の、セバスチャン=ミカエリスだった。
「あなた何でその役を引き受けたんですか?」
自分の腰をしっかりと掴み、苛立った口調でそう言ったセバスチャンを見たシエルは、彼の地雷を踏んでしまった事に気づいた。
「しっ、仕方無いだろう、じゃんけんで負けたんだ!」
「ほぉ・・」
セバスチャンの紅茶色の瞳が鈍く光った。
いつも余裕綽々でシエルをからかっている彼だが、異常なまでに自分に近づいて来る者に対して嫉妬深くなるのだ。
「僕をどうするつもりだ?」
「どうするって、こんな所でする事はひとつしかないでしょう。」
セバスチャンはそう言うと、シエルの唇を塞いだ。
「やめっ、こんな所で・・」
「感じている癖に、何を言っているのです?」
セバスチャンは、長い足を巧みに使って、シエルの下半身を弄った。
「あれ~、シエル居ないよ~?」
「何処に行ったんだろう?もしかして、もう帰ったのかな?」
「そうかもね。」
シエルは同級生達が更衣室から出て行く気配を感じて、安堵の溜息を吐いた。
だが―
「何をボーッとしているのです?」
セバスチャンは苛立ち、シエルの濡れそぼった蜜壺を己の肉棒で貫いた。
「あっ・・」
内側から内臓が圧迫されるような激痛と、甘美な快感に襲われ、シエルは思わず呻いた。
「食いちぎられそうですね。」
「急に、動くな・・」
「あなたがいけないんですよ、こんな煽情的な格好をして・・お仕置きですね。」
シエルはセバスチャンの愛撫で何度も絶頂に達した。
「あっ、もう・・」
「言った筈です、お仕置きすると。」
放課後、誰も居ない教室で、シエルはセバスチャンに責め立てられていた。
「セバスチャン・・」
「シエル、愛しています。」
セバスチャンは気絶したシエルを抱えると、教室を出た。
―坊ちゃん、愛しています。
(ん・・)
シエルは、またあの“夢”を見ていた。
恋人となった悪魔に、その魂を喰われる夢。
―セバスチャン・・
―愛しています、シエル。
セバスチャンに唇を塞がれ、その後は記憶がない。
“夢”を見た後、シエルはいつも涙を流していた。
“彼”に会いたい―そう願っていたシエルの前に、セバスチャンが現れたのは、シエルが10歳の時だった。
“初めまして、シエル君。”
セバスチャンに会えた時、シエルは喜びの余り泣いてしまった。
“セバスチャン、大きくなったら、けっこんしてくれる?”
“はい。”

あの時の約束を、セバスチャンは憶えているのだろうか。

―坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ。

闇の中から、誰かの声が聞こえて来た。
その声は、恋人のものに似ていた。
(セバスチャン、何処だ!?)
「シエル、シエル、起きて!」
「ん・・」
シエルが目を開けると、そこには自分と瓜二つの顔をした双子の兄・ジェイドの姿があった。
「早く着替えて支度しないと、遅刻するよ!」
「わ、わかった!」
シエルはジェイドに手伝って貰いながら何とか身支度を済ませ、彼と共に学校へ向かった。
「何とか、間に合ったね。」
「う、うん・・」
朝のHR前、教室に入って来たシエルとジェイドは、渋面を浮かべるセバスチャンと目が合った。
「二人共、今朝は少し遅かったですね。」
「遅いとは、ほんの数分ですよ。」
「まぁ、今回は大目に見ましょう。」
セバスチャンはそう言うと、朝のHRを始めた。
「へぇ、そんな事がねぇ・・」
理科室の主は、そう言うとビーカーで沸かしたコーヒーをジェイドに勧めた。
「こんな苦い物、良く飲めるな。」
「お子様には早過ぎたようだねぇ。」
化学教師・アンダーテイカーは、そう言うと笑った。
「それにしても、あの執事君が君の弟と恋人同士だったとはねぇ。」
「僕はまだ、あいつを認めていない。」
「そうかい。」
アンダーテイカーは今朝焼いたばかりの苺味の骨型クッキーをジェイドの前に置いた。
「その言い方、君の弟とそっくりだねぇ。まぁ、双子だから仕方無いね。」
「テイカー、こんな所に僕を呼び出して、世間話をしたい訳じゃないだろう?」
「鋭いねぇ。」
アンダーテイカーは、そう言った後スマートフォンの画面を見せた。
「それは、インステの僕のアカウント・・それがどうかしたのかい?」
「これをご覧よ。」
その写真は、メイドく服姿のシエルと、制服姿のジェイドのツーショットだった。
“左の子、可愛い”
“抱きたい”
「テイカー・・」
「そんなに怖い顔をしない。」
「今すぐコメントをした奴らの身元を割り出せ。」
「わかったよ・・」
(面倒な事になったなぁ・・)
ジェイドが理科室から出て行った後、アンダーテイカーは溜息を吐きながら愛用のノートパソコンを起動させた。
「兄さん、何処に行っていたの?」
「テイカーの所だよ。」
「あいつ、兄さんに何の用で・・」
「ねぇシエル、これは何?」
「そ、それは・・」
ジェイドのスマートフォンの画面を彼に見せられたシエルは、恐怖の余り顔を強張らせた。
そこには、セバスチャンに横抱きにされているメイド服姿のシエルが写っていた。
「あいつと、一体何があったの?」
「それは・・」
「やっぱり、メイド喫茶なんてやるんじゃなかった。」
 そう言ったジェイドの顔は、何処か恐ろしそうに見えた。
「おやぁ、珍しいねぇ、君が食堂に居るなんて。」
「パートのおばちゃん達がインフルエンザに罹ってしまいましてね。ピンチヒッターとして駆り出されてしまいまして・・」
「へぇ。じゃぁ、Aランチひとつ。」
昼休みになると、食堂は戦場のように忙しくなった。
「Aランチひとつ!」
「あいよっ!」
―ミカエリス先生、手際が良いね。
―本当に何でも出来るんだね。
「シエル、今日のランチは何にする?」
「Bランチにしようかな。」
「わかった。」
シエルがジェイドと共に空いている席へと向かうと、そこにはサンドイッチを食べながらノートパソコンのキーボードを叩いているアンダーテイカーの姿があった。
「二人共、お昼かい?小生はデザートタイムさ。」
そう言ったアンダーテイカーは、チェダーチーズとローストビーフが挟まれたサンドイッチを頬張った。
「あ~、美味しいね。そうだ、“例の件”はもう解決したよ。」
「そう。」
「それにしても、“執事君”は相変わらず生徒達から人気だねぇ。」
「あぁ、そうだな・・」
「おやおや、妬いているのかい?」
「別に、そんなんじゃ・・」
「ふぅん、そうかい。さてと、小生はこれで失礼するよ。」
アンダーテイカーは、そう言うとノートパソコンを小脇に抱えて食堂から出て行った。
「もうすぐクリスマスだね、シエル。」
「うん。色々と、忙しくなるなぁ。」
シエルは学生でありながら、玩具・製菓メーカー・ファントム社の社長をしている実業家でもあった。
クリスマス・シーズンとなると、シエルは毎年クリスマス・シーズン限定商品を考えねばならず、頭痛の種だった。
この日も、シエルは昼食を取りながら、A5サイズのノートにシーズン商品のアイディアを考えていたが、中々浮かばなかった。
「シエル、ちゃんと食べて。」
「うん・・」
ノートを閉じ、シエルは食事を続けた。
「それにしても、今日は忙しかったなぁ。」
「そうだね。」
放課後、シエルとジェイドがそんな事を話していると、校門の前に一台の車が停まった。
―誰だろう?
―さぁ・・
「おぉ、麗しい駒鳥達!」
車から降りて来た金髪碧眼の男は、そう叫ぶなりシエルとジェイドの方に走って来た。
「シエル、あの人、誰?」
「知らない。」
シエルとジェイドは、クネクネと腰をくねらせている男の傍を足早に走り去っていった。
「ジェイド坊ちゃん、お帰りなさいませ。」
「タナカ、出迎えご苦労。」
「シエル坊っちゃんのお姿が見えませんね。」
「シエルなら、あいつと一緒だよ。」
「“あいつ”と申しますと?」
「セバスチャン=ミカエリス。シエルの恋人さ。」
「“人の恋路を邪魔をする者は、馬に蹴られて死んじまえ”という言葉があります。」
「人の恋路・・シエルは僕にとってこの世で一番大事な弟だよ。今も、“昔”もね。」
「本日のデザートは、いかが致しましょう?」
「苺のタルトを頼む。部屋に居るから、タルトが出来たら部屋に持って来てくれ。」
「かしこまりました。」

ジェイドが窓の外を見ると、白い雪が空から降って来た。
それを見ながら、ジェイドは“あの日”の事を思い出していた。
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かたちあるもの 第1話

2024年11月19日 | 黒執事 腐向け現代転生オメガバースパラレル二次創作小説「かたちあるもの」
「黒執事」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

一部暴力・残酷描写有りです、苦手な方はご注意ください。

オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。

―坊ちゃん。
何処かで、自分を呼ぶ声がする。
懐かしく、優しい声。
―坊ちゃん
嗚呼、何も見えない。
何も・・
「シエル、起きて。」
「ん・・」
「もうすぐ、“礼拝”の時間だよ。遅れると、マザーに怒られるよ。」
「わかった・・」
双子の兄・ジェイドに揺り起こされ、シエルは欠伸を噛み殺しながら、ベッドから起き上がった。
寝間着から、“制服”に着替えた二人は、宛がわれた部屋から出て、“礼拝”が行われる講堂へと向かった。
そこには、黒地に金糸を刺繍されたローブを纏った男女が集まっていた。
「皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます。」
講堂に現れたのは、真紅のローブ姿の女だった。
彼女は、“ポラリスの里”代表・マーガレットだった。
マーガレットは、シエルとジェイドをちらりと見た後、信者達にこう告げた。
「今日は、特別な日―聖母様がこの世に降臨した日です。」
「おぉ・・」
「さぁ、祈りましょう!」
讃美歌の歌声を聴きながら、マーガレットは目を閉じた。
「呼ばれた者は、後でわたくしの部屋に来なさい。」
マーガレットは、“礼拝”の後、数人の信者達を自室へと呼んだ。
そこで何が行われているのかを、シエル達は知っていた。
「シエル、ジェイド、こんな所に居たのね。」
「シスター・・」
信者の中には、未成年の信者の世話を務める“シスター”が居た。
「さぁ、あなた達は“紫の間”に入りなさい。」
「はい・・」
シエルとジェイドが“紫の間”に入ると、そこには椅子に手足を縛りつけられた太った男の姿があった。
「こいつが、あなた達の両親を殺した男ね?」
二人は、“シスター”の言葉に頷いた。
やがて、部屋にゴーグルとゴム長の手袋、そして特殊なエプロンをつけた長身の男が入って来た。
男が運んで来たのは、様々な種類の拷問道具だった。
「さぁ、この男に罰を与えなさい。」
男は徐に、ミートハンマーを握って、猿轡を噛まされた太った男に近づいた。
「この男の何処を潰されて欲しいですか?」
二人は、太った男の股間を指した。
「わかりました。」
ミートハンマーを持った男は、太った男の股間に向かって躊躇いなくそれを振り下ろした。
くぐもった呻き声と共に、肉が潰れる音がした。
「後始末はわたし達がします。あなた達は部屋に戻りなさい。」
「はい・・」
ジェイドは、弟の様子が少しおかしい事に気づいた。
「シエル、大丈夫?」
「うん・・」
喘息の発作を起こしかけたシエルは、ジェイドに部屋に介抱された。
「今、薬を持って来るから、休んでいるんだよ。」
「うん・・」
暫くシエルがベッドに横になっていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。
「兄さま・・」
「坊ちゃん。」
頭上から響いた、美しいバリトンの声を聞いた途端、シエルは全身が動かなくなった。
「あ・・」
「シエル。」
シエルがゆっくりと目を開けると、そこには“紫の間”に居た男が立っていた。
「漸く会えましたね。」
男―セバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「あ・・」
「大丈夫、優しくしますよ。」
セバスチャンはシエルの唇を貪りながら、彼のローブを脱がしていった。
「愛しています、シエル・・わたしの愛しのΩ・・」
「シエル・・」

部屋の中から弟の嬌声を聞いたジェイドは、拳を握り締めた。

「シエルは、僕だけのものなのに・・」

僕だけの、Ωなのに―

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不死鳥の唄 1

2024年11月16日 | FLESH&BLOOD 戦国転生昼ドラパラレル二次創作小説「不死鳥の子守唄」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「姫様、どちらにおられますか~!」
「姫様~!」

