BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

About:注意事項(必読)

2056年06月07日 | About:注意事項
当ブログでは、主に管理人が書くつたない自作BL小説、二次創作小説を載せているブログサイトです。

ここには本サイトで必ず守って欲しいことを書いております。初めて来られた方はまずこのページを必ずお読みください

このサイトに載せている小説の著作権は管理人・千菊丸(せんぎくまる)にあります。小説の加工・無断転載・盗用は厳禁です。また日記の一部には少し妄想系の文章が含まれております。そういった文章が苦手な方は閲覧をご遠慮くださいますよう、お願いいたします。

誹謗中傷、出会い系スパム、商業的CM等のコメントは一切受け付けません。それに該当するコメントは、管理人の独断で見つけ次第即刻削除いたしますので、ご了承ください。また、荒らし・晒し・管理人への誹謗中傷目的の入室はこのブログにいらっしゃらないでください。

ここは性描写ありの一部R18指定の二次創作小説サイトです。一部残酷描写等含みますので、実年齢・精神年齢ともに18歳未満の方や、BL、二次創作が嫌いな方は入室をご遠慮ください。

このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。

このブログサイトは管理人・千菊丸の個人的趣味で運営しているもので、二次創作小説につきましては、出版社様・作者様とは一切関係ありません。また、パラレルなど、必ずしも原作に沿った設定のものではない小説がほとんどですので、そういった類の小説がお嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。また、作品の中には一部残酷描写などが含んでおりますので、そういった描写が苦手な方も閲覧をご遠慮ください。



※追記(2009.5.30)

このブログには映画やドラマのネタバレ感想を載せております。ネタバレが嫌いな方、抵抗感がある方はこのブログをご覧にならないことをお勧めいたします。閲覧は自己責任でお願いいたします。


小説目次について

2010.5.5 追記

小説目次は、「Map:小説のご案内」から閲覧することができます。

しつこく言いますが、このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。


また、時折愚痴などを日記で書いたりしていますので、そういうものを見たくないという方は、閲覧なさらないでください。
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Map:小説のご案内

2056年06月06日 | Map:小説のご案内
ここでは、小説のご案内と注意事項を書いておりますので、「About:注意事項」と併せて初めて来られる方はお読みいただきますよう、お願い申し上げます。

◇小説を閲覧するにあたっての注意事項◇

「About」にも書きましたが、当サイトに掲載してある小説には一部同性愛的な表現や描写、または残酷描写等が含まれます。そういった表現などが苦手な方はすぐさまプラウザをお閉じになってください。


上記にあてはまらない方のみ、カテゴリー内にある各小説のタイトルをクリックしてください。

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決断。

2025年01月27日 | 日記
と言っても、大したことではないのですが。
ベルばら劇場版、観に行きたいけどインフルエンザやノロウイルスが流行っているので諦めます。

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ベルばらで平安パラレル。

2025年01月25日 | 日記
X(twitter)でも呟いていましたが、他作品とのクロスオーバーでベルばらの平安パラレルを書きたいなあと思っています。
オスカル様は、女でありながら男装の麗人として宮中で活躍されている「光る君」。
アンドレは、そんなオスカル様に影のように寄り添う。
18世紀フランスと日本の平安時代、全然違いますが、オスカル様は平安時代でも幕末でも現代でも格好いいと思います。

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宵闇に咲く華 第一話

2025年01月25日 | 薄桜鬼×F&B オメガバースクロスオーバーパラレル二次創作小説「宵闇に咲く華」
「薄桜鬼」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有です、苦手な方はご注意ください。


1858年、会津。

「ここでよろしいでしょうか、カイト様?」
「うん・・」
この日、海斗は付き人であるナイジェルと共に花見に来ていた。
冷たく厳しかった冬が終わり、美しく咲き誇る桜を見ながら海斗は春を感じていた。
「法事に出席されなくて良かったのですか?」
「うん。あんな醜悪な所に居たら、俺まで醜くなってしまう。」
「カイト様・・」
ナイジェルは、少し寂しそうな主の顔を見ながら、彼女が置かれている境遇に胸を痛めていた。
海斗は、東郷家の側室である実母が病死し、正室の元に引き取られたが、その正室は海斗を蔑ろにした。
海斗が赤毛で男女両方の性を持つ下級の丙種、即ちオメガであるからだった。
この世には、甲・乙・丙という第二性が存在する。
優秀であり、支配階級に多く属する甲種―アルファ。
人口の大半を占める乙種―ベータ。
そして、繁殖目的の為だけに存在する丙種―オメガ。
アルファとオメガとの間には、「運命の番」というものが存在する。
家族以上の強い絆で結ばれた番同士は、永遠に結ばれるという。
(運命の番、かぁ・・俺には、そんなの関係ないけれど。)
海斗がそんな事を考えていると、向こうから姦しい娘達の笑い声が聞こえて来た。
「ナイジェル、もう帰ろうか。」
「はい。」
ナイジェルと共に弁当が入った重箱を片づけていると、数人の娘達が二人の前に現れた。
「あら、誰かと思えば行き遅れの海斗様ではありませんか?」
娘達の中で一番美しく、背が高い娘が海斗の前に現れた。
「誰かと思ったら、この前わたくしに薙刀で一本も取れなかった美沙様ですね。一人だとわたしに敵わないから、徒党を組んでわたしに嫌がらせをしに来たのですか?随分と暇なのですね。」
「なっ・・」
「では、これで失礼します。」
怒りで顔を紅潮させている美沙に背を向け、海斗はナイジェルと共にその場を後にした。
家臣の娘同士でありながらも、美沙と海斗は会えば喧嘩ばかりしていた。
海斗の父・洋介が自分の父親の上役ということもあり、美沙は海斗の出自について人目のない所で良く嘲った。
しかし、海斗はそんな美沙の言葉など気にしなかった。
天地が逆さになろうとも、己の出自を変えられないのはわかっているし、そんな事で嘆くのは無駄だとわかっているからだ。
「只今戻りました。」
「海斗様、お帰りなさいませ。皆様、もう帰られましたよ。」
「ありがとう。」
海斗は女中の清に礼を言うと、足早に自分の部屋に入った。
「海斗は何処なの!?」
「奥方様、海斗様ならお部屋にいらっしゃいますよ。」
廊下で義母と女中の声が聞こえ、海斗は咄嗟に押入れの中に隠れようとしたが、その前に彼女達に見つかってしまった。
「海斗、お花見は楽しかった?」
「義母上・・」
「お前に、話があります。」
「わかりました。」
海斗が友恵の部屋へと向かうと、そこには幼馴染の森崎和哉の姿があった。
「和哉、どうしてここに?」
「海斗、あなたはまだ、番を見つけてはいないわよね?」
「はい・・」
「それなら丁度良いわ。海斗、あなたの縁談が決まりましたよ。お相手は、森崎家の親戚筋の方よ。」
「小母様、待ってください、海斗は・・」
「和哉君、状況が変わったのよ。ごめんなさいね。」
そう言った海斗の義母・友恵の目は笑っていなかった。
「海斗、僕は何があっても、君の味方だからね。」
「ありがとう、和哉。」
和哉を屋敷の裏口で見送った海斗が溜息を吐いていると、そこへナイジェルがやって来た。
「海斗様・・」
「ナイジェル、心配してくれてありがとう。」
「海斗様、お箏のお稽古のお時間ですよ。」
「わかった。」
側室の子でありながらも、友恵は海斗に武家の娘に相応しい教養を身に着けさせた。
はじめは友恵に反抗していた海斗だったが、ナイジェルのある一言で変わった。
「知識と教養は、一生の宝となりますよ。」
ナイジェルは、海斗が物心ついた頃から傍に居てくれた。
幼い頃病弱だった海斗に、ナイジェルは良くお粥を作ってくれたし、今でも辛い時ナイジェルは何も言わずに傍に居てくれた。
「ありがとうございました。」
「海斗様、何か悩みがあったら相談して下さいね。」
「先生・・」
「では、わたしはこれで。」
海斗の箏の師匠・山本は、そう言うと彼女の手を優しく握った。
―ねぇ、聞いた?海斗様が・・
―そうそう、まさかあの方の元に嫁がれるなんて・・
―噂によると、あの方は無惨絵を描くのが趣味だそうよ。
―厄介者を押し付けられたという事ね。
女中達の話し声が聞こえ、海斗は読んでいた本から顔を上げた。
「お姉様、失礼するわね。」
「洋・・」
海斗の妹で友恵の娘・洋は、袖口で口元を覆うと、こう言った。
「陰気臭いわねぇ、この部屋は。」
「何の用?」
「別に。ただお礼を言おうと思って。わたしの代わりに、あの厄介者を引き受けて下さってありがとう。」
「洋、それはどういう事?」
「母様なら何も聞かされていないの?まぁ、当然よね、あの厄介者が番欲しさに娘達を手籠めにしようとしたから、姉様に白羽の矢が立ったのよ。」
洋は意地の悪い笑みを海斗に浮かべると、次の言葉を継いだ。
「姉様が丙種でよかった。お陰でわたしは、和哉様の元へと嫁ぐ事が出来るわ。」
洋は言いたい事だけ言うと、海斗の部屋から出て行った。
(所詮、俺はこの家の厄介者でしかないんだ。)
オメガとして産まれた我が身を、海斗はこの時程呪った事は無かった。
同じ頃、会津から遠くにある江戸の道場では、一人の男が木刀を振るっていた。
「それまで!」
「ふぅ・・」
面を外し、汗で乱れた金髪を軽く払った男の姿を垣間見た女達が、黄色い悲鳴を上げた。
「ジェフリー、また腕を上げたな。」
「どうも。」
美しい金髪をなびかせ、蒼い瞳を煌めかせた男の名は、ジェフリー=ロックフォード。
この道場に通う旗本の嫡男で、アルファである彼を狙って、連日道場の外には女達が彼の姿を見たいが為に集まっていた。
「相変わらず人気者だな。」
「それ程でもないさ。」
ジェフリーはそう言いながら、道場を後にした。
「あの・・」
ジェフリーが町を歩いていると、一人の町娘が海斗に声を掛けて来た。
「ありがとうお嬢さん、気持ちだけを受け取っておくよ。」

