>結論として、自衛隊による迎撃はほぼ不可能と言わざるを得ない。プーチンが本気で日本に核攻撃を実行すれば、焦土と化す。これが現実なのだ。
4/1/2022
長引くウクライナ侵攻にプーチンが追い詰められている。
ロシアによる化学・生物兵器の使用が予測される中、それでもウクライナを制圧できず、引き続きこの争い続けるならば核使用の可能性も高まる。つまり悪夢と思われていた事態がここにきて現実味を帯びているのだ。
【写真】プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態
その最悪なシナリオの標的には当然日本も入っている。仮に核が使われたとしても、全面的な核戦争を避けるため、限定的な使用に止まるという見方もあるが、プーチンのさじ加減ひとつで決まるため安心はできない。
もしも日本を標的にした場合、プーチンはどのような核ミサイルを使い、攻撃を仕掛けてくるのか…? 前編記事『プーチン「日本攻撃」の危ない可能性…弾道ミサイル「キンジャール」が列島を襲う』に引き続き専門家が明かす。
無限射程の「超兵器」
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地上から「イスカンデルM」、空から「キンジャール」、海上から「カリブル」「ツィルコン」。そのいずれかが、あるいは複数同時に、日本に襲来した場合、果たして自衛隊は迎撃できるのか。
ロシアがミサイルを発射すれば、米国の早期警戒衛星が瞬時に捉え、東京・横田基地にある航空総隊司令部と官邸危機管理室に情報がもたらされる。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が言う。
「核ミサイルを発射した瞬間の噴射熱を衛星が察知します。さらにミサイルの熱源で方向を把握し、それに基づいて、イージス艦のレーダー、日本国内のレーダー、米軍のレーダーが待ち構えて探知し、それらの情報を集約して着弾場所を予測する。
そのうえで、イージス艦および迎撃ミサイルPAC-3(地対空誘導弾ペトリオット)がスタンバイします。要するに北朝鮮の核ミサイルと同じ対応になります」
日本のミサイル防衛は、海上に配備された8隻のイージス艦と、地上のPAC-3による二段構えである。
だが、ロシアが相手では迎撃は容易ではない。物理学者で、日本有数の旧ソ連およびロシアの兵器研究家として知られる多田将氏が指摘する。
「巡航ミサイルの『9M729』『カリブル』は旅客機くらいの速さですから、発見できれば自衛隊ならば撃墜は難しくありません。ただし、問題は発見が困難なことです。
目標に向かって、地形図に沿いながら、搭載されたレーダーで地上との高さを調整しつつ、地表スレスレを飛行します。それは自衛隊も想定済みでレーダー網を敷いていると言われますが、同時に複数飛んでくれば、すべてを撃ち落とすことは難しいでしょう」
元海上自衛隊情報業務群司令で実業之日本フォーラム編集委員の末次富美雄氏も言う。
「3月22日にロシアはウクライナのクリミア半島の沖から通常弾頭の『カリブル』を同時に8発もマリウポリに撃ち込んでいます。
『飽和攻撃』と呼ばれていますが、日本の対処能力を計算したうえで、それを超える数のカリブルを海上から同時に撃ち込んでくることが想定されます。
射程が長距離であることに加えていつ軌道が変わるか分からないので、博多に向かうと見せかけて、北海道を目指すこともありえる。裏をかかれたり、飽和攻撃を仕掛けられたら、完全に抑え込むことは難しいのが現実です」
極超音速ミサイルであるキンジャールやツィルコンには為す術がない。
「PAC-3の射程は十数km程度。正面に真っすぐ向かってくるのでない限り、撃ち落とせないでしょう」(世良氏) さらに言えば、奇襲攻撃にも為す術がない。
「潜水艦や戦闘機が日本の領空、領海に近づいて、ミサイルを発射すれば1~2分で目標上空に到達させることもできるでしょう。ロシアが核ミサイルを撃つ場合はそのように日本に迎撃、反撃をする暇を与えずに攻撃をしかけてくると思われます」(軍事ジャーナリスト・井上和彦氏)
ロシア軍は威嚇のために太平洋または日本海に1発、続けて小都市、中都市に通常弾と核ミサイルを織り交ぜて撃ち込んでくることが考えられる。その際は、メガトン級の戦略核ではなく、小型の低出力の核弾頭を複数用いる可能性が高い。
「日本では地下避難所(シェルター)の整備がまったく進んでいないため、10発も着弾すれば数百万人が即死すると思われます」(軍事ジャーナリスト・世良光弘氏)
もしロシアが対米国用に開発・配備を進めている“超兵器”を使用してくれば、それはもう完全にお手上げである。
大型ICBM(大陸間弾道ミサイル)のサルマト、極超音速滑空体のアヴァンガルド、原子力巡航ミサイルのブレヴェスニク、大陸間魚雷のポセイドンの4つだ。
いずれも核弾頭が搭載できるうえ、射程は5000~1万km以上。ロシアの領内から米国本土への着弾すら可能だ。レーダーでの探知は難しく、米軍であっても迎撃はほぼ不可能とされる。
なかでもポセイドンは、プーチンが「無限の長射程魚雷」と称するほど、圧巻の破壊力を誇る。
「すべてが規格外の魚雷です。直径が通常の約4倍の2m、長さは約24mにもおよびます。動力はなんと原子力推進です。そのため、発射後は自律航行で最高時速100ノット(185km)、最深1000mまで潜ります。通常の潜水艦よりも深く潜れるため、発射されたことも分からず、衛星やソナーでも探知は困難です」(世良氏)
防衛省のHPでは〈2メガトンの核弾頭を搭載して最大1万kmの距離を潜航可能とされる〉と説明されている。これは広島に落とされた原爆の約130倍の核出力にあたる。さらにロシアの一部メディアはポセイドンが米国沿岸に達すると、「地震と高さ100mの津波が発生する」とまで報じている。
「米海軍協会(USNI)ニュースは、ロシア海軍の最新型原子力潜水艦『ベルゴロド』には6発のポセイドンが装備されると伝えています。
日本に対して使用される可能性もゼロではありません。もしポセイドンが東京湾で爆発すれば、横須賀の海上自衛隊の基地および米軍基地は壊滅的な被害を受けます。さらには、放射能の影響もあり、首都機能は完全に消失すると思われます」(末次氏)
結論として、自衛隊による迎撃はほぼ不可能と言わざるを得ない。プーチンが本気で日本に核攻撃を実行すれば、焦土と化す。これが現実なのだ。
『週刊現代』2022年4月2・9日号より
週刊現代(講談社)