BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

炎のように囁いて 第1話

2024年03月01日 | 薄桜鬼ハーレクイン風アラビアンナイトパラレル二次創作小説「炎のように囁いて」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

土方さんが両性具有です。苦手な方はご注意ください。

賑やかな音楽。

鼻腔を刺激するかのような、香辛料の匂い。

目の前に並んでいるのは、砂糖衣で美しく装飾されたウェディングケーキ。

『お二人の結婚を祝福して乾杯!』

『乾杯!』

自分達の前に立っている男が、そう言って乾杯の音頭を取った。

髪色に合う、闇色の美しいヴェール越しに花嫁は花婿の顔を見た。

太陽神の化身の如き、美しい金色の瞳に真紅の瞳。

まさにその姿は、神から祝福を受けた皇子そのものだった。

だが、その姿を見ている花嫁は、こう思っていた。

(俺、何でここに居るんだ?)

「トシちゃん、トシちゃぁ~ん!」
「あ~、はいはい。」
朝から7時間ダイナーで働いた後、歳三は疲れた身体に鞭打ちながら、祖母の部屋へと向かった。
「あのね、電球替えて。」
「わかった。」
「それとね、入れ歯洗って。」
「はい。」
「あとね、あの人最近わたしに意地悪するの。」
「誰?」
「佐々木さん。あの人、電磁波でわたしを攻撃してくるの。」
「そう・・ちゃんと、俺の方から言っておくね。」
「ありがとう、トシちゃん。」
歳三が、漸く祖母の部屋から出たのは夕方の4時過ぎだった。
彼は帰宅途中に寄ったスーパーで買った弁当をダイニングテーブルに広げて食べていると、玄関のチャイムが鳴った。
「は~い!」
「トシちゃん、急に来てごめんなさいねぇ。お母さん居る?」
「はい、部屋に・・でも、もう寝ていると思います。」
「そう。お母さんが大好きなたこ焼き、買って来たから一緒に食べようと思ったのに、残念ね。」
この伯母・英子は“口は出すが、金は決して出さない”タイプの親戚だった。
「ねえトシちゃん、お母さんの介護の事だけど・・高サ住(高齢者サービス付き住宅)に入れようとか思っていないわよねぇ?」
「どうして、それを?」
「あのねトシちゃん、あなたが今までお母さんに育てて貰った恩を返す為に、自らの生活を犠牲するのは当然よねぇ?」
「どういう意味ですか?」
「あなたは、独身だしまだお母さんの介護に専念することが出来るわよね。」
「お言葉ですが、俺には俺の人生があります。」
「な・・」
「たこ焼き、ありがとうございました。」
英子を無理矢理家から追い出した後、歳三は彼女がダイニングテーブルに置いていったたこ焼きを食べた。
「祖母ちゃん、飯どうする?」
歳三がそう言って祖母の部屋に入ると、彼女はまだ寝ていたーように見えた。
「祖母ちゃん?」
歳三が彼女の身体を揺さ振ると、彼女の首は力無くガクリと傾いた。
彼はすぐに救急車を呼んだが、祖母は既に死亡していた。
「老衰ですね。」
「そうですか・・」
祖母が脳卒中で倒れ、寝たきりになってから約7年間もの介護生活が、漸く終わった。
「トシ、長い間母さんの介護してくれてありがとう。」
「信子伯母さん・・」
「ちょっと、いいかしら?」
祖母の葬儀の後、母方の伯母・信子は、そう言うと歳三を葬祭場の近くにあるファミリーレストランへと連れて行った。
「トシ、あなたはこれからどうしたいの?」
「え?」
「あなたは今まで、母さんの介護で学校と家を往復する事しかしなかったじゃない。」
「・・それが、当たり前だったので。」
歳三の両親は歳三が二歳の時に離婚し、歳三は祖母に育てられた。
お婆ちゃん子だった彼は、友人と遊ぶよりも祖母と俳句を詠んだり、裁縫をしたりする方が好きだった。
祖母との良好な関係が大きく崩れたのは、歳三が中学校に入学した年の事だった。
脳卒中で倒れ、その後遺症で寝たきりとなった彼女の介護を、歳三は全てした。
夜中の体位交換や排泄介助、昼間の食事介助に至るまで、歳三は民生委員やスクールカウンセラーに相談出来ず、一人で抱え込む事となり、その結果歳三は高校卒業後大学進学せず、ダイナーでアルバイトをしながら介護費用と生活費を賄う生活を送っていた。
「今は、何も考えられないだろうけれど、これから何をしたいのかをゆっくり考えればいいからね?」
「・・はい。」
信子からそう言われても、歳三は未だに実感が湧かなかった。
「土方さん、4番テーブルにステーキ、お願いね。」
「はい。」