ジェフリーに微笑まれた町娘は、その場で気絶しそうになった。
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愚者の花嫁 第1話

2025年01月25日 | FLESH&BLOOD 昼ドラハーレクイン風パラレル二次創作小説「愚者の花嫁」

素材表紙は、てんぱる様からお借りました。

「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「カイト様、おはようございます。」
「おはようございます。」
この日、ロレンシア公爵家は、特別な朝を迎えていた。
「カイト、何ですかその髪は!アンナに直して貰いなさい!」
「え~!」
海斗の義母・マリーは、海斗にそう言うと彼女の自室から出て行った。
(何だよ、たかが見合いの為にそんなに張り切る事じゃないだろうに。)
この日、ロレンシア公爵家の令嬢・アナスタシアと、この国の皇太子であるジェフリーと見合いをする事になっている。
アナスタシアは、マリーに似た美貌の持ち主で、淑女のお手本のような、聡明で控え目な女性だった。
だがその義理の妹である海斗はアナスタシアとは正反対で、花嫁学校は入学したその日の夜に脱走し、マリーがそのショックで寝込んでしまった事があった。
得意なのは乗馬と剣術、裁縫と刺繍だけ―そんな海斗を、世間は“ロレンシア家の恥さらし”と呼んでいた。
だがそんな世間の評判などクソくらえと思っている海斗は、姉の大事な見合いの日など知ったこっちゃなかった。
しかし、この見合いを必ず成功させたいマリーは、海斗をアナスタシアの付き添いとして指名したのだ。
「え~!」
「いい、決してアナスタシアの邪魔をしては駄目よ!」
「わかったよ!」
(あ~、面倒臭い。)
アンナに髪をきつく結ばれ、海斗は余りの痛さに悲鳴を上げた。
「さぁ、次はコルセットを締めますからね。」
マリー以上にこの見合いの成功を願っているアンナはそう言うと、海斗を寝台の傍へと移動させ、彼女が着ているコルセットの紐をきつく締めた。
「痛いって!」
「我慢なさい!」
コルセットをきつく締められ、海斗は時折苦しそうな息を吐きながら姉の見合いに臨んだ。
「皇太子様が、お見えになられました。」
「もうすぐ、ロレンシア邸に着きますよ。」
「あぁ・・」
鬱陶し気に前髪を搔き上げながら、アゼリア王国皇太子・ジェフリー=ロックフォードは馬車の窓から外を見た。
「少しは興味がある振りをしたらどうだ?」
「だったら、あんたが見合いをすればいい。アナスタシア嬢とあんただったら気が合いそうだしな。」
「ふん・・」
見合いの付き添いでジェフリーの向かい側に座っていたのは、彼の異母弟であるビセンテ王子と、彼の小姓であるレオだった。
独身主義者であるジェフリーが見合いをする事になったのは、彼らの祖母にあたる皇太后・エリザベスのあるひと言からだった。
「妾ももう長くない。せめて死ぬ前に曾孫を抱きたいものじゃ。」
皇太后の言葉に真っ先に反応したのは、彼女の重臣達だった。
頑健で結婚適齢期の二人の王子が居るのだから、相手さえ見繕えば、結婚などすぐに出来るだろうと、彼らはそう単純に思っていた。
しかし、現実はそんなに甘くなかった。
無神論者で男色家のジェフリーは、皇太子という立場でありながらも結婚に全く興味を持っていなかったし、ビセンテ王子は恋愛に対して淡白過ぎだった。
そんな現実を突きつけられたエリザベスの重臣達は慌てて家柄と血筋の良い娘―即ちロレンシア公爵令嬢・アナスタシアを見つけ、ジェフリーと彼女の見合いを急遽行う事になったのであった。
「アナスタシア嬢には、妹君が一人居るそうだ。」
「どんな方なのですか?」
「噂によると、入学した花嫁学校にその日の夜に脱走し、社交界では、“ロレンシア家の恥さらし”と呼ばれている程、風変わりな娘だそうだ。その上、赤毛故に気性が荒いらしい。」
「へぇ・・」
ジェフリーの蒼い瞳が煌めいたのを見たビセンテは、すかさず彼に釘を刺した。
「あなたが今からお会いする方は、アナスタシア様であって、彼女の妹君ではないのですよ。」
「わかったよ・・」
ジェフリー達を乗せた馬車がロレンシア邸の前に停まると、使用人達が総出で彼らを出迎えた。
「皇太子様、こちらです。」
「皇太子様、お目にかかれて光栄です。」
客間に入って来たジェフリー達に向かって、アナスタシアは優雅にカテーシーをした。
姉に倣ってカテーシーをしようとした海斗だったが、コルセットがきつくて出来なかった。
「カイト、ちゃんとしなさい!」
「コルセットがきつくて出来ないのよ、お姉様。」
「皇太子様、妹の無礼をお許し下さい。」
「別に構わないさ。」
見合いは、滞りなく終わった。
「あ~、疲れた。」
「カイト、あなたはもっとお淑やかに出来ないの!?」
「あら、俺は見合いの間に一言も喋りませんでしたけど?」
「もういいわ!」
アナスタシアはそう叫ぶと、浴室から出て行った。
昔から、彼女と仲が良くなかった海斗は、この見合いが成功し、彼女が未来の皇后となって欲しいと思った。
(俺は、こんな身体だし・・)
浴槽の中で身体を洗っていた海斗は、己の身体を見て溜息を吐いた。
海斗は、男女両方の性を持っている。
初潮を迎えて以来、豊満になってコルセットを締める度にきつく感じるようになった乳房と、それと反比例して小ぶりになった男の象徴。
男でも、女でもない自分を、愛してくれる人間なんていない。
海斗はそう思い込んでいた。
しかし―
「え、それ本当なの、お母様!?」
「えぇ。今夜王宮で開かれる舞踏会に招待されたわ。カイト、くれぐれも皇太子様に失礼しないようにね。」
「わかったよ、お母様。」
同じ頃、皇太子の執務室でジェフリーが苦手な書類仕事を終えて欠伸を噛み殺していると、執務室の扉がノックなしに勢いよく開かれた。
「皇太子様、一体どういうつもりなのですか!?」
「何をそんなに怒っている?俺はちゃんと結婚すると言っただろうが。」
「相手がアナスタシア様なら問題ありません!何故、妹君のカイト様なのです!?」
「俺は慎ましい淑女よりも、じゃじゃ馬で一筋縄ではいかない跳ねっ返り娘の方が、俺は好きなんだ。」
「今からでも考え直して下さい。あの娘にはこの国の皇后は務まりません!」
「そんなの、やってみないとわからないだろ?」
ジェフリーはそう言うと、羽根ペンを回した。
「全く、あなたという方は・・」
ビセンテは、溜息を吐いた。
腹違いの兄であるジェフリーの性格を、ビセンテは彼が子供の頃から熟知していた。
ジェフリーは、自分でこうと決めたら頑として動かない性格だった。
嫌なものは嫌だ、型に嵌められたくない。
王家の為、王国の為にと常に己を律し、国に尽くして来たビセンテとは正反対だ。
