「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
「どうした、勝っちゃん?」
「なぁ、今週末だったよなぁ、運動会?」
「そうだが、それがどうした?」
「さっき、学校からこんなメールが届いてな。」
勇はそう言うと、歳三にスマートフォンの画面を見せた。
「どれどれ・・」
そこには、“運動会中止のお知らせ”というメールが表示されていた。
「総司、楽しみにしていたのにな。」
「勝っちゃん、俺に良い考えがあるぜ・・」
歳三はそう言うと、ある事を勇の耳元で囁いた。
「え、運動会中止なの?」
「あぁ。だから、今日は俺達と公園でピクニックしよう!」
「本当!?」
「あぁ、本当だ。でもチロとレティシアはお留守番だ。外の世界は動物には危険だからな。」
「わかった!」
運動会当日、勇達は総司を連れて近所の公園へと向かった。
「うわぁ、おいしそう!」
「総司、沢山食べろよ!」
「いただきま~す!」
公園で三人が楽しくピクニックをしていると、そこへ制服姿の警察官二人組がやって来た。
「すいません・・」
「おじさん達は、僕のパパだよ。」
「そうなのかい?」
「はい。」
「すいません、俺達実は、まだ籍を入れていないんで、ちょっと勘違いさせちゃったようで・・」
歳三は、そう言って左手薬指にはめている結婚指輪を警察官達に見せた。
「失礼しました。」
「総司、これからお前が好きな所へ連れて行ってやるぞ。」
「じゃぁ、もう家に帰ろう。チロとレティシアが心配だし。」
「そうだな。」
三人が帰宅すると、レティシアがリビングのドアを爪で引っ掻く音が聞こえた。
「ただいま。」
「チロ、レティシア、お留守番ありがとうな。」
勇がレティシアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに喉を鳴らした。
「チロ、ただいま。」
総司がそう言いながらチロのケージを覗くと、チロは少し苦しそうな様子で鳴いていた。
「お父さん、チロがおかしいよ!」
「何だって!?」
勇達がチロを動物病院へと連れて行くと、チロは軽い肺炎と診断された。
「季節の変わり目は、小動物にとっては体調を崩しやすい時季ですからね。」
「先生、チロは治るの?」
「わからないけれど、総司君がチロちゃんの事を看病したら、きっと治るよ。」
「わかりました・・」
それから総司は、チロの看病を必死にした。
その結果、チロの肺炎は奇跡的に完治した。
「総司君、ありがとう。チロちゃん、元気になって良かったね。」
「うん!」
「なぁトシ、今回は良かったが、いつかあいつはチロとレティシアと“別れる”日が来るかもしれん。その時はあいつの傍に居てやろう。」
「あぁ。」
総司が勇達の家族となって、三年の月日が経った。
中学校に入学した時、総司の背が急に伸び始めた。
それと同時に、彼は食堂の仕事を手伝うようになった。
「じゃぁ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
「チロ、行って来ます。」
総司はチロの遺影の前に手を合わせると、自宅から出た。
チロはあれから元気になったが、寿命には勝てなかった。
彼は、桜舞う季節に二年十ヶ月で亡くなった。
最期まで、彼は生きる事を諦めなかった。
総司達は、チロを看取った後、彼の遺体をプランターに埋め、“小さな親友、ここに眠る”という小さな墓石をその上に置いた。
「なぁトシ、最近総司に変わった様子はないか?」
「ないが、どうしたんだ?」
「実は、あいつの部屋をこの前掃除した時、こんな物を見つけたんだ。」
「これは・・」
勇が歳三に見せたものは、“死ね”と書かれた一枚の画用紙だった。
「なぁ、もしかして・・」
「こういう事は、本人が打ち明けてくれるまで何もしない方がいい。」
「そうか。」
(また、か・・)
歳三がランチの準備をしていると、外から妙な視線を感じた。
ねっとりと、絡みつくような視線。
毎回、高級スーツを着てこの店に沢庵ビンタを喰らいに来るキンキラ男のものではない、”誰か“の視線。
「トシ、どうした?」
「いや、少し疲れが溜まっていて・・」
「そういえば、ここ最近休み無しで働いていたからなぁ。三日位、店を休みにするか。」
「いいのか?」
「俺達はロボットじゃない。身体を休めないと、元も子もないぞ。」
「そうだな。」
こうして、歳三達は店を三日休む事になった。
「それで?何かあるんだろう、トシ?」
「あんたには何でもお見通しみてぇだな。」
帰宅した歳三は、溜息を吐いて勇の方を見た。
そして彼は、数日前から何者かに見られている事を勇に話した。
「そうか。」
「なぁ勝っちゃん、さっき誰かとスマホで話していたよな?」
「あぁ、実は、母さんからの電話だったんだ。」
「お袋さんから?」
「あぁ。今度心臓の手術をする事になったから、その前にトシと総司君に会いたいって・・」
「そうか。総司には俺の方から伝えておく。」
歳三がそう言って寝室に入ろうとした時、彼のスマートフォンが鳴った。
「もしもし、土方です。え、総司が病院に運ばれた!?」
総司が通う学校の教師から、彼が病院に運ばれたという連絡を受けて二人が病院へと駆け付けると、診察室から左腕を三角巾で吊った総司が出て来た。
「総司!」
「土方さん、近藤さん・・」
「一体、何があったんだ!?」
「沖田君の保護者の方ですね?はじめまして、沖田君のクラス担任の、佐原と申します。」
「先生、総司はどうしてこんな怪我をしたんですか!?」
「実は・・」
担任の佐原の話によれば、総司は帰宅途中に近所の公園を通りかかったところ、同級生達とトラブルになり一方的に殴られたのだという。
「加害者達は、総司君と同じ剣道部の部員でした。」
「先生、実はこの前息子の部屋を掃除していたら、こんなものを見つけたんです。」
「それは・・」
勇が例の画用紙を佐原に見せると、彼は渋面を浮かべた。
「心配かけて、ごめん・・」
「謝るな。腹減っただろう?夕飯すぐに用意してやるからな。」
「うん・・」
その後、夕食を食べながら総司はポツリポツリと勇達に学校の話をした。
剣道部で一年生でありながら、大会出場メンバーに選ばれた事。
その所為で、同級生達から嫌がらせを受けた事。
「そうか、辛かったな・・」
「一番辛いのは、試合に出られない事だよ。大会に初めて出場できるから、一生懸命練習していたのに・・」
「総司・・」
夕食後、総司は自室に引き籠もってしまった。
「暫く、そっとしておいておこう。」
「それにしても、総司が今まで辛い思いをしているなんて知らなかったな。」
「俺達に、心配を掛けさせまいとしていたんだろう。」
「そんな気を遣わなくてもいいのに。」
「とにかく、明日学校で詳しい話を先生から聞いてみよう。」
「あぁ。」
翌日、二人が佐原と総司の事で教室へと向かうと、そこには先客が居た。
「皆さん、お揃いになったようですね。」
教室に入って来た佐原は、そう言った後軽く咳払いした。
「あなた方が、沖田君の保護者の方?」
「えぇ、そうですがあなたは?」
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