ださいたま 埼玉 彩の国  エッセイ 

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わらびりんごの三度咲き 

2011年09月06日 18時03分03秒 | 市町村の話題



社会に出て、初めて赴任したのが青森県だった。もう半世紀前になるのに、青森のすべてに思い入れがある。

その筆頭はもちろんリンゴである。青森市が本拠だったので、リンゴの本場・津軽に出かけた回数は、十指を超す。

当時はまだ「連絡船の出る港」――青森の駅の前にはリンゴ市場があって、人気品種だった「国光」や「紅玉」の箱がずらりと並んでいた。

毎晩通った居酒屋ではバックに美空ひばりの「♪リンゴの花びらが風に散ったよな・・・」で始まる「りんご追分」が流れていた。

いま住んでいるさいたま市の南隣、日本で一番面積が小さい市、蕨市のことはいろいろ気になることがある。調べているうちに、この市に「日本一収穫の早いリンゴ」である「わらび」というのがあって、1981年に品種登録されていることは知っていた。

いつものとおり、各新聞をめくっていたら、11年暮れの12月15日の毎日の埼玉県版に「わらび咲く 今年、初の3度目」という写真つきの記事が目に入った。

すぐ自転車に乗って出かけてみると、市役所東側の駐車場に面した庁舎の窓際近くの木の枝先に、いくつかの白い小さな花が咲いていて、風に揺れていた。(写真)

リンゴの「わらび」は本来、4月中旬頃、つぼみのピンクが白に変わる花が咲き、6月下旬以降に赤い実がなるという。

ところが11年は、9月下旬に2度目の実をつけたので、これで三度目の花だというのだ。

インターネットで調べてみると、リンゴの返り咲き(二度咲き)は、他にもあるようで、愛媛の久万高原や本場信州などの例が報告されている。実がなる9-10月ごろ、実のかたわらに花が咲いている写真もついていた。

リンゴもサクラと同じバラ科に属する。サクラ同様、返り咲きしてもおかしくない。だが、三度もそれも冬の最中に咲くのは聞いたことがない。

年中開花する「不断桜」という天然記念物があるのは頭の中にあっても、見たことはない。

「わらびりんご」と呼ばれるこのリンゴは、錦町の農家、吉沢正一氏が約20年かけて研究開発した、日本一早く(北半球で一番とも?)収穫できる極早生種。秋から冬に収穫というリンゴの常識を破って6月下旬から7月上旬に実がなる。

リンゴは北のものとされる。蕨市はリンゴ栽培の南限らしい。茶や米など作物の「北限」はよく聞く。「南限」と聞くのは初めてだ。

小ぶりで酸味が強く、加工品に向いている。生で食べると酸っぱいが、ジャム、ジュース、アップルパイなどに使われる。市では秩父の業者に委託してサイダーを作り、8月の「機まつり」などで限定販売される。

青森の「世界一」など、巨大で甘くなる一方のリンゴには辟易している。ぜひ、加工する前に酸っぱい一個を、皮をむかず、欧米人のようにズボンにこすりつけ、皮のまま食べてみたい。

吉沢氏が1973(昭和48)年、極早生りんごの研究を始めたのは、「東京の盆に間に合うりんご。りんごが無い季節、果物店の店先を真っ赤に染めたい。病人や子どもに新鮮なりんごを食べさせたい」という思いからだったという。

新品種として登録されたのは、1981(昭和56)年。翌年、吉沢氏は希望者に250本配布した。約30本が健在という。

「わらびりんご」を市制50周年記念事業として町おこしで普及活動が始まったのは、2009(平成21)年だった。公共施設や街路樹、市民の庭などに接木で約700本が植えられている。

これを広めようと、「わらびりんごの会」が結成された。11年6月には錦町にある接木で育てた7本が植えられている「わらびりんご公園」で、赤く色づき始めた「わらびりんご」の撮影会も開かれた。

「わらびりんごの唄」もあるというから、一度聴いて見たい。

この原稿は、錦町にある「蕨市立西公民館」のホームページによるところが多い。公民館にしては出色のホームページである。



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