ロックダウンによって異性との出会いは大きく制限され、自分自身もコロナに感染してしまった。
そこで、サリーナ・シャルマが下した決断は、自らの卵子を“凍結”し、来る日まで保管するというものだった。胎生学を学ぶ27歳の彼女が、卵子凍結に至るまでのストーリーを、英紙「テレグラフ」が掲載した。
ロックダウンは独身たちへの「セックス禁止令」だ
私は昨年3月、新型コロナウイルスに感染して入院する際、インスタグラムへの投稿を通して自分に起きたことを友人や家族に伝えた。
私は肺炎と右側の肺に閉塞を発症。27歳という年齢やこれまで健康に問題がなかったことを考えると、とてもショックだった。そしてこの直後に、付き合っていたパートナーと破局を迎えた。 そこで、私はある決断をした。
「今年中に卵子を凍結する」ということだ。 以前から私は30歳までにパートナーがみつからなければ卵子を凍結するつもりだった。だが私の恋愛人生の幸先は悪く、さらにロックダウンで新しい出会いがほとんど不可能ななか、いまこそ行動すべきだと思ったのだ。
そう考えたのは私だけではなかった。ロックダウンでデートがしにくくなり、生殖能力が衰える前にパートナーをみつけて子供を作るのが難しくなると考える人は増え、卵子凍結に関する問い合わせは、病院によっては50 %も増加している。
感染警戒レベルが「高い(ティア2)」や、(ロンドン在住の私のように)「非常に高い(ティア3)」地域の住人は、同居人以外と屋内で過ごすことが禁じられているため、卵子凍結への関心がより高まっているのは想像に難くない。 この制約は、同棲していないカップルに対する「セックス禁止令」だと言われる。だが、誰かと一杯飲むことすら許されない“シングル”にも思いを馳せてほしい。
フェミニストの父は賛成。母は……
人々は一様に家に閉じ込められたことで、人生で何を望むのかを自問するようになり、その結果、多くの人が「家族」が欲しいと考えるようになっている。 テレグラフ紙のコラムニストのソフィア・マネー・クーツも同様で、彼女は最近、35歳で卵子凍結を決意したことに関するポッドキャスト「フリージング・タイム」をはじめた。
私の決意を家族に伝えたとき、両親はそれがいいことなのか判断しかねる様子だった。 父はフェミニストで、これまでも常に私のキャリアを応援してくれた。卵子凍結は、今後数年のあいだに「理想の男性を見つけなくてはならない」というプレッシャーをいくらか緩和してくれる素晴らしいアイディアだと考えてくれた。 一方の母は、もう少し説得する必要があった。母は自分がそうしたように、結婚して自然な形で子供を産んで欲しいと思っていたからだ。 それでも、卵子を凍結すれば、母に孫ができるチャンスが増えるだけだと伝えると、最終的に認めてくれた。
卵子凍結は早いほど良い
私は、27歳という年齢は、自分の生殖能力を考えるうえで早すぎる年齢ではないことも母に伝えた。 私自身、胎生学者になることを目指しているため、この分野にはくわしい。年齢を重ねるにつれて卵子も年を取り、
その結果、妊娠率が下がる。また妊娠しても、卵子が老化していると、赤ちゃんに遺伝的異常が生じるリスクが高まる。 だが卵子を凍結すれば卵子の老化を防げる。これを27歳のときにやっておけば、最も良い状態の卵子を凍結保存でき、10年後に使っても最良の状態のため、妊娠し、健康な赤ちゃんが生まれる確率が高まる。
とくに生殖機能に何らかの問題を抱える女性は、若いうちに行動することがより重要となる。 私は右側の卵巣に嚢胞(のうほう)があるため右側の卵巣からは排卵されにくい。そのため、30代後半には閉経する可能性があると医師に言われている。
その上、私は新型コロナウイルスで重症に陥った。新型コロナウイルスで重症になった患者のなかには、その後月経が来なくなった人もいるという論文をウェブ上でも読んでいる。 こうした事実と、ごく近い将来に誰かと家庭を持って子供を作ろうという状況にはなりそうにない事実を踏まえると、卵子凍結は早ければ早いに越したことはないと考えたのだ。