時は戦国。
東郷家の一の姫・海斗は、輿入れの日に家から飛び出し、馬に乗りある場所へと来ていた。
そこは、森の中にある小さな湖だった。
汗を洗い流す為、海斗が湖の中へと入った時、遠くから蹄の音が聞こえて来た。
「こちらにいらしたのですか、姫様。」
「ナイジェル・・」
「こんな所にいらしたのですね、さぁ、帰りましょう。」
「嫌だ。」
ナイジェルは、馬から降りると海斗に向かって手を差し伸べた。
しかし、海斗はナイジェルを睨みつけると、そのまま向こう岸まで泳いでいった。
「姫様、お待ちを!」
「俺の事は、放っておいてよ!」
海斗がそう叫んだ時、彼女は藻に足を取られ、湖底へと沈んでいった。
「姫様~!」
乳母が悲鳴を上げる中、ナイジェルは湖の中へと飛び込み、海斗を湖の中から救い出した。
「大丈夫ですか?」
「うん・・」
「さぁ、戻りましょう。」
ナイジェルは海斗に着物を着せ、屋敷へと戻った。
「姫様、こちらにいらっしゃったのですか!」
「さぁ、姫様を早くお部屋へお連れして!」
屋敷の奥から東郷家の女中達が出て来たかと思うと、瞬く間に彼女達は海斗をナイジェルから引き離した。
「さぁ海斗様、お方様がいらっしゃる前に早く・・」
「海斗!」
女中達が海斗を着替えさせていると、部屋の襖が勢いよく開き、海斗の母・友恵が入って来た。
「何ですか、その格好は!」
「母上、俺は・・」
「先方にはわたくしが謝って、輿入れの日を延期して貰いました。」
「母上・・」
「何と言おうと、お前をロックフォード家に嫁がせます。」
友恵はそう言って海斗を睨むと、部屋から出て行った。
「ねぇ、ロックフォード家の若様って、どんな方なの?」
「さぁ、わたくし達も存じ上げませんが、ジェフリー様はかなりかぶいた者らいしとか・・」
かぶき者とは、派手な身なりをしたならず者の事で、ロックフォード家の嫡男・ジェフリーに関する悪い噂は、遠くにあるこの東郷の地にも届いていた。
「そのような方と、姫様が夫婦になるなど・・」
「いくら同盟を結び為とはいえ・・」
「姫様が可哀想・・」
海斗は、女中達の話を一切聞かないようにしていた。
(ナイジェルが、俺の家族だったらいいのに・・)
ナイジェルは海斗とは腹違いの兄で、幼い頃から海斗の守役として暮らしていた。
海斗とナイジェルはいつも一緒だった。
だが、母親の身分が低い所為で、ナイジェルは東郷家の一員としてではなく、使用人の一人として扱われていた。
海斗は、ジェフリー=ロックフォードという、まだ見ぬ夫に想いを馳せていた。
同じ頃、そのジェフリーは、今日も派手な身なりをして仲間達と遊び歩いていた。
―あれは・・
―ロックフォード家の若様だ。
―近づいては駄目よ。
―あぁ、恐ろしい・・
通行人達の声を聞きながら、ジェフリーは只管前を向いて歩いていた。
(何とでも言えば良い、俺は何ひとつ恥じるような事はしていない。)
長い金髪をなびかせながら、ジェフリーは仲間達と別れ、森の中へと向かった。
「誰も居ないか・・」
ジェフリーはそう呟くと、湖の中へと入っていった。
「ジェフリーは何処だ!」
「お館様、どうなさったのです?」
「ジェフリーが何処にもおらん!」
「ジェフリー様はもう幼子ではないのですよ、放っておかれては?」
そう言ってジェフリーの父・ジョンの元にやって来たのは、彼の側室のラウルだった。
「そういえば、ジェフリー様が嫁を貰うとか。」
「あぁ。相手は東郷家の姫だとか。何でも、詩歌に優れている美しい姫だと・・」
「まぁ、早くお会いしたいものですわ。」
ラウルはジョンにしなだれかかると、そう言って笑った。
「その姫も不幸な身の上よ、我が国と同盟を結びたいが為に、東郷が人質を差し出すようなものだ。」
「そのような事、当たり前でしょう。まぁ、その姫がこちらに嫁いだあかつきには、わたくしが姫をしっかりと躾けますのでご心配なく。」
「そ、そうか・・」
側室でありながら、ラウルはロックフォード家で権勢を振っていた。
正室であるジェフリーの母はジェフリーが幼い頃に病没し、ジェフリーを実母代わりに育ててくれた乳母もジェフリーが元服してから亡くなった。
ジェフリーはラウルと折り合いが悪く、次第にジェフリーは悪い仲間とつるむようになった。
「ラウル様・・」
「東郷家の姫について、調べなさい。これから、“家族”になる相手の事をもっと知りたいわ。」
「はい・・」
海斗は、日に日に迫って来る輿入れが不安で堪らなかった。
「姫様、溜息ばかり吐いてどうなさったのですか?」
「ナイジェル・・」
「輿入れの日は、俺も傍に居ますから安心して下さい。」
「ありがとう、ナイジェル。」
そして、遂に輿入れの日が来た。
「姫様、どうか気を付けて。」
「ありがとう、ばあや。」
「いよいよですわね、海斗姫がこちらに輿入れされるのは。」
「あぁ、何事もなければ良いが。」
「ええ。」
コメント

守護者の恋 第1話

2024年11月16日 | FLESH&BLOOD 昼ドラ転生マフィアパラレル二次創作小説「守護者の恋」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

「カイト様、どちらにいらっしゃいますか~!」
「カイト様~!」

その日は、海斗の五歳を祝う誕生パーティーが開かれていた。

だがそこは父・洋介の社交場のようなもので、パーティーの主役である海斗は早々にパーティー会場から抜け出し、ある場所へと向かった。
そこは、美しい花々に囲まれた温室だった。
「あぁ、ここはいつも静かでいいな。」
海斗はそう言うと、服を脱いで蓮池の中へと飛び込んだ。
初秋だというのに、温室内は真夏のように蒸し暑かった。
池の中で海斗が暫く泳いでいると、屋敷がある方から大きな音が聞こえて来た。
(何だろう?)
濡れた髪を揺らしながら海斗が裏口から屋敷の中へと向かうと、そこは一面血の海だった。
(父さん、母さん・・)
両親と弟の遺体は、額から血を流したまま大理石の床に転がっていた。
「あ・・」
海斗は堪らず、その場に吐いた。
(どうして・・一体誰が、父さん達を・・)
恐怖と混乱で、海斗は背後に人が忍び寄って来る気配に全く気づかなかった。
逃げようと思った時、海斗は何者かに鳩尾を殴られ、気絶した。
『こいつはいいな。』
『上玉だ、高く売れるぞ。』
目が覚めると、海斗は薄暗い地下室のような所に居た。
(何で、俺は・・)
今、自分が置かれている状況がわからぬまま、海斗に出来る事はただ眠る事だけだった。
海斗が閉じ込められているのは、豪華客船『オフィーリア号』の船倉だった。
そこには、海斗と同じように人身売買組織に拉致・監禁された子供達が居た。
彼らは手足を鎖で繋がれていた。
食事は粗末なスープで、入浴や排泄などは一切出来なかった。
その所為で、船倉内には伝染病が蔓延し、死者は人知れず海へと投げ捨てられた。
そんな悲惨な船倉とは対照的に、船上では連日華やかなパーティーが開かれていた。
そのパーティーには、様々な国籍や人種・性別の人間が集まっていた。
その中で一際目立っているのが、英国人の貿易商・ジェフリー=ロックフォードだった。
背中まである長さの金髪をなびかせ、長身を包むスーツとネクタイは洒落ていて、彼が通るだけでもその場に居た貴族の令嬢達が黄色い悲鳴を上げる程の伊達男だった。
「ジェフリー、こんな所に居たのか、捜したぞ!」
そう言いながらジェフリーに駆け寄って来たのは、ジェフリーの親友兼相棒、ナイジェル=グラハムだった。
「ナイジェル、俺はこちらに居るレディ達と交流しようと思って・・」
「早く行くぞ!」
「あぁ、わかったよ。」
ジェフリーはナイジェルと共に、“ある場所”へと向かった。
そこは『オフィーリア号』の一等船室の乗客であっても限られた者しか入れない秘密のクラブだった。
「おやおや、ロックフォード様がこちらにいらっしゃられるなんて珍しい。」
「李さん。」
仙人のような長いあごひげを持った老人は、ちらりと舞台の方を見た。
「これから、どうなさるおつもりで?まさか、“あれ”に参加するつもりでは・・」
「“あれ”とは?」
「闇オークションじゃよ。」
「闇オークション?」
「まぁ、見ればわかるじゃろう。」
李老人がそう言った時、舞台に一人の少女が現れた。
彼女の顔は蒼褪めており、今にも倒れそうだった。
「さぁさぁ皆様、今宵この場にお集まり頂きありがとうございます。」
舞台袖からシルクハットを被った肥満体の男が現れ、赤毛の少女が着ているドレスを剥ぎ取った。
おおっ、という歓声とどよめきがその場に広がった。
「さぁ、このふたなり娘・・」
海斗は恥辱の余り、その場で命を絶ってしまいたいと思ったが、その前に欲望に塗れた男達に見つめられ、恐怖で震えて動けなくなった。
次第に自分の“身体”が売りに出され、男達が自分を競り落とそうとする姿を見た海斗は、もう何の感情も湧かなかった。
ただ、誰かにこの地獄から自分を救い出して欲しかった。
「親爺、この娘を俺が買おう。」
「えぇっ!?」
ジェフリーが鞄の中に敷き詰めた金塊を肥満体の男に見せると、彼は目を丸くした。
「決まりだな。」
ジェフリーはそう言うと、虚ろな瞳で自分を見つめている娘の手を取り、彼女に向かってこう言った。
「お前を、助けに来た。」
海斗はジェフリーの手を取ると、安堵の余り気絶してしまった。
「お見事ですな。」
「この娘はどうしてあのような場所に?」
「それは後で話しましょう。」
「あぁ。」
ジェフリーは海斗の身体をコートで包んで自分達の船室に入り彼女を寝台に寝かせた後、李老人の方へと向き直った。
「ロックフォード様は、上海は何故か“魔都”と呼ばれているのかわかりますかな?」
「ありとあらゆる欲望が詰まった場所だから、ですか?」
「魔物が棲む都、だからですよ。」
そう言った李老人は、ジェフリーに一枚の新聞記事を見せた。
そこには、ロンドンに住む資産家が妻子共に惨殺されたというものだった。
「この事件で生存者である海斗お嬢様と、こんな形で再会するなんて思いもしませんでした。」
「李さん、あなたは一体・・」
「申し遅れました、わたくしは東郷家の家令をしていた李と申します。」
「そうか。それで李さん、あなたはこれからどうします?」
「魔都・上海はわたしにとってとは庭のようなもの。お供させて頂きますよ。」

彼らが乗った『オフィーリア号』は、人間のありとあらゆる欲望が詰まった、長い航海の果てに魔都と呼ばれる場所へと辿り着こうとしていた。

―海斗・・

(父さん、母さん・・)

