BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

誠食堂ものがたり 第四話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説「誠食堂ものがたり」


「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「ですが・・」
「とにかく、これ以上あの子に関わらないで下さい!」
院長の坂田みどりはそう言うと、歳三達を睨みつけた後、院長室から出て行った。
「取りつくしまがない、というのはこういう事だな。」
「あぁ・・」
「帰ろう、総司君の事が心配だし、店の仕込みはまだやっていないし・・」
歳三達が施設を後にしようとした時、一人の職員が彼らの元へと駆け寄って来た。
「待って下さい!」
「あなたは、確か病院で会った・・」
「勝っちゃん、この人と知り合いなのか?」
「トシ、この人なんだ、沖田君の事をノートにまとめて渡してくれたのは。」
「はじめまして、小田と申します。あの、ここだと何ですから、何処か静かな所でお話しましょうか?」
「はい。」
施設を出た後歳三達が向かったのは、二十四時間営業のファミリーレストランだった。
「沖田君が発達障害だと気づいたのは、わたし自身がそうだからです。」
「え?」
「見た目は普通の人と変わらないんですが、わたしは二年前、三十歳の時にASD(自閉症スペクトラム症候群)と診断されました。
当時、勤めていた職場でいじめに遭って、その所為でうつになってしまって・・メンタルクリニックで、漸く今まで抱えていた違和感の正体がやっとわかったんです。」
そう言った小田沙織は、少しぬるくなったミルクティーを飲んで溜息を吐いた。
「今の仕事は、障害者雇用で採用されて、以前の職場は一般採用枠雇用だったのですが、見た目が普通だから、報連相が出来ない時点で“社会人失格”の烙印を押され、マルチタスクも出来ない、雑談が出来ない・・それらの事が重なってわたしは職場で孤立し、心を病みました。それ以前にも・・中学・高校時代にも、いじめに遭いました。もっと早くわかっていたら、あんなに辛い思いをしなくて済んだのに・・だから、沖田君にはわたしのような辛い思いをさせたくないんです!」
沙織はそう言葉を切ると、歳三達に頭を下げた。
「どうか、あのこをあなた達の“家族”として迎えてあげて下さい!」
「わかりました。」
歳三達が帰宅すると、リビングでは総司がレティシアと、新しく家族となったゴールデンハムスターのチロと遊んでいた。
「お帰りなさ~い!」
「こら総司、駄目だろう、チロをレティシアが居るリビングに連れて来たら。」
「大丈夫です、ほら・・」
レティシアはチロを睨みつけながら恐る恐る近づくと、チロは彼女の鼻を噛んだ。
レティシアは悲鳴を上げ、キャットタワーへと逃げていった。
「まるで、トムとジェリーだな?」
「総司、チロはちゃんとケージに入れておけよ。ハムスターは小さいから、ちょっとした事で死ぬことがあるんだからな。」
「うん!」
「うんじゃなくて、“はい”だろ。」
「はい!」
その日の夜、歳三と勇が寝室で休んでいると、総司が居る和室の方から悲鳴が聞こえた。
「何だ!?」
二人が和室に入ると、総司が泣き叫んでいた。
「総司、どうした?」
「いやだ、いやだ~!」
「大丈夫だ、ここにはお前をいじめる奴は誰も居ないから!」
二人は総司が泣き止むまで、彼を抱き締めた。
「やっと寝たな。」
「あぁ。」
「俺達に会うまで、この子は色々と辛い思いをしてきたんだ。俺達が、この子を支えてやろう。」
「わかった。」
歳三と勇は、総司を自分の“家族”として正式に迎える為、家庭裁判所に居た。
「遅いですね?」
「えぇ・・」
総司の母親・みきは、五分遅れてやって来た。
「すいませ~ん!」
彼女は、酒臭かった。
「あの子、もう要らないからあんた達にあげる~」
みきはあっさりと、総司の親権を放棄した。
「総司君、元気でね。」
「さようなら。」
こうして総司は、歳三達と“家族”の一員となった。
「おはよう、総司。もうご飯出来てるぞ。」
「はぁ~い!」
総司は味覚過敏で食べられる物が少なかったが、何故か勇と歳三の手料理だけは食べられた。
「総司、もうすぐ運動会だな。」
「うん・・」
「お弁当作って見に行くから、楽しみにしてろよ!」
「わかった・・」
総司の顔が何処か暗い事に、歳三は気づいた。
「総司、何か俺達に隠している事ねぇか?」
「ないよ・・」
「じゃぁ、これはどうしたんだ?」
歳三はそう言うと、総司に授業参観日のプリントを見せた。
「僕、誰も来てくれないから、それ・・」
「いいか、お前ぇはもう一人じゃねぇ。俺達が居るだろ!」
「ごめん、なさい・・」
「謝るな。」
歳三はそう言うと、総司を抱き締めた。
「そうか・・」
「なぁ勝っちゃん、何とか都合をつけて行ってやろうぜ。」
「あぁ、俺達は家族だからな!」