採卵の日まで
私は3月末に退院し、数ヵ月間、療養したのち、自分が研修を受けている「IVFロンドン」で採卵手術を受けるための予約を入れた。 そして9月1日に月経がはじまるとすぐに、採卵に向けて卵巣を準備するホルモン剤を自分で注射しはじめた。最初の数日間に打ったホルモン剤は、通常のひと月より多くの卵子が作られるようにするもので、次に打ったホルモン剤は、排卵を促すものだ。
こうしたホルモン剤を打つことによって、卵巣が腫れることもある。前出のコラムニスト、マネー・クーツは、(映画『チャーリーとチョコレート工場』の)バイオレット・ボーレガードのようにパンパンに腫れたという。それでも、私はそれほど大変な思いはしなかった。快いものではなかったが、苦痛でもなかった。
2週間後、私は採卵できる状態になっていた。私はクリニックに行って患者用のガウンを着ると、ストレッチャーで手術台まで運ばれて、鎮静剤を投与された。 そして、医師が膣から針を挿入し、卵巣から私の卵子を採取した。
意識が回復すると、採取できた卵子は合計8個で、嚢胞がある方の卵巣からは1個しか取れなかったと告げられた。“大漁”というわけではないが、悪くはない。 だが、さらに備蓄を補充するため、来年か再来年にもう一度、同じプロセスを繰り返すつもりだ。 私は体を休め、鎮静剤が体から抜けるまで1日休暇を取り、翌日には何の問題もなく仕事に復帰した。ちょっとした痛みはあったが、鎮痛剤2錠で対応できた。
タイムリミットは10年
卵子凍結は当然だが、将来、子供が生まれることを保証してくれる奇跡の療法ではない。 採取された卵子が赤ちゃんになる可能性は、卵子1個あたりわずか6%だ。つまり今回採卵した卵子で私が子供を得る可能性は50%に満たない。 私は卵子凍結を、子供を持つための主要な手段とは考えていない。
そうではなく、自然に子供を持つのに望ましい年齢の間に、この人だと思える男性と出会えなかった場合、妊娠率を上げるための“保険的なもの”と考えている。 それに費用も安くはない。国民健康保険(NHS)が適用されるのは、化学療法のように、妊娠に影響を与える治療を行っている場合に限るからだ。 私費だと採卵手術1回にかかる費用は通常3000~4000ポンド(約41万から55万円)。さらに、薬代として1000ポンドあまりかかる。
また卵子を使うときまで卵子を保管する料金も毎年かかる。卵子の保管期間は社会的理由から現行では最長10年と決まっており、10年経ったら不妊治療に使われるか、廃棄されなければならない。 だが、ナフィールド生命倫理評議会は現在、女性により多くの時間と選択肢を与えるため、この10年という制限を延長すべきだと主張している。
「母親になる夢を、コロナに奪われるつもりはない」
自分がこうした知識を持ち合わせているのは幸運だと思う。 学校では、妊娠するのはとても簡単で、妊娠を避けるため充分注意しなくてはならないと教わる。確かにそれはティーンエイジャーにとっては正しい助言かもしれないが、30代後半で子供を切実に欲しがっている女性には適切なアドバイスだとは言
年を重ねるにつれて、妊娠率は下がる。たとえば、35歳以上で採卵した場合、卵子を解凍した後の妊娠率は格段に下がってしまう。 ところが英政府の監視機関「ヒト受精・発生学委員会(HFEA)」によると、卵子凍結を行う女性の最も一般的な年齢は38歳で、40代の女性も少なくない。 私はもし経済状況が許すなら、いまのうちに卵子凍結するよう友人たちに勧めている。なかにはクレジットカードでローンをしてまで卵子の質が最良のうちに凍結している友人もいる。
私はまた、 @oocyteadventuresというインスタグラムもはじめた。卵子を凍結した自分の経験を公開して若い女性の啓蒙につながればと思っている。 もし新型コロナウイルスがあと2年あまり続いて、まだ、好ましい男性と出会えていなければ、精子ドナーを見つけて自分1人で子供を産もうと考えている。 なぜなら母親になる夢を、新型コロナウイルスに奪われるつもりはないからだ。