バイク」「たばこ」「軽乗用車」たどり捜査9年…「王将」社長射殺、組員逮捕へ
10/28(金) 2:02配信
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大東社長が殺害された現場(A)とたばこの吸い殻が落ちていた通路(B)(2013年12月、京都市山科区で)
中華料理チェーン「餃子(ギョーザ)の王将」を展開する会社の社長が京都市の本社ビル前で射殺された事件で、容疑者として浮上したのは、特定危険指定暴力団工藤会系組員の田中幸雄容疑者(55)だった。今年12月で事件発生から9年。捜査は重大局面を迎えた。
王将フードサービスの社長だった大東(おおひがし)隆行さん(当時72歳)が本社ビル前の駐車場で銃撃されたのは2013年12月19日早朝。運転してきた車を降りた直後に撃たれたとみられ、発射された4発全てが急所に命中した。
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「銃の扱いに慣れたプロの手口だ」(捜査幹部)。そんな見方を強めて、初動捜査を進めた。
京都府警が着目したのは現場から走り去ったバイクだ。近隣の防犯カメラ映像をたどる「リレー捜査」で、14年4月、約2キロ先のアパート駐輪場で乗り捨てられたホンダ・スーパーカブを見つけた。射殺事件の2か月前に京都府城陽市内で盗まれた車両で、そのハンドルから銃を撃った際に残る硝煙反応が検出された。
アパート駐輪場の近くにはナンバープレートが付け替えられた不審なミニバイクも放置されていた。これは京都市伏見区の飲食店で盗まれたもので、2台が盗まれたのは同じ日だった。飲食店の防犯カメラには、福岡・久留米ナンバーの軽乗用車から降りた人物が盗む様子が映っていた。
府警が逃走用バイクの調達に軽乗用車を使ったとみて、その所有者の交友関係を調べる中で、名前が挙がったのが田中容疑者だった。田中容疑者と所有者は同郷だった。
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府警が当初から重要な証拠とみていたものがある。現場近くの王将本社別棟脇の通路に落ちていたたばこの吸い殻だ。
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犯人は通路にバイクを止めて、たばこを吸いながら大東さんが出勤してくるのを待ち伏せしていたのではないか――。
府警はそう見立て、通路から発見した数十本の吸い殻の付着物のDNA型を調べ、社員らのものと1本ずつ照合した結果、誰が吸ったのかわからないものが残された。
その吸い殻の付着物のDNA型と、田中容疑者のものが一致したのは15年6月頃。捜査は一気に進展するかに見えたが、たばこだけでは第三者が現場に捨てた可能性が排除できなかった。
府警は、火災の専門家に吸い殻の詳細な鑑定を依頼。事件当時、現場では小雨が降っており路面はぬれていた。専門家は、吸い殻の消え方や過去の研究データなどから、「ぬれた現場通路で消されたたばこであると推定できる」との鑑定結果をまとめた。田中容疑者が現場でたばこを吸っていたことを示すものだった。
この鑑定結果を最近になって得た府警は、田中容疑者が事件に関与した疑いを強めた。
殺人容疑、立証にはハードル
しかし、たばこの吸い殻は田中容疑者が現場にいたことを示せても、大東さんを射殺したことを示す証拠にはならない。殺人容疑での立証には高いハードルがあるとみられる。
また、大東さん個人と田中容疑者や工藤会との接点も確認されていない。府警は、田中容疑者はあくまで実行役で、何者かから指示を受けた疑いがあるとみている。
その中で府警が注目しているのが、王将フードサービスを巡る不適切な取引だ。
15年12月に暴力団組員が事件に関与した疑いが報じられたことを受け、反社会的勢力との関係を調べるため、同社が事件後に設置した第三者委員会は16年3月、報告書を公表。同社が05年までの10年間に特定の企業経営者と総額約260億円に上る不適切な不動産取引などを繰り返し、うち約200億円が王将側から流出、約170億円が回収不能になったことを明らかにしている。
大東さんは、こうした不適切取引の解消を進め、13年11月に内部報告書をまとめていた。しかし報告書は公表されず、その1か月後に大東さんは殺害された。
府警は田中容疑者から詳しく事情を聞き、事件の背景を含めて慎重に捜査を進める。