そして、授業参観日当日。

「なぁ勝っちゃん、おかしくねぇか?」
「大丈夫だ。それにしても、トシのスーツ姿は久しぶりに見るな。」
「そうか?まぁ、ここ三年ばかり着物ばかり着ていた所為か、ネクタイの締め方を忘れちまったよ。」
「はは、トシは顔が良いから何でも似合うな。俺がネクタイを締めてやろう。」
「ありがとう。」
「髪、伸びて来たな。」
「そろそろ切らねぇとな・・」
「いや、そのままにしてくれ。」
「あんた、俺が大学卒業した時、髪切って凄く落ち込んでいたよな?」
「あぁ、お前の黒髪は綺麗だから・・」
「まぁ、昔あった長さまで伸ばすのもいいかな?」
「トシ・・」
「おいおい、そんな顔するなって、調子が狂う。」
「あぁ、済まない・・」
「じゃぁ、行って来る。」
授業参観日の教室は、何処か子供達は浮足立った様子だった。
「なぁ総司、お前の母ちゃん、来るのか?」
「来る訳ねぇじゃん、こいつ母さん居ねぇし。」
「お前んち、父ちゃん二人だもんなぁ。」

総司は、歳三が来るのを待っていた。

そして五時間目の算数の時間が始まった。

「今日は、分数の引き算をしま~す!」
「は~い!」

総司は他のクラスメイト達が次々と手を挙げているのを見ながら、問題を解いていた。
その時、教室の扉が開いて、歳三が入って来た。

彼は漆黒のスーツに身を包み、肩先までの長さがある黒髪をハーフアップにしていた。

―誰、あの人・・
―イケメンじゃない?

「あれ、誰の父ちゃん?」
「俺の父さんだよ。」
「え~!」
「いいなぁ、あんなイケメンが父ちゃんとか、うらやましい~!」
「そこ、静かにしなさい!」

総司は、少し誇らしげな気持ちになった。

「先生、さようなら~」
「みんな、寄り道しないで帰るのよ~」
「は~い!」

放課後、保護者の懇親会が行われた。

「はじめまして、沖田総司の養父の、土方歳三です。」
「あぁ、何処かのホストさんかと思ったら、総司君のお父さんでしたか。」
「皆さんに、お伝えしたい事があるので、こうしてこちらに参りました。」