闇の中で、家族が自分を呼ぶ声がする。
海斗は必死に家族の姿を捜したが、彼らは何処にも居なかった。
(皆、何処に居るの!?)
海斗が目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋の天井だった。
(ここは・・?)
海斗が見慣れぬ部屋を見渡していると、そこへ一人の青年がやって来た。
「起きたのか。」
「あなたは?」
右目に眼帯をつけた男は、灰青色の瞳で海斗を見つめた。
「俺はナイジェル=グラハムだ。食事を持って来た。」
「ありがとう・・ここは何処?」
「ここは、俺達の“家”だ。」
「“家”?」
「カイトお嬢様・・」
隻眼の男の後に入って来た老人の姿を見た海斗の顔が、明るく輝いた。
「李さん!」
「海斗お嬢様、ご無事で良かったです。」
李はそう言うと、海斗を抱き締めた。
「ここは何処なの?」
「ここは、ジェフリー=ロックフォード様のお屋敷ですよ。」
「その人、だぁれ?」
「漸くお目覚めかい、お姫様?」
そう言いながら寝室に入って来た金髪の天使の姿に、海斗の心は奪われた。
「天使様・・?」
「いや、俺は天使じゃない。お前の守護者さ。」
金髪の天使―ジェフリー=ロックフォードは、蒼い瞳を煌めかせながら海斗を見た。
「守護者?」
「お前を守る者だ。」
ジェフリーは、そっと海斗の髪を優しく梳いた。
「さぁ、朝食を運びましたから、わたくしと一緒に頂きましょう。」
「うん!」
海斗と李を寝室に残し、ジェフリーとナイジェルは屋敷の中庭へと向かった。
「ナイジェル、どうしたんだ、深刻そうな顔をして?」
「ジェフリー、本気であの子を育てるつもりなのか?」
「あぁ。」
「一体どういうつもりなんだ!?俺達はあの子の家族を・・」
「それ以上は言うな。」
ジェフリーはそう言った後、ナイジェルを睨んだ。
「済まない・・」
「ナイジェル、俺はあの子を育てる。」
「好きにしろ。」
ナイジェルは溜息を吐いた後、屋敷の中へと戻った。
「李さん、お父様達は何処?」
「海斗お嬢様・・」
李は海斗に、残酷な真実を告げた。
「そんな・・」
「海斗お嬢様、これからはわたしとロックフォード様があなたをお支え致します。」
「ありがとう、李さん。」
海斗はそう言うと、老家令の胸に顔を埋めて嗚咽した。
「李さん、カイトは?」
「お部屋でお休みになられています。」
「そうか。」
海斗の寝室にジェフリーが入ると、彼女は寝台の中で眠っていた。
その頬には、涙の跡があった。
「心配するな・・俺が一生、お前を守ってやる。」
ジェフリーはそう呟くと、海斗の額にキスをした。
ジェフリー達は翌日、学校を訪ねた。
「まぁ、この子は・・」
「カイトの事を、ご存知なのですか?」
「えぇ。あの事件の時、わたしもロンドンにおりましたから。あの時、カイト様もお亡くなりになられたのかと・・」
校長のスーザンは、そう言った後胸の前で十字を切った。
「ご安心ください、カイト様はわが校で最高の教育を受けさせますわ。」
「よろしくお願いします。」
こうして、海斗は上海にある、聖カトレア女学院に入学する事となった。
貴族や資産家の令嬢などが通うこの学園に、海斗がやって来たのは季節外れの三月だった。
「皆さん、カイト=トーゴ―さんです。これから仲良くしてくださいね。」
「東郷海斗です、よろしくお願いします。」
クラスメイト達は海斗を歓迎したが、それは“振り”だった。
この学園は、生徒も教職員も皆白人だった。
アジア系―東洋人の生徒は海斗だけで、案の定彼女はクラスメイト達から陰湿ないじめを受けた。
無視や陰口に加え、私物を隠されたりしたが、それらの嫌がらせに屈する海斗ではなかった。
「カイト、またお嬢様達とやり合ったのか?」
「だってあいつら・・」
「わかったから、もう泣くな。」
ジェフリーは海斗の髪を優しく梳くと、彼女は堪えていた涙を一気に流した。
学校でどれだけいじめられても、海斗は学校では泣かないと決めていた。
海斗にとって、自分を守ってくれるジェフリーとナイジェルが居る家が、唯一安らげる場所だった。
「ジェフリー、あの子を無理に学校へ通わせなくてもいいだろう?」
「ナイジェル、お前はカイトに対して過保護過ぎる。」
「だが・・」
「カイトは、いじめられても泣き寝入りするような奴じゃない。」
ジェフリーがそう言って紅茶を一口飲んだ時、けたたましく玄関の呼び鈴が鳴った。
「誰だ、こんな時間に?」
「旦那様、お客様です。」
「客?どこのどいつだ?」
「それが・・」
「失礼する。」
李の制止を振り切り、客間に入って来たのは黒衣に長身を包んだ男だった。
男は鮮やかな翡翠の瞳をジェフリーに向けた後、彼に向かってこう言った。
「“彼女”を、返して貰おう。」
「“彼女”?」
「貴様がオフィーリア号の闇オークションで落札した赤毛の守護天使だ。」
「悪いが、カイトは俺のものだ。」
「貴様ぁ・・」
男の翠の瞳がジェフリーを射殺さんばかりに睨みつけて来たが、ジェフリーは飄々とした様子で男を見た。
「あんた、一体何者だ?いきなり他人の家に入って来て、礼儀もクソもないな。」
「うるさい!」
「ジェフリー、どうしたの?」
客間のドアが軋み、寝間着姿の海斗が部屋に入って来た。
「カイト、やっと見つけた!」
男はジェフリーを押し退けると、海斗を抱き締めた。
「やめて、離して!」
海斗は身を捩って暴れ、男の顔を爪で引っ掻いた。
「今日の所はお引き取り願おうか?」
「また来る。」
男はジェフリー達に背を向けると、客間から去っていった。
「若様、カイト様は・・」
「マルティン、車を出せ。」
「はい・・」
男の秘書・マルティンは、主の機嫌が悪い事を知り、無言のまま車を出した。
「お帰りなさいませ、ビセンテ様。」
「ただいま。」
玄関ホールで男―ビセンテの鞄を受け取った時、老執事はビセンテの顔の傷に気づいた。
「ビセンテ様、そのお顔の傷は・・」
「猫に引っ掻かれた。」
「そうですか・・」
「ビセンテ、ビセンテは何処なの!?」
屋敷の奥からヒステリックな女の声が聞こえ、ビセンテは舌打ちした。
「只今戻りました、母上。」
「遅いわよ、一体何をしていたの!?」
「申し訳ありませんでした。」
「早く、汗を拭いて!痒くて堪らないの!」
「わかりました。」
ビセンテは、自分に向かって喚く母・マリアの肥満体を洗った。
二時間かけて洗った後、ビセンテは全身汗だくとなり、浴室へと向かった。
頭から冷水を浴びながら、ビセンテは海斗と初めて会った時の事を思い出していた。
それは、英国が“太陽が沈まぬ帝国”と呼ばれていた頃の事だった。
その日、ロンドンは猛烈な寒波に襲われた。
ビセンテはその寒空の下を歩いていた。
薄手のコートはボロボロで、履いている革靴も擦り切れている。
(今日も、駄目だった・・)
勤めていた会計事務所が破産し、職探しをしていたが、いつまで経っても仕事は見つからなかった。
近くのパン屋の前を通りかかったら、パンの良い匂いがしてきた。
財布の中を見ると、硬貨しか残っていなかった。
ビセンテが諦めてパン屋の前を通り過ぎようとした時、彼の前に一台の馬車が停まった。
「お嬢様、お足元にお気を付けくださいませ。」
「わかったわ。」
馬車の中から降りて来たのは、薔薇色のドレスを着て、同色系の帽子を被った貴族の令嬢だった。
帽子の隙間から、炎のように鮮やかな赤毛が見えた。
パンを買う金すらない自分と、美しいドレスを身に纏い、何不自由ない暮らしを送っている彼女を比べ、ビセンテは惨めな思いをしていた。
「落としましたよ。」
「ありがとう・・」
空腹の所為で頭がボーッとしていたビセンテは、財布を落としている事に全く気づかなかった。
令嬢から財布を受け取ったビセンテは、瞬く間に彼女と恋に落ちた。
俗に言う、一目惚れというやつである。
その令嬢―海斗とビセンテは、結ばれなかった。
海斗は死に間際、ビセンテにこう言った。
「また、あなたに会いたいわ。」
そして、ビセンテはあの闇オークションで海斗と”再会“した。
だが、海斗はビセンテの事を憶えていなかった。
(カイト・・)
シャワーを浴びた後、ビセンテは髪を乾かさずに寝室に入ると、泥のように眠った。
「失礼致します、ビセンテ様。」
「どうした?」
「お客様がお見えになっています。」
「こんな朝早くに、一体誰だ?」
「ロックフォード様、とおっしゃる方で・・」
「わかった、客間に通せ。」
「かしこまりました。」
数分後、ビセンテが客間に入ると、そこには紅茶を飲んでいるジェフリーの姿があった。
「昨日はあんたに無礼な事をしたから、今日は俺がこちらにお邪魔しようと思ってね。」
「ここへは何をしに来た?」
「そう警戒しなさんな。俺はただ、宣戦布告しに来ただけなんでね。」
「宣戦布告、だと?」
「あぁ、カイトの事だ。カイトは、俺の花嫁となる娘だ。だから、あんたにはカイトの事を諦めて貰う。」
「それは無理だな。わたしは、カイトを決して諦めない。」
蒼と翠の瞳との間に、見えない火花が散った。
「お帰りなさいませ、ジェフリー様。サンティリャーナ様との話し合いは如何でしたか?」
「いや、話し合いも何も、向こうはカイトを諦めないとさ。」
「そうですか。」
そう言った李は、何処か嬉しそうな顔をしていた。
「ただいま。」
「カイト、お帰り。」
夕方、海斗が帰宅すると、ジェフリーが笑顔で彼女を迎えてくれた。
「あのね、今日テストで満点を取って先生に褒められたんだ!」
「良かったな。」
ジェフリーはそう言って微笑むと、海斗の頭を撫でた。
「ジェフリー様、お手紙が届いております。」
「わかった。」
 李からサンティリャーナ家の舞踏会の招待状を受け取ったジェフリーは、暫く何かを考えこんだような顔をしていた。
「出席するのか?」
「あぁ。」
ジェフリーはそう言うと、口端を上げて笑った。
「サンティリャーナ様、本日はお招き頂き、ありがとうございます。」
「どうぞ、楽しんで下さい。」
「あら、何て可愛いお姫様なのかしら?」
「あそこにいらっしゃるのは、ロックフォード様とグラハム様ではなくて?」
「社交嫌いなグラハム様がこのような場所にいらっしゃるなんて、珍しいわね。」

そう囁き合っている貴婦人達の視線の先には、薔薇色のドレスを着た海斗をエスコートしているジェフリーとナイジェルの姿があった。
コメント

運命の華∞1∞

2024年11月15日 | FLESH&BLOOD 昼ドラ転生オメガバースパラレル二次創作小説「運命の華」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


オメガバースパラレルです、苦手な方はご注意ください。

もう二度と会えない貴方に、最期に会いたいと思うのは我儘なのでしょうか。

貴方と会い、共に歩み、愛し合った日々。

そのどれもが、僕にとっては宝石のように美しく大切なものとなりました。

もう一度、貴方に会えたらどんなにいいのか―

「東郷さん、おめでとうございます、元気な男の子ですよ!」

まるで全身を炎で焼かれるかのような激痛の後、この世に産まれ落ちたのは、金髪碧眼の天使だった。

その生命の重みを胸に抱いた時、涙が止まらなくなった。

“カイト”

耳朶を震わせ、胸を高鳴らせた声。

自分を慈しみ、愛してくれた大きな手。

そして何よりも、自分を愛しく見つめた、晴れた日の海の様な、美しい蒼い瞳―ジェフリー=ロックフォードの存在は、今も海斗の中で生き続けている。

(あぁ、この瞳・・貴方と同じ色の瞳を持った子が、死に掛けた俺の魂を救ってくれた・・まるで、不死鳥の様に。)

二度と会えなくても、僕は大丈夫。

だって、僕には、貴方の瞳を持った魂の分身が居るから。

いつか貴方と会えるその日まで、僕はこの子と生きてゆくよ。

さようなら、ジェフリー。

さようなら、この世で最も愛した人。

息子を抱きながら、海斗は胸の前で三回拳を叩いた。

“俺の全ては、貴方のもの”

時折、冷たい潮風が頬を撫でる。
(何もないな・・)
幾度も母から生前聞かされていた通り、ホーの丘には何もなかった。
「やっと着いたよ、母さん。」
俺はそう言うと、そっと服の上から首に提げている母の形見であるシー・チェストの鍵にそっと触れた。
「ジェフリー君、お母さんが!」
母が死んだ日の事を、良く憶えている。
その日、学校の授業が終わって教室で帰り支度をしていると、母の親友・森崎和哉が教室に入って来た。
「母さん!」
母の病室に着いた時、母は苦しそうにしていた。
「海斗、ジェフリー君が来たよ!」
「ジェフリー・・」
「母さん、俺はここに居るよ!」
母にそう呼びかけると、母は俺の手を握った。
「会いたかった・・ジェフリー、お願い、俺を見て・・」
母はその時、俺ではない“誰か”を見ていた。
「ジェフリー・・」
「カイト、俺はここに居るよ。」
「良かった・・」
母は、静かに息を引き取った。
母の葬儀の後、俺は母の書斎から一枚の手紙を見つけた。
そこには、自分の遺灰はプリマスの海に撒いて欲しいという旨が書かれていた。
「君が、プリマスに行くべきだ。これは君にしか、出来ない事だから。」
こうして俺は、母との思い出が詰まった地・プリマスへと向かった。
「やぁ、君がカイトの息子さんだね?はじめまして、わたしはJPコナー、カイトとは生前親しくしていたよ。」
プリマスで、いやこのイングランドでJPコナーの名を知らない者は居ない。
世界的に有名な、石油産業をはじめとする大企業のオーナー。
「初めまして、ジェフリーと申します。」
「ここで立ち話もなんだから、近くのレストランで食事をしながら話そうか?」
「はい。」
JPは、俺に色々と興味深い話をしてくれた。
16世紀のイングランドにタイムスリップした事、そして母も同じ体験をした事。
「JP、俺の父親は誰なんですか?」
「16世紀に活躍したフランシス=ドレイクの部下であり伝説の海賊、ジェフリー=ロックフォード。スペインの無敵艦隊をアルマダの海戦で海の藻屑にした英雄、それが君の父親だ。」
「そんな・・」
「信じられないと思うが、カイトは、わたしと同じ体験をしたんだ。ホーの丘でタイムスリップして16世紀のイングランドでロックフォード船長と出会い、恋に落ち、結ばれた。」
「もしそれが本当ならば、何故母は21世紀に戻ったのですか?」
「君のお母さんは、当時死病とされていた肺結核に罹っていた。そして、その病を治す為に現代へと戻った。カイトは、愛する人と別れる辛さは、己の半身を引き裂かれるかのように辛かっただろう。やがてカイトは肺結核を治し、16世紀へと戻った。ジェフリーと運命を共にし、生きる為に。」
「でも、母は戻って来た。」
「ジェフリー、君はまだ若いから、心から愛する者との別れが辛い事はまだわからないだろう。」
「母は、最期に、俺を通して“誰か”を見ていました。」
「ジェフリー=ロックフォードの肖像画は、見た事があるかね?」
「はい、母が書斎に飾っていました。俺と瓜二つの顔をしていて驚きました。」
母の遺品整理をしている時、俺はある物を見つけた。
それは、羊皮紙で書かれた手紙の束だった。
そこに書かれている物は、美しい装飾文字で書かれていた。
「この手紙を、あなたに見て欲しくて、連絡したんです。」
「これは、君の父親がカイトに宛てたラブレターだよ。内容は、“お前を愛している”、“片時も離れたくない”・・」
余りにもベタ過ぎる内容に、俺は思わず飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。
「JP、色々とありがとうございました。」
「いつでもおいで。君が知らなかったご両親の話をしてあげよう。そういえば君はバース検査は受けたかね?」
「はい。αでした。」
この世には、α・β・Ωという第二性・バースがある。
俺の母は、Ωだった。
Ωは繁殖に特化した“劣等種”で、三ヶ月に一度ある発情期(ヒート)を迎えると、αをフェロモンで誘う為、長い歴史の中で迫害されて来た。
法整備され、社会的地位が向上しても未だに差別や迫害の対象になっている21世紀―それよりも医療福祉面に於いて最悪な16世紀で母がどう生きていたのかを知りたかった。
母の遺灰を海に撒いた後、俺は母がタイムスリップしたというホーの丘へと向かった。
丘を暫く歩いていると、俺は何かが光っている事に気づいた。
光っているものへと近づくと、それはやがて俺を包み込んだ。
(嘘だろ!?)
助けを呼ぼうにも、声が出なかった。
やがて俺の意識は、闇に包まれていた。
「ジェフリー、こっちよ!誰か倒れているわ!」
耳元で喚く声、そして幾つかの足音。
「ナイジェル、ジンを寄越せ!」
「アイ。」
急に喉が焼けるような痛みに襲われ、俺の目の前には黒の眼帯をしている男と、胸元が大きく開いたドレス姿の女が、俺を見つめていた。

「リリー、ナイジェル、気が付いたか?」

月明かりを受けて美しく輝く金髪。
そして、宝石のような蒼い瞳。

「父・・さん?」

「カイト、大丈夫か?」
「ちょっと、疲れが溜まっただけ。」
海斗は、最近体調がおかしい事に気づいた。
微熱、強い眠気、倦怠感―それはまるで、肺結核の初期症状に似ていた。
それに、食欲が全く湧かなかった。
「どうした、坊主?もういいのか?」
「うん・・」
ジョーが作ってくれた鶏肉のスープを、海斗は半分残してしまった。
「一度、トマソン先生に診て貰おう。」
「うん・・でも、発情期かもしれないし・・」
「そうか。」
数日後、海斗はジェフリーに白鹿亭へと連れて行って貰った。
「カイト、あなた妊娠しているわ。」
「妊娠・・」
「あなたがΩだという事を知っているのは、わたしとジェフリー、ナイジェル、キット、そしてグローリア号の皆と、トマソン先生、ドレイク閣下だけ。ウォルシンガムはあなたとジェフリーを監視する事をやめたけど、この前みたいな事が起きる可能性がある。それに、16世紀の医療と21世紀の医療は全く違う。」
「俺に、また21世紀に戻れって・・ジェフリーと別れろって?そんなの、嫌だ!」
「カイト・・」
リリーは、震える海斗の背を優しく擦った。
「俺は、ジェフリーと別れたくない!もう離れ離れになるのは嫌だ!」
「ジェフリーに妊娠を隠す事は出来ない。じっくりと二人で話し合って。」
「わかった・・」
リリーの話を海斗から聞いたジェフリーは、海斗にこう言った。
「カイト、子供を産んでくれ。」
「でも、あなたはどうするの?」
「俺の事は心配するな。」
ユアン、マーシー、ルーファス、グローリア号の皆は、海斗の妊娠を祝福してくれた。
「余り身体を冷やすなよ!春になったとはいえ、まだ寒い日が続くんだからな。」
「ありがとう。」