「いいでしょう。あなたがそのつもりならば、わたしにも考えがあります。」
ジェフリーはビセンテの言葉に答えない。
これ以上話す事は無い―ビセンテはマントの裾を翻すと、ジェフリーの部屋から出て行った。
「ビセンテ様。」
「レオ、舞踏会の準備を。」
「シー、マエストロ。」
「ここは、船上ではないのだぞ。」
「すいません、つい癖で・・」
レオはそう言って頬を赤く染めた。
「全く、皇太子様は一体何をお考えなのか・・あの赤毛の跳ねっ返り娘を王家に迎えるなど・・」
「僕達は何もできませんよ。問題は、あの方が彼女を気に入るか、ですよ。あの方は、気難しいから・・」
「お祖母様は―皇太后様は気難しい方だが、どのような身分でも、受け入れて下さる方だ。」
「あぁ、確かにそうでしたね。覚えていますか、僕がこの王宮に来た日の事を。」
「覚えているとも。」
ビセンテは、ふとレオが王宮へやって来た日の事を思いだしていた。
レオは、田舎騎士の家で生まれ、海軍でめざましい活躍をしているビセンテの事を聞き、レイノサから遥々王都へとその身ひとつでやって来たのだった。
「お願い致します、僕をあなたの小姓にして下さい!」
全身垢と泥に塗れ、凄まじい悪臭を漂わせたレオは、ビセンテの前に跪いた。
ビセンテは、レオの美しい蒼い瞳に宿る情熱に気づき、彼を小姓として傍に置いておく事に決めた。
垢と泥で汚れた身体を洗うと、美しい糖蜜色の髪と、雪のような白い肌があらわれた。
レオは、ビセンテの小姓となってから、只管勉学や剣技に励んだ。
ビセンテは、そんなレオを実の弟のように可愛がった。
仲睦まじい二人の様子を見た、彼らが恋人同士なのではないかと、事実無根の噂をばら撒いていた周囲の人間達は、皇太后の鶴の一声で一蹴された。
「仲睦まじい事は良き事じゃ。」
気難しく、情け容赦ない性格で知られるエリザベス皇太后だったが、気を許した相手となれば身分関係なく受け入れてくれる懐の深い一面がある。
「これから、忙しくなりますね。」
「あぁ。」
ビセンテとレオがそんな事を話しているのと同じ頃、ロレンシア公爵家ではひと騒動起きていた。
「何故、あなたなの!わたくしではなく、どうしてあなたが皇太子様の御心を掴むのよ!」
生まれてから物心がつき、社交界デビューを果たして以来、アナスタシアは未来の皇后となる事を目標に生きて来た。
それなのに、ただ付き添いとして同席していただけの海斗が、ジェフリーの心を掴んだのだ。
その日から、アナスタシアと海斗の関係に深い亀裂が入った。
「カイト様、入りますよ。」
「俺、姉様のお見合いに付き添わなきゃ良かったかな。」
「過ぎた事はどうにもなりませんわ。これからの事を考えませんと。」
「そうだね・・」
その日の夜、王宮で皇太后主催の舞踏会が開かれた。
―あ、あの赤毛・・
―あの恥さらしが、どうしてこんな所に?
氷のような視線が、海斗の全身に突き刺さった。
海斗の隣には、アナスタシアが憤怒の表情を浮かべて立っていた。
「皇太子様のお成り~!」
美しいブロンドの髪をなびかせながら広間に入って来たジェフリーの姿を貴婦人達から一斉に黄色い悲鳴を上げた。
そのジェフリーの後ろに控えていたのが、エリザベス皇太后に寄り添うように歩いているビセンテとレオだった。
ジェフリーは青地に金糸の刺繍を施され、レースをふんだんに使った夜会服姿だったが、対してビセンテは襞襟にレースがついた、黒の夜会服姿だった。
―ジェフリー様の婚約者が、今夜発表されるのですって。
―皇太子様の御心を掴んだのは、どんな方なのかしら?
―それは、決まっているわよね・・
海斗は周囲の視線に耐えかねて、その場から立ち去ろうとしたが、アナスタシアがそれを許さなかった。
「何処へ行くの?」
「姉様・・」
「あなただけ逃げ出そうなんて、許さないわよ。」
そう言った彼女のブルーの瞳には、仄暗い光が宿っていた。
「みんな、今夜は来てくれてありがとう!」
ジェフリーがそう言って貴婦人達に手を振ると、彼女達は黄色い悲鳴を上げた。
中には、気絶する者も居た。
「今日はみんなに報告したい事がある。俺はこの度、カイト=ロレンシア嬢と婚約する事になった。」
―え・・
―アナスタシア様ではなくて?
海斗は、そっと大広間から抜け出すと、人気のない中庭へと向かった。
(これからどうなるのかな、俺・・)
先程の、自分を見つめる貴族達の冷たい視線を思い出した海斗は、この先王宮で暮らしていけるのかと心配になった。
「カイト様、こちらにいらっしゃったのですね。」
「あなたは・・」
「皇太子様が・・兄上があなたをお待ちしております。」
ビセンテ王子はそう言うと、海斗の腕を掴んで大広間へと向かった。
「カイト様、さぁ・・」
「先程取り乱してしまって申し訳ありませんでした、皇太子様、皇太后様。」
もう、逃げられない。
ならば、堂々と立ち向かわなければ。
「美しい赤毛だね、生まれつきかえ?」
「はい。」
「ほぉ、鮮やかな緋色じゃ。腕の良い洗髪師でも、美しい色にはこのようには染められぬ。」
「そうですか?」
「ジェフリーから、そなたの事を聞いたぞ。見合いの時にコルセットがきつくてカテーシーが出来ぬと言ったそうだな?それは、本当か?」
「はい。先程逃げ出したのは、俺なんかが皇太子妃に相応しくないと思ったからです。」
「その理由は?」
「俺が、ロレンシア家の恥さらしだからです。」
海斗がそう言った瞬間、周囲がざわめいた。
「面白い事を言う。そなたのようにはっきりと物を言う娘は、社交界には相応しくないが、それを言うのならば妾もジェフリーも同じ事。そなたなら、これから上手くやれるだろうのう。」
「え・・」
「これから、宜しく頼むぞ。」
「はい・・」
舞踏会から数日後、ロレンシア公爵邸の前に一台の馬車が停まった。
「カイト様、皇太后様の命により、お迎えに上がりました。」
「お義父様、お義母様、今まで育てて下さりありがとうございました。」
義理の両親―養父母に別れを告げた海斗が馬車に乗り込もうとした時、黒髪の巻き毛を揺らしながら、一人の少女が海斗の元へとやって来た。
「ヘンリエッタ、どうしたの?」
「カイトお姉様、もう会えないの?」
「そんな事ないよ。」
海斗は自分に懐いている末妹・ヘンリエッタの頭を撫でた。
こうして、海斗は長年暮らしていた実家を離れ、王宮で暮らす事になった。
「あの、皇太子様は・・」
「皇太子様は、外出されております。わたしは今日からあなた様の教育係を務めさせて頂きます、ビセンテ=デ=サンティリャーナと申します。」
「よろしく、お願い致します・・」
ビセンテは、海斗を未来の皇后に育てるべく、海斗が王宮へやって来たその日から、厳しいお妃教育をした。

