大転職時代、わが社に入社してきた「経歴詐称男」の恐ろしすぎる正体
目の前にいる「この社員」はいったい誰なんだ…!?
2・21・2020
企業はより良い人材に出会おうと、人材紹介サービスを利用することがある。しかし、ときに採用側の企業を悩ませる大きな問題が発生する。
貧乏な人とはここが大違い! 金持ちが絶対にやらない3つのこと
求職者の経歴詐称だ。
基本的に履歴書は性善説に基づいてチェックされている。「嘘をつくはずがないだろう」と。
だが、残念ながら、世の中は正直者ばかりではない。
特に、最近流行りの人材紹介プラットフォームでは、豊富なデータベースを利用した企業の直接採用をウリにしている。ただし、経歴の信頼性は完全に登録ユーザーの善意に委ねられているうえ、求職者の嘘を見破ってくれるようなエージェントはついてくれない。
「人材の信頼性はプラットフォーム企業が担保してくれているはず」と考えていると、明らかに経歴を偽っている人材と巡り会ってしまうことがあるのだ。
今回は私が身をもって経験した、求職者の経歴詐称の実態と、事の顛末をお伝えしよう。
2019年11月某日、会議中に私の携帯が鳴った。
「落ち着いて聞いてください。依頼された人物は……実在しません」
その「人物」とは、某人材紹介プラットフォームを経由して採用したばかりの弊社男性メンバーのことだった。
何を言っているのかまったく分からない、というのが正直な感想だった。
貧乏な人とはここが大違い! 金持ちが絶対にやらない3つのこと
求職者の経歴詐称だ。
基本的に履歴書は性善説に基づいてチェックされている。「嘘をつくはずがないだろう」と。
だが、残念ながら、世の中は正直者ばかりではない。
特に、最近流行りの人材紹介プラットフォームでは、豊富なデータベースを利用した企業の直接採用をウリにしている。ただし、経歴の信頼性は完全に登録ユーザーの善意に委ねられているうえ、求職者の嘘を見破ってくれるようなエージェントはついてくれない。
「人材の信頼性はプラットフォーム企業が担保してくれているはず」と考えていると、明らかに経歴を偽っている人材と巡り会ってしまうことがあるのだ。
今回は私が身をもって経験した、求職者の経歴詐称の実態と、事の顛末をお伝えしよう。
2019年11月某日、会議中に私の携帯が鳴った。
「落ち着いて聞いてください。依頼された人物は……実在しません」
その「人物」とは、某人材紹介プラットフォームを経由して採用したばかりの弊社男性メンバーのことだった。
何を言っているのかまったく分からない、というのが正直な感想だった。
写真:現代ビジネス
華々しい経歴
もともと、彼の何が怪しかったというわけではない。
うちの会社のクライアントに紹介しても滞りなく対応し、専門的な用語が飛び交う会議すら問題なくこなしていた。
ただ、空間を共にしているときの違和感がどうしても拭えなかった――ということが少なからずあった。
そこで、まさかとは思いつつも、私はある調査会社に採用者の経歴詐称がないかを調査してもらっていた。そして、先述の通りに調査結果を知らされたというわけだ。
その日も、ちょうど彼と会議をしているところだった。目の前にいるこの男性は何者なのだろうか。
大嘘を突き通している人間から漂う不気味さは凄まじく、正体を知っていることがバレたら、何をされるかも分からない。こちらも悟られぬよう平気を装うしかなかった。
そもそも履歴書に記載された彼の経歴は華々しいものだった。
有名大学を卒業すると中堅商社へ入社し、その後大手商社へと転職。大手IT企業や省庁にも籍を置いていたとの記載もあった。
当初は私もその経歴を信じ、面接でも問題がなかった。だからこそ採用を決めたのである。
数日後、調査会社の人間と会い、改めて経歴詐称の根拠を尋ねた。
うちの会社のクライアントに紹介しても滞りなく対応し、専門的な用語が飛び交う会議すら問題なくこなしていた。
ただ、空間を共にしているときの違和感がどうしても拭えなかった――ということが少なからずあった。