海斗は、ジェフリー達と穏やかな日々を過ごしていた。

一方、ネーデルラント総督邸の地下では、21世紀に居る筈の森崎和哉の姿があった。

「目が覚めたかい?」
水を顔に掛けられ、和哉が目を開けると、目の前には金色の瞳をした悪魔が立っていた。
「ここは?」
「ネーデルラント総督邸の地下牢さ。君はジパング人だろう?前にリスボンで君と同じジパング人の少年と会ったからね。」
「あなたは、海斗を知っているのですか?」
「その様子だと、カイトを知っているようだね?まぁ、彼は肺病で亡くなったようだけど・・」
「海斗は生きていますよ。僕は彼を取り戻しに来たんです、未来から。」
「へぇ、面白そうな話だね。」
ラウル=デ=トレドは、フェロモンを和哉に向かって放ったが、彼は全く動じなかった。「無駄ですよ。僕には、海斗という番が居ますから。」
「そう、それは残念。君はどうして未来から来たの?」
「僕を狂人扱いしないんですか?」
「私は、君に興味が湧いた。だから聞かせておくれ、君の話を。」
和哉はラウルに、海斗の結核が治り、彼が16世紀に戻った事を話した。
「カイトは生きているのか。だったら、復讐しがいがあるね。」
和哉はカッとなって、ラウルの胸倉を掴んだ。
「海斗には手を出さないでください。僕は海斗とジェフリーとの仲を引き裂ければいいのです。」
「気に入った。」
ラウルはそう言って笑うと、その身に纏っていた漆黒の僧衣を脱ぎ捨てた。
「無駄だと言ったでしょう?」
「安心おし。私は子が産めないΩだから、何もこの身には宿らないさ。」
「子を産めないΩ?」
「身の上話をするのは後にして、今は楽しもうか。」
そう言って己の背を撫でるラウルの白い手が、獲物を捕らえようとしている蛇に和哉は見えたような気がした。
「カズヤ、これからよろしくね。」
(海斗、僕は君を取り戻す為なら、何だってする。この魂を悪魔に売り渡してでも、僕は君を愛したい。)
海斗は酷い悪阻に襲われ、水以外の食べ物を一切受け入られなくなってしまい、その身体は日に日に痩せていった。
「カイトを元の時代に戻すだと!?本気で言っているのか、ジェフリー?」
「カイトと良く話し合って決めた事だ。」
「カイト、お前はそれでいいのか!?」
「もう、決めた事なんだ。」
「嫌だ、俺は・・」
「俺だって、21世紀に戻りたくない!でもこれは、俺一人の問題じゃない。」
海斗はそっと下腹を撫でた。
「今まで俺を支えてくれてありがとう、ナイジェル。あなたの事は忘れないよ。」
「そんな、今生の別れみたいな事を言うな・・」
(俺は、いつもあなたの事を傷つけてばかりだ、ナイジェル・・)
「カイト、俺の魂は必ず、お前を見つけ出す。」
「ナイジェル・・」
海斗が21世紀へと戻る日が近づくにつれ、ジェフリーは書斎に引き籠もるようになった。
「ジェフリー、入ってもいい?」
「あぁ。」
海斗がジェフリーの書斎に入ると、彼は何かを小箱の中に入れていた。
「それは何?」
「向こうに着いたら開けてくれ。」
「わかった・・」
夏至の夜、海斗達は月明かりを頼りにジェフリーの屋敷から出て、ホーの丘へと向かった。
「やっと会えたね、海斗。」
そこには、昏い笑みを口元に湛えた和哉の姿があった。
「和哉、どうして・・」
「君はずっと僕の傍に居るんだ・・永遠に!」
和哉はそう叫ぶと海斗の腕を掴んだ。
「ジェフリー!」
母は、燃えるような赤い髪をしていた。

母の地毛は黒だったが、赤は一番好きな色だからと、母は嬉しそうに笑って俺に話してくれた。
母は、俺の事を大切に育ててくれた。
住み慣れたイングランドを離れ、母国・日本での慣れない生活にストレスを感じていただろうに、一切俺には弱音や愚痴を吐いたりしなかった。
どんなに仕事が忙しくても、母は毎日手作りの弁当を作ってくれたし、学校行事にも欠かさず参加してくれた。
金髪碧眼という俺の容姿は、黒髪ばかりの日本では目立った。
その所為で、中学校に入学してから、俺は毎日生活指導の教師から目をつけられた。
母は俺の髪が地毛だと何度も学校に説明したが、学校は、“黒髪にすればいい”との一点張りだった。
母は日本を離れ、イングランドで再び俺と暮らす事になった。
イングランドの学校生活は、日本のそれとは全く違った。
他人に迷惑を掛けていなければ、髪の色や髪型、下着の色などを詮索してくる教師は居なかった。
母は、週末になると休みを取って、俺をプリマスへと連れて行ってくれた。
「ここが、父さんと別れたホーの丘だよ。」
「どうして、父さんと別れたの?心から愛していたんでしょう?俺の所為?」
「そうじゃないよ・・」
母が辛そうな顔をしていたので、俺はそれ以上何も聞けなかった。
その後だった、母が病に倒れたのは。
主治医である和哉おじさんが言うには、母さんは俺を産む前に結核に罹った事があり、完治した筈のその菌が、再び母さんの肺の中で暴れ出したのだという。
「海斗を助けるには、生体肺移植しかない。でも適合するドナーが現れるまで時間がかかるし、それまでに海斗の体力が持つかどうか・・」
目の前に突き付けられた厳しい現実に、俺は愕然とするしかなかった。
「ジェフリー・・」
「母さん・・」
「ごめんね、お前を独りにさせたくないのに・・」
「大丈夫だよ、母さん。」
「そう、良かった。」
母さんが入院して、俺は母さんと分担していた家事を全てやる事になった。
学校が終わると、俺はいつもスーパーに寄って食材を買い、二人分の食事を作った。
「ありがとう、ジェフリー。」
「味は余り保証しないけれど、母さんが喜んでくれるだけでも嬉しいよ。」
母は、俺の料理を喜んで食べてくれた。
俺は、母が喜ぶ顔が見たくて、クッキーを焼いて母に持って行ったりしていた。
そんなある日の事、俺がいつものように母の病室に行こうとした時、中から母と誰かが言い争う声が聞こえて来た。
「お願いだカイト、私と一緒にアメリカに来てくれ!」
「俺はこのまま、イングランドで死んだっていい!俺の魂は、死んだのも同然なんだから!」
「そうか・・お前の心は、もうロックフォードのものなのだな。」
「お願いだから帰って、ヴィンセント。」
暫くすると病室から、一人の男が出て来た。
「お前は・・」
彼は俺の顔を見た後、何かを悟ったような顔をして、宝石のような美しい翠の瞳から一筋の涙を流した。
母が死んで一ヶ月が過ぎた頃、俺は和哉おじさんと母さんの墓参りに行った。
すると、母の墓には美しいマリーゴールドの花束が供えられていた。
その花束を見た時、俺はあの翠の瞳をした男を思い出した。
「ん・・」
「坊や、気が付いたの?」
ゆっくりと目を開けると、俺はベッドに寝かせられていて、俺の周りには、ホーの丘で会った人達が立っていた。
「ここは・・」
「動かないで、あなたは頭を強く打っているみたいだから、暫く横にならないと・・」
「あなたは、誰ですか?」
「わたしはリリー、“白鹿亭”の女将よ。それと、わたしの隣に居るのは、ナイジェル=グラハム、グローリア号の航海長よ。」
「あなたが、あのナイジェル・・」
「俺の事を、知っているのか?」
「はい・・母が良く、あなた達の事を話していたので・・」
「もしかして、あなたは・・あの時の・・」
リリーの表情を見た俺は、ここが何処なのかすぐにわかった。
16世紀―母が父と出会い、生きた時代。
「あぁ、何て事・・昔カイトと話していたのよ、あなたはきっと、ジェフリーに似た男の子だって。やっぱり、カイトの予言は的中したのね!」
「カイトは、元気にしているのか?」
「母は、一月前に亡くなりました。」
「そうか・・」
ナイジェルは、俺の言葉を聞いた後、涙を流した。
「これを必ず、ナイジェルに渡してくれって、母さんが・・」
俺はそう言うと、ジーンズのポケットからトパーズのペンダントを取り出した。
「これは・・」
「母さんがあなたの幸運と健康を祈っているって・・もしあなたに会う事が出来たのなら、必ずこれを渡してくれって・・」
「そうか。お前、名前は?」
「ジェフリーと申します。」
「ジェフリーか。父親と同じ名前だと呼びづらいな。お前、幾つだ?」
「14です。」
「“ジュニア”という年ではないわね。」
「あの、父さんは今何処に?」
「ジェフリーなら、今こっちに向かっているわ。」
「そうですか。」
俺がそう言った時、一人の男が部屋に入って来た。
「ジェフリー、この子が・・」
「お前がここへ来たって事は、カイトはもう・・」
「亡くなる前に、母とあなたを会わせてあげたかったです。」

―ねぇ、見てよあれ。
―子供が可哀想。

それは、ジェフリーの六ヶ月健診の帰りに、電車の中で海斗がジェフリーをあやしていた時の事だった。
ヒソヒソと、女性二人組が海斗の方を見ながら話をしていたが、話の内容は想像しなくてもわかる。
(他人に迷惑かけてねぇのに。)
出産して暫く経ってから、海斗は黒の地毛が斑になった髪を美容室で赤く染めた。
母親になったのなら、子供の為に尽くし、お洒落などすべきではないというカビが生えた古臭い考えが日本には未だ残っているようで、海斗はジェフリーを連れて外出する度に周囲から非難めいた視線を送られた。
「ママの髪はどうして赤いの?」
「ママは、赤い髪が好きだからだよ。」
「ふ~ん。」
イングランドで長年暮らしていた海斗にとって、日本での子育てはとても息苦しくて窮屈なものとなった。
頼れる家族や友人も居ない。
いつも仕事や家事、育児追われていた海斗は、いつしか自分に発情期が来なくなっている事に全く気付かなかった。
「ねぇ、ジェフリー君ってきっとαだと思うわ。」
「そ、そうかな?」
「だって、あんなに可愛くてスポーツ万能だし、人気者だし・・」
この会話を、ママ友と何度もした事だろう。
バース性が何であろうが、本人が自分らしく生きればそれでいいと、海斗は思っている。
しかし、バース性への差別や偏見は、21世紀になっても未だに残っている。
Ωであり、様々な差別や偏見に苦しんで来た海斗は、社会に未だ蔓延る、“α至上主義”思考にモヤモヤしてしまう。
「ママ、どうしたの怖い顔して?誰かに何か言われた?」
「ううん、何でもないよ。」
「ママ、誰かに言われたら、俺がそいつをぶっとばしてやるから。」
「ありがとう、ジェフリー。その気持ちだけで嬉しいよ。」
「ママ、今日は二人でハンバーグ作ろう!」
「うん!」
ジェフリーと手を繋いで、海斗は近所のスーパーへと買い物に行った。
「ママ、お菓子買ってもいい?」
「いいよ。」
ずっとこんな幸せが続くと思っていた。
だが―
「東郷さん、最近発情期が来たのはいつですか?」
「10年位前ですかね・・」
「発情期を迎えないΩは、病気に罹りやすくなるんですよ。」
「そんな・・」
「現代の医学は進歩していますから、大丈夫ですよ。」
「はい・・」
海斗は不安を抱えながらも、ジェフリーと暮らしていた。
ジェフリーは成長するにつれて、父親に少しずつ似て来ている。
外見だけではなく、性格も。
もしジェフリーが自分と瓜二つの顔をした息子と一緒に暮らしたら、どんな反応をするだろうか。
(やっぱり、驚くかなぁ。)
仕事が休みの日、海斗がそんな事を思いながら紅茶を飲んでいると、テーブルの上に置いてあったスマートフォンがけたたましく鳴った。
「はい、東郷です。」
『もしもし、こちら・・』
ジェフリーが頭髪検査を受けて、教師から指導を受けたのは何度目だろう。
『地毛証明書』を学校に提出したが、状況は変わらなかった。
「もうこれ以上・・」
「先生、俺は何度も言いましたよね?この子は、地毛だって。」
「しかしですね、学校側としては・・」
「もういいです。ジェフリー、行くよ。」
「母さん!?」
「もうこんな所には居られません。今までお世話になりました。」
海斗はジェフリーを連れて日本を離れ、イングランドに戻った。
イングランドでの暮らしも、楽ではなかった。
しかし、今まで暗い表情を浮かべていたジェフリーが、どんどん明るくなっていくのを見て、海斗は自分の選択が間違っていないと信じた。
ずっと、ジェフリーと一緒に居られると―彼がやがて自分の元から巣立つその日まで居られると、海斗は思っていた。
しかし、運命は残酷だった。
突然職場で喀血して倒れた海斗は、病院に搬送され、医師から難治性の肺結核だと告げられた。
「通常ならば、抗生物質で治療する事が出来ますが、東郷さんの場合は、生体肺移植しか助かる道はありません。」
「そんな・・」
「長くても半年、短くても三ヶ月もてば・・」
海斗は自分に残された時間を、自分の為に使う事にした。
(ジェフリー、あなたにもう一度会いたかったよ。)
書きなれない16世紀の文字で海斗が最愛の人に宛てた手紙を書いていると、病室のドアが誰かにノックされた。
「どうぞ。」
看護師が入って来たのかと思った海斗だったが、病室に入って来たのは、漆黒のスーツを着こなした黒髪翠眼の美青年だった。
「ヴィンセント・・どうしてここに?」
「カイト、やっと会えた。」
美青年―ヴィンセントことビセンテ=デ=サンティリャーナは、そう言うと海斗を抱き締めた。
「止めて、俺は・・」
「お前の病気の事は知っている。カイト、私と一緒にアメリカへ来てくれ。」
「嫌だ。」
「何故だ?アメリカに行けば、お前は死ぬ事はないんだ!」
「俺はこのまま、イングランドで死んだっていい!俺の心は、死んだのも同然なんだから!」
「そうか・・お前の心は、もうロックフォードのものなのだな。」
ビセンテは、そう言うと涙を堪えた。
「お願いだから帰って、ヴィンセント。」
ビセンテは、海斗の病室から出た時、一人の少年とぶつかった。
「済まない、怪我は無いか?」
「はい・・あの、俺の顔に何かついていますか?」
「いや・・」