(はぁ、疲れた・・俺、こんな所で暮らせんの?)

海斗は寝台に大の字になって寝転がると、そのまま朝まで泥のように眠った。

「カイト様、おはようございます。」
「おはようございます。」
海斗が寝台の中で寝返りを打っていると、寝室に女官達を連れたビセンテが入って来た。
「え、今何時?」
「朝の5時です。」
「もう少し、寝かせて・・」
シーツの中へと海斗が潜ろうとした時、ビセンテがそれを勢いよく剥がした。
「何すんだよ!」
「“何をなさるの”です。未来の皇后ともなろう御方が、そのような粗野な物言いは今後お控え下さい。」
「わかったよ。」
「“わかりました”。」
「わ・か・り・ま・し・た!」
「よろしい、では顔を洗って、歯を磨いて下さい。」
(あ~、いつまでこんなの続くんだろう?)
洗顔と歯磨きを終えた後、海斗はビセンテと朝食を取る事になった。
 しかし、そこでもビセンテに事あるごとに監視された。
「脇を閉めて!スープは音を出して啜らない!」
四六時中、ビセンテに一挙手一投足を監視され、息が詰まりそうだった。
海斗が王宮の中で唯一出来る気晴らしは、刺繍と乗馬、そして絵を描く事だった。
 数少ない私物の中に、画材道具を持って来て良かった―海斗はそう思いながら、白いカンバスの上に王宮を描き始めた。
王宮にやって来た時、この美しい白亜の宮殿を自分の手で描きたいと思っていたので、すぐに描けて良かった。
「これで良し、と・・」
海斗が王宮の絵を描き上げた時、ビセンテが部屋に入って来た。
 彼は、緑の瞳を大きく見開いたかと思うと、海斗の絵を見て溜息を吐いた。
「これは、あなたがお描きになられたものですか?」
「はい・・」
「素晴らしい。」
「あの、怒らないのですか?」
「いいえ。ミューズの恩寵を受けておられるあなた様を、どうして怒る事が出来ましょう?」
案外、融通が利く男だ―海斗がそう思い掛けていた時、ビセンテの顔が少し険しくなった。
「何ですか、寝癖を放置したままにするなど・・」
前言撤回、やはり彼とは気が合わない―海斗は完成した絵をイーゼルから外した後、鋏を持って浴室へと向かった。
「カイトはどうした?」
「存じません。」
「お前が苛めるから、部屋に引き籠もったんじゃないか?」
「苛めるなど、人聞きの悪い事を!わたしは・・」
「ビセンテ、そなたは少しやり過ぎる所がある。」
「少し、カイトの様子を見に行って構いませんか、お祖母様?」
「許す。」
「では、失礼して・・」
ジェフリーが椅子から立ち上がろうとした時、女官達の悲鳴が廊下から聞こえて来た。
「何があった?」
「カイト様が・・」
ジェフリーが海斗の部屋のドアをノックすると、部屋の主からは何の返事も無かった。
廊下で待っていても埒が明かないので、ジェフリーは部屋のドアを蹴破った。
「皇太子様・・」
そう言って自分を見つめた海斗の髪は、腰下までの長さがあったものが、首の後ろに届くか届かないかの長さになっていた。
「成程、そういう事か・・」
この時代、女性―上流階級の女性達は、腰下から膝下までの長髪を美しく保ち、その髪を美しく飾る事が常識であった。
女官達が悲鳴を上げたのは、女の命である髪を切った海斗の行為が信じられなかったのだろう。
「何故、髪を切った?」
「手入れしやすい為です。毎日、顔が突っ張る位きつく髪を結ばれるのは堪りませんからね。」
「そうか・・」
「どうですか?おかしくありませんか?」
「いや、俺は人の価値を外見ではなく、その人柄で見る主義でね。」
「そうですか・・」
(面白い娘だ。)
知れば知る程、惹かれる。
「何たる事・・」
ジェフリーと共にダイニングに入った海斗の髪を見たビセンテは、飲んでいたワインで噎せそうになってしまった。
「その髪はどうしたのかえ?」
「自分で切りました。」
「何と、大胆な事をしたものじゃ。女の命である髪を自ら切るとは。」
「わたくしの身体はわたくしのもの、誰の指図も受けませんわ。」
「ますますそなたが気に入ったぞ、カイト。切った髪はどうした?」
「箱に入れております。」
「妾の鬘用に使わせて貰おう。そなたの美しい赤毛は、この世に置いて唯一無二のものだからな。」
「有難き幸せにございます。」
海斗が女の命である髪を切ったという話は、瞬く間に社交界中に広がった。
「何という事をしたのよ、あの子は!うちの家名に泥を塗るつもりなのかしら?」
「でも、カイトお姉様らしいですわ。」
ヘンリエッタ、部屋へ行きなさい。」
「はぁい。」
ヘンリエッタがダイニングルームから出て行く姿を確めると、マリーは夫を見て彼にこう尋ねた。
「あなた、アナスタシアの事はどうなさるおつもり?あの子はあれから自分の部屋に引き籠もったまま出て来ないのですよ!」
「今は、時間が必要だ。」
「何を悠長な事をおっしゃっているの!このままあの子が結婚出来なくなったら、あなたの所為ですからね!」
マリーのヒステリックな金切り声を聞きながら、アナスタシアは自室をこっそりと抜け出し、厩舎で愛馬に話し掛けていた。
「わたしも、お前のように自由に生きられたらいいのに。」
愛馬のジュリアス―栗毛の馬は、主の言葉を聞きそれに賛同するかのように鳴いた。
アナスタシアはジュリアスに乗ると、屋敷の裏口から外に出て、近くにある公園へと向かった。
外は凍てつくような寒さだったが、部屋に引き籠もっていたアナスタシアにとっては、冷たい空気は心地良いものだった。
公演まであと少しという所で、彼女は一人の男とぶつかりそうになった。
「済まない、お怪我はありませんか?」
「はい・・」
「良かった。」
そう言って自分を見つめる青年の瞳は、美しく磨き上げられたエメラルドを思わせるかのような、鮮やかな緑をしていた。
「わたしの顔に何か?」
「美しい瞳をしていらっしゃるなと・・」
「それは、貴女も同じですよ。星空を全て宿したかのような蒼い瞳だ。わたしはビセンテと申します、あなたは・・」
「前に一度、お会いしておりますわ。」
ビセンテとアナスタシアは、暫く馬上での会話を楽しんだ後、それぞれの家へと帰っていった。
「アナスタシア、何処へ行っていたの?」
「遠乗りに行っていましたわ。」
「そう、気晴らしをする事は良い事よ。」
マリーはそう言うと、アナスタシアに一通の招待状を手渡した。
「これは?」
「皇太子様とカイトの結婚式よ。欠席するのなら・・」
「いいえ、出席するわ。あの子の幸せを、近くで見たいの。それに、あの方と会えるし。」
「あの方?」
「いいえ、何でもないわ。」
ジェフリーとの婚礼を控え、海斗は忙しくなった。
衣装選び、招待客リストの作成、やる事が山程あって、海斗は気が狂いそうだった。
そんな中、海斗に一人の青年が訪ねて来た。
「久し振りだね、海斗。」
「和哉・・」
彼は、海斗の孤児院仲間・森崎和哉だった。
「どうして・・」
「ここに来たかって?君の実家を訪ねたら、君がここに居るって聞いたんだ。これ、結婚祝い。」
「ありがとう。」
海斗が和哉から受け取った物は、小さなダイヤモンドのペンダントだった。
「カイト様~!」
「ごめん、もう行くね。」
「会えて嬉しかったよ。」

