室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

山手234号館 SPの会

2010-05-09 13:15:12 | Weblog
先週、横浜の山手洋館巡りをしていて見つけた『234号館SPの会』に行ってきました。

今まで、SPレコードではクラシック音楽や、古いジャズのレコード鑑賞会に行った経験が何度もあるのですが、どうもタンゴのSPを聴かせて下さるらしい・・ので、楽しみにして行きました。

再び山手の坂を登るにあたって、先週、裕美ちゃん先生と散策した時に通りそびれた“霧笛楼” の前を通ってみました。

   

私が知っている以前の建物に比べてずいぶんとゴージャス。お城みたいだなー。企業努力したのでしょう。

さて、木陰の気持ちよい道を選んで坂を登ります。



先週も通った、エリスマン邸の下の、関東大震災で崩れたマクワガン邸跡。

表通りに出ると、道路向こうに234号館があります。



靴を脱いで、建物に入って左側のお部屋。   ありました、蓄音機。  

ビクターの犬のマーク。  スピーカーが前面に付いていて、アサガオはありません。

1曲ごとにレコード針を替えます。 

山本久子さんとおっしゃるコレクターの方で、後でお話を伺ったら、この234号館でお仕事をなさってらした時から、「この1927建築の234号館でSPを聴かれたら素敵だな、と思っていて実現した」そうです。

古いタンゴがお好きで、二千枚ほど持っていらっしゃるそうです。

この日は、1927年の第1回ショパンコンクールで優勝したというレフ・オボーリン(旧ソ連人)の弾くリストの『ラプソディ第2番』(繊細な素晴らしい演奏に聞き惚れていると、途中一度レコードをひっくり返す)から始まり、エディット・ピアフの『街に歌が流れていた』、若きイヴ・モンタンの『セ・シ・ボン』、そして美空ひばりの『ばら色の人生』と続きました。

ピアノは4~5メーター向こうの音が手に取れるような響き。歌はまさに目の前のマイクで歌っている距離感で聞こえます。そして、何より、くっきりとした音の輪郭の外側に金粉をばらまいているようなSP独特のキラキラしたサウンドを、爽やかな若葉が目に入るレトロな洋館で聴かせて頂きました。

エディット・ピアフの個性的な歌声、イヴ・モンタンのとってもチャーミングな表現、そして美空ひばりさんの若い声がジャジーなテイストで自分のモノとして歌っているのに、それぞれ刺激的な感動を覚えました。

そして、いよいよタンゴ。           

当時の演奏は、CDや、現代の様々なメディアで資料として聴くことはできますが、SPを通すと、これが正に“旬” だった時代の勢いや、先端を担っていた自負のようなものまで聞こえてきます。過去の遺物としての演奏ではなく、気合い、情熱、愛情などの情感がそのまま感じられるのです。過去の巨匠たちとご対面できた気がします。すごいメディアです。

貴重な、濃密な時間を(しかも無料で)提供して頂いて、本当にありがたい思いがするのですが、その有難味が分かるには、聴く方にもそれなりの価値観がないと味わえません。途中で入って来られて、1曲だけで席を立たれる方は、もちろん時間の都合などもあるだろうけど、貴重な機会である事だけでも感じて欲しいな-、と私などは思ってしまいますね。




帰りは、元町公園を通ってみました。山手地区は高台なので、どの通り道を選んでも坂道です。これからの暑い季節は、やっぱり木陰の多い道がいいだろうな・・、とすっかり来月も行く気になっているワタシです。