その少年は、かつて剣を交えたあの憎いイングランドの海賊、海斗の想い人であるジェフリー=ロックフォードと瓜二つの顔をしていた。

(カイト、私がお前を救う事は出来ない・・だがせめて、お前の魂が迷う事無くロックフォードの元へ行けるよう、神に祈ろう。)

ビセンテは少年に背を向け、静かに歩き出した。
その日以来、彼は二度と海斗に会いに行かなかった。
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禁断の果実 1

2024年11月15日 | 薄桜鬼 不倫転生昼ドラパラレル二次創作小説「禁断の果実~愛の檻~」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

一部性描写含みます、苦手な方はご注意ください。

「おめでとう!」
「お幸せに~!」
晴天の空に響く鐘の音を聞きながら、雪村千鶴はタキシード姿の新郎を、切ない表情を浮かべながら見ていた。
その隣に立てたのは、自分の筈だったのに。
何故、もっと早くに会えていなかったのか。
悔やんでも仕方が無い事なのに、どうしてもそんな事を思ってしまう。
千鶴の視線を感じたのか、新郎は紫紺の瞳を彼女に向けた後、そのまま新婦と共にリムジンへと乗り込んだ。
「千鶴ちゃん、大丈夫?」
「うん。」
「そんな顔して、そう言われても信用できないわ。」
鈴鹿千は、そう言うと千鶴の肩を叩いた。
「恋の悩みなら、聞くわよ?」
「うん・・」
恩師であった土方歳三の結婚式に参列した後、千鶴は適当な言い訳をして披露宴を欠席すると、駅前の大型ショッピングモールの中にあるフードコートで、千と向かい合って座った。
「どうして、わたしじゃなかったんだろうって、思っちゃったんだ。」
「わかるよ、その気持ち。土方先生と千鶴ちゃん、ラブラブだったものね。」
「そうかな?」
「周りもさ、二人がそのまま結婚するって思っていたのよ?千鶴ちゃんが大学に入ってから、土方先生毎日送り迎えしていたし、合コンにもサークルの飲み会にも来ていたものね。千鶴ちゃん、あの頃幸せそうだったし・・」
「昔の事よ、そんなの。」
千鶴と歳三は、高校時代から恋人同士だった。
歳三は千鶴に対して少し過保護な所があったが、それでも彼と一緒に居られるだけで幸せだった。
大学を卒業した千鶴は、社会人として慣れない仕事に奮闘している内に、歳三と連絡を取り合う事が次第に少なくなっていった。
「自業自得、だよね。きっとあの人、わたしに飽きて・・」
「それは違うわよ、千鶴ちゃん。」
千はそう言うと、千鶴の手を握った。
「土方先生ね、千鶴ちゃんと急に連絡が取れなくなって心配していたのよ。」
「そうなの・・」
あの頃―千鶴が社会人として忙殺されている中、実家から母が倒れたという連絡を受け、実家がある福島へと向かった。
「残念ですが、お母様は肺癌のステージⅣです。手術は出来ませんので、今後は抗癌剤での治療を・・」
それからは、東京と福島の実家を往復する日々を送った。
仕事と母の看病で、千鶴の心は次第に疲弊していった。
母が亡くなったのは、クリスマス=イヴだった。
千鶴は母の葬儀を終えて自宅に戻った後、そのまま仕事を一週間休んだ。
漸く心身共に健康を取り戻した千鶴の元に、歳三が結婚するという知らせが届いたのは、奇しくも母の命日と同じ、クリスマス=イヴだった。
本当は、出席したくなかった。
だが、歳三の顔を見ておきたかった。
その隣に、自分が立っていなくても。
「もう帰ろうか?」
「うん。お千ちゃん、今日は本当にありがとう。」
フードコートの前で千と別れた千鶴は、時間がまだあるので映画館へ行く事にした。
そこには、前から観たかった映画が上映していた。
身分違いの同性同士が結ばれるというラブ・ストーリーなのだが、千鶴はいつしか相手役の俳優を歳三と重ねていた。
悲劇的な結末を迎えた二人の物語が終わり、千鶴はハンカチで目頭を押さえながらエンドロールを観終わった後、席を立った。
「千鶴ちゃん。」
「沖田さん・・」
「どうしてここに居るのかっていう顔しているね?まぁ、土方さんの結婚式なんてつまんなかったから、途中で抜け出して来たんだ。」
「そう、ですか。」
「ねぇ、もしかして泣いているの?」
「いいえ。この涙はさっき観た映画の所為です。」
「誰もそんな事聞いていないよ。でもさ、土方さんは酷いよね、いくら家と会社の為に好きでもない女と政略結婚するなんて。」
「それ、本当ですか?」
「あれ、知らなかったんだ。まぁ、あの人は肝心な事はいっつも言わないよね。」
総司は一気にそう捲し立てた後、スーツが汚れるのも構わずフライドポテトの油で汚れた手をスーツのズボンになすりつけた。
「土方さんの実家、最近業績が悪くてね、厚労省の官僚と政略結婚するかわりに、君と別れるよう、相手の親から迫られたんだ。」
だからさ、と総司は千鶴の耳元でこう囁いた。
“奪っても、いいんじゃない?”
「そんな事・・」
「あのさぁ、いい加減自分に素直になりなよ?土方さんは、千鶴ちゃんの事をまだ好きだと思うよ。」
「え・・」
「僕が伝えたかったのはそれだけだから、じゃぁね。」
総司はそう言うと、ヒラヒラと千鶴に向かって手を振って去っていった。
“奪っても、いいんじゃない?”
帰宅し、パーティー用に少し派手に塗ったマスカラとアイライン、アイシャドウを落としながら千鶴は浴室で溜息を吐いた。
もう自分の恋人ではなくなった男を、奪えなんて。
総司は、一体何を考えているのだろう―そう思いながら千鶴がドライヤーで髪を乾かしていると、バッグの中に入れていたスマホがけたたましくLINEの着信を告げた。
(え・・)
画面には、“歳三さん”と表示されていた。
「はい・・」
『出てくれねぇんじゃねぇかと思った。』
そう言ったあの人の声は、震えていた。
「どうして・・」
『総司から、俺の事情は聞いただろう?』
“今度、二人きりで会わねぇか?”―千鶴は、あの人からの誘いに、迷いなく“はい”と答えた。
待ち合わせ場所は、渋谷のハチ公前だった。
千鶴はクローゼットから藤色のワンピースと白のピンヒールを取り出すと、朝起きて顔を洗ってから念入りに化粧をした。
「待ちましたか?」
「いや、今来た所だ。」
そう言った歳三は、白の開襟シャツに水色のジャケット、ブルーデニムと黒のスニーカーという、ラフな格好だった。
「あの、これから何処へ?」
「着けばわかる。」
歳三は、愛車のRX7に千鶴を乗せて、学生時代に良くデートをしていた遊園地へと向かった。
「うわぁ、懐かしい。」
「ここ、今月末で閉園なんだと。」
「そうなんですか・・」
「まぁ、こういったこぢんまりとした遊園地がなくなるのは寂しいが、最後に、お前と二人だけで楽しもうと思ってな。」
「歳三さん・・」
「そんな顔をするな。」
ジェットコースターやメリーゴーランド、ゴーカートなどの乗り物をひと通り楽しんだ後、二人が向かったのは、観覧車だった。
「ここから見る景色も、見納めだな。」
「はい。あの、奥様には・・」
「あいつは、親から俺とお前の関係を聞いて知っている。まぁ、向こうにも男が居るからな。」
「え・・」
「俺達は、互いの利害が一致した、ただそれだけの理由で結婚しただけだ。あいつは、“愛していない女と一緒に居るよりも、昔の恋人と会った方が楽しいでしょ?”って、俺を送り出してくれたんだ。」
「じゃぁ、歳三さんは・・」
「お前の事を、今でも愛している。」
そう言った歳三の瞳には、迷いがなかった。
遊園地から出た二人は、近くにあるラブホテルへと向かった。
「あの・・」
「何だ、ここまで来て怖気づいたのか?」
「いいえ・・」
それ以上、歳三と一緒に居るのが気まずくて、千鶴は浴室へと向かった。
(嫌だ、さっき手を握られただけで・・)
千鶴がシャワーを浴びながらそっと自分の陰部に触れると、そこは既に濡れていた。
「千鶴、入るぞ。」
「えっ」
浴室のドアが開けられ、腰にタオルを巻いた歳三が中に入って来た。
「そんなに驚く事はねぇだろう?お互いの裸を見るのは初めてじゃねぇんだから。」
歳三はそう言って笑うと、千鶴の中を指で激しく掻き回した。
「ああっ、ダメ!」
「濡れている癖に、何を言っていやがる。」
歳三は千鶴の陰核を激しく弾いた。
「そろそろだな・・」
歳三は己のものにコンドームをつけると、千鶴の中へと入った。
子宮を奥まで貫かれ、千鶴は潮を吹いて絶頂に達した。
歳三は千鶴がイッても、激しく彼女を責め立てた。
「ああ~!」
コンドームに包まれた歳三のものが自分の中で爆ぜるのを感じた千鶴は、ゆっくりと彼が自分の中から出て行くのを感じて思わず溜息を吐いた。
「どうした、まだ足りねぇか?」
「もっと、欲しいです・・」
「しょうがねぇな・・」
その日、二人は朝まで愛し合った。
「別れたくねぇな。」
「わたしもです。」
歳三は千鶴を彼女の自宅に近い最寄駅まで送った後、そのまま帰宅しようとしたが、千鶴を帰したくなくて、人気のない立体駐車場に車を停めた。
「ん、やぁぁ!」
「お前の愛液でシートがビチョビチョだぜ?」
歳三は千鶴を騎乗位で下から激しく突き上げると、コンドーム越しに彼女の子宮へ欲望を吐き出した。
「また会おうか?」
「はい・・」
その日は身体の火照りは止まらず、仕事が終わって帰宅した後、千鶴は初めて自分を慰めた。
「歳三さん・・」
歳三は、今どうしているのだろうか。
自分を抱いた時のように、妻を抱いているのだろうか。

(会いたい、歳三さん・・)