そこで、まさかとは思いつつも、私はある調査会社に採用者の経歴詐称がないかを調査してもらっていた。そして、先述の通りに調査結果を知らされたというわけだ。
その日も、ちょうど彼と会議をしているところだった。目の前にいるこの男性は何者なのだろうか。
大嘘を突き通している人間から漂う不気味さは凄まじく、正体を知っていることがバレたら、何をされるかも分からない。こちらも悟られぬよう平気を装うしかなかった。
そもそも履歴書に記載された彼の経歴は華々しいものだった。
有名大学を卒業すると中堅商社へ入社し、その後大手商社へと転職。大手IT企業や省庁にも籍を置いていたとの記載もあった。
当初は私もその経歴を信じ、面接でも問題がなかった。だからこそ採用を決めたのである。
数日後、調査会社の人間と会い、改めて経歴詐称の根拠を尋ねた。
恐ろしい正体
調査会社は履歴書に記載のあった全ての企業に電話をかけていき、一部確認に応じない企業もあったものの、結果として記載されていた企業の大半に在籍していなかった、あるいは記載の虚偽が認められたのだという。
「あの方については様々な会社から在籍確認がきています。何か問題を抱えている人のようです……」と答える担当者すらいたほどだ。
一番恐ろしかったのは、履歴書に記載されていた本名すら嘘だったことだ。
調査会社に促されるまま、彼の本当の名前を検索してみると、山のような検索結果が出てきた。大半が彼から受けた被害を訴えるもので、真実は定かではないが、数多くの人間から相当の恨みを買っていたとみられる。
そのとき、最悪の考えがよぎった。慌てて私は会社の口座をチェックし、各クライアントにもトラブルに巻き込まれていないか確認を取った。結局、資金は盗まれておらず、クライアント企業にも迷惑をかけていないようだった。
一体私は「なに」と働いていたのだろうか――。
採用から10日後、彼に対して「経歴詐称」を理由とする採用取り消しを通知した。それに対しては何のリアクションもなく、ただそれ以降、彼が姿を現すことは一度もなかった。
しかし、問題はこれだけではなかった。
彼を採用するのに利用した人材紹介企業とも一悶着起きたのである。
「あの方については様々な会社から在籍確認がきています。何か問題を抱えている人のようです……」と答える担当者すらいたほどだ。
一番恐ろしかったのは、履歴書に記載されていた本名すら嘘だったことだ。
調査会社に促されるまま、彼の本当の名前を検索してみると、山のような検索結果が出てきた。大半が彼から受けた被害を訴えるもので、真実は定かではないが、数多くの人間から相当の恨みを買っていたとみられる。
そのとき、最悪の考えがよぎった。慌てて私は会社の口座をチェックし、各クライアントにもトラブルに巻き込まれていないか確認を取った。結局、資金は盗まれておらず、クライアント企業にも迷惑をかけていないようだった。
一体私は「なに」と働いていたのだろうか――。
採用から10日後、彼に対して「経歴詐称」を理由とする採用取り消しを通知した。それに対しては何のリアクションもなく、ただそれ以降、彼が姿を現すことは一度もなかった。
しかし、問題はこれだけではなかった。
彼を採用するのに利用した人材紹介企業とも一悶着起きたのである。
写真:現代ビジネス
人材紹介サービスの落とし穴
彼らが行っているのは人材プラットフォームビジネスだ。
専属エージェントが企業側に人材を紹介するという従来のモデルではなく、あくまで彼らは豊富な人材データベースを開放しているだけ。規定料金さえ支払えば、いわゆるヘッドハンターがその情報を利用することも、企業が直接採用に利用するのも自由である。
その企業の担当者には、登録されていた人材の履歴書に虚偽があったこと、それにともなって採用を取り消したことなど、事の経緯を詳細に説明した。
ちなみに私の場合だと、まず100万円近いシステム利用料を支払い、さらに採用時には成約手数料として採用者の15%の年収を支払うという契約になっていた。
今回の場合だと成約手数料は発生しないだろうと考えていた。
