7月23日、東京五輪の幕が開いた。「大会の華」と言われる開会式はしかし、演出を担当する制作チーム関係者のスキャンダルによる辞任、解任が相次いだ。祝祭ムードとは程遠い「呪われた開会式」の“舞台裏”をドキュメントで追った。
東京五輪の開会式会場に北朝鮮の金正恩総書記が? 周辺が一時騒然!
◇ ◇ ◇
【午後3時13分】
日刊ゲンダイ本紙記者は、報道陣の拠点となる有明の東京ビッグサイトに設けられたメインプレスセンターから、バスで千駄ケ谷の国立競技場に移動。組織委員会が用意する大型の観光バスに、外国人メディア約40人と同乗した。車内の密が気になるうえ、彼らの半数以上がマスクをしていない。前の席では、中東からやってきたというノーマスクの記者が、結構な声量で隣の同僚と延々と話している。それを睨みつけていたのは、通路を挟んだ席に座る中央アジアからのカメラマン。感染予防に対する意識の差を感じ、メディアによるクラスターの懸念が頭をもたげた。
【午後3時42分】
国立競技場に隣接する日本青年館前の降車場に到着。首都高はガラガラだった。大会期間中、交通渋滞緩和のため、料金が1000円も上乗せされているからだろう。
高樹町出口から国道246号線に出ると、至るところに警察車両が配備され、外苑前交差点付近には車線規制がしかれていた。秩父宮ラグビー場から国立競技場へと向かう道路は、関係車両以外通行禁止。信号に止まることなく走るバスに乗って、束の間の“五輪貴族”気分を味わった。IOC(国際オリンピック委員会)委員が特権意識を持つわけだ。
【午後4時2分】
バスを降りると、国立競技場周辺は黒山の人だかり。
「五輪反対!」のプラカードを掲げるデモも。報道陣受付には100人以上の行列ができ、セキュリティーチェックと顔認証によるID確認を済ませて記者席に着くまで、30分近くを要した。
【午後8時】
開会式がスタート。
【午後8時13分】 IOCのトーマス・バッハ会長の案内で、天皇が貴賓席に臨席。続いて国旗が入場し、人気歌手のMISIA(43)が歌う君が代独唱に合わせて国旗が掲揚された。
「無観客開催でスタンドからの歓声はない。異様な雰囲気だったのは確かだね。緊急事態宣言下の開催強行に対する批判を受けて、大会主催者は出席者を950人程度まで削減したとはいえ、貴賓席とその周辺のスタンドには、いわゆる五輪貴族が陣取った。組織委は、開会式を前にセレモニーの内容を知ろうとヘリを飛ばすなどした日本のメディアに取材規制をしいたと聞いている。
でも、当日にはラインアップの多くが報道されていた。どうなっているんだ? 開会式の演出家や音楽担当が次々にスキャンダルで消えた。組織委はメディアを規制する前にやることがあったんじゃないか」と、米国のネットメディア関係者は皮肉たっぷりに言っていた。
バッハ会長のダラダラ演説にアスリートも辟易
夜更けに何度も打ち上がった花火(C)真野慎也/JMPA
【午後8時38分】
ようやく入場行進がスタート。19の人気ゲーム音楽が流れる中、五輪発祥の地であるギリシャに続き、難民選手団が呼び込まれた。その後はアイスランドから「あいうえお順」で登場。過去に日本で開催された夏冬3度の五輪ではアルファベット順が採用されていた。
【午後10時39分】
陸上男子100メートルの山縣亮太(29)、卓球女子の石川佳純(28)らによる選手宣誓。漆黒の空に1824台のドローンがつくる地球などが浮かび上がった。橋本聖子組織委会長の挨拶に続き、バッハ会長が壇上に。「ニホンノミナサマノオカゲデス、ココロカラカンシャモウシアゲマス」と片言の日本語を交えての演説が午後11時13分まで続いた。事前資料では2人合わせて約9分とされていたが、バッハ会長だけで13分。その間、選手は立ちっぱなし。地べたに横になる海外選手もいた。アスリートファーストは?
【午後11時13分】 天皇陛下の開会宣言。
【午後11時25分】
50の競技の公式ピクトグラムをパントマイムで実演。続いてお笑い芸人の劇団ひとりがコント調で登場する一連の流れは、前日にユダヤ人大量虐殺を揶揄した過去が問題視されて解任された元お笑いコンビ「ラーメンズ」の演出家、小林賢太郎氏のにおいを感じさせたが、組織委は「小林氏が具体的に1人で演出を手がけている部分はなかった」と否定している。
【午後11時38分】
聖火が入場。金メダリストである柔道の野村忠宏、レスリングの吉田沙保里から巨人の長嶋茂雄終身名誉監督(85)へ渡った。愛弟子の松井秀喜(47)がシャツの後ろをグッと掴んで支える。横には盟友の王貞治ソフトバンク球団会長(81)。日本球界が誇る国民栄誉賞3人の登場だが、サプライズ感はない。
「前日22日に森喜朗前組織委会長が地元石川の北國新聞のインタビューに応じ、ONと松井の共演を示唆していましたからね
。女性蔑視発言で組織委会長を辞任した森氏に組織委が『名誉最高顧問』の肩書を与えることを検討していることも明らかになった。3人の共演は森人脈で、つまり組織委内で森氏が隠然たる影響力を残しているのは明らか。体調の芳しくないミスターを担ぎ出したことも含め、早くも批判が出ています」(スポーツライター)
聖火の最終点火者はテニスの大坂なおみ(23)が務めた。異例ずくめの五輪はこうして始まった。(一部、敬称略)