ださいたま 埼玉 彩の国  エッセイ 

埼玉県について新聞、本、雑誌、インターネット、TVで得た情報に基づきできるだけ現場を歩いて書くエッセー風百科事典

「〈さいたま〉の秘密と魅力」

2010年08月19日 07時22分08秒 | 文化・美術・文学・音楽


行きつけの南浦和図書館の郷土資料の棚を眺めていたら、「〈さいたま〉の秘密と魅力」(鶴崎敏康著 埼玉新聞社)と題する真新しい本が並んでいるのに気がついた。手に取るとズシリと重い。普通の書籍よりも大型のA5判で、600ページもあるのだから当然だ。

10年4月に出たもので、定価は2、625円。奥付の著者略歴を見ると、生まれは名古屋。1989年、浦和市と合併した大宮市議会議員に当選以来、5期連続当選。05年にはさいたま市議会議長を務めた。以前は、評論家、記者、ジャーナリストとして活躍したとある。

てっきり政治がらみの本と思ったら大間違い。せっせと図書館に通い、書き上げた学術書とも言うべき大労作なのだ。この本の〈さいたま〉は埼玉県全体ではなく、さいたま市のことである。

エピローグに、「さいたまの紹介本」でも、「ガイドブック」でもない。「さいたま私論」、私の目から見た〈さいたま〉であり、私が思う〈さいたま〉論であると断ってある。

地理と歴史 歴史の舞台、その舞台上の文化、文化の自慢話など5部に分かれ、それぞれの部が、氷川神社、中山道、見沼、大宮公園などの場所別、鉄道、人形、盆栽、漫画などの項目別に細分されている。目次が一種の索引を兼ねるという凝った構成である。さいたま百科事典の感がある。

目次が細分されているので、好きなところをつまみ読みできる。この本はさすがプロとあって、書き出しから面白い。浦和は「海」を連想させる地名で、浦和の文字は正しくは、浦回(うらわ)、浦廻(うらわ)、浦曲(うらわ)と書くのが正しい(「埼玉県地名誌」)。市内には「岸町」、「瀬ヶ崎」などの地名が残り、「大谷場貝塚」などの72の貝塚もある。

縄文時代、温暖化で海面が上昇、海の侵入(縄文海進)で、現在のさいたま市の高いところは海に突き出ることになった。首都圏の貴重な緑の空間、さいたま市の見沼田圃(たんぼ)もこの時代、東京湾の海水が入り込む湾だったのだ。

実際、自転車で走り回っていると、浦和には坂が多いのに気がつく。ギア付きでないと登れないようなところもある。日本では長崎、尾道など海に面した街は坂の町なのである。

「歴史の舞台」で「大宮球場」を開くと、日本で初の県営球場であるこの球場の本格的なお披露目は、1934(昭和9)11月29日の読売新聞社主催の日米親善野球だった。

ベーブ・ルースが2本、ルー・ゲーリッグが1本など米軍は10本のホームランをかっ飛ばし、23-5で圧勝した。日本軍のメンバーは沢村栄治、三原脩、水原茂、スタルヒンらであった。野球ファンには身がぞくぞくするような話だ。

よほど資料探しが好きな人のようで、論というより、こんな話がぎっしり詰まっているのだから、読み出したらやめられない。昔の私のように、〈さいたま〉のことは何も知らないのに「ださい」と思っている人たちには一度、開いて欲しい本である。



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