定年後、妻に「お昼ご飯は外で食べてね」と言われても、行くところがなく…メーカーの購入本部長だった男性が取った行動は
3/27(月) 12:10配信
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産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
仕事をしていれば、ストレスはつきもの。精神科産業医として45年以上のキャリアを持つ夏目誠さんが、これまで経験してきたケースを基に、ストレスへの気づきとさまざまな対処法を紹介します。 【図表】男性の更年期障害チェック表
イラスト:あかださきこ
「前の職場に立ち寄った帰りなので、ちょっと」と言いながら、退職した会社の相談室を訪れたのは、66歳の狩野太郎さん(仮名)。
「定年してから行くところがなくて、妻がいないと寂しくてね……」と語り始めました。メーカーの購入本部長だったので、会社員としてはいいところまで行った人です。ああ、この人もある程度偉くなった人が陥りがちになるパターンだな、とピンと来ました。
私が産業医を務める企業には、退職者の相談を受けつけているところもあります。狩野さんの話を聞いてみましょう。
奥さんには奥さんの生活がある
狩野さん: ちょっと恥ずかしい相談で、勇気を奮って来ました。
産業医 : よく来てくれました。
狩野さん: なんて言うのか……妻がうちにいないと寂しいんですよ。
産業医 : 寂しいんだ。
狩野さん: この前は「お願いがあるの、せめてお昼ご飯は、外でね」と妻に言われたんですよ。特に行くところもないし、僕はうちの方がいいんですけどね。
産業医 : でも、3食用意させられて、一日中一緒では奥さんも息苦しいでしょう。
狩野さん: 僕はそんなことはないんですけどね。
産業医 : 友だちと会う時間も欲しいでしょうし、奧さんには奥さんの生活がありますからね。
妻は旅行にも乗り気じゃない
狩野さん: 先生、退職すると、男って、何もすることがないんですね。
産業医 : 趣味やゴルフは?
狩野さん: ゴルフは1人ではできませんから。
産業医 : 旅行は?
狩野さん: 妻と行きたいんですけど、乗り気じゃないみたいで。
産業医 : う~ん。
「亭主元気で、留守がいい」から急変
定年後、つらい状況に追いこまれる男性は少なくありません。サラリーマンとして成功した人の中には、人間関係が会社関係に限られていて、そこで気分よく過ごしていたので、それ以外の世界に人間関係の広がりを持たないケースもよく耳にします。
一方、専業主婦にとっては「亭主元気で、留守がいい」という言葉を実感してきた方も多いでしょう。要領よく家事を済ませたら、自分の時間を楽しめるわけですね。
ところが夫が定年退職して、一日中、家にいるようになると、まず、3食作らなければならない。そのための買い物、食事の準備、後片づけ。以前なら、お昼はありあわせのもので、ちゃちゃっと済んだのに。「昼は外で食べてね」と言いたくもなるでしょう。
行くところがない
産業医 : うちにいて奥さんの世話になりっぱなしというわけにもいかないでしょう。
狩野さん: う~ん、先生、でも、行くとこがないんですよ。
産業医 : 作らないと。
狩野さん: 図書館か公園くらいしかない。
産業医 : 好きな本を読んだらいかがでしょうか?
狩野さん: 集中力が続かないんだ。知識をひけらかす相手もいないしね。
産業医 : 仕事人生、会社人間で成功した人のツケですね。
狩野さん: う~ん、そうだろうな、趣味や仲間を作ってこなかったから。
「あなたの課題ですよ」
産業医 : 何とかしないとね?
狩野さん: 今さら、趣味なんてね。
産業医 : 何を言っているんですか。あなたの問題ですよ。
狩野さん: わかっているけど、困って相談に来たんですから。
在職中は、やるべきことを会社が、学生時代は学校が与えてくれました。でも、退職後の人生は、自分で考えなければなりません。与えられる人生を生きてきたためか、あなた任せの人が多いように思います。「自分の課題だ」と思わない。まず気づきから始まりますね。
夫は「妻依存」、妻は「主人在宅ストレス症候群」
産業医 : 朝から晩まで、ズッと一緒にいられたら、奥さんがつらいですよね。
狩野さん: だけど妻がいないと寂しいですよ。会社員の時には部下も取引先の人もいたけどね。
産業医 : 妻依存ですね。
狩野さん: 依存、そうだろうな。甘えているかもしれない。
産業医 : 奥さんは、お母さんですか?
狩野さん: 母には甘えられなかった。いい子をしていたからね。(笑顔になり)妻なら甘えられるんだ。
産業医 : あなたは、妻依存症ですよ。 狩野さんのような状態は俗に「ぬれ落ち葉」と言われ、妻の状態を心療内科医の黒川順夫氏は「主人在宅ストレス症候群」と呼びました。妻にまとわり続ける状態です。私は「妻依存症」のようなものだと考えています。人に依存したり、お酒などに依存したり。問題はそれが適度かどうかです。過度になれば、依存症でしょう。
妻は、自分の時間がほしい
産業医 : 奥さんの明るさ、笑顔が減っていませんか?
狩野さん: 笑顔が減っている感じがしますね。無愛想になってきたというか。
産業医 : 奥さんは、自分の時間が欲しいんですよ。あなたが理不尽にも、まとわりつくから。笑顔になれないんですよ。
狩野さん: そうかもしれないなぁ。僕がストレスになっていると思ってはいますけどね。
産業医 : それに気づいたなら、もう一度、図書館にチャレンジするか、スポーツクラブで汗を流しましょう。運動もいいですよ。
狩野さん:図書館はもういい。高齢者が多くて、自分を見ているみたいで、よけいにしんどい。運動をしてみるか?
産業医 : スポーツクラブならトレーナーがいて、ふさわしいプランを作成してくれますよ。
狩野さん: スポーツクラブか。
スポーツクラブに通い始めた
狩野さんは、それからしばらくして相談室に顔を見せてくれました。
産業医 : スポーツクラブに通っていますか?
狩野さん: 行ってみたら、(うれしそうな表情で)若い女性のトレーナーが、運動プランを作ってくれました。彼女の笑顔がいいんですよ。続けていますよ。
産業医 : それは良かったですね。
狩野さん: 週に3回、外出して、食事もしてくるので、妻にも笑顔が少し戻った気がします。続けないとね。
行動に移すことができたケースです。相談に訪れて、わかってはいても動かない人も少なくありません。定年退職で時間ができたら、まず、行動です。
夏目誠(なつめ・まこと)
夏目誠
精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。
以下はリンクで
https://news.yahoo.co.jp/articles/79359a9236de478aebf871ccec1dedae3295a815