(俺がやりたい事、か・・)

そんな事を考えながら、歳三は今日もダイナーで汗水を垂らして働いていた。

一方、日本から遠く離れた熱砂の王国・マルヤム王国では、ある問題が浮上していた。
それは―

「一体いつになったら、王子は伴侶をお迎えする気なのですか?」
「このままだと、国の存亡にも関わりまするぞ!」

貴族達が議会で取り上げたのは、この王国の第一王子である千景の結婚問題だった。
彼は今年でもう22となるのだが、未だに結婚はおろか、女性との噂も全くないのである。

「もしかして、王子は男色家なのでは?」
「まさか・・」
「そのような事、有り得ませぬ!ならばあの女優との噂は・・」

貴族達がそんな話をしている頃、当の王子は王都・バラクーダの郊外にあるヴィラで優雅な休日を過ごしていた。
彼が結婚しない理由―それは、“面倒臭いから”、ただそれだけの事だった。

「王子、陛下がお呼びです。」
「何だ、折角の休日を楽しんでいるというのに・・」

千景はそう言うと、真紅の液体を飲み干した。

「いい加減、身を固めてはいかがです?」
「・・うるさい。」

(このままでは、国が滅びますね。)

王子の執事・天霧は、そう思いながら溜息を吐いた。

「え、今から?」
『そうよ。トシちゃんももう自由の身になったんだから、この際羽を伸ばしてみたら?』
「でもなぁ・・」
職場であるダイナーは年中無休で、盆正月関係なく働いて来た。
いきなり信子叔母から半年間豪華客船の旅に誘われ、歳三はそう言いながらシフト表を見た。
祖母の介護に追われ、その介護費用を稼ぐ為にバイトのシフトを週六日入れていたが、最近何故かシフトが減らされているような気がするのだ。
「土方君、ちょっといい?」
「はい・・」
いつものように歳三が厨房でオニオンリングを揚げていると、そこへ店長の前田がやって来た。
「あのね、ちょっと言い辛いんだけれど、今月限りで辞めてくれないかな?」
「え?」
「実は、ここ今月末で閉店するんだよね。まぁ、親父の介護で田舎に帰る事になってさ。」
「そうですか、大変ですね。」
「土方君、これ今まで働いてくれた感謝金ね。」
「受け取れません、そんなの・・」
「今までおばあさんの介護と仕事、両立していて偉いなと思ったよ。僕も頑張るから。」
「店長・・今までお世話になりました。」
「こちらこそ。」

こうして、歳三は約7年間働いたダイナーを後にした。

(これからどうするかなぁ・・)

突然無職になった歳三はハローワークへ向かったが、この不景気の中、条件が合う仕事はなかった。
溜息を吐きながら歳三がスーパーの惣菜コーナーで天丼を買って帰宅すると、家の郵便ポストに役所からの通知書が来ていた。

『区画開発整理のお知らせ』

それは、高層マンション建設工事の為、今月中に立ち退くようにという旨が書かれたものだった。
無職になった後に家まで失うとは―今日はなんて厄日なのだろうか。

「あ、もしもし、信子叔母さん?例の話だけど・・」

一週間後、歳三は信子叔母と共に豪華客船“ヴィーナス号”で世界一周旅行を楽しんでいた。
今まで自宅と職場を往復する毎日を送り外出は近所のスーパーとコンビニへ買い物するだけだったので、初めての船旅は彼にとって新鮮そのものだった。
「トシちゃん、今夜のパーティーには何を着ていくのか、もう決まった?」
「スーツで・・」
「まぁ、駄目よそんなの!」
「さぁ、わたくしと一緒にいらっしゃい!」
「え?」
信子に連れて行かれたのは、船内にあるブティック=サロンだった。
「まぁ、綺麗なお肌をしていらっしゃいますね!」
「わたしの自慢の姪っ子なの。パーティーの主役になれるようにして頂戴!」
「えぇ、かしこまりました!」
「なぁ、化粧なんていいのに・・」
「駄目よ、女は美しく着飾らないと!」
「え・・」
それから歳三は、プロのスタイリストの手で美しく化粧を施され、生まれて初めてドレスに身を包んだ。
「こんなの・・」
「まぁ、とてもお似合いですわ!」
「そうですか?」
そう言って鏡の前に立った歳三は、美しく変身した己の姿を見た。
短くて艶のある黒髪は、同色の美しいウィッグで腰下までの長さとなり、いつもスーツかTシャツとジーンズに包まれていた華奢な身体は、ワインレッドのイヴニング=ドレスに包まれていた。
「これが、俺?」
「お気に召しましたか?」
「はい・・」
「トシちゃん、これからは自分の為に沢山時間を使いなさいよ!一度きりの人生なんだから!」
「叔母さん・・」
「さぁ、行きましょう!人生、楽しまなきゃ損よ!」
信子はそう言うと、歳三の腕を掴んでパーティー会場へと向かった。
同じ頃、父王の危篤の一報を受けバリ島からマルヤム王国への帰途に着いている千景王子の姿は、華やかなパーティー会場にあった。
彼はオーダーメイドの白のタキシード姿で、傍らには数人の美女を侍らせていた。
「ねぇ、まだ話し足りないわ。」
「もっとお話ししましょうよ。」
「貴様らに構っている暇などない、そこを退け。」

