(「河北新報」令和2年1月14日(火)付け記事より引用)
「ビスターリ、ビスターリ」。ネパールの人々は、登山客をこんな言葉で励ます。高地を行くときは「ゆっくり、ゆっくり」。
仙台市太白区長町にある障害者就労レストランも店名を「びすた~り」という。それが昨年末、唐突に歩みを止めてしまった。店舗の家賃が跳ね上がり、退去を余儀なくされた。
東北各地に散らばって勤務する記者の一人が一報をつかみ、もう一人が事情を探り、本社にいる一人にリレーして記事に仕立てた。
私設応援団と言うかファンクラブと言うか。店の理念に共感し、たびたび記事で紹介してきた社内の「非公然活動組織」が動いた。
2008年の出店を機に長町の商店街には、障害者の働くマーケットやカフェ、福祉団体の事務所が続々進出するようになった。
みんなで古民家を改装した店内では、障害の有無にかかわらず参加できる音楽祭や絵画展を定期開催。いつしか街全体で取り組む地域行事に成長した。
びすた~りと二人三脚で、ゆっくりゆっくり人情豊かな街を形作っていたのが長町だ。閉店は住民にとっても大きな損失ではなかろうか。残念で仕方ない。
(盛岡総局長 矢野奨)