そう言った和哉の瞳に暗い光が宿っている事に、海斗は気づいていなかった。

海斗とジェフリーの婚礼の日は、雲一つない晴天だった。

「まぁ、今日は素敵な日になりそうね。」
「ええ。」
新婦の姉であるアナスタシアは、ペールブルーのドレスを着ていた。
彼女は、皇太子妃となる妹の花嫁付添人を務める事になっていた。
「昨夜は良く眠れたの、カイト?」
「うん・・」
「皇太子様と、お幸せにね。」
花嫁の控室で、アナスタシアはそう言って海斗に微笑んだ後、彼女と抱き合った。
「カイト様、そろそろお時間です。」
「わかりました。」
ウェディングドレスの裾を女官達に持って貰いながら、海斗はジェフリーと共に馬車へと乗り込んだ。
「良く似合っているぞ。」
「ありがとう。」
ジェフリーと共に馬車から降りた二人は、大聖堂の前で沿道に並んでいた人々から祝福の喝采を受けた。
二人の婚礼は、伝統に則って恙なく終わった。
大聖堂から王宮へと戻る二人のパレードを、ビセンテは騎乗して警護した。
「今日は、騒がしいわね。」
「ええ、今日は皇太子様のご婚礼の日ですから。」
「そう・・」
遠くから聞こえて来るパレードの喧騒に耳を澄ませながら、喪服姿の貴婦人は溜息を吐いていた。
(寡婦でなければ、今頃王宮の舞踏会に参加できたでしょうに。)
彼女の名は、ラウル=デ=トレド。
一月前に、夫が戦死し、寡婦となった。
今彼女が考えている事は、これからどう生活するかではなく、今夜の舞踏会の招待状が、何故自分宛に届いていないのかという事だった。
(夫が居ないと、わたしは宮廷に出入りできない。)
宮廷に出入りできなければ、流行のファッションやグルメ、美容の情報が得られなくなる。
それは、宮廷に生きるラウルにとっては耐え難いものだった。
(何としてでも、宮廷に・・)
「奥様、失礼致します、お客様が・・」
「お通しして。」
「失礼致します、ラウル様。」
部屋に入って来たのは、宮廷の儀礼官であるハットン卿だった。
「まぁハットン様、忙しいのにいらっしゃるなんて・・」
「ラウル様、この招待状をあなた様の元に届けるのを忘れてしまいました、申し訳ございません。」
「あら、わたくし寡婦になったので招待状が来ないのかと、不安になっていましたのよ。」
「では、わたくしはこれで失礼致します。」
「わざわざ招待状を届けて下さって、ありがとう。」
その日の夜、王宮では皇太后主催の舞踏会が開かれていた。
その主役は、婚礼を終えたばかりのジェフリーと海斗だった。
獅子と不死鳥の刺繍を金糸で施された真紅のドレス姿の海斗は、一際美しかった。
ドレスと同じ色の髪には、ペリドットとダイヤモンドのティアラが飾られていた。
そのティアラは、皇太后・エリザベスが結婚式の際につけていた物を、海斗が譲り受けたのだった。
「良く似合っておるぞ、カイト。」
「ありがとうございます。」
「カイト、結婚おめでとう。」
「ありがとう、姉様。」
「皇太子様、妹の事を宜しくお願い致しますね。」
そう言ったアナスタシアの顔は、何処か幸せそうだった。
「アナスタシア様、またお会いしましたね。」
「ビセンテ様・・」
「一緒に踊って頂けませんか?」
「はい、喜んで。」
―まぁ、ビセンテ様だわ・・
―お似合いの二人ではなくて?
遠巻きにビセンテとアナスタシアのダンスを見ていた貴婦人達が、そんな事を扇子の陰で囁き合っていた時、一人の喪服姿の貴婦人が大広間に入って来た。
「まぁ、あの方は・・」
「彼女を、ご存知なのですか?」
「あの方は、ラウル=デ=トレド様、パルマ公のご親戚筋に当たられる御方よ。」
「確か、一月前に夫が戦死されて、寡婦となられたのではなくて?」
女官達がそんな話をしていると、喪服姿の貴婦人はエリザベス皇太后に挨拶をしていた。
「ラウルよ、よう来てくれた。」
「皇太后様、わざわざわたくしを招待して下さってありがとうございます。」
ラウルは恭しい様子でエリザベスの手の甲に接吻すると、海斗を見た。
(何?)
暫く全身を舐め回されるかのような、執拗な視線を彼女から浴びた海斗は、恐怖の余り、ジェフリーの背後に隠れた。
「ラウル様、余り妻を怖がらせないで下さい。」
「あら、ごめんなさい。とても珍しい赤毛だったので、つい見惚れてしまいましたの。」
ラウルはそう言った後も尚、じっと海斗を見つめて来る。
淡い褐色の瞳が、シャンデリアの光を受け、美しくも禍々しい黄金色に輝いた。
「素敵なティアラですわね。」
「ありがとうございます。」
「あぁ、このような華やかな場で黒玉(ジェット)しか身に着けてはならぬというなんて、寡婦という身分がこれ程までに恨めしいと思った事はありませんわ。」
そう言って溜息を吐いたラウルは、再び海斗を見た。
「皇太子妃様、そろそろ・・」
「皇太后様、わたくしはこれで失礼致します。」
「そうか。今日は色々と忙しかったから、部屋に戻ってゆっくり休むといい。」
「はい。」
女官達を従えて、海斗が大広間から出て行く姿を、周囲の貴族達は感嘆の溜息を吐きながら見送った。
「疲れた・・」
金糸で刺繍されたドレスを脱ぎ、女官達によってコルセットを緩めて貰った海斗は、夜着に着替えもせず、下着姿のまま寝台の中に入った。
「まぁ皇太子妃様・・」
「だって、朝から疲れてもうクタクタなんだもの。ねぇアメリア、ラウル様の事は知っているの?」
「あの方の事は、色々と存じ上げておりますわ。」
そう言ったアメリアの顔が、微かに曇った事に海斗は気づいた。
「あの方は、色々と黒い噂がある方ですの。」
「黒い噂?」
「ええ、密貿易に関わっていらっしゃるとか・・」
「俺、あの人に見られていたような気がするんだけれど・・」
「あの方は、ご自分の獲物を見極めていらっしゃったのですわ。」
「どういう意味?」
「わたくしが皇太子妃様にお伝え出来るのは、ラウル様は、悪魔の化身のような方ですわ。」
「そう・・」
「明日も、色々と忙しくなりますから、ゆっくりお休みになってください。」
「わかった、お休み。」
天蓋が閉められ、海斗は朝まで夢も見ずに眠った。
同じ頃、皇太子の結婚に沸く王都から離れた北東部の町・リエルでは、ある事件が起きていた。
「ひぃ・・」
「頼む、命だけは・・」
「もう、遅い。」
まるで中世の頃から抜け出してきたかのような、奇妙なマスクをつけた男は、そう言うと命乞いをする者達の額を躊躇いなく撃った。
「そっちは、片付いたか?」
「あぁ。」
「誰にも顔を見られていないか?」
「あぁ。」
「そうか。」
賊達は、夜明け前に血塗られた貴族の屋敷を後にした。
「次は、誰を殺す?」
「さぁな。」
「赤毛の皇太子妃だ。」
激しく揺れる馬車の中で、一人の男はそう呟くと、皇太子の結婚を報じる新聞記事を広げた。
そこには、美しいペリドットとダイヤモンドのティアラを髪に飾った海斗の写真があった。
「これから何処へ行くつもりだ?」
「決まっている―王都だ。」