ところが、返ってきた答えは、既定の成約手数料の半分、つまり採用者の年収の7.5%を請求するというものだった。
登録者に経歴詐称があったとはいえ、私がこの企業のサービスを利用したことは事実だ。したがって、システム利用料を支払わない理由はどこにもない。これについては喜んでお支払いした。
ただし、今回のケースにおいて、採用者の7.5%分の年収を支払うことには甚だ疑問が残った。
百貨店のケースをイメージしてみると分かりやすいはずだ。
百貨店で高級ブランドを購入し、その後に偽物だったことが判明したとしよう。店からは「返品はできません」と、にべもなく断られるだろうか。
だが、実際に彼らは「利用規約に書いてありますから」と、にべもなかった。
免責事項と求職者の入力情報について、規約には以下のように記載されている。
<当社は、本システムに関する業務において、求職会員が本システムにおいて入力した当該求職会員に関する情報の真実性、最新性、確実性等につき一切保証しないものとします>
<求職会員が本システムに入力した情報の真実性、最新性及び確実性並びに求職会員の資質・能力及び利用企業への適合性を保証しないこと>
一言でいってしまえば、登録されている人材の価値は完全には保証されていない、ということになるだろうか。
もちろん膨大な登録者がいるなかで、経歴詐称をゼロにすることは困難であり、そのような対策をするにも莫大なコストが発生することは承知している。
だが、そのような人材をつかまされた企業に対して、成約手数料を請求しないことはいとも簡単なはずだ。
本来、報酬とは価値に対して支払われるものである。では、虚偽情報にまみれた人材をプラットフォーム上に登録していたことで、彼らはどんな価値を生み出したのかと問いたい。
その後も、企業との話し合いは平行線が続いた。法廷での決着もやむを得ないと思っていたところ、突然企業の担当者から連絡があり、今回は成約手数料を請求しない旨を伝えられた。
専属エージェントが企業側に人材を紹介するという従来のモデルではなく、あくまで彼らは豊富な人材データベースを開放しているだけ。規定料金さえ支払えば、いわゆるヘッドハンターがその情報を利用することも、企業が直接採用に利用するのも自由である。
その企業の担当者には、登録されていた人材の履歴書に虚偽があったこと、それにともなって採用を取り消したことなど、事の経緯を詳細に説明した。
ちなみに私の場合だと、まず100万円近いシステム利用料を支払い、さらに採用時には成約手数料として採用者の15%の年収を支払うという契約になっていた。
今回の場合だと成約手数料は発生しないだろうと考えていた。
ところが、返ってきた答えは、既定の成約手数料の半分、つまり採用者の年収の7.5%を請求するというものだった。
登録者に経歴詐称があったとはいえ、私がこの企業のサービスを利用したことは事実だ。したがって、システム利用料を支払わない理由はどこにもない。これについては喜んでお支払いした。
ただし、今回のケースにおいて、採用者の7.5%分の年収を支払うことには甚だ疑問が残った。
百貨店のケースをイメージしてみると分かりやすいはずだ。
百貨店で高級ブランドを購入し、その後に偽物だったことが判明したとしよう。店からは「返品はできません」と、にべもなく断られるだろうか。
だが、実際に彼らは「利用規約に書いてありますから」と、にべもなかった。
免責事項と求職者の入力情報について、規約には以下のように記載されている。
<当社は、本システムに関する業務において、求職会員が本システムにおいて入力した当該求職会員に関する情報の真実性、最新性、確実性等につき一切保証しないものとします>
<求職会員が本システムに入力した情報の真実性、最新性及び確実性並びに求職会員の資質・能力及び利用企業への適合性を保証しないこと>
一言でいってしまえば、登録されている人材の価値は完全には保証されていない、ということになるだろうか。
もちろん膨大な登録者がいるなかで、経歴詐称をゼロにすることは困難であり、そのような対策をするにも莫大なコストが発生することは承知している。