千鶴の目から、涙が一筋流れた。

「おはようございます。」
「おはよう、千鶴ちゃん。昨夜はよく眠れた?」
「うん。」
「今日は大事なプレゼンだものね。大事な日の時こそ、しっかり睡眠を取らないとね。」
「そうね。」
千鶴はそんな事を同僚と話していると、そこへ自分達の上司である歳三が部屋に入って来た。
「みんな、もうプレゼンの準備は出来たか?」
「はい。」
「そうか。」
この日、千鶴達の会社は社運を賭けた会議を開く予定だった。
例年ならば会議室で全社員が集まるのだが、コロナ禍でリモート会議という形で開くことになった。
「何だか、はじめてから色々とわからねぇな・・」
「部長、ここはわたしに任せて下さい。」
千鶴はそう言うと、手早くズームの設定をした。
「助かったぜ。」
「いいえ。」
社内初のリモート会議は、滞りなく終わった。
「はぁ、疲れた!」
「みんな、お疲れさん。これは俺の奢りだから、好きな物食ってくれ!」
「ありがとうございます~!」
「部長、太っ腹!」
昼食時、歳三は千鶴達の分のランチを奢ってくれた。
「部長って、厳しい所もあるけれど、みんなに優しいよね。」
「そうだね。」
「まぁ、最近結婚したけれど、奥さんと余り上手くいっていないみたい。」
「へぇ・・」
「外に男が居るっていう噂よ。」
「そうなの。」
女というものは、噂好きな生き物だなと、千鶴はカフェオレを飲みながらそう思った。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様~」
終業後、千鶴が更衣室から出ようとした時、外の廊下で誰かが言い争う声が聞こえて来た。
「今日は大事な日なのよ、わかっているの!」
「あぁ、わかっているよ。」
「じゃぁ、どうしてそんな日に仕事を入れるのよ、信じられない!」
「あのなぁ、俺にだって仕事があるんだよ!」
更衣室のドアからそっと廊下を覗くと、そこには歳三が妻と思しき女性と激しく口論している姿があった。
“奥さんと上手くいっていないみたい。”
ランチの時の、同僚の言葉が千鶴の脳裏に甦った。
暫く千鶴が更衣室の中で二人の様子を見ていると、彼らは既に廊下から去った後だった。
(気まずいなぁ・・)
そう思いながら千鶴がエレベーターを待っていると、そこへ一人の女子社員がやって来た。
「あら雪村さん、まだ居たの?」
「えぇ、ちょっと仕事が溜まっていて・・」
「そう。今日は、電車で帰るんだ?」
「そう・・だけど。」
「へぇぇ・・部長に車で送って貰えばいいのに。」
女子社員はそう言って意地の悪い笑みを浮かべると、千鶴の前から去った。
「ただいま・・」
 会社から出て自宅マンションがある最寄駅までいつもは電車で片道一時間位かかるというのに、その日は人身事故があり、その所為で一時間も遅れてしまった。
千鶴がマンションの部屋に帰宅したのは、夜の十時過ぎだった。
帰宅するなり千鶴は疲れた身体を抱えながらシャワーを浴びた後、そのまま髪を乾かさずに眠ってしまった。
翌朝、彼女は誰かが玄関のドアをノックしている音で目が覚めた。
(誰だろ、こんな朝早くに・・)
そう思いながら千鶴がインターフォンの画面を見ると、そこには見知らぬ男性が映っていた。
千鶴が恐怖で息を潜めていると、その男性は舌打ちして去っていった。
暫く恐怖で千鶴は動けなかったが、もしかしたら廊下であの男が待ち伏せているのかもしれないと思うと、不安で出勤出来なかった。
なので、体調不良だと適当な嘘を吐いて、その日は会社を休んだ。
すると、歳三からLINEが来た。
『大丈夫か?』
『はい、実は・・』
千鶴が今朝起きた事を歳三にLINEで報告すると、彼は、“今から行く”という返事を送って来た。
『来ないでいいです。』
『わかった。』
それから、歳三からのLINEは途絶えた。
「雪村さんが風邪で休むなんて珍しいよね。」
「本当ね。」
女子社員達がそんな話を給湯室でしているのを、外回りから帰った相馬主計が密かに聞いていた。
「土方部長、少しよろしいでしょうか?」
「どうした?」
「さっき、給湯室で・・」
「女の陰口なんざ、放っておけ。」
「ですが・・」
「そんな下らねぇもんに振り回されても、仕事の役にも立たねぇだろうが。」
「はい・・」
歳三がキーボードを忙しなく叩いていると、妻からのLINEが十件程来ていた。
そこには、“今どこ?”、“誰と居るの?”、“返事くらいしてよ”というものばかりだった。
いちいち返信しても面倒なので、歳三はそのままスマホを鞄の中に放り投げた。
「もう、どうして出てくれないのよ!」
「放っておきなさいよ。」
「でも・・」
「あの人にとっては、義理の兄の子供の誕生パーティーなんて興味ないのよ。」
「そうよ。婿養子の癖に生意気ね。」
「皆さん、そろそろ始めましょう。」
歳三の妻・理恵は、母親達と共に甥の誕生パーティーの会場であるホテルへと入っていった。
その日の夜、歳三が帰宅したのは深夜一時過ぎだった。
「歳三さん、最近お忙しいようだけれど、家族の集まりにも顔を出して下さないと困るわぁ。」
「すいません・・」
「あなたがこの家に入れたのは、この家の為になると思ったからなのよ。少し貢献して下さらないと・・」
「はい・・」
「本当に、わかっているのかしらねぇ?」
義母の嫌味に耐え切れなくなった歳三は、そのまま家から出た。
「理恵、まだ子供は出来ないの?早くお母さん達に孫の顔を見せてくれないと・・」
「うるさいわね、わかっているわよ!」
理恵はそうヒステリックに叫ぶと、そのままダイニングから出て行った。
「静枝、お前は二人に干渉し過ぎだ。」
「我が家がおかしくなったのは、歳三さんの所為よ!」
「止さないか、そんな事を言うのは。」
「早く孫の顔が見たいわ。」
理恵の母・静枝はそう言うと溜息を吐いた。
「おはようございます。部長、今日は早いですね?」
「あぁ。今日は色々とやる事が多いんでな。」
歳三はそう言うと、千鶴にLINEを送った。
『今日は、大丈夫か?』
『はい。』
千鶴がスマホをバッグの中にしまっていると、そこへ一昨日話しかけて来た女子社員がやって来た。
「雪村さん、風邪はもういいの?」
「はい。」
「へぇぇ、てっきり嘘吐いて土方部長と密会しているのかと思ったぁ。」
「変な事、言わないでください!」
「あらぁ、ごめ~ん。」
その女子社員はそう言うと、そのまま何処かへ行ってしまった。
(何なの、あの人・・)
「雪村先輩、おはようございます!」
「おはよう、相馬君。忙しいのに、昨日は休んでしまってごめんね。」
「いえ、いいんです。」
「今日、部長は?」
「部長は、今日取引先の方と会食するそうです。」
「へぇ、そうなの。」
「それよりも先輩、さっき何か言われませんでした?」
「別に何も。どうかしたの?」
「実は昨日、給湯室で雪村先輩の事、先輩達が話しているのを聞いちゃったんです。」
「どうせまた下らない噂話でしょう。気にしない、気にしない。」
「そう、ですね。」
相馬にそう言って気にしない素振りを見せた千鶴だったが、先程の女子社員とのやり取りを思い出しては、少しモヤモヤとした思いを抱えながら仕事をした。
「さてと、昼飯どうします、先輩?」
「う~ん、どうしようかなぁ?」
「あ、千鶴ちゃん!」
「沖田さん、お久しぶりです。」
「二人共、お昼まだでしょう?最近新しく出来たビュッフェレストランが出来たんだけれど、行かない?」
「はい・・」
「ねぇ、土方さんの奥さんと、千鶴ちゃん会った事ある?」
「いいえ。」
「まぁ、上司の奥さんなんかとは滅多に会わないよねぇ。あ、このレストランで、土方さんの奥さんが良く男と密会しているんだよね。」
「え!?」
「別に驚くことないでしょ。」
「沖田さん、土方部長とは一体・・」
「土方さんと僕は、道場仲間。ま、実の兄みたいな存在だけどね。」
「そうなんですか・・」
千鶴達がランチを楽しんでいると、レストランに一組のカップルが入って来た。
「ほら、あの人が土方さんの奥さん。」
「綺麗な人ですね・・」
「でもかなりトゲがありそうだよねぇ。」
「沖田さん、失礼ですよ!」
「あ、ごめ~ん。」
総司がそう言って笑いながらコーヒーを飲んでいると、千鶴は少し怯えた顔をしながら突然周囲の様子を窺い始めた。

「どうしたの、千鶴ちゃん?」
「雪村先輩?」
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秋、短すぎん?

2024年11月08日 | 日記
暑い夏が過ぎたなと思ったら、冬みたいに寒くなるし…秋、短か過ぎん?と思ってしまいました。
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愛している 第一話

2024年11月02日 | 薄桜鬼 転生昼ドラ大正風ハーレクインパラレル二次創作小説「愛している」
「薄桜鬼」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


二次創作・BLが嫌いな方は読まないでください。


「さぁ千鶴お嬢様、そろそろ時間ですよ。」
「嫌です。」
その日は、千鶴の祝言の日だった。
彼女は、家同士の利害関係が一致したというだけで、一度も顔を合わせた事がない相手と結婚する事になっていた―筈だった。
「お願いです、わたしをここから連れ去って下さい!」
「千鶴様・・」
土方歳三は、少し困ったような顔をしながら、千鶴を見た。
「ずっと、あなたの事をお慕い申し上げておりました。」
「お嬢様・・」
「わたしは、家の為に犠牲になりたくないのです!」
「逃げましょう。」
思わず、歳三は千鶴の手を取ってしまった。
「本当に、よろしいのですか?」
「はい、あなたと一緒なら・・」
こうして、千鶴は歳三と共に家を飛び出し、夫婦となった。
華族令嬢と、その家の書生との駆け落ちは、新聞に大々的に報じられた。
はじめは二人の恋を女学生達が“ロマンス”だと言って盛り上がり、二人をモデルにした小説まで出版されたが、やがて二人の恋は世間の人々から忘れ去られていった。
「いらっしゃいませ!」
「姉ちゃん、いつものやつね!」
「はい。」
海辺の田舎町で、千鶴は食堂で汗水垂らしながら働いていた。
歳三と駆け落ち同然に結婚したもの、現実は厳しかった。
「へぇ、東京から来なすったのかい。悪いけど、うちはもう人手が足りてるんだ、他を当たってくんな。」
「はい・・」
何件か断られた末に漸く決まったのが、今の職場だった。
「千鶴ちゃん、これ旦那さんに。」
「ありがとうございます。」
同僚の小母さんから千鶴が貰ったのは、懐紙に包まれたシベリヤだった。
「旦那さん、早く風邪が治るといいね。」
「はい・・」
歳三は、病弱でありながらも無理をして働いた所為で、結核に罹り、長い間床に臥せっていた。
「只今帰りました。」
「お帰り。」
「今日は、体調が良さそうですね?」
「あぁ・・」
「今日は、隣の家の小母さんからシベリヤを頂きましたよ。」
「二人で食べよう。」
「お茶、淹れますね。」
千鶴は涙を堪えながら、台所で茶を淹れた。
『ご主人はもう長くかもしれません。早くも一ヶ月、長くても三ヶ月しかもたないでしょう。』
「なぁ千鶴、これを食べた後、行きたい所があるんだが・・」
「行きたい所、ですか?」
「あぁ。」
歳三が千鶴を連れて行った所は、呉服屋だった。
「ようこそいらっしゃいました。さ、こちらへ。」
店主に案内されたのは、店主とその家族が住む離れだった。
 そこには、白無垢が衣紋掛けに掛かっていた。
「さぁさ、奥様はこちらへ。」
「え、あの・・」
一時間後、羽織袴姿の歳三は、美しく化粧をされた花嫁姿の千鶴を見て思わずため息を吐いた。
「美しい・・」
「さぁ、お二人とも、行きましょうか?」
「はい・・」
二人が呉服屋の店主らと共に向かった所は、呉服屋の向かい側にある写真館だった。
「どうして、こんな・・」
「今まで一度も二人で写真を撮った事がなかっただろう?だから、最後に撮っておきたいと思ってな。」
「あなた・・」
「そんな顔をするな。」
「はい・・」
歳三は自分の死期を悟っていた。
だから、今まで苦労をかけてきた妻に白無垢を着せてやりたかったのだ。
「はい、撮りますよ。」
この時撮った二人の結婚写真が、彼らにとって最初で最後の写真となった。
「今日は、素晴らしい思い出をありがとうございました。」
「礼を言われる事はしてねぇよ。」
帰りに寄った洋食屋で、ライスカレーを食べながら、歳三は妻と過ごす残り僅かな時間を楽しんだ。
―奥さん、お可哀想に・・
―お子さん、いらっしゃらなかったのでしょう?
―他に身内も居られないようですし、お子さんも・・
歳三の葬儀を手伝ってくれた近所の主婦達の囁きが、仏間の襖を閉めても否応なしに聞こえて来た。
(あなた、どうかわたしを守ってください・・)
千鶴は、歳三の形見であるロザリオを握り締めると、涙を流した。
桜の季節に歳三が逝き、瞬く間に厳しく長い冬がやって来た。
東京と比べ、この地の冬の寒さは骨の髄まで凍えそうだ。
今までは共に人肌で温め合う夫が居たが、今年の冬は、千鶴にとって辛いものになった。
「良く降るね。」
「そうですね。」
その日、食堂は朝から降った大雪の所為で開店休業状態だった。
「気をつけて帰んなよ。」
「はい・・」
千鶴が寒さに震えながら帰宅し、家の中へ入ろうとした時、彼女は一人の少年が家の前に倒れている事に気づいた。
「ねぇ、大丈夫?」
「ち・・づ・・る・・」
少年は苦しそうに千鶴の名を呼ぶと、そのまま意識を失った。
彼は、歳三と瓜二つの顔をしていた。
(まさか、あの人が帰って来てくれたなんて・・)
そんな事を思いながら、千鶴はその少年を放っておけず、彼を仏間に寝かせ、医者を呼んだ。
「う・・」
「大丈夫、あなたは独りじゃないからね。」

亡き夫と瓜二つの顔をした少年を家の前で保護した千鶴は、急いで風呂の用意をした。

「寒かったでしょう。火鉢の近くにいらっしゃい。」
「はい・・」
「今、着替えを持ってくるわね。」
千鶴は少年を居間に残すと、自分の寝室へと向かった。
「確か、ここに・・」
彼女は押し入れにしまってあった行李の中から、まだしつけ糸が解かれていない子供用の着物を取り出した。
畳紙の中に入れていたので、染みひとつない。
いつか、子供が生まれた時に仕立てておこうと思い、仕立てておいて良かった。
その子供が授かる前に、歳三は自分を残して逝ってしまったが。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「あなた、お名前は?」
「俺は・・」
“良いか、お前は別の名を妻に伝えよ。決して真名を伝えてはならぬぞ。”
歳三―今は少年として転生した彼は、千鶴から名を尋ねられた時、咄嗟にこう答えた。」
「隼人です・・」
「隼人君ね。お父さんやお母さんは?」
「いない・・」
「そう。今からご飯作るから、待っていてね。」
「手伝う。」
「え・・」
見知らぬ少年からそう言われ、千鶴は少し戸惑った。
「じゃぁ、お願いしようかしら?」
千鶴と共に台所に向かった歳三は、そこが、生前自分が見た時と余り変わっていない事に気づき、安堵した。
歳三は慣れた手つきで、米を炊いた。
「隼人君、凄いわね。」
「いつもやっていたから、慣れている。」
「そうなの。」
手際良く家事をこなす歳三の姿を、千鶴は興味深く見ていた。
「ねぇ隼人君、もし行くところがないのなら、一緒に暮らさない?」
「いいの?」
「いいに決まっているでしょう。」
「では、お世話になります。」
「これからよろしくね。」
夕飯の後、歳三は千鶴が用意してくれた部屋に布団を敷いて寝た。
夜中に眠れずにいると、廊下の向こうから千鶴の泣き声が聞こえて来たので、歳三はそっと彼女の寝室へと向かった。
すると、そこには布団の中ですすり泣く彼女の姿があった。
「歳三さん・・」
歳三は、そっと千鶴を抱き締めながら眠った。
「ん・・」
翌朝、千鶴が目を覚ますと、隣には何故かあの少年が眠っていた。
子供の体温は高くて、独りで寝る寂しさに耐えられた。
「おはよう、隼人君。」
「おはようございます。」
「ご飯、作ろうか?」
「はい。」
歳三と千鶴が朝食を台所で作っていると、外から人の声が聞こえて来た。
「千鶴さん、居るかい?」
「隼人君、少し火を見てくれないかしら?」
「はい・・」
「すぐ戻るわね。」
千鶴が台所から外へと出ると、そこには一人の青年の姿があった。
「土方千鶴さん、ですね?」
「はい。わたしに何かご用でしょうか?」
「これを。あなた宛の物です。」
「ありがとうございます。」
「では。」
青年は、そう言うと千鶴の前から去っていった。
彼が千鶴に届けたのは、とうに縁が切れた実家からの文だった。