男達を乗せた馬車は、王都へと向かっていた。
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オスカル様…

2025年01月24日 | 日記

昔のアニメ版も良かったのですが、今回の映画版オスカル様も良い…沢城みゆきさんのお声がいい。
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アンドレ…

2025年01月24日 | 日記

映画ベルばらのアンドレの動画観たら、原作の彼の最期を思い出して泣きそうでした。
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オスカル様とアンドレのイメージソング。

2025年01月24日 | 日記
ベルサイユのばら、久しぶりに原作を読み、アンドレとオスカル様の最期に泣きそうになりました。
この曲、マクロスというアニメの曲なんですが、歌詞がアンドレへの、オスカル様の想いみたいで…動画のコメント欄に、曲の意味が「永遠に引き裂かれた絆」だと知り、もう涙…転生して幸せになる2人の姿を書いてみたいです。

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ベルサイユのばら

2025年01月23日 | 日記
久しぶりにベルサイユのばらをブックオフで全巻購入して読みました。
オスカル様が素敵過ぎて…名作は色褪せませんね。

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寒暖差バテ?

2025年01月22日 | 日記
今週から少し暖かくなったりして少し過ごしやすくなってきましたが、朝は寒くて昼は暖かい・・寒暖差バテなのか、少し身体が怠いです。
まぁ、無理せずに創作活動頑張ります。
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ロマンスを君に! 1

2025年01月21日 | FLESH&BLOOD 芸能界パラレル二次創作小説「ロマンスを君に!」


画像はこちらからお借りしました。

「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


遂に、この日が来た。
東郷海斗は受験票を握り締めながら、その時を待った。

「それでは、発表致します!」

濃紺の制服に身を包んだアカデミー=スクールの在校生が、正門の前に入学試験の合格者の番号が書かれた紙を掲示板に貼り付けた。
海斗の番号は、254番。
(えぇっと、254・・あった!)
アカデミー=スクールは、英国王立演劇学校と並ぶ、演劇学校だ。
英国王立演劇学校と違うところは、アカデミー=スクールは英国で唯一の男子校だった。
毎年10月から11月末に掛けて行われる入学試験の受験者数は、定員数40名に対して約2000人。
世界各国から演劇のプロフェッショナルを目指す者達が、このアカデミー=スクールがあるプリマスへとやって来る。
「合格者の方は、こちらへ。」
肩を落として正門から去っていく受験者たちに背を向け、海斗達合格者は正門の中にある校舎へと向かった。
「合格者の皆さん、この度は合格おめでとうございます。」
アカデミー=スクール演劇科4年クリストファー=マーロウ(キット)は、そう言うと海斗達に微笑んだ。
「君達はこの4年間、プロの演劇人としての道を歩む事になる。今は色々と不安な事があると思うが、俺達が全力でサポートするから、安心してくれ!」
こうして、海斗達は夢への第一歩を踏み出そうとしていた。
「気を付けてね、海斗。」
「行って来ます。」
大きな夢と不安を抱いて、海斗はプリマスへと旅立った。
入学式を終え、海斗は学生寮の部屋へと入った。
そこは二人部屋で、それぞれのベッドと机、クローゼットがあり、入って右側には浴室があった。
(今日からここで暮らすのかぁ・・)
海斗がスーツケースから荷物を取り出していると、誰かが部屋のドアをノックした。
「はい?」
「ほぉ、お前が今日から俺の相棒か。可愛い顔をしているな。」
部屋に入って来たのは、金髪碧眼の美男子だった。
(誰?)
「俺はジェフリー=ロックフォード。これからよろしくな、赤毛の天使さん。」
「カイト=トーゴ―です、これからよろしくお願い致します。」
「ははっ、そう硬くなるなよ。」
ジェフリーはそう言って笑うと、海斗の肩を叩いた。
(なんなの、この人・・)
初対面だというのに、やけに馴れ馴れしいジェフリーに海斗は少しひいていたが、段々慣れて来た。
「うわぁ・・」
アカデミー=スクールの食堂は天井が吹き抜けで、窓には美しいステンドグラスが嵌められていた。
「ここの一番のお薦めは、ビーフシチューパイだ。」
「そう。」
海斗がジェフリーと共に食堂に入ると、突然周囲の生徒達がざわめいた。
(え?)
「ジェフリー、その子がお前の赤毛の天使か?」
「あぁ。」
「あの、俺・・」
「気にしなさんな。カイト、これからよろしくな。」
「はい・・」
アカデミー=スクールの授業は、ダンスや演技などの専門的な授業の他に、外国語やテーブルマナーなどの授業があった。
「バレエの授業は、初めてか?」
「はい・・」
「大丈夫だ、緊張しなくていい。」
バレエ=レッスン室に、一人の青年が入って来た。
「今日から俺が君達にバレエを教えるナイジェル=グラハムだ。」
灰青色の瞳が、射るように海斗を見つめた。

(え、何?)