だが、そのような人材をつかまされた企業に対して、成約手数料を請求しないことはいとも簡単なはずだ。
本来、報酬とは価値に対して支払われるものである。では、虚偽情報にまみれた人材をプラットフォーム上に登録していたことで、彼らはどんな価値を生み出したのかと問いたい。
その後も、企業との話し合いは平行線が続いた。法廷での決着もやむを得ないと思っていたところ、突然企業の担当者から連絡があり、今回は成約手数料を請求しない旨を伝えられた。
利用するには覚悟が必要
このたび一連の出来事を経験して、安心してプラットフォームサービスを利用できることの有難さを改めて実感した。
プラットフォームには、膨大なヒト・モノに関する情報が集まっている。利用者にとっては、その選択肢の多さとアクセスの手軽さが大きな魅力になっているのは言うまでもないだろう。
一方で、情報量の多さゆえに、ユーザーが偽物を掴まされるリスクはゼロにできないのが現状だ。その代わりに、偽物を購入してしまった際の返金制度を設けている企業もある。
その先駆けがEC最大手アマゾンだ。
プラットフォームには、膨大なヒト・モノに関する情報が集まっている。利用者にとっては、その選択肢の多さとアクセスの手軽さが大きな魅力になっているのは言うまでもないだろう。
一方で、情報量の多さゆえに、ユーザーが偽物を掴まされるリスクはゼロにできないのが現状だ。その代わりに、偽物を購入してしまった際の返金制度を設けている企業もある。
その先駆けがEC最大手アマゾンだ。
写真:現代ビジネス
プラットフォームとの「正しい付き合い方」
公式サイトには、アマゾンが出品・販売する商品と、アマゾン以外の店舗が出品・販売する商品の2種類が存在している。
そして、どちらで購入した場合でも偽物は返品可能であり、支払った代金は購入者に返金されることになっている。
特定の商品に対するサクラレビューの多さ、偽物の混入などを指摘されることも多いアマゾン。それでも利用者が絶えないのは、利便性の高さもさることながら、偽物商品を購入してしまったユーザーへの充実した対応によって、一定の信頼性を提供しているからこそなのだ。
ともすれば有象無象が蔓延りかねないプラットフォームにおいて、安心をもたらしたアマゾンの功績は間違いなく大きい。
しかし、この当たり前に慣れてはいけない。
何をいまさら感は否めないが、基本的にプラットフォーム企業は場所を提供しているだけ、だと考えたほうがいい。特に新たなサービスであればあるほど、トラブル時の対応も固まっていないため、利用にはそれなりの覚悟が必要だ。
今回私が利用した人材プラットフォームもサービス自体は素晴らしいものだった。だが今後はぜひとも登録人材でトラブルが起きた際の対応を徹底してほしい。そして、多くのユーザーが安心して利用できる偉大なサービスになってほしいと願っている。
そして、どちらで購入した場合でも偽物は返品可能であり、支払った代金は購入者に返金されることになっている。
特定の商品に対するサクラレビューの多さ、偽物の混入などを指摘されることも多いアマゾン。それでも利用者が絶えないのは、利便性の高さもさることながら、偽物商品を購入してしまったユーザーへの充実した対応によって、一定の信頼性を提供しているからこそなのだ。
ともすれば有象無象が蔓延りかねないプラットフォームにおいて、安心をもたらしたアマゾンの功績は間違いなく大きい。
しかし、この当たり前に慣れてはいけない。
何をいまさら感は否めないが、基本的にプラットフォーム企業は場所を提供しているだけ、だと考えたほうがいい。特に新たなサービスであればあるほど、トラブル時の対応も固まっていないため、利用にはそれなりの覚悟が必要だ。
今回私が利用した人材プラットフォームもサービス自体は素晴らしいものだった。だが今後はぜひとも登録人材でトラブルが起きた際の対応を徹底してほしい。そして、多くのユーザーが安心して利用できる偉大なサービスになってほしいと願っている。