“チチキトク、スグカエレ”

(父様・・)

千鶴の脳裏に、家を出た時に交わした父との会話を思い出した。

“どうしても、行くのか?”
“ごめんなさい、父様・・”
“謝るのは、わたしの方だ。心から、愛する人をと幸せになりなさい。”

そう言って自分を送り出してくれた父の笑顔を、千鶴は今でも思い出しては泣きそうになった。

「千鶴・・さん?」
「ごめんね隼人君・・」
「もしかして、それは実家から・・」
「どうして、それを?」
「浮かない顔をしていたから。」
「そう。」
「隼人君、あのね・・」
「実家に、帰りたいの?」
「え・・」
「ごめん、さっきお手紙を見てしまいました。お父さん、危篤なんですよね?」
「えぇ。でも、わたしはもう家を勘当された身。実家に戻る訳には・・」
「俺が一緒について行ってやる・・」
「そんな、何も関係がないあなたに・・」
「俺、千鶴・・さんに世話になっているから、関係ある。だから・・」
「そう。じゃぁ、一緒に行きましょう。」
「うん・・」
こうして、千鶴は隼人共に実家がある東京へと向かった。
「まだ東京まで着くには時間がかかるから、今の内に休んだ方がいいわ。」
「わかりました・・」
本州行きの船の中で、歳三は千鶴の隣で眠り始めた。
すると、彼は目を開けたらそこが“あの部屋”である事に気づいた。
「また会ったな、人の子よ。」
すぅっと、歳三の前に足音もなく現れたのは、美しい女だった。
「いつまであの女の傍に居るつもりだ?そなたの魂は転生を待つのみ。何故、あの女の元に居る?」
「俺にはまだ、やりたい事がある。」
「やりたい事だと?」
「あぁ。」
「良いだろう。」
女は口端を上げて笑うと、現れたのと同じように消えていった。
(何だったんだ、あの女は?)
「隼人君、起きて。」
「ん・・」
二人は船から降りると、汽車を何度も乗り換えて漸く東京に辿り着いたのは、数日後の事だった。
「ここよ。」
「ここが、千鶴さんの家?」
「ええ。」
白亜の瀟洒な邸宅の前に二人が立っていると、その中から一人の女中が彼らの元へやって来た。
「お帰りなさいませ、千鶴お嬢様。さぁ、どうぞこちらへ。」
女中はそう言うと、千鶴の隣に立っている歳三を見た。
「この子は、わたしの息子です。」
「まぁ・・」
千鶴の言葉を聞いた時、女中は鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をしていた。
「千鶴、来てくれたか・・」
「父様・・」
「その子は・・」
「わたしの息子です。」
「そうか。」
千鶴の父・綱道は、そう言うと嬉しそうに笑った。
「幸せになれて、良かった・・」
綱道は、そう言うと静かに息を引き取った。
父を見送った後、千鶴は親族に呼ばれた。
「え、再婚・・ですか?」
「そう。あなたはまだ若いし・・」
「そんな・・」
「あ、あなたに是非会いたいって人が居るのよ。」
「ちづる、だっこ~!」
「まぁ、急にどうしたの?」
「だっこ、だっこ~!」
急に甘えて来て己の膝上に乗って来た歳三に驚きながらも、千鶴は再婚を勧める親族に断り、その場から離れた。
「どうしたの、さっきは急に甘えて・・」
「あの婆さん、自分の息子とお前を結婚させるつもりだぜ。」
「え・・」
「安心しろ、お前は俺が守ってやるからな。」

そう言った隼人少年の顔に、千鶴は亡き夫のそれに重ねた。

(あなた・・あなたなの?)
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鈴蘭が咲く丘で 第1話

2024年11月02日 | 薄桜鬼 ヒストリカルファンタジーパラレル二次創作小説「鈴蘭が咲く丘で」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「ねぇ、こんな所に本当に居るの?」
「だから、確かめに行くんじゃない!」
スマートフォンと小型カメラをそれぞれ片手に持ちながら、グレースとアリシアはロンドン郊外にある廃墟へと向かった。
そこはかつて貴族のお屋敷だったとも、精神病院だったとも言われている、“いわくつき”の廃墟だ。
廃墟探索ユーチューバーとしてそこそこ人気がある二人は、その廃墟へ向かった。
そこには蔦が絡んで、いかにも廃墟といった寂れた雰囲気を醸し出していた。
「うわぁ、“何だか出そう”ね。」
「もう、やめてよ。」
そんな事を言いながら二人が廃墟の中へと入っていくと、奥の方から物音がした。
「ねぇ、何か音がしなかった?」
「気の所為じゃない?」
二人が物音のする奥の方へと向かうと、そこは子供部屋だったようで、朽ちた乳母車が転がっていた。
「さっきの音は、この音だったのね。」
「なぁんだ、びっくりしたぁ。」
二人がそう言って笑いながら他の部屋を探索していると、再び何処からか物音がした。
「さっきより寒くなって来たわね。」
「そうね、もう帰ろう。」
二人が子供部屋全体をカメラとスマートフォンで撮影した後、彼女達は“何か”が自分達に近づいて来ている事に気づいた。
「早く帰ろう・・」
「うん・・」
二人がドアを開けて外から出て行こうとした時、彼女達の前に謎の黒い影が現れた。
「きゃぁぁ~!」
「いや~!」
彼女達の消息は、そこで途絶えた。
この動画がユーチューブにアップされた数日後、グレースとアリシアの遺体が子供部屋で発見された。
彼女達の死因は、失血死だった。
何故、彼女達が殺害されたのかは、事件発生から6年経っても解明されていない。
廃墟は維持費の問題で取り壊す事が決まったのだが、工事の度に怪我人や死人が続出し、工事を請け負っていた建設会社が倒産し、更に工事を推し進めていた自治体が経営破綻し、住民達は寂れた町を捨て、かつて“鉄の町”として栄えた町は、廃墟と化した。
「もう、すっかり変わっちまったな。」
朽ち果てた町を車窓から眺めながら、男は溜息を吐いた。
高台の上に建っている廃墟と化した屋敷は、かつては色とりどりの美しい薔薇が咲き誇った中庭があり、いつも笑顔と笑い声が絶えない屋敷だった。
そっと中庭へと入った男は、そこで美しい鈴蘭が一輪、咲いている事に気づいて、思わず笑みを浮かべた。
「まだ、残っていたのか・・」
男はそっと鈴蘭の花を一輪摘むと、屋敷の中へと入った。
150年以上経っているから、屋敷の中はかなり荒れ果てていた。
軋む階段を恐る恐る上がった男は、廊下の奥にある寝室の中へと入った。
そこには、かつて家族が共にこの屋敷で過ごした写真が壁に飾られていた。
男は、そっと寝台の近くにある引き出しを開け、一冊のノートを取り出した。
それは、屋敷の主人が遺した日記だった。
 ノートを開くと、そこには一組の夫婦の写真があった。
「会いに来たよ・・父さん、母さん。」
ノートに書かれた字を男がなぞると、朽ち果てた部屋がまるで魔法にかけられたかのようにかつての美しい姿へと戻った。
(ここは・・?)
「まぁ、そんな所に居たのね。もうすぐ夕飯の時間だから、下りてきなさい。」
寝室のドアが開き、レースのエプロンと黒いモスリンのワンピース姿のハウスメイドが中に入って来た。
男は、ハウスメイドの後について一階へ降り、ダイニングルームに入ろうとすると、彼女が慌てて止めた。
「あんたが入るのは、こっち!」
ハウスメイドに連れられて男が入ったのは、使用人専用のダイニングルームだった。
「今日は大した物がないね。」
「それは嫌味かい?こっちは朝からパーティーの準備で忙しいっていうのに。」
料理番・エイミーは、そう言って顔を顰めた。
「そんな顔をしないでおくれ。」
「あの、ここは何処なんですか?」
「あんた、若いのにもうボケちゃったのかい?ここはハノーヴァー伯爵様のお屋敷だよ!」
自分をこの場所へ連れて来たハウスメイド―レイチェルはそう言って大声で笑った。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「はい・・」
レイチェルによると、自分はこのお屋敷で従僕見習いとして働いているという。
「遅かったわね。」
「申し訳ありません。」
二階の子供部屋へと男―トシが向かうと、そこには顰め面をしている女性が立っていた。
「まぁいいわ。これから、坊やのおむつを縫って頂戴。」
「はい、わかりました。」
「わたくしが居ない間、坊やをちゃんと見ておいてね。」
「はい・・」
(一体何がどうなっていやがる?)
そんな事を考えながら、トシはハノーヴァー伯爵家の嫡子・アーサーのおむつを縫っていた。
するとそこへ、一人の少年が子供部屋に入って来た。
「トシさぁ~ん!」
焦げ茶の、少し癖のある髪を揺らし、美しい翠の瞳を煌めかせたその少年は、トシに抱き着いた。
「誰だ、てめぇは?」
「トシさん、もしかして僕の事忘れたの?」
少年は、涙で翠の瞳を潤ませた。
(こいつ・・)
「まぁ八郎様、こちらにいらっしゃったのですね!さぁ、旦那様がお呼びですよ!」
「嫌だぁ~、トシさぁん!」
謎の少年は、レイチェルに首根っこを掴まれ、子供部屋から連れ出された。
「ごめんなさいねぇ、あの子が何か迷惑な事をしなかったかしら?」
少年とレイチェルと入れ違いに入って来た貴婦人は、そう言った後花が綻ぶかのような笑みを浮かべた。
「はい、これ。」
「あの、これは・・」
「お菓子よ。後でこっそりお食べなさい。」
「ありがとう、ございます・・」
「また、会いましょうね。」
彼女は、そっとトシの頭を撫でると、子供部屋から出て行った。
(素敵な人だったな・・)
その日の夜、トシは貴婦人から貰った焼き菓子の袋を開き、それを一つ食べた。
トシが菓子を頬張っていると、裏庭の方から大きな物音がした。
(何だ?)
トシが裏庭へと向かうと、そこにはこの屋敷でキッチンメイド見習いとして働いていたエリーの姿があった。
彼女の首には、刺し傷があった。
「どうした、坊主?」
「人が、死んでいるんです。」
「何だって!?」
庭師のジョーが警察を呼ぶと、ハノーヴァー伯爵邸は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「エリー、どうしてこんな姿に!」
「トシ、犯人の姿を見たの?」
「いいえ。俺が駆け付けた時には・・」
「そう。疲れたでしょう、部屋へ行って休んでいなさい。」
「はい。」
トシが使用人専用の寝室へと向かおうとした時、彼は誰かが言い争っている声を聞いた。
「エリーを殺したのは、あなたなの!?」
「俺じゃない、信じてくれ!」
「あなたの事は、信じられないわ!」
声は、若い男女のものだった。
顔は見えなかったが、女の方は髪に青い蝶の髪留めをしていた。
(あいつら、誰だったんだ?)
そんな事を思いながら、トシは深い眠りの底へと落ちていった。
翌朝、トシが眠い目を擦り寝室から出ようとした時、窓に鮮やかな青い蝶の髪留めをした女が映ったので慌てて彼は彼女の後を追った。
(何処だ?)
トシが女の後を追っていると、急に彼は険しい崖が目の前に現れたので、慌てて立ち止まった。
屋敷へと戻ろうとする彼の背を追い掛けるかのように、不気味な女の笑い声が響いていた。
「トシ、あんたこんな朝早くに何処に行っていたんだい?」
「エイミーさん、実は・・」
トシは、エイミーに青い蝶の髪留めをした女の話をした。
「あぁ、その女は、“死神”さ!」
「“死神”?」
「あんたは、まだここに来て日が浅いから知らないんだね。」
エイミーによると、その昔この屋敷に住んでいた貴婦人が居て、彼女はいつも恋人からの贈り物であった青い蝶の髪留めをよくしていたという。
「彼女は、只管愛する男の帰りを待った・・裏切られている事にも気づかずにね。」
「それは、一体・・」
「彼女の恋人は、戦地で病に罹って、向こうに住む女と夫婦になったのさ。」
「それで?」
「あの女は、崖から飛び降りて死んじまった。でも夜な夜な崖まで男を誘き出して殺すようになったのさ。」
だから、青い蝶の髪留めをした女を見かけても、決して追い掛けてはいけないよーエイミーはそうトシに釘を刺すと厨房へと消えていった。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「は、はい!」
トシは今日もアーサー坊ちゃまのおむつを縫い、奥様の愚痴を聞いた。
「トシ、はいこれ。」
奥様はそう言うと、トシに小遣いをくれた。
「これで好きな物でも買いなさい。」
「はい。」
トシはエイミーの夕飯の買い出しに付き合うついでに、初めてお屋敷の外から出た。
町は、活気に溢れていた。
「あたしはパン屋に行くから、あんたは本屋にでも行っておいで。」
「はい。」
トシはエイミーとパン屋の前で別れ、本屋へと向かった。
本屋は、少し町の外れにあった。
「いらっしゃい。」
店主は、眼鏡を掛けた優しそうな老人だった。
「あの、今日は・・」
「今日は、君が読みたい本が入って来たよ。」
「ありがとうございます。」
トシは、奥様から頂いた小遣いで本代を払った。
「気を付けて帰るんだよ。」
「はい。」
本屋から出たトシは、パン屋の前でエイミーと待ち合わせして、お屋敷へと戻った。
「今夜はゆっくり出来そうですね。」
「そうだね。夏の社交期はまだ先だし、暫くゆっくり出来そうだよ。」
エイミーがそう言いながらジャガイモの皮を包丁で剥いていると、レイチェルが何処か慌てた様子で厨房に入って来た。
「どうしたんだい、レイチェル?そんな顔をして?」
「うちの人が・・」
レイチェルの夫で町の教師だったトムが、海辺で遺体となって発見された。
「どうして、こんな・・」
「可哀想に・・」
トムの遺体の首には、エリート同じ刺し傷があった。
「魔物の仕業よ。」
「エイミーさん、あれは?」
トムの葬儀に参列していたトシが、突然葬儀の最中に意味不明な言葉を喚き散らしている老婆を見た。
「あぁ、あの人は海辺の家に住んでいるマリー婆さんさ。頭がちょっとね・・」
エイミーは、そう言うと己のこめかみを人差し指でさした。
「そうですか・・」
「エリーに続いてトムまで・・何で、良い人ばかり・・」
トシがレイチェルの自宅へと向かうと、そこには彼女の親族達が集まり食事の支度をしていた。
「レイチェル、何か食べないと。」
「何も食べたくないの。寝室で休んでいるわ。」
レイチェルはそう言うと、そのままダイニングルームから出て行った。
「トムさんは、どんな人だったんですか?」
「優しい人だったよ。子供達からも慕われていたよ。」
エイミーは、そう言いながら汚れた食器を洗った。
「トシは働き者だね。それに、手先が器用だし。」
「そうですか?」
「奥様が、何であんたに坊ちゃまの世話を任せたと思う?」
「俺が、子供だからですか?」
「あんたを信頼しているからだよ。」
「そうですか・・」
「まぁ、あんたはまだここへ来て日が浅いから、色々と教え甲斐がありそうだよ。」
「はぁ・・」
「そうだ、このお茶をダイニングに持って行っておくれ。」
「はい。」
トシが茶と茶菓子を載せたワゴンをダイニングルームへとひいていくと、中から女達の声が聞こえて来た。
「レイチェルも可哀想に。あの年で未亡人なんて・・」
「子供が居ないから、気楽で良いんじゃない?」
「まぁ、ね・・」
「それにしても、ねぇ・・ハノーヴァー伯爵家は呪われているのかしら?」
「きっと、あの髪留め女の呪いよ!」
「ねぇ、レイチェル戻って来るのが遅くない?」
「そうねぇ。」
「失礼致します、お茶とお茶菓子をお持ち致しました。」
「あら、可愛い子ね。」
「見ない顔ねぇ。坊や、お名前は?」
女性達はトシの顔を物珍しそうに見た後、彼を質問責めにした。
「ねぇ坊や、お茶とお茶菓子はわたし達が頂くから、レイチェルの様子を見て来てくれないかしら?」
「はい、わかりました。」
トシがレイチェルの寝室へと向かい、ドアをノックしようとすると、中からレイチェルの悲鳴が聞こえた。
「やめて、お願い・・」
「レイチェルさん!?」
トシが寝室の中に入ると、レイチェルはベッドの上に仰向けになって倒れていた。
「レイチェルさん・・」
彼女も、首を刺されて失血死していた。
「誰か、誰か来て下さい!」
「レイチェル!」
「誰か、お医者様を!」
奇妙な連続殺人事件は、結局犯人が見つからないまま事件の捜査は打ち切られた。
季節は夏を迎え、ロンドンは社交期を迎えた。
トシ達は奥様達と共に、ロンドンへと向かった。
初めて見るキング=クロス駅は、この前行った町よりも活気に溢れ、混沌としていた。
「さ、早くしな!」
「はい・・」
「モタモタするんじゃないよ、遅れちゃうよ!」
エイミーはトシの手をしっかり握ると、キング=クロス駅から出た。
「これ位で騒いでいたら、ロンドン暮らしは勤まらないよ!」
「わかりました。」
「まぁ、ロンドンでまた変な事件に遭わなきゃいいけど。」
辻馬車に揺られながら、エイミー達はハノーヴァー伯爵家のタウンハウスへと辿り着いたのは、昼前の事だった。
「みんな、奥様が今日はゆっくり休むようにってさ!」
「良かった!」
「移動距離が長かったからねぇ。」
「そうだねぇ。」
「俺、部屋に荷物置いてきますね。」