「駄目だ、もっと足を伸ばして!」
「姿勢が悪い!」
バレエ=レッスンが始まるや否や、ナイジェルの怒声がレッスン室に響いた。
(きつい・・)
海斗は90分のレッスンが終わった後、へとへとになりながら寮の部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んだ。
(本当にここでやっていけるのかな?)
バレエ=レッスンだけではなく、演劇関係の授業はきつく、その上先生達は毎回大量の宿題を出してくるので、海斗は毎日数時間くらいしか睡眠が取れなかった。
その所為か、海斗は中々身体の疲れが取れなくなってしまった。
「まだ寝ないのか?」
「このレポート、今日中に仕上げないと・・」
「カイト、一度鏡で自分の顔を見てみろ、酷い顔をしているぞ。」
ジェフリーからそう言われ、手鏡で自分の顔を見てみると、両目の下には隈が出来ていた。
「頑張るのはいい、だが根詰めたら駄目だ。」
「わかった・・」
少し寝た後、海斗は何とかレポートの締め切りに間に合った。
「ねぇジェフリー、グラハム先生の事は知っているの?」
「ナイジェルの事か?あいつとは、ガキの頃から知っている。」
「え、そうなの?」
海斗の驚いた顔を見て、ナイジェルが彼に何も話していない事をジェフリーは知った。
(昔から秘密主義だとは思っていたが、これ程までとは。)
海斗には話していないが、ナイジェルと自分には前世の記憶がある。
子供の頃からの付き合いというのは嘘ではないが、詳しい事はそんなに話さなくてもいいだろう。
「家が隣同士だったから、よく遊んでいたな。」
「へぇ・・バレエはいつから?」
「姉と一緒に、3歳の頃から家の近くにある公民館でやっているバレエ教室に通っていた。ここに入ったのは、俺はバレエダンサーよりも役者になりたかったからだ。」
「へぇ、そうなの。俺、昔からミュージカルを観るのが好きで・・まぁ、半分はババァ・・母さんの趣味に付き合わされたのがきっかけなんだけど。」
「そうなのか。」
「この学校の授業はきついが、努力は決して無駄にはならない。」
「わかった。」
それから、海斗はジェフリーと共にレッスンと勉学に励んだ。
そんなある日、学校に一人の女が訪ねて来た。
「ジェフリー、会いたかった!」
女はそう叫ぶと、ジェフリーに抱きついた。
彼女の名はイヴリン、ジェフリーの婚約者だった。
「急に俺に何の用だ、ジェフリー?」
「冷たいわね、ジェフリー。ロンドンからわざわざ来たっていうのに・・」
「帰れ、お前と話す事は何もない。」
「それが、父親の言う事なの!?」
「父親だと?」
「ええ、そうよ。わたし、あなたの子を妊娠したの。」
イヴリンはそう言うと、まだ目立たない下腹を撫でた。
「嘘吐くな。」
「あなたのご両親にはもう、報告しておいたわ。」
「イヴリン・・」
(厄介な事になったな・・)
「エマ、エマ!」
「奥様、どうかなさいましたか?」
「今すぐ支度をして頂戴、プリマスへ行くわ。」
ジェフリーの母・エセルは、ヘリコプターでプリマスへと向かった。
「どうした、溜息なんか吐いて?」
「キット・・」
「さては、恋の悩みか?このキット様に話してみな。」
「実は・・」
海斗がキットにジェフリーの婚約者の事を話すと、彼は少し呻いた後、こう言った。
「イヴリンは、厄介な女だからなぁ・・」
「彼女の事、知っているの?」
「あぁ。」
二人がそんな事を話していると、そこへ一人のブロンド美女がやって来た。
「あなたが、カイト?」
「はい、そうですが・・あなたは?」
「わたしはイヴリン、次期ロックフォード公爵夫人よ。」
ブロンド美女は、そう言うと海斗を冷たい蒼い瞳で見た。
「レディ・イヴリン、わざわざロンドンからお越し頂き、ありがとうございます。」
キットが慇懃無礼な口調でイヴリンにそう挨拶すると、彼女は不快そうに眉間に皺を寄せると、そのまま去っていった。
「放っておけ。」
「うん・・」
キットからそう言われ、海斗は余りイヴリンと関わらないようにしていたが、向こうはそうではないらしく、彼女は事あるごとに海斗に突っかかって来た。
「彼女、いつまで居るつもりなんだろう?」
「さぁな。」
イヴリンの地味な嫌がらせに海斗が少し参っていた頃、プリマスにロックフォード公爵夫人がやって来たというニュースが飛び交った。
「イヴリン以上に厄介な人が来たかぁ・・」
「ねぇキット、ジェフリーは貴族なの?」
「あぁ。しかも、あいつの母親がやり手の資産家なんだ。この学校に多額の寄付をしている。だが、彼女は・・」
キットが次の言葉を継ごうとした時、食堂にエセル=ロックフォードが入って来た。
エセルは、蒼い瞳で海斗を睨んだ。

(俺、何かした?)

「あなたが、この学校に入学したアジア人?」
「はい・・」
「アカデミー=スクールも地に堕ちたものね、アジア人の入学を許すなんて!」
「今の発言を取り消せ!」
「ジェフリー、役者なんて目指すのを辞めて、家に戻って来なさい!」
「お断りだね!」
「イヴリンはあなたの子を妊娠しているのよ!」
「ふん、そんなの嘘に決まっている!」
ジェフリーとエセルが食堂でやり合っていると、次第に二人の周りに人が集まって来た。
「カイト、こっちだ。」
「うん・・」
キットは、周りに気づかれないように、海斗を図書室へと避難させた。
「ここは静かだから、ゆっくり話せるな。」
「うん。」
「ジェフリーとあの人は、水と油でね。あの人はやり手の資産家で、頭の中は商売と家名を守る事しかない。それにあの人はレイシストでね。」
「レイシストなら、この国に来てから会ったよ。あんな風にあからさまに言われた事も、数え切れない程沢山ある。もう、慣れたけれど。」
「差別に慣れたら駄目だ。」
「そんな事を言っても、どうすればいいの?」
「耐えるよりも立ち向かえ、怒りを表現への糧にしろ。」
「わかった。」
二人が図書室から食堂に戻ると、そこにエセルとイヴリンの姿はなかった。
「二人は?」
「ロンドンに帰ったよ。少し頭を冷やせって、怒鳴られたよ。」
ジェフリーは溜息を吐くと、海斗を見た。
「あの女に言われた事を忘れろ。芸術の前に、人種や性別は関係ない。」
「うん。」
「さてと、ここで遅めのランチを頂くとするか。」
ジェフリーはそう言って海斗に微笑んだ。
ロンドンに戻ったイヴリンは、エセルと共にある人物と会っていた。
「遅くなって、申し訳ありません。」
「いいえ、わたし達は来たばかりですから。」
「そうですか。」
そう言って二人の前に座ったのは、ビセンテ=デ―サンティリャーナ、ロックフォード家の顧問弁護士だった。
「実は、この子とジェフリーの仲を引き裂いて欲しいの。」
エセルはそう言うと、ビセンテに海斗の顔写真を手渡した。
「この子は・・」
「知り合いでしたの?それなら話が早いですわ。」
エセルはそう言うと、ビセンテの耳元で何かを囁いた。
「わかりました、全力を尽くしましょう。」
「ありがとう、あなたに頼んでおいて良かったわ。」
「あ~、疲れた。」
海斗はバレエのレッスンを終えて、何度目かの溜息を吐いた後、そう言って持っていたタオルで額の汗を拭った。
「お疲れさん。」
「ジェフリー・・」
「余り根詰めると体力が無くなるぞ?」
「うん・・」
「それにしても、もうすぐハロウィンか。」
「この学校で、ハロウィンの時期に何かイベントでもあるの?」
「あぁ。ハロウィンの時期になると、仮装舞踏会が開かれる。それと、マーロウ脚本の劇かな。」
「劇かぁ、楽しみだな。」
海斗がそんな事を言いながらジェフリーと食堂に入ると、ナイジェルは何処か慌てたような表情を浮かべながら、彼らの元へと駆け寄って来た。
「二人共、今すぐレッスン室に来い!」
「わかった。」
(一体、何があったんだろう?)
「二人共、良く来たな!」
「キット、何かあったのか?」
「いや何、二人に劇の衣装合わせをして貰いたくてな。」
「衣装合わせ?」
「あぁ。」
キットから台本を渡された二人は、それに目を通した。
劇の内容は、中世ヨーロッパを舞台にした、ロマンスだった。
「このドレス、誰が作ったの?」
「俺だ。昔から裁縫が得意だったから、劇の衣装を作るのが楽しくなっちまったのさ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「それにしても、あの二人があっさり引き下がったのが気になるな。」
「何か嫌な予感がする。」
「さぁて、そんな暗い気分は、ハロウィン気分で盛り上げよう!」
「うん。」
ハロウィンシーズンに入ったアカデミー=スクールでは、ハロウィンにちなんだ屋台などが並び、連日沢山の人で賑わっていた。
「何だか、夢の中に居るみたい。」
「そうだな。」
海斗とジェフリーが屋台で売られていたパンプキンパイを食べていると、そこへキットがやって来た。
「よぉお二人さん、楽しんでいるようだな?」
「まぁな。」
「さてと、俺はこれから台本の直しをしに部屋へ戻るよ。」
「余り無理するなよ。」
「わかったよ。」