千景がそう言いながら苛々とした様子で自分に群がってくる女性達を睨んでいると、会場に一人の女性が入って来た。
夜の闇のような艶やかな黒髪、そして雪のような白い肌に、切れ長のラピスラズリのような美しい紫の瞳。
マーメイドラインのイヴニング=ドレスのスリットから時折覗く足は、白くて細いがしなやかな筋肉に包まれている事が一目でもわかった。

(美しい・・)

まるで何かに引き寄せられるかのように、千景はゆっくりとその美女の元へと歩いていった。
信子とはぐれ、彼女の姿を探していた歳三だったが、彼は混乱したまま会場内を何度も見渡していた。

(叔母さん、一体どこに・・)

歳三が船室へと戻ろうとした時、彼は突然一人の男に腕を掴まれた。

(何だ?)

彼が振り向くと、そこには独特のオーラを纏った男が立っていた。
彼の燃えるルビーのような真紅の瞳は、歳三しか映していなかった。

「何だ、てめぇ?」
「お前、気に入ったぞ。我妻となれ。」

男―千景はそう言うと、歳三を自分の方へと抱き寄せ、唇を塞いだ。
その瞬間、会場中に黄色い悲鳴が響き渡った。
当の歳三といえば、一体何が起こっているのかが最初わからなかったが、初対面の男に突然キスされているという状況が次第に解ってきた。
「何すんだ、この変態!」
歳三は開口一番そう叫んで男を睨むと、その頬に平手打ちを喰らわせた。
「ほぅ・・気が強い所がますます気に入った。」
男は歳三から平手打ちを喰らわされても怯むどころか、彼の腰に手を回した。
「何しやがる、離しやがれ!」
「まぁトシちゃん、ここに居たのね?」
「信子叔母さん、もう行こう。気分が悪くなった。」
「そう。」
歳三は男に背を向け、パーティー会場から出て行った。
「天霧、あの女の事を調べろ。家族構成や血液型に至るまで、全てだ。」
「かしこまりました。」
船室に戻った歳三は、疲れた身体を引き摺りながら、浴室に入った。
イヴニング=ドレスを脱ぎ、熱いシャワーを頭から浴びた。
その身体には、男女両方のものがついていた。
歳三は、両性具有の身体を持って生まれて来た。
『何なの、この子!』
母・恵里子は、歳三を見た瞬間、彼を激しく拒絶し、彼の世話を一切放棄した。
恵里子が育児放棄した為、彼女の代わりに父・隼人と祖母が歳三を育てた。
祖母が脳卒中で倒れ、歳三が介護に専念する事になってからも、隼人は時折土方家に顔を出してくれたし、介護費用も出してくれた。
その隼人と連絡が取れなくなったのは、歳三が高校を卒業した数日後の事だった。
“急にシンガポールへ赴任する事が決まったんだ。だから、もう会えない。”
受話器越しにそう自分に詫びる父の背後で、はしゃぐ幼子達の声が聞こえた。

 こんな身体に生まれていなかったら、自分はもっと幸せになれただろうか。

歳三達乗客を乗せた“ヴィーナス号”は、シンガポールに寄港した。

信子と歳三は、シンガポール観光を一日楽しんだ後、マリーナベイサンズの最上階にあるプールでシンガポールの街並みを眺めていた。

「トシちゃん、来て良かったでしょ?」
「うん。」
「あのね、今朝隼人さんから連絡があったのよ。」
「父さんから?」
「えぇ、今夜一緒に食事したいって。」
「わかった・・」

その夜、歳三は約二十年振りに隼人と再会した。

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