トシはそう言うと、使用人用の寝室に入って荷物を置いた後、そのままベッドの上で眠ってしまった。

気が付いたら、もう夜になっていた。
コメント

ハロウィン。

2024年10月31日 | 日記
今日はハロウィン
古代ケルト人のお祭り「サウィン」が起源で、「万聖節」と呼ばれる日。
ハロウィンの仮装は、20世紀後半になってから盛んになったとか。
まぁ、基本は子供がするもので、大人が仮装して酒飲んで暴れて軽トラックを横転させたりするようなものではないんですよね、ハロウィンは。
もう10月も終わりなのですね・・
コメント

「読書の秋」というけれど・・

2024年10月30日 | 日記
出来れば一日一冊くらい読みたいなぁと思っていても、中々出来ないんですよね。
まぁ、毎月15~20冊くらい本を読みますが、創作活動もしているので中々時間が取れないです。
スマホを触っている時間を読書に当てたらいいんですよね。
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月影の子守唄 1

2024年10月30日 | FLESH&BLOOD 腐向けハーレクインパラレル二次創作小説「月影の子守唄」

素材表紙は、てんぱる様からお借りました。

「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

夜の森の中を、一人の少女が走っていた。
彼女はその腕に、産まれたばかりの赤子を抱いていた。

「居たぞ!」
「向こうだ!」

猟犬が吠える声と、男達の怒号が聞こえて来た。
早く、彼らの手が届かない所へ逃げなくては。
必死に萎えそうになる足を動かし、やがてある場所へと辿り着いた。

そこは、魔女が棲むという小屋だった。

少女は、赤子をしっかりと胸に抱き、小屋へと向かった。
小屋のドアを叩く前に、少女は背後から数発の銃弾を受け、倒れた。
「どうしたの、しっかりして!」
「この子を、お願い。」
少女は震える声でそう言うと、小屋から出て来た女性に赤子を託した。
「リリー、どうしたの?」
「イーディス、奥から猟銃を取って来て。」
「ええ。」
リリーは少女ごと赤子を小屋の中へと入れた後、イーディスから猟銃を受け取ると、武装した男達を睨んだ。
「女を出せ!」
「動かないで!」
「女がでしゃばるな!」
リリーは、自分に銃口を向けている男の爪先に向かって引き金を引いた。
放たれた銃弾は、地面にめり込んだ。
「次はあんたの脳天を狙うわよ。」
「クソ、引き上げるぞ!」
男達が去った後、リリーが小屋の中に戻ると、赤子の母親はロザリオを握り締めながら絶命していた。
「可哀想に・・」
「この子、確かウィニフレッド家のクララじゃない?」
「まぁ・・最近見ないと思っていたら、家を勘当されたのね。」
「リリー、この子をどうするの?」
「決まっているじゃない、わたし達で育てるのよ。子育ての経験はないけれど、何とかなるわ。」
「そうね。」
こうしてリリーとイーディスは、赤子を育てる事にした。
17年後、リリーとイーディスが育てた赤子・海斗は、森の中でハーブを摘んでいた。
するとそこへ、リリーがやって来た。
「カイト、大変よ!イーディスが・・」
海斗がリリーと共に小屋へと向かうと、ベッドの中でイーディスが苦しそうに息をしていた。
「イーディス!」
「カイト・・来たのね。」
イーディスは死の間際、海斗に真実を告げた。
「え・・」
「カイト、あなたは、幸せに・・」
「イーディス、しっかりして!」
イーディスを看取った後、海斗とリリーは二人だけで彼女の葬式をした。
―おい、あれ見ろよ・・
―魔女が・・
―あの赤毛は・・
「カイト、帰りましょう。」
「うん・・」
雨が降る中、海斗とリリーが墓地を後にしようとした時、一台の馬車が二人の前に停まった。
「クララ、どうして生きているの?」
馬車から降りて来た金髪の女性は、そう言うと海斗を見た。
「ごめんなさい、あの時わたしが・・」
「奥様、こちらへ。」
馬車の中から、メイドと思しき女性が出て来た。
「一体、誰だったの?」
「あの人は、ウィニフレッド家の奥様よ。最近、認知症になられたとか・・」
「ねぇリリー、これからどうするの?」
「さぁね。とにかく、今まで通りの生活をわたし達は送るだけよ。」
「うん。」
イーディスを亡くしてから、海斗とリリーは心にぽっかり空いた穴を埋めるかのように、忙しい日々を送っていた。
そんな中、海斗はリリーのおつかいでウィニフレッド家へパイを届けに行った。
「あなた、この前の・・」
「奥様はいらっしゃいますか?」
「えぇ。」
メイドに案内され、海斗がウィニフレッド邸の中へと入ると、厨房の方から男の怒鳴り声が聞こえて来た。
「どうして、こんな切り方なんだ?」
「すいません・・」
「もういい、お前はクビだ!」
厨房から若い娘が泣きながら出て来た。
「クララ・・お嬢様?」

背後で皿が割れる音がしたので、海斗が振り向くと、そこには蒼褪めた顔をしたメイド立っていた。

「どうして、あなたは死んだ筈・・」

「ナンシー、一体何をしているんだ!」
厨房から右目に眼帯をつけた男が居間にやって来た。
「幽霊だ、幽霊だ~!」
メイドはそう叫ぶと、居間から外へと飛び出していった。
「あの・・あなたは?」
「お前が、あの魔女の娘か?」
「リリー。“魔女”ではなく、リリーです。俺はカイト、奥様にパイを届けに参りました。」
「俺はナイジェル=グラハム、ウィニフレッド家の料理人だ。」
ナイジェルは、そう言うとウィニフレッド家の奥様、ナタリーの寝室へと案内した。
「奥様、カイトが参りました。」
「入って。」
「失礼致します。」
ナタリーは、ナイジェルと共に寝室に入って来た海斗を見た途端、病人とは思えない素早い動きで寝台から出て彼女の元へと駆け寄った。
「クララ、クララ!」
「奥様、落ち着いて下さい!」
「クララ~!」
ナタリーが医者に鎮静剤を打たれた所を見た海斗は、ナイジェルに彼女の寝室から連れ出された。
「クララという方は、奥様の娘さんですね?」
「あぁ、17年前、行方知れずになった。奥様は、認知症になられてから毎晩クララ様を捜している。」
「そうですか・・」
これ以上気まずい思いをしたくなくて、海斗はウィニフレッド邸から去っていった。
「ただいま。」
「お帰りなさい、カイト。」
「リリー、17年前に何がこの町であったの?」
「そうね、クララお嬢様は、禁じられた恋をしてしまったのよ。」
「禁じられた恋?」
「あなたの父親は、ロンドンに住む貴族よ。誰なのかは知らないけれど、クララお嬢様はあなたを森の中で出産し、山小屋へやって来たの。彼女は、追手に背中を数発撃たれて亡くなったわ。」
「そんな・・」
「あなたの事を、あの奥様がクララお嬢様の姿と重なって見えたのかもしれないわね。」
「そうなの。父親が誰なのか、わからないの?」
「ええ。イーディスの日記に、何か手掛かりが残っているのかもしれないわ。」
リリーはそう言うと、二階にあるイーディスの部屋へと向かった。
「あら、おかしいわね・・」
「どうしたの?」
「イーディスの日記が無いわ。」
「そんな・・」
慌てふためきながらイーディスの日記を探す海斗とリリーを、山小屋の近くから一人の男が見ていた。
その腕には、イーディスの日記が抱かれていた。
「旦那様・・」
「例のものは?」
「どうぞ。」
「給料だ、取っておけ。」
「ありがとうございます。」
男は馬車の中に居る男にイーディスの日記を手渡すと、そのまま町へと向かった。
町を出た馬車は、そのままロンドンへと向かった。
「旦那様。」
「イーディスの日記か?」
「はい。」
「ご苦労。」
ロバート=ティルニーはそう言って執事からイーディスの日記を受け取ると、それを暖炉の中へと放り投げた。
「あ~、寒い!」
「カイト、ジンジャーブレッドをパン屋へ持って行って。」
「わかった!」
クリスマス=シーズンを迎え、町にはクリスマスのオーナメントが飾られていた。
「あらカイト、いらっしゃい!」
「ジンジャーブレッド、持って来ました!」
「まぁ、可愛いわね!全部、あなたが作ったの?」
「はい。」
「そう。ねぇ聞いた、この町の近くにある湖の近くに、貴族の旦那がお屋敷を買ったってさ!」
「へぇ、どんな方なんだろう?」
「小説家の端くれだってさ。」
海斗がパン屋のアーニーとそんな事を話していると、店に一人の青年が入って来た。
深緑のフロックコートに長身を包み、黒のシルクハットを被った男は、鳶色の瞳でナイジェルの姿を捉えると、彼の唇を塞いだ。
その直後、男の身体は床に吹っ飛んだ。
「俺に気安く触れるな!」
「その冷たい瞳が堪らないねぇ!」
「あのぅ、うちに何かご用ですか?」
「お嬢さん、俺がここに来たのはパーティー用のパイを注文したくてね。」
「わかりました。」
「ここで会ったのは何かの縁だ。俺はクリストファー=マーロウ、キットと呼んでくれ。」
「カイトです。山の上にある山小屋に住んでいます。」
「へぇ、こんな可愛い子ちゃんが町に住まないなんて驚きだなぁ。」
「アーニー、またね。」
海斗は足早にパン屋から出て行くと、山小屋へと向かった。
「ただいま。」
「お帰りなさい、寒かったでしょう。」
「うん。パン屋さんで、貴族の人と会ったよ。」
「へぇ、どんな人だったの?」
「鳶色の瞳をした、綺麗な人。クリストファー=マーロウって名乗っていた。」
「クリストファー=マーロウ?今人気の小説家じゃないの!?」
「え、彼の事を知っているの?」
「知っているも何も、『タンバレイン』は名作よ!」
「そうなんだぁ。」
キットがパン屋に来てから一週間後、海斗とリリーが山小屋でひっそりとクリスマスを祝っていると、突然誰かが山小屋のドアを激しく叩く音がした。
「カイト、下がっていなさい。」
リリーは猟銃を構えながら恐る恐る山小屋の入り口へと向かうと、そこには両手を上げたキットの姿があった。
「おおっと、撃たないでくれ。」
「キット、どうしたの?」
「カイト、すまないが一緒に来て貰おうか?どうしても、お前さんに会いたいと言っている人が居てな。」
「わかった。」
「カイト、外は雪が積もっているから、転ばないように気をつけるのよ。」
リリーに見送られ、海斗はキットと共に湖の近くにある貴族の別荘へと向かった。
「町から少し離れているから、馬車で行くぞ。」
「わかった。」
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