ハロウィン=フェスティバル二日目の朝、キットが舞台衣装を保管してある空き教室へと向かうと、衣装が何者かによって無惨に引き裂かれていた。

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それを愛と呼ぶなら 第一話

2025年01月19日 | 火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説「それを愛と呼ぶなら」


「火宵の月」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

一九二三年一月十三日、東京。

「火月、何処に居るのっ!」
「すいません、奥様・・」
高原伯爵家の庶子・火月は、そう言って父の正妻である綾子に向かって頭を下げた。
「全く、愚図なんだから!早く来ないと、置いて行ってしまうわよ!」
綾子は今にも泣き出しそうな顔をしている火月に背を向けると、さっさと車に乗り込んでしまった。
火月は何とか車に乗り遅れずに済んだが、綾子とその娘・香世子から目的地に着くまで嫌味を言われ続けた。
「ねぇ、お母様、この子をどうしても連れて行かなければならないの?」
「仕方無いでしょう、お父様の言いつけなのだから。」
香世子は、粗末な紬姿の火月をジロリと睨むと、彼女にこう言った。
「わたくしに恥をかかせないで頂戴ね、お姉様。」
彼らが向かっていたのは、土御門公爵邸だった。
この日、土御門家嫡子・有匡の十歳の誕生日を祝う宴が開かれていた。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます。」
「どうぞ、楽しんでいって下さい。」
土御門公爵家当主・有仁は、そう言うと火月達に微笑んだ。
「うわぁ、美味しそうなお菓子が沢山あるわ!」
「香世子、お行儀が悪いわよ!」
甘い物が大好きな香世子は、ダイニングテーブルに所狭しと並べられている西洋菓子を見て歓声を上げた。
華やかなパーティー会場のダイニングルームから離れ、火月は雪で彩られた中庭を歩いた。
ここには、自分を傷つける者は居ない。
(家には帰りたくない、あの人達に虐められるもの。)
そんな事を火月が思っていると、彼女は雪に埋もれて凍った池に気づかず、溺れてしまった。
火月は、泳げなかった。
(誰か、助けて・・)
火月がそんな事を思いながら池の底へと沈んでいった時、誰かが自分を池から引き上げてくれた。
「大丈夫か?」
火月がゆっくりと目を開けると、そこには自分を見つめる少年の姿があった。
「申し訳ありません、有仁様、有匡様!うちの娘がご迷惑を・・」
般若のような形相を浮かべた綾子を見た時、火月は恐怖の余り、有仁の背後に隠れた。
「どうやらお嬢さんはショックを受けておられるご様子。わたくし達が一晩、お嬢さんをお預かり致しましょう。」
「まぁ、有仁様がそうおっしゃるのなら、火月の事を宜しくお願い致しますね。」
有仁にそう言って愛想笑いを浮かべた後、火月の手の甲を抓った。
「有仁様に迷惑をかけないようにね、わかった?」
「はい・・」
池に落ちた火月と有匡は、居間にある暖炉で身体を暖めていた。
「どうして、あんな所に居たんだ?」
「だって・・」
「何も言いたくないのなら、言わなくていいよ。ねぇ、君名前は?僕は有匡。」
「火月・・炎の月という意味で、火月。」
「君の瞳、紅くて綺麗だね・・僕、紅が一等好きな色なんだ。」
「本当?」
今まで火月は、血のような真紅の瞳の所為で、化猫だの魔物だの、鬼の子だのと罵られて虐められて来たが、綺麗だと言われたのは初めてだった。
「あぁ、勿論さ!ねぇ、僕と友達になってくれる?」
「うん!」

これが、有匡と火月の、運命の出逢いだった。

家族から虐げられていた火月は、土御門家で暮らす事になった。
年が近いからか、二人はすぐに仲良くなった。
だが、そんな二人を見て面白くないのが、有匡の七歳下の妹・神官だった。
「アリマサは、神官のなの!」
「違うよ、僕のだもん!」
「こらこら、二人共喧嘩しない!」

有匡と神官、有仁と過ごす日々は、火月にとって幸せなものだった。

一九二三年九月一日。

その日は、朝から蒸し暑かった。

「あぁ、暑くて嫌になる。」
「そう言うな、有匡。かき氷でも食べて元気を出せ。」
「ありがとう、お父さん!」
この日は、いつものように、穏やかな一日であると思っていた。
だが―
十一時五十八分、最大震度七度の地震が東京を襲った。
「坊ちゃん、お嬢様方、旦那様、ご無事ですか!?」
土御門公爵家家令・石田は、激しい揺れが治まった後、瓦礫と化した今から有匡と神官、火月を救い出した。
「あぁ良かった、皆さんご無事で!」
「お父さんは?お父さんは何処?」
有仁は、瓦礫の下敷きになっていた。
「お父さん、今助けるからね!」
「有匡、火月と神官を連れて逃げなさい!」
「嫌だ、お父さんも一緒に・・」
「お父さんはもう駄目だ。」
有仁は、そう言うと有匡に優しく微笑んだ。
「火月さんと、幸せになりなさい。」
「火事だ!」
「石田、有匡達を頼む!」
「嫌だ、お父さ~ん!」
有匡と神官を抱きかかえた石田は、火月と共に炎が迫る土御門公爵邸から脱出した。
「嫌だ、やめろ・・」
紅蓮の炎が、有仁ごと土御門邸を呑み込んでいった。
「やめてくれ~!」

この日、炎は三日にわたって東京の町を焼き尽くした。
この地震は、後にこう呼ばれた。

「関東大震災」と。
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最近思っていること。

2025年01月19日 | 日記
まだべるばらの二次小説書き始めたばかりですが、他作品とのクロスオーバーで、フィギュアスケートパラレルを書いてみようと思います。
オスカル様とアンドレ、フィギュアスケート似合いそうなので…
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寒い。

2025年01月18日 | 日記
正月を迎えたかと思ったら、あと数週間で一月も終わりですか、早いですね。
最近寒くて、家の中で暖房をガンガン効かせながらテレビを観たり、創作活動をしたりしています。
パートが休みの日は家でゆっくり過ごして、外出しないようにしています。
インフルエンザが流行っていますからね。
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