歳三はそう言って軽く咳払いすると、総司の発達障害について話した。

「あの子は、今まで皆さんにご迷惑ばかりお掛けしてきましたが、あの子はとても良い子です。ですからどうか、あの子を温かい目で見守ってやってください、お願いします!」

そう言って深々と頭を下げる歳三を、他の保護者達は温かく迎え入れてくれた。

それから数日経ち、食堂に千景がやって来た。

「またてめぇか?」
「そんな顔をするな、歳三。俺はただここには飯を食いに来ただけだ。」

白スーツ姿の千景がそう言って空いているカウンター席に腰を下ろすと、歳三は間髪入れず沢庵で彼の顔を叩いた。

「またここに居たのですか、風間?」
「天霧、これから俺は・・」
「さぁ、帰りますよ。」
「だから・・」
「帰 り ま す よ。」

天霧は歳三達に一礼すると、千景を無理矢理席から立たせ、店から出て行った。

「一体何がしたいのですか、あなたは?沢庵ビンタをされにわざわざ高級ブランドの白スーツを着て・・」
「俺はただ、あいつに会いたいだけだ。」
「しつこい男は嫌われますよ、大概になさい。」
「うるさい、早く車を出せ。」
「はい・・」

天霧は溜息を吐きながら、車のハンドルを握った。

「なぁ、あいつは一体何しに来たんだろうな?」
「さぁな。それよりもトシ、どうしてあんなにあの人に冷たくするんだ?」
「あいつとは昔付き合っていたんだが、色々とあってな・・別れたんだ。」

歳三は、静かに千景と付き合っていた頃の話を、勇に話し始めた。

歳三と千景が初めて会ったのは、彼が、“メンバーの頭数が足りないから”と無理矢理女装させられて参加した合コンだった。
その時歳三は腰下までの長さがある黒髪をシニョンでまとめ、真紅のドレスとハイヒール姿だった。
長身の持ち主でありながら何処か中世的な美しさを持った歳三は、同性にも異性にもモテた。
その日の合コンも、歳三ばかりが男性陣に声を掛けられ、うっとうしくなった彼は足早にその場を後にした。
飲み足りなかったので彼はホテルのショットバーでカシスオレンジを数杯飲んでいたが、酒に弱い彼はすぐに泥酔してしまった。
そして翌朝気が付くと、ホテルのベッドの上で千景と共に全裸で寝ていたのである。
その日以来、歳三は千景に彼が住むマンションの部屋に呼ばれ、抱かれた。
そんなある日、歳三が住むマンションの部屋に突然、千景の秘書と名乗る男が訪ねて来た。

“坊ちゃまはいずれ風間家を継がれるお方。どうか坊ちゃまと別れて下さい。”

その時歳三は、彼が風間家の御曹司である事を知った。

「それで、彼とはどうなったんだ?」
「別れた。まぁ、あいつとは身体から始まった関係だからな。後腐れなく別れたから良かった。」
「そうか・・」
「向こうは、まだ俺に未練があるみたいだが、俺はあんたしか要らねぇ。」
「トシ・・」
「勝っちゃん・・」
「トシ・・」
二人が見つめ合っていると、そこへ一人の青年が店に入って来た。
「トシさ~ん!」
「てめぇ・・」
「やっと見つけましたよ、トシさん!僕と結婚して下さい!」
青年はそう叫ぶと、歳三に大輪の薔薇の花束を差し出した。
「悪いな、俺は・・」
「え、まさか・・」
青年は、歳三と厨房に居る勇を交互に見た後、床にくずおれた。
「嘘だ、トシさんが人妻だなんて・・」
「オイ落ち着け、俺はまだ・・」
「嫌だ、トシさんは僕のだぞ!」
「どさくさに紛れて変な事言うな。」
「トシ、その人は・・」
「あぁ、こいつは大学時代の後輩で、伊庭八郎だ。」
「トシさん、トシさぁ~ん!」
「うるせぇ、黙れ。」
「トシさ~ん!」
暫く青年は歳三から離れようとしなかった。
「僕、ずっと幼稚園の頃からトシさんの事を想っていたんですよ、それなのに~!」
「何でここがわかったんだ?」
「インスタですよ。」
「済まんトシ、店の宣伝になるかと思って、アカウントを作ったんだ。」
「そうか。それよりも八郎、いい加減離れてくれ、仕事が出来ねぇ。」
「わかったよ~!」

(はぁ、調子狂う・・)

歳三がそんな事を思いながら厨房で皿洗いをしていると、そこへ勇がやって来た。

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