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映画『東京家族』について

改元記念(10) 皇后陛下とご養蚕 

2019年04月14日 | 映画『東京家族』

 私が小学生だった頃、クラスで蚕を飼ったことがある。そのときに触れた蚕の外皮は意外にもサラサラとしていた。餌である桑の葉をやったり、籠の掃除をしたりしているうちに蚕は脱皮を繰り返し、やがて口から糸を吐き、終には楕円形の白い繭を形づくった。それは神秘的な光景であった。



 その前であったか後であったかは忘れたが、社会科の学習の一環として、歩いて行ける距離にあった比較的大きい紡績関係の工場を見学させてもらったこともある。初めて見る工場の内部は大勢の人が整然と作業を進めており、その機械と人の様子はとても興味深かった。



 今から考えると、このふたつの出来事は関連していて、近代日本産業の主力であった製糸業(蚕の繭から生糸を作る)と、紡績業(綿花から綿糸を紡ぐ)を実地で教えようという学校側の意図があったのだ。
 まあ、それに気付くのが遅れに遅れたわけであるが、完全に気付かないよりは良いであろう。


 『日本史ストーリーノート 153 紡績業と製糸業』Historia Mundi




 





 また、こんな事もあった。教室で蟷螂を飼っていた時、それまで何の餌を与えていたのかは忘れたけれど、ある時私はこの蟷螂の籠に虫を入れたらどうなるだろうか、と思いついて、友達のK君と一緒に校庭の隅の、焼却炉の裏手あたりにある草むらでコオロギを捕まえてきた。そしてそれをそっと蟷螂の籠に入れてみた。しばらく蟷螂は間合を計っているかのように動かなかったが次の瞬間、閃光のように右の鎌を繰り出してコオロギを捕らえ、その次の瞬間には両方の鎌を使いムシャムシャと逆三角形の頭を揺らしながらそのコオロギを食べ始めた。私とK君は顔を見合わせて驚き、夢中でそれを見守った。
 何度かこれを私とK君が繰り返しているうちに他の人たちにも広がっていき、やがてこの生餌やりが男子のなかで一大ブームとなった頃、一人の女子生徒が「残酷だよ!」と言った。私は「自分たち人間も生き物を食べているのだから、残酷という批判はあたらない」と言葉遣いはともかくこのような意味の反論をしたが、その女の子はもう一度「残酷だよ」とだけ言い、議論はそれ以上深まらなかった。





 私がこれらの小学校の頃のエピソードを思い出したのは、先日買ってきたこの『皇后さまとご養蚕』を読んだからである。





 著者の岡田尚子さんが「あとがき」にこう書いていられる。
 “(皇居内の)御養蚕所では桑摘みから種取りまで、ご養蚕の流れのすべてを約2か月間にわたって取材させていただきました。初めて目にする作業はどれも興味深く、驚きの連続でした。やがてその驚きは、新しいことを知るという単純な喜びから深い感動へと変わっていきました。”
 私も拝読しながら、驚きと感動の連続であった。明治時代の昭憲皇太后が始められたご養蚕の伝統をしっかりと受け継がれた皇后陛下美智子さまは、私たちが思う以上に、ご養蚕のお仕事の各過程をご自身で行っていらっしゃるのだ。これは当然蚕に触れるご作業もあるが、皇后陛下はそれを心から楽しんでいらっしゃるような柔和な表情でそれをされている。このように美智子さまは、ご養蚕のお仕事ひとつだけをお取りしてもパーフェクトな皇后陛下なのだ。
 この本は平成28年に出版されたもので、ウェブのニュースによると、昨平成30年の5月、このご養蚕のお仕事は、皇太子妃殿下雅子さまへと引き継がれたそうである。


 https://www.youtube.com/watch?v=K-ByjBBQyrg

 https://www.youtube.com/watch?v=rK_rIQ5D8Po




 しかし、皇后陛下美智子さまがこのようにパーフェクトであるが故に、次期皇后陛下の雅子さまにかかる重圧は大変なものがあると思う。無責任なことを言うようであるが、成り行きにまかせ、一般論で言えば「女子」は虫が苦手な人が多いのだから、できそうなお仕事があればされてみて、無理そうだったら主任さんや、毎年農業高校等から推薦されてくるという四名の助手の皆さんにお任せになっても良いと私は思う。
 この『皇后さまとご養蚕』の本によると、現在日本やフランスでの養蚕業は衰退しているそうだが、これだけシルク製品が出回っている以上、世界のどこかでは養蚕を営んでいる人たちが存在しているわけで、そしてそれを製品にし流通する為にはさらにたくさんの人たちの生業がある。これらの人々に、皇后というお立場のお方が、ほんの少しだけ御心をお寄せ下されば、それだけで十分なのだと私は思う。












 


 『皇后さまとご養蚕』




























『小学館版学習まんが 少年少女日本の歴